img街の魔法少女の素質ある「」を集めてるポン

登場キャラクター:ノブリス・オブリージュサイレンティム


2017/11/19(18日夜)の反省会での一幕を元に書かせてもらったぽん
ノブ君をお借りしましたぽん
親御さんありがとうぽん!
微エロなのでそういうのが苦手な人は注意して欲しいぽん



 魔法少女「ノブリス・オブリージュ」は旅館の小浴場女湯のドアに手をかけ、一息ついた。
 彼女はI市の他の魔法少女達と共に旅行へと出かけ、温泉旅館に宿泊していた。彼女自身はできれば参加したくはなかったのだが、誘いを断り切れず、結局参加を承諾してしまっていた。
 あらかじめ更衣室を一通り見て回り、他の魔法少女が先に入浴していないことは確認してある。しかし、それでもなお、深呼吸して覚悟を決めてからでなければ戸を開くことはできなかった。
 彼女がただ入浴するというだけのことにこれほどの緊張を強いられるのには、相応の理由がある。すなわち――彼女が「彼女」ではなく「彼」だからだ。
 ノブリス・オブリージュの正体は中学生だ。ただし、女子ではなく男子の、である。
 そして、彼は自分の本来の性別を周囲に隠していた。なので、他の魔法少女と共に入浴するわけにはいかなかった。もし浴場内で居合わせることになれば、必然的に他の魔法少女――変身前も女性である彼女達の、生まれたままの姿を目にすることになってしまう。
 もちろん、彼女達はノブリス・オブリージュを同性だと認識しているのだから、恥じらうことことなく自らの一糸まとわぬ肢体をノブリス・オブリージュに見せつけてしまうだろう。相手が異性だなどとは知らずに。
 もしノブリス・オブリージュがそれを役得と思えるような少年だったらならば、一応問題はなかった。ただ、年端も行かぬ少女達が何も知らずにその柔肌を異性の目に焼き付けることになるだけである。
 しかし、ノブリス・オブリージュの道徳心と初心さはそれを許さなかった。変身した自分自身の裸体を見るのでさえも羞恥心と罪悪感が湧き上がって来るほどなのに、まして他人のそれを見るなど耐えられるとは思えなかった。
 だからといって、自分の性別を晒す勇気も彼にはなかった。そのようなわけで彼は次善の策として、他の魔法少女達が群がる大浴場を避け、時間もずらして入浴することにした。幸い、更衣室にも浴場内にも宿泊客の気配はなかったが、それでも緊張はしてしまう。
 意を決して戸を開けると、やはり人影はなかった。胸をなで下ろし、足を踏み出した。
 身体を洗い流し始める前に、もう一度周囲を警戒する。物音は聞こえない。安堵してシャワーの蛇口を捻った瞬間、いきなり浴場の戸が開いた。
「ああ、どうも――」
「ひゃあああ!?」
 入ってきた魔法少女の声が聞こえると同時に悲鳴をあげてしまう。
「っ……何なのいきなり大声あげて、びっくりさせないでよ」
 魔法少女は耳を手で塞ぎ、顔をしかめている。ノブリス・オブリージュの視線は魔法少女の銀色のボブカット、青い瞳へと移動し、そのまま危うく乳房が視界に入りかけたところでとっさに顔ごと視線を逸らした。
「い、いやあの、す、すみません!」
 混乱する頭で何とか謝罪の言葉を絞り出す。
「ん、まあいいけどさ……まさか目が合っただけで驚かれるとは思わなかったよ」
 銀髪の魔法少女はため息をついた。まさか、と言いたいのはノブリス・オブリージュも同じだった。
「あ、あの、本当にすみません、全く足音が聞こえなかったので、いきなりドアが開いてびっくりしてしまいまして」
「足音? ……あー、そういうことか」
 魔法少女が肩をすくめる。
「ごめんごめん、そりゃ驚くよね、襲撃か覗きかもしれないんだし。足音を消しておくの、普段から習慣になっててさ。魔法を解除すんの忘れてた」
「はあ……って」
 ノブリス・オブリージュははっとした。話を聞いている場合ではない。一刻も早くここから出なければならない。このまま彼女と一緒に入浴するわけにはいかない。
