ミリタリ関係
米軍のアサルトガンについて
名城犬朗さんの『WW�曲瞳殻鄒鏘吉� アサルトガン小隊および班』をC91で買ってきた。米軍の野戦教範FM17-25(1942年6月版)の解説マンガつき翻訳である。折角なので協賛企画として、このトピックスの周辺事情について、知っていることを書いてみたい。
Armed Force
アメリカ陸軍の戦車部隊は長い昼寝の後、いきなりむっくりと起き上がって、大急ぎで戦争の支度をした。だからやっていることの体系性にやや難がある。むしろこういうときは、ロジックより人に焦点を当てて整理するとわかりやすい。具体的には、アドナ・R・チャーフィー・ジュニア少将と、レスリー・J・マクネア中将(日本語版のWikipedia項目がない)である。
House[1984]によると、風雲急を告げる兵科間の争いを収めるため、チャーフィーは「Armored Force」の創設を提案し、認められた。つまりどの兵科というわけでもないようにしようというのである。チャーフィー自身は騎兵であり、戦車は歩兵科のものとされており、工兵科も機械化部隊を作りたがっていた。もと陸軍参謀総長の息子であるチャーフィーは政治的調整も交えて、大戦に間に合う軍の機械化を進めようとしたのである。第1次大戦の経験を活かせず、歩兵科で腐っていたバットンはそのおかげで生き返った。
いっぽう歩兵科では、「対戦車戦闘」が大真面目に研究されていた。これは別にアメリカに限ったことではなく、「対戦車兵器を備えることで戦車は抑え込まれてしまうのではないか」という可能性は誰にも否定できなかったのである。こうした研究に深くかかわっていたのがマクネアだった。1940年7月、Armored Force(1950年からArmor Branch)の発足と同じ月に、マクネアは陸軍参謀総長になった。対戦車部隊の発展についてはYeide[2007]が詳しい。
ルイジアナ演習の日本語版Wikipedia記事は明らかに英語版の翻訳だが途中までしか訳されていない。肝心なのはその後で、じつは1941年8月のルイジアナ演習で戦車部隊は対戦車砲部隊に大損害を被り、統一的な戦闘指揮こそされないものの、軍直轄対戦車砲兵部隊の大増強が進められてしまった。英語版の後ろの方を見たくない方はBUNさんの8年前の説明のほうがおすすめである。そして戦車部隊にとって頼りのチャーフィーは、これも1941年8月に若くして亡くなってしまったのである。
だからフランスの敗戦を分析して、「自走砲は有効な兵器だ」という結論を得たあと、対戦車砲兵はハーフトラックに対戦車砲を乗せるし、戦車部隊はそれとのカブリを避けて、ハーフトラックに短砲身の榴弾砲を積むしかなかったのである。それがアサルトガンということである。
直接砲撃と間接砲撃
名城犬朗さんの訳したFM17-25(1942年6月版)には、アサルトガンは直協に徹して間接射撃はしないのだと書いてある。ところがインターネットには同じFM17-25の1944年9月版が転がっていて、そちらには間接射撃もすると書いてあるのである。マクネアは砲兵であり、対戦車砲も砲兵科がもっぱら扱うしかないわけだから、間接砲撃をやると言えば砲兵科固有の領域だということで車両を持って行かれるのではないか……と戦車部隊が恐れたのかもしれない。まあ1944年ともなれば、折り合いもついたのだろう。
アサルトガンの仮想敵 [#kfff9b6f]
図から読み取る限り、戦車部隊と偵察部隊のアサルトガンは対戦車砲を主要目標とし、機甲歩兵部隊のアサルトガンはトーチカを主要目標としている。つまりアサルトガンは、ルイジアナ大演習で苦杯を喫した戦車部隊が要求した「対対戦車砲砲」であるとも解釈できる。対戦車砲は砲架が脚を突っ張って反動を支えるのであり、仮に砲を真横に回せても、砲架の踏ん張る向きと直角であったりしたら、おそらく射撃の反動で丸ごと横倒しになってしまうであろう。だから思わぬ方向から奇襲するのは基本であり、小隊よりバラバラに運用すると局所優勢を作れないから、ドイツ兵士の手記を読んでいると、ドイツの突撃砲も3両小隊を分割するところまではしなかったようである。
戦争の様相が、米軍対戦車部隊が想定するような姿になるなら、アサルトガンという用心棒は必要であったろう。実際には大戦後半になると、パンツァーファウストなど軽便で短射程の歩兵用対戦車兵器が発達し、もう一方の極としてよく防御された駆逐戦車が登場して、アサルトガンを用意した戦車部隊の読みは空振りしてしまったと言えよう。もちろん対戦車部隊もツブシが効かない過大な存在であったと、後からなら言えるのであるが。
参照文献
米軍のアサルトガンについて 
名城犬朗さんの『WW�曲瞳殻鄒鏘吉� アサルトガン小隊および班』をC91で買ってきた。米軍の野戦教範FM17-25(1942年6月版)の解説マンガつき翻訳である。折角なので協賛企画として、このトピックスの周辺事情について、知っていることを書いてみたい。
Armed Force
