マイソフの創作と資料とチラシの置き場です。

ウクライナ関係時事についてのチラシの裏 ログその1 最新





中国の戦略的分岐と2023年3月の状況


 Financial Timesの3月6日付記事'China has a fateful choice to make on Ukraine' https://www.ft.com/content/30a10c99-fb05-4453-a058... は、同紙の外交問題主任コメンテイター、Gideon Rachmanのものである。これに先立ち2月下旬から、中国は活発に欧州とロシアで外交活動を行っていた。

 記事は、中国がロシアへの武器輸出に踏み切る際に考えられるロジックはふたつであるとした。ひとつはロシアが早期に消尽しないとみて、西側[まあ欧州か、しかし共和党でもトランプが支援中断論を叫ぶ]がウクライナに妥協的講和を強いるという読み。もうひとつは、すでに台湾有事が内部決定されているので米との対立がもはや追加コストではない場合。

 2月〜3月にロシアの攻勢拡大が見られなかったため、世界の注視は状況を変えそうな中国の方針転換などに向いているわけである。3月1日ごろの報道によると、ウクライナは自国製の長航続距離ドローンなどを用いて、ロシア国境よりはるかに奥のガス施設等を一斉攻撃した。2月に大きな話題となったMBTのウクライナ供与であるが、要員訓練も含めてすぐに戦力化するわけではない。

 いっぽうトランプは3月4日、大統領に返り咲いたら「最優先でウクライナ支援を止める」と演説したと報じられた。例えばテレ朝ニュース「トランプ氏「最優先でウクライナ支援停止する」 大統領への返り咲きに自信」https://news.yahoo.co.jp/articles/c65eac47f613b3a3...



3月12日付のISW分析報告は、プリゴジン/ワグネルとの対立の中で、ロシア正規軍・国防相がわざとバハムートでワグネルの戦力を費消させた(まあ副産物としてウクライナに出血を強いた)という可能性を示した。

GLSDB


 2月、アメリカはGLSDB(射程150km)の供与を始めると発表した。HIMARSのロケット弾は種類が多く、CNN報道によると現在供与されているものは最大80km飛ぶが、アメリカはウクライナの度重なる要請にもかかわらず、300km飛ぶATACMSロケット弾の供与は控えてきた。GLSDBは従来型ロケット弾の弾頭を滑空翼を持つものに置き換え、高空から遠くへ飛んでいくもので、MLRSやHIMARSのクラスター弾頭を使うのをやめたことを背景に(弾頭以外を再利用して安くあげる)、比較的最近に開発された。

ロシア経済、マイナス成長を脱したか


 IMFが2023年ロシア経済成長率をマイナス予想からプラス0.3%に改定したことをきっかけに、ロシア経済が持ちこたえていることが各社から報道されている(例えばVOA News"Russian Imports Rebound as Economy Looks Set for Growth"https://www.voanews.com/a/russian-imports-rebound-...

 これは主に輸入が回復したこと、より具体的には、第三国経由などで西側製品を手に入れる抜け道の開拓が進んだことによるとされる。ただし高度な部品は一般民生品ほど簡単ではなく、余計な迂回ルートで高価につき、代替品で我慢しているものもあると記事は言う。制裁はもともと完封が望めるものではなく、中古洗濯機からはがした半導体で軍用品を作る羽目になっているとしたら、それは制裁が効果を上げているのだと記事は言う。

ガスパイプライン続報[2023年2月更新]


 ロイター6月14日 ノルドストリーム1経由のガス輸送が減少、制裁で機器配送に遅れ https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-gazp... Robin Brooks氏は、原油価格上昇で外貨に余裕ができたので、西欧を脅すのにその余裕を使っているのだとする(西欧に供給しない分だけロシアの収入も減る)。この件については、カナダがドイツの要請もあり、修理を終えたタービンを送り返すという。7月11日、アメリカもこの決定を是認した。 https://www.state.gov/the-united-states-supports-c... ところが8月3日、ガズブロム側が「実際には受け取れない」と言い出した。実際に何が起きているかは、いくつか可能性がある。



 meduza.ioは、ロシアのメディアを首になったジャーナリストがロシアの有志を集めてラトビアに開設したロシアニュースサイトである。このサイトが9月27日、https://meduza.io/news/2022/09/27/operator-severno...ロシアのインタファクス通信社の記事を引用する形で、デンマーク沖でノルドストリーム1の2つの分岐と、ノルドストリーム2のすべてにガス漏れが生じ、修理にかかる期間は未定だと伝えた。