「あ、そ、その、わたし、もう終わったのでお先に上がりますね!」
 大慌てで立ち上がり向きを変えようとしたが、先ほどの魔法少女から怪訝そうな声がかかった。
「終わった? まだほとんど身体が濡れてもないのに?」
「えっ? いやその、あの、えっと、これはですね……えー……」
 彼女の言う通りだった。どう見ても、一風呂浴びた後といった状況ではない。
「なんかさぁ……さっきからそうだけど、私がいるのがそんなに嫌なわけ?」
 そう言う魔法少女の声音は刺々しい。明らかに不機嫌だ。
「あの、その、け、決してそういうわけでは……」
「だったら出ることないじゃん」
「あ、は、はい……そうですね……」
 ノブリス・オブリージュは力なく座り込んだ。押し切られてしまった。どうしたものかと心の中で頭を抱える。
 確かにこのタイミングで逃げ出すように上がるのは失礼に当たる。彼女が怒るのももっともだ。だが、男だと知らせず風呂を共にするのとどちらが失礼かと考えてみれば、後者の方が悪質な気がする。しかしこの場で正体を明かすわけにもいかない。となれば、無礼を承知でこのままやり過ごすしかない。
 ノブリス・オブリージュは羞恥と一席開けて座った魔法少女への罪悪感を抱えながら、再び身体を流し始めた。
 そして、口に出さずに呟いた。
 ――どうしてこんなことに。

 身体を洗い始めたのがおおよそ同時だったこともあって、温泉につかるのもほぼ同時だった。
「お邪魔するよ」
 先の魔法少女がそう言って片足をお湯につけ、ノブリス・オブリージュは彼女を見ないよう明後日の方向を向いた。
 魔法少女は初め少し離れた位置に入った。このまま時間が過ぎてくれと願ったが、ほんの30秒も経たないうちに彼女はこちらへ寄ってきた。
「隣、いいかな」
「えっ……は、はい……」
 嫌だと答えられるはずもない。彼女はノブリス・オブリージュのすぐ隣、今にも互いの肌が触れあいそうな位置に座った。ノブリス・オブリージュの心臓が高鳴る。
「……さっきはごめん、ちょっときつく言いすぎた」
 魔法少女がそう口にした。
「さっき?」
「私が入った時のこと」
「ああ……いえ、その、こちらこと申し訳ありませんでした。少し、混乱していたもので」
「少しどころじゃなかったけどね、あのパニクりっぷりは」
「あ、あはは……」
 乾いた笑いが漏れる。ノブリス・オブリージュは今もあの時と同じぐらい慌てている。何せ男子中学生である彼が、魔法少女――この世のものとは思えないほどの美少女と真裸で隣り合っているのだから。しかも、自分の正体を悟られないように振る舞い続けなければならないのだ。緊張の度合いで言えば、あの時より今の方がひどいかもしれない。
「あー、そういや、名前聞いてなかったな。私はサイレンティム。あなたは?」
「あ、はい……ノブリス・オブリージュ……です」
「ノブ……長いな、ノブリスでいいかな」
「あ、はい、どうぞ……」
「じゃあ今後ともよろしく、ノブリス」
「こ、こちらこそ……」
 サイレンティムと名乗った魔法少女は湯の中で脚を組んだ。その際に生じた小波にさえも、ノブリス・オブリージュはびくりとしてしまう。
「ノブリスはさ、なんで一人でこっちに入ったの? みんなと一緒に大浴場ではしゃいでくればよかったじゃない」
「えっ? そ、それは……その」
 たくさんの女の子と一緒になんて絶対無理です! とは思っても言えず、曖昧に言葉を濁す。
「えー、えーと、その、アレです、わたし、自分で言うのも何なのですが、その、少々、恥ずかしがり屋なところがありまして……」
「あー、なるほどね。私が入ってきて驚いたのはそのせいか。そういう子時々いるよね」
 サイレンティムは頷く。
「まあ無理にとは言わないけどさ、どうせ女同士なんだし、そこまで意識することないんじゃない? そりゃ男に見られるなら、私だって死ぬほど恥ずかしいけど」
 ノブリス・オブリージュの胸に言葉の刃が深々と突き刺さった。