アメリカ陸軍の戦車部隊は長い昼寝の後、いきなりむっくりと起き上がって、大急ぎで戦争の支度をした。だからやっていることの体系性にやや難がある。むしろこういうときは、ロジックより人に焦点を当てて整理するとわかりやすい。具体的には、アドナ・R・チャーフィー・ジュニア少将と、レスリー・J・マクネア中将(日本語版のWikipedia項目がない)である。
House[1984]によると、風雲急を告げる兵科間の争いを収めるため、チャーフィーは「Armored Force」の創設を提案し、認められた。つまりどの兵科というわけでもないようにしようというのである。チャーフィー自身は騎兵であり、戦車は歩兵科のものとされており、工兵科も機械化部隊を作りたがっていた。もと陸軍参謀総長の息子であるチャーフィーは政治的調整も交えて、大戦に間に合う軍の機械化を進めようとしたのである。第1次大戦の経験を活かせず、歩兵科で腐っていたバットンはそのおかげで生き返った。
いっぽう歩兵科では、「対戦車戦闘」が大真面目に研究されていた。これは別にアメリカに限ったことではなく、「対戦車兵器を備えることで戦車は抑え込まれてしまうのではないか」という可能性は誰にも否定できなかったのである。こうした研究に深くかかわっていたのがマクネアだった。1940年7月、Armored Force(1950年からArmor Branch)の発足と同じ月に、マクネアは陸軍参謀総長になった。対戦車部隊の発展についてはYeide[2007]が詳しい。
ルイジアナ演習の日本語版Wikipedia記事は明らかに英語版の翻訳だが途中までしか訳されていない。肝心なのはその後で、じつは1941年8月のルイジアナ演習で戦車部隊は対戦車砲部隊に大損害を被り、統一的な戦闘指揮こそされないものの、軍直轄対戦車砲兵部隊の大増強が進められてしまった。英語版の後ろの方を見たくない方はBUNさんの8年前の説明のほうがおすすめである。そして戦車部隊にとって頼りのチャーフィーは、これも1941年8月に若くして亡くなってしまったのである。
だからフランスの敗戦を分析して、「自走砲は有効な兵器だ」という結論を得たあと、対戦車砲兵はハーフトラックに対戦車砲を乗せるし、戦車部隊はそれとのカブリを避けて、ハーフトラックに短砲身の榴弾砲を積むしかなかったのである。それがアサルトガンということである。
直接砲撃と間接砲撃
名城犬朗さんの訳したFM17-25(1942年6月版)には、アサルトガンは直協に徹して間接射撃はしないのだと書いてある。ところがインターネットには同じFM17-25の1944年9月版が転がっていて、そちらには間接射撃もすると書いてあるのである。マクネアは砲兵であり、対戦車砲も砲兵科がもっぱら扱うしかないわけだから、間接砲撃をやると言えば砲兵科固有の領域だということで車両を持って行かれるのではないか……と戦車部隊が恐れたのかもしれない。まあ1944年ともなれば、折り合いもついたのだろう。
アサルトガンの仮想敵 [#kfff9b6f]
図から読み取る限り、戦車部隊と偵察部隊のアサルトガンは対戦車砲を主要目標とし、機甲歩兵部隊のアサルトガンはトーチカを主要目標としている。つまりアサルトガンは、ルイジアナ大演習で苦杯を喫した戦車部隊が要求した「対対戦車砲砲」であるとも解釈できる。対戦車砲は砲架が脚を突っ張って反動を支えるのであり、仮に砲を真横に回せても、砲架の踏ん張る向きと直角であったりしたら、おそらく射撃の反動で丸ごと横倒しになってしまうであろう。だから思わぬ方向から奇襲するのは基本であり、小隊よりバラバラに運用すると局所優勢を作れないから、ドイツ兵士の手記を読んでいると、ドイツの突撃砲も3両小隊を分割するところまではしなかったようである。
戦争の様相が、米軍対戦車部隊が想定するような姿になるなら、アサルトガンという用心棒は必要であったろう。実際には大戦後半になると、パンツァーファウストなど軽便で短射程の歩兵用対戦車兵器が発達し、もう一方の極としてよく防御された駆逐戦車が登場して、アサルトガンを用意した戦車部隊の読みは空振りしてしまったと言えよう。もちろん対戦車部隊もツブシが効かない過大な存在であったと、後からなら言えるのであるが。
参照文献
- House, Jonathan M.[1984] Toward Combined Arms Warfare:-A Survey of 20th~Century Tactics, Doctrine, and Organization U.S. Army Command and General Staff College ※現在手に入る書籍版は、Univ. Press of the Pacificから2002年に出版された改訂版。
- Yeide, Harry[2007],'''The Tank Killers: A History of America's World War II Tank Destroyer Force''', Casemate Pub.
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