院生二人と魔法少女
最終更新：ID:1gMMbNLGQQ 2017年06月07日(水) 20:54:09履歴
登場キャラクター:人吉善子 陰山碧子 三島玲奈 日静風奏 城兼鶴 中学生男子を侍らす女子大生
「すみませーん、陰山さんってこの研究室で合ってますかー？」
「あっ、はーい」
おそらくは研究生であろう女子大生が返事をする。この研究室で合ってる、はずだ。
段ボール数個を乗せたキャスターをごろごろと引きながら、私は開いたままのドアの前で立ち止まった。
陰山碧子、大学自体は同じでありながら学部が違うことから、私は今まで会う機会はなかった。
根暗な女性、だとは聞いている。ただ、最近になって妙な陰気加減はなくなったらしいが。
引いてきた荷物はいずれも彼女のものらしい。
それ自体に私はたいした意味をなさない。うちの教授に頼まれてついでに荷物を持っていっただけだ。
私はただの使いっ走りな大学院生だ。歳は同じ、しかし他から比較的舐められるタイプである私と、院生然とした雰囲気を醸し出す彼女とでは見る世界も大きく違うだろう。
「やぁ」
「ども」
研究室の奥からゆらりと顔を出す女性、口元はどこかにたりとしている。
ただ何となく、表情の柔らかさも感じる。成程、陰気加減がなくなったとはこういうことか、と朧気に理解する。
彼女、碧子は私を研究室の奥へと案内する。
そこは彼女のエリアだった。
無数の水槽とその中を泳ぎ回る魚、ケージに飼われている爬虫類とか色々。見事に全部何が何だかわからない。
そして最新式のパソコン、工学専攻である自分の研究室ですら導入していない。正直めっちゃ羨ましい。
黒のソファーに腰掛けた私の対面に碧子が座る。
「初めまして、でいいのかな？ 人吉善子」
「えっ？ あたしの名前知ってるんですか？」
「ああ、敬語はいい。 同い年だろう私たちは」
「ああ、うん。 えっと……何であたしの名前知ってるの」
「何、同期生の名前くらいちゃんと覚えてるさ、全員な」
意外と言えば意外だったが、まあ納得と言えば納得はする。
人の名前なんて覚えないような偏屈さも感じるし、逆に人の名前なんて覚えるのも造作もないタイプだと言えば、彼女らしいっちゃらしい。
「陰山さんは……」
「碧子でいい、善子。親しみを込めて碧ちゃんでもいい」
「アハハ……んで、碧ちゃんは…………あー、最近どう？」
話題に困る。会話がないと寂しいという理由で適当に言葉を紡いでいくつもりが、そもそもそこまで親しい間柄でもないことを思い出した。余り長く話すつもりもなかったし。そんなこんなで会話のネタは一分で切れてしまった。
「そうだな……実は最近面白い出逢いがあったんだ……」
「え！？ うっそ！？ 何それヤバない！？」
「テンションが高いな君は」
「えっ！？ 相手は誰！？ 年上！？」
「……まあね、ううん……こういうことを口に出すと気恥ずかしいな…………」
これこそ本当に意外だった。
まさか碧子が。と、初対面で言うのも失礼だが。少なくとも、そういうタイプには見えなかったから。
その後数十分にわたり質問攻めをした。大体何となくわかってきた。
何だ女か。
がっかりとまでは行かないが、ただこのようなタイプの女性が同性に愛を求めるのは何となく察せられてしまった。
下手すると喪女とか言われそうだな、なんて言葉は喉の奥にしまっておいた。
「そうだ、君に聞いておいてほしいことがあるんだ」
質問攻めで悶絶してる中、少し間を置いて碧子が話し始めた。
「君は……魔法少女を信じるか？」
「へっ？」
意外だった。というか、ここに来てから驚かされてしかいない。意外意外の繰り返しでもはや意外でもなんでもなくなってきてるような、そんな感じ。
「いやー……魔法少女？ あのアニメとか童話とかであるような、あのひらひらーっとしたやつ？」
「少々偏見があるがね、まあだがそれでもいい。そういう先入観込で魔法少女という存在にどう思う？」