「はい……本当にすみません……」
「ん? 何が?」
「はっ、い、いえ……あっ! そうだ、そういうサイレンティムさんこそどうしてこちらに?」
 話題を変えようとして、サイレンティムに聞いてみる。
「私? 私はね、騒がしいのが苦手だから。本当はこの旅行自体来たくなかったんだけど、無理矢理連れてこられちゃって」
 サイレンティムは上を向いた。
「ああいう馬鹿騒ぎについて行けないってのもあるんだけど、一番の理由は騒音だね。私、耳がいいんだよ。良すぎて大きな音に耐えられないぐらいに」
「耳、ですか」
「そう。変身してる時だけじゃなくて、ただの人間としても。まあ、なーんにも得することないけどね。逆に損しかしてないよ。普通はうっさいなーぐらいで済む音でも耳がキンキンするし、家の近くで工事なんかやられた日には、うるさすぎて頭がおかしくなるんじゃないかって思うぐらい」
 サイレンティムは大きくため息をつく。
「ご苦労されてるんですね……」
「本当にね。嫌んなっちゃうよ。でも魔法少女になってからは、魔法のおかげで随分楽できてるよ。ありがたいこったね」
 気がつけば、ノブリス・オブリージュはサイレンティムの方を見ていた。話に集中する内に、つい目線も向いてしまったらしい。サイレンティムは頭の後ろで手を組んだ。腕を上げる時に、ほどよい大きさの胸がわずかに揺れた気がしないでもない。焦って俯こうとしたところで、サイレンティムは視線に気付いたらしい。
「やっとこっち見てくれた」
「え?」
 そう言われて、下げかけた顔を再び上げる。見ると、サイレンティムも身体をこちらに向けている。顔を上げる途中で、胸と、その先端の突起をもろに見てしまったことに気付く。
「ぴゃあああ!? す、すみません! 本当にすみません!」
 心の中だけでなく現実でまで土下座してしまいそうな勢いで、ノブリス・オブリージュは何度も頭を下げた。
「いやだから見られても怒るようなことないって……」
 サイレンティムは呆れたように言う。
「なんか、最初からずっと目を合わせてくれなかったからさ。壁作られてるなーと思ってたんだよ」
「い、いえ、決してそんなことは……」
 ある。あるが、やはり口には出せない。
 俯いたまま、激しく鳴る心臓をどうにか押さえ込もうと努力していると、頬にサイレンティムの指が触れた。そのまま無理矢理顔を上げられた。またも胸プラスアルファを見てしまった。心臓はますます盛んに脈打つ。
「な、な、な、何ですか!?」
「私も人付き合いは苦手だから人のことどうこう言えないけど、目ぐらいは合わせた方がいいと思うよ」
「え、は、はい」
 少しでも余計なところを見ず済むように視線をサイレンティムの目に合わせる。青色の瞳が同じように見つめ返してくる。離してくれたらすぐ上がります、だから早く離してください、と念じると、サイレンティムは逆に顔を寄せてきた。互いの胸が触れ合いそうになるほど近い。心臓は今にも破裂しそうだ。
「私達さ、ちょっと似てない?」
「ふぇ!? な、何がですか!?」
「見た目が。お互い銀髪で、目も同じ青色じゃん?」
「は、はい、そう! そうです! 左様です!」
 ノブリス・オブリージュの頭は既に真っ白だった。自分が何を言っているのかももはやわからない。
「左様て。まあいいや。だから、ほら、こんな感じで」
 サイレンティムはノブリス・オブリージュの横に回り、身体を密着させた。整った美しく可愛らしい顔がすぐそばにある。滑らかな肌と、二つの柔らかいものの感触を感じる。シャンプーとサイレンティム自身の甘い香りが鼻をくすぐる。紛れもない、女の子の、生の肢体だ。
「こうやって二人横に並んだら姉妹みたいに見えるんじゃないかな、なんてね。どうかな」
 どうもこうもない。ノブリス・オブリージュはもう限界だった。顔から火が出そうだ。これ以上は耐えられない。自分の理性が吹き飛んでしまいかねない。いや、まず間違いなく理性より先に意識が吹き飛ぶ。
「あっ、あの、近いです! 近すぎです!」
「だから、胸を揉んだならともかく、ちょっとくっついたぐらいでそんな恥ずかしがらなくても……女同士なんだしさ」
 違う、女同士じゃない。
「い、いえ、そう……いえ、そうなのですが……そうじゃなくて……いやでもそうで……っ!」
「妙にドギマギしてるなぁ、もしかして変身を解いたら年頃の男の子だったりして……なーんて、そんなわけないか、魔法“少女”なんだし」
 そんなわけある。I市ならわりと頻繁に。
 近い。いい匂いだ。柔らかい。……もう駄目だ。失礼などと言っている場合ではない。もはやそんなことを気にしている余裕はない。ノブリス・オブリージュは大慌てで立ち上がろうとした。
「あ、あのっ! わたしはそろそろ上がらせて頂き、わっ!?」
 そして、慌てすぎて姿勢を崩した。
「おっと」
 それから、狙い澄ましたようにサイレンティムを押し倒す形で倒れ込んだ。
「す、すみませ……ん……?」
 身体を起こそうとして気付いた。顔が柔らかいものに当たっている。人間の身体の硬さではない。もしや、とノブリス・オブリージュの脳裏に嫌な予感がよぎった。
「……まさか、言ったそばから揉まれるどころか顔を突っ込まれるとは思わなかったよ」
 予感通りの内容が、サイレンティムの口から恥ずかしげに告げられた。
「あああああ! すみませんすみませんすみません! 本当に申し訳ございませんでしたあああ!」
 ノブリス・オブリージュは全速力で起き上がった。
 しかし、それがまずかった。
 立ち上がりきった瞬間、ノブリス・オブリージュの視界が揺らいだ。ただでさえ湯でじっくり暖められ、しかも緊張し続けていたせいでのぼせかけていた頭に、急に立ち上がる負担は大きすぎた。
 まずい。そう思うと同時にサイレンティムに抱きかかえられたところで、ノブリス・オブリージュの意識は闇に溶けた。



 ノブリス・オブリージュが目を開けると、旅館の一室とおぼしき屋根が映った。何があったのか思い出し、サイレンティムに申し訳なく思いながら身体を起こそうとし、そして自分の手と唸り声で気付いた。
 これは男の手と声だ。
 つまり、変身が解けている。
 一気に血の気が引いた。終わった。間違いなく正体がばれた。
「ああ、起きた? まだ無理しなくていいよ」
 横からサイレンティムの声が聞こえた。至って平静な様子だった。
「はい……介抱してくださったんですか? ありがとうございます……」
 力なく答える。これからどんな目に遭うか考えると気が重かった。こんなことなら最初から正体を明かしておくべきだった、と強く後悔した。彼の憧れる「貴族」であれば、自分が恥をかくことなど恐れず、魔法少女達の――サイレンティムの貞操を守れていただろう、と自分を責めた。
「まあね。大変だったよ、誰にも見つからないようにここまで運ぶの」
「すみま……えっ?」
 ノブリス・オブリージュは戸惑った。サイレンティムの方を見ると、彼女は特に変わった風もなく、部屋の隅の座布団に座っていた。旅館備え付けの浴衣を着込んでいる。
「見つからないように、って」
 寝かされた布団から身体を起こしつつ確認する。
「そりゃそうでしょ。自分でもわかってるだろうに」
「えっ」
「正体が男だ、って知られたくないんでしょ? 多分」
「は、はい……その通りです、その通りですが、でも」
「あー、もしかして、私が周りに言いふらしたんじゃないか、って思ってた? そんなことしないよ。誰にも言ってないし、今後も言うつもりなんかないよ」
 図星だった。ノブリス・オブリージュは別にサイレンティムを信用していないわけではなかったが、しかし彼女には言いふらされても仕方ない、と思えるだけの理由があった。
「はい……だって、わた……僕は、あなたと……その……お風呂……」
 サイレンティムの顔が一気に赤く染まっていった。耳までも赤くなっている。
「言わないでよ……考えないようにしてたのに……」