「んー……何だろう、あ！ もしかして最近流行ってる『魔法少女育成計画』と何か関係ある！？」
「人の質問になかなか答えてくれないな君は……まあ、関係はあるけれどね」
魔法少女育成計画。
今、局地的に人気沸騰とか言われているソーシャルゲームだ。
私は少しやって止めた。一番楽しかったのがキャラメイク、とはよく言ったものだ。
しかし、それと何の関係があるんだろうか。
「…………ごめん、いまいちピンとこないな」
「そうかい？ まあ今度ゲームの情報とか調べてみるといいよ、それより……」
碧子が上の掛け時計を見る。
大分、時間は過ぎていたようだ。良い出逢い、という単語に対し質問攻めをしてここまで時間を食った、という自分のミーハーさ加減がうかがえる。
外の景色ももう真っ暗だ。
「なんかごめんね……長話させちゃって」
「構わないさ、思えばちゃんと人と話したのは随分久しぶりな気がするな」
「うん？ うん……それじゃまた」
碧子はまだ研究を続けるのだろうか。泊まり込みか、中々大変そうで。
もっともあたしも人のことは言えない。
うちの教授は自分の講義を院生に任せることがよくある。そして、あたしはその押しつけられた一人だ。
明日以降も、また学生相手に講義がある。また、いや。まだまだ忙しい日々が続く。
あたしが担当している講義では、問題のある学生が何人かいる。
三島玲奈という子は少し前から講義に来なくなった。学生はちょいちょい講義を勝手に休んだりするが、やる側になるとこれ程虚しいことはないだろう。街でたまに見かけるが、露骨に怪しい男衆とかと近づいているとか、まあグレ切ったとかそういうのではなく安心してはいる。
それと比べると日静風奏って子はましだ。レポートがやたら荒いことを除けば、だが。あと、勝手に休む。調べたらどうやら競馬のやる日だとか何とか。問うとにへらと笑って誤魔化す。まあ随分と調子のいいことで。イラッと来るから課題を追加して出す。課題は増える一方だ。
比較的真面目なのは城兼鶴って子。妙に真面目すぎるところもあるが、本質は受動に徹底した命令待ちタイプだと考える。あたしが言えることではないんだろうけど。あとどこか悲しそうな表情を見せることがあり、あたしだって結構心配してるのだ。まるで己の半身を失ったかのように。
他にも問題児とは言わないまでも何人も気になる学生はいる。最近ひどいと思ったのは、年下の男子？を大学で連れ回しデートをしている学生がいた。いやはやあまりにひどいと思う。アレはヤバい。擁護しきれない。
まあだが、彼女ら魔法少女にも事情があるのだろう。
グリングリード、カレイドウルフ、深衝、クレインダンス、��トリックショット、皆それぞれ魔法少女なのだ。
情報は入っている。
『魔法の国』の試験で選ばれて魔法少女になった者、殺し合いをさせられ生き残り選び抜かれた者、碧子の言った『魔法少女育成計画』をプレイして魔法少女になった者、様々だ。
自分はその監視役……ではないが、一応動向のチェックをしている。一応『魔法の国』の正式な依頼であり、給料は出ている。タダ働きではないだけ、マシだ。
タダ働きは嫌だ。せめて見返りがないと。
明日講義で使用する教材を一通りチェックし、自分の研究室に持ち込む。碧子ほどではないが、この一角も一応自分の管理してるスペースである。
そして鍵をかけ、研究棟の外へ出る。
適当に銭湯で汗を流し、寝る時は研究室に戻るのだ。ここしばらく自宅には戻っていない。
だが、その前に。
「エブリワーカー、ゴー」
自分なりの決め台詞、魔法少女っぽくはないがそれが自分の中での魔法少女へと変身する儀式だ。勿論なくたっていいんだが。巨大な機械の腕に背中に装着した黒の機械アーム、明らかに異形なそれは皆の思う魔法少女の絵とは大きくかけ離れたものだった。
人を救うために、人を襲わず。人ならざぬ強大な力を、人ならざぬ物へと向ける。
今日もあたしは戦い続ける。過重労働で過剰兵装な魔法少女、オーバーワーカーBLACKとして。
「すみませーん、陰山さんってこの研究室で合ってますかー？」
「あっ、はーい」
おそらくは研究生であろう女子大生が返事をする。この研究室で合ってる、はずだ。
段ボール数個を乗せたキャスターをごろごろと引きながら、私は開いたままのドアの前で立ち止まった。
陰山碧子、大学自体は同じでありながら学部が違うことから、私は今まで会う機会はなかった。
根暗な女性、だとは聞いている。ただ、最近になって妙な陰気加減はなくなったらしいが。
引いてきた荷物はいずれも彼女のものらしい。
それ自体に私はたいした意味をなさない。うちの教授に頼まれてついでに荷物を持っていっただけだ。
私はただの使いっ走りな大学院生だ。歳は同じ、しかし他から比較的舐められるタイプである私と、院生然とした雰囲気を醸し出す彼女とでは見る世界も大きく違うだろう。
「やぁ」
「ども」
研究室の奥からゆらりと顔を出す女性、口元はどこかにたりとしている。
ただ何となく、表情の柔らかさも感じる。成程、陰気加減がなくなったとはこういうことか、と朧気に理解する。
彼女、碧子は私を研究室の奥へと案内する。
そこは彼女のエリアだった。
無数の水槽とその中を泳ぎ回る魚、ケージに飼われている爬虫類とか色々。見事に全部何が何だかわからない。
そして最新式のパソコン、工学専攻である自分の研究室ですら導入していない。正直めっちゃ羨ましい。
黒のソファーに腰掛けた私の対面に碧子が座る。
「初めまして、でいいのかな？ 人吉善子」
「えっ？ あたしの名前知ってるんですか？」
「ああ、敬語はいい。 同い年だろう私たちは」
「ああ、うん。 えっと……何であたしの名前知ってるの」
「何、同期生の名前くらいちゃんと覚えてるさ、全員な」
意外と言えば意外だったが、まあ納得と言えば納得はする。
人の名前なんて覚えないような偏屈さも感じるし、逆に人の名前なんて覚えるのも造作もないタイプだと言えば、彼女らしいっちゃらしい。
「陰山さんは……」
「碧子でいい、善子。親しみを込めて碧ちゃんでもいい」
「アハハ……んで、碧ちゃんは…………あー、最近どう？」
話題に困る。会話がないと寂しいという理由で適当に言葉を紡いでいくつもりが、そもそもそこまで親しい間柄でもないことを思い出した。余り長く話すつもりもなかったし。そんなこんなで会話のネタは一分で切れてしまった。
「そうだな……実は最近面白い出逢いがあったんだ……」
「え！？ うっそ！？ 何それヤバない！？」
「テンションが高いな君は」
「えっ！？ 相手は誰！？ 年上！？」
「……まあね、ううん……こういうことを口に出すと気恥ずかしいな…………」
これこそ本当に意外だった。
まさか碧子が。と、初対面で言うのも失礼だが。少なくとも、そういうタイプには見えなかったから。
その後数十分にわたり質問攻めをした。大体何となくわかってきた。
何だ女か。
がっかりとまでは行かないが、ただこのようなタイプの女性が同性に愛を求めるのは何となく察せられてしまった。
下手すると喪女とか言われそうだな、なんて言葉は喉の奥にしまっておいた。
「そうだ、君に聞いておいてほしいことがあるんだ」
質問攻めで悶絶してる中、少し間を置いて碧子が話し始めた。
「君は……魔法少女を信じるか？」
「へっ？」
意外だった。というか、ここに来てから驚かされてしかいない。意外意外の繰り返しでもはや意外でもなんでもなくなってきてるような、そんな感じ。
「いやー……魔法少女？ あのアニメとか童話とかであるような、あのひらひらーっとしたやつ？」
「少々偏見があるがね、まあだがそれでもいい。そういう先入観込で魔法少女という存在にどう思う？」
「んー……何だろう、あ！ もしかして最近流行ってる『魔法少女育成計画』と何か関係ある！？」
「人の質問になかなか答えてくれないな君は……まあ、関係はあるけれどね」