 サイレンティムは目線を外し、か細い声で答える。
「すみません……本当にすみませんでした……」
 半身を起こした体勢から深々と頭を下げた。今はただ謝ることしかできなかった。「減るものじゃない」とはよく言われるが、減らないからこそどう償ったものか想像もつかない。
「いや……いいよ、別に。見られちゃったものはもうしょうがないし、私がノブリスの立場ならやっぱり言い出せなかっただろうから。それに」
 サイレンティムはしおらしい様子で続ける。
「そもそも、あの時私を見て逃げようとしたのも、一人で入ろうとしてたのも、本当はこういうことにならないように配慮してたからでしょ? それを私が無理に呼び止めたからこうなっちゃったわけだし、半分は私のせいだよ。でも……あー」
 サイレンティムはますます赤くなった顔を手で覆った。
「ってことは、私、自分から裸を見せつけに行ったようなもんじゃん……何やってんだ私……あー本当にもう、あー」
「すみません……」
「いやもう本当にいいから! 謝ったりしなくていいから代わりにすぐ忘れて! 私も全力でなかったことにするから!」
「あ、あの、そんなに大声を出したら周りに――」
「音なら最初っから外に漏れないように魔法使ってるよ!」
「あ、はい……」
 部屋の中に沈黙が流れる。気まずさから逃れようと、ノブリス・オブリージュは今更ながら部屋の中を見渡してみた。宿泊している部屋と違って狭い。一、二人用の部屋だろうか。服は同じく男性用の浴衣を着せられている。変身前に来ていた衣服は室内に干されている。浴槽内で変身が解けたせいで濡れてしまったようだ。
 ……ということは、サイレンティムが脱がせてくれたのではないだろうか。
 つまり、自分もサイレンティムに裸体を見られたのでは?
 などという疑問が浮かんで羞恥心に悶え始めたところで、サイレンティムが立ち上がった。
「と、とにかく、私は誰にも言ってないから安心していいよ。相部屋の奴らにはのぼせてたから休ませとくって説明しといたから適当に口裏合わせといて。着てた服は干しといたけど、まだ乾いてないからそれは自分で何とかして。他に質問は?」
 矢継ぎ早にまくし立てられ面食らったが、ひとまず内容は頭に入った。
「だ、大丈夫です」
「よし、じゃあ私はそろそろ自分の部屋に戻るよ。間違っても変身しないで出てこないようにね。それじゃ、また明日」
 サイレンティムは足早に部屋を出て行った。横顔にはまだ朱色が残っていた。
 脳裏に浴場で見たサイレンティムの瑞々しい裸体が浮かび、ノブリス・オブリージュは首を振り慌てて映像を振り払った。



 ノブリス・オブリージュが自分の部屋に戻ると、サイレンティムが言い残した通り、のぼせて休ませてもらっていたことになっていた。正体を口外されてはいないようだった。
 翌朝になっても特にからかわれたり、白い目で見られたりすることもなく、平穏に時間が過ぎていった。
「おはよう」
 廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。サイレンティムだ。
「おはようございます、昨日は本当に申し訳ありませんでした」
「だから気にしなくていいって。それより、今のところ大丈夫? バレてないかな」
「ええ、おかげさまで」
「ああよかった。実は誰かに見られてなかったかヒヤヒヤしてたんだけど、その様子なら大丈夫だったか」
 サイレンティムはノブリス・オブリージュの肩を叩きながら言った。
「まあ、次お風呂に入る時は気をつけなよ。他の子を見ないだけじゃなくのぼせないように、ね」
「はい、肝に免じておきます……」
「よろしい」

 結局、その後も正体を知られた様子はなかった。
 ノブリス・オブリージュは二度とこのような「貴族」として相応しくない事態に陥らないよう心を強く持とう、と誓ったのだった。

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