魔法少女育成計画。
今、局地的に人気沸騰とか言われているソーシャルゲームだ。
私は少しやって止めた。一番楽しかったのがキャラメイク、とはよく言ったものだ。
しかし、それと何の関係があるんだろうか。
「…………ごめん、いまいちピンとこないな」
「そうかい？ まあ今度ゲームの情報とか調べてみるといいよ、それより……」
碧子が上の掛け時計を見る。
大分、時間は過ぎていたようだ。良い出逢い、という単語に対し質問攻めをしてここまで時間を食った、という自分のミーハーさ加減がうかがえる。
外の景色ももう真っ暗だ。
「なんかごめんね……長話させちゃって」
「構わないさ、思えばちゃんと人と話したのは随分久しぶりな気がするな」
「うん？ うん……それじゃまた」
碧子はまだ研究を続けるのだろうか。泊まり込みか、中々大変そうで。
もっともあたしも人のことは言えない。
うちの教授は自分の講義を院生に任せることがよくある。そして、あたしはその押しつけられた一人だ。
明日以降も、また学生相手に講義がある。また、いや。まだまだ忙しい日々が続く。
あたしが担当している講義では、問題のある学生が何人かいる。
三島玲奈という子は少し前から講義に来なくなった。学生はちょいちょい講義を勝手に休んだりするが、やる側になるとこれ程虚しいことはないだろう。街でたまに見かけるが、露骨に怪しい男衆とかと近づいているとか、まあグレ切ったとかそういうのではなく安心してはいる。
それと比べると日静風奏って子はましだ。レポートがやたら荒いことを除けば、だが。あと、勝手に休む。調べたらどうやら競馬のやる日だとか何とか。問うとにへらと笑って誤魔化す。まあ随分と調子のいいことで。イラッと来るから課題を追加して出す。課題は増える一方だ。
比較的真面目なのは城兼鶴って子。妙に真面目すぎるところもあるが、本質は受動に徹底した命令待ちタイプだと考える。あたしが言えることではないんだろうけど。あとどこか悲しそうな表情を見せることがあり、あたしだって結構心配してるのだ。まるで己の半身を失ったかのように。
他にも問題児とは言わないまでも何人も気になる学生はいる。最近ひどいと思ったのは、年下の男子？を大学で連れ回しデートをしている学生がいた。いやはやあまりにひどいと思う。アレはヤバい。擁護しきれない。
まあだが、彼女ら魔法少女にも事情があるのだろう。
グリングリード、カレイドウルフ、深衝、クレインダンス、��トリックショット、皆それぞれ魔法少女なのだ。
情報は入っている。
『魔法の国』の試験で選ばれて魔法少女になった者、殺し合いをさせられ生き残り選び抜かれた者、碧子の言った『魔法少女育成計画』をプレイして魔法少女になった者、様々だ。
自分はその監視役……ではないが、一応動向のチェックをしている。一応『魔法の国』の正式な依頼であり、給料は出ている。タダ働きではないだけ、マシだ。
タダ働きは嫌だ。せめて見返りがないと。
明日講義で使用する教材を一通りチェックし、自分の研究室に持ち込む。碧子ほどではないが、この一角も一応自分の管理してるスペースである。
そして鍵をかけ、研究棟の外へ出る。
適当に銭湯で汗を流し、寝る時は研究室に戻るのだ。ここしばらく自宅には戻っていない。
だが、その前に。
「エブリワーカー、ゴー」
自分なりの決め台詞、魔法少女っぽくはないがそれが自分の中での魔法少女へと変身する儀式だ。勿論なくたっていいんだが。巨大な機械の腕に背中に装着した黒の機械アーム、明らかに異形なそれは皆の思う魔法少女の絵とは大きくかけ離れたものだった。
人を救うために、人を襲わず。人ならざぬ強大な力を、人ならざぬ物へと向ける。
今日もあたしは戦い続ける。過重労働で過剰兵装な魔法少女、オーバーワーカーBLACKとして。
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