 さいわい、インタファクス社の記事も英語で読め、確認出来る。9月27日'Nord Stream: Simultaneous breakdown of three gas pipeline strings unprecedented, not yet possible to estimate recovery period'https://interfax.com/newsroom/top-stories/83365/

 デンマークの有料Webニュースサイト「The Local Denmark」も報じている。https://www.thelocal.dk/20220927/nord-stream-1-gas... もともとノルドストリーム2の管理企業(ロシア政府が所有するが所在地はスイス)がノルドストリーム2の圧力低下と海上の泡を発見し、その後1にも見つかったようである。https://www.thelocal.dk/20220926/germany-investiga...

 あちこちで報じられるようになったが、同時複数個所のよく似た不具合であることから、人為的なものとの疑いを多くの関係者が口にしているようである。

 2023年2月に入っても、パイプラインは止まったままである。上記のようにすでに6月からロシアはガスの圧力を減じており、8月にEUが指標としている「天然ガスの発電量メガワットアワー当たりユーロ価格」は345ユーロの最高値を付けた。https://www.cnbc.com/2022/12/29/european-natural-g... つまり9月末のパイプライン停止は、天然ガスの値下がりが始まったタイミングだったわけである。その後も順調に価格は下がり、12月末に翌月渡し先物価格で77ユーロと侵攻前の水準を回復した。今年に入ってからはその価格を越えず、50ユーロ台の取引日も多い。

https://www.statista.com/statistics/1267202/weekly...

 Financial Timesによる2月10日付インタビュー記事によると、エネルギー専門に投資するヘッジファンドのトレーダー、Pierre Andurand氏は「プーチンはエネルギー戦争に負けた」と語った。https://www.ft.com/content/d52bcb07-ba5f-4ffd-a919... その具体的な内容としては、欧州がロシア産ガスの送られてこない状況にもうすっかり対応し[まあ、世界中からかき集めているうえ暖冬に助けられているのだが]、いっぽうで唯一の大口顧客となった中国は強気の価格交渉ができ、[輸出増で安値をカバーしようにも]アジア向けのパイプライン増強は年月がかかるからである。ただしPierre Andurand氏は同時に、中国のゼロコロナ政策離脱と景気回復に伴って今年の原油価格は相当な上昇を見せると予測している。まあ「これからの価格」についてトレーダーが語っているのはポジショントークかもしれないが。

 

ウクライナ2022年9月攻勢


 8月28日ごろから、ヘルソン方面でウクライナによる砲撃(?)が増していると報道されていたが、直ちに確保地域が広がったという報道はなかった。少なくともヘルソン周辺と、はるか北東のヴィソコピリア村周辺(これまで比較的静かな戦線であった)に砲撃は集まっていた。中央に集まる熱源(砲撃地点)はたびたび争奪されたDavydiv Bridのロシア側後方地域であり、従来からロシア軍部隊が集まっていると言われてきた。9月1日(日本時間)になると、Davydiv Bridの少し南西からウクライナ軍が相当深く突破したという推定記事も出た。個々の情報は評価しづらいが、黒海沿岸に近い南部でヘルソンを直撃するルート、Davydiv Bridから道路に沿って進撃するルート、ヴィソコピリアなど占領地域北端をむしり取る幅広い動きの3つが並行して見られた……と言っておけば間違いはないだろう。

 ウクライナ側はロシアに対応されないため、攻勢の実相をネットに流さないよう呼び掛けていた。

 9月3日、ウクライナ大統領顧問アレストヴィッチはウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿して、今回の作戦はロシアの人と補給システムを暴き出して削ることだと述べた(ISW、9月3日付現状分析)。ハルキウ大躍進の後、じつはヘルソン方面は陽動作戦というわけではなく、しかし土地を取ることが至上目的でもなく、ロシアによる住民投票を妨害するため早急に地域をかく乱する必要があったのだ……という裏付けのない説明がささやかれた。いっぽうドニエプル川にかかる橋は、破壊と仮復旧(舟橋など)を繰り返してきたが、すべて落とされた時期もあり、補給不足のロシア軍をしばらく弱らせる作戦であったと解釈できる。

 9月6日から7日にかけて、ハルキウの東でウクライナ軍は大きく東進し、イジュームへの補給路を脅かす位置を得た。ロシアの防御が薄くなったのは、南方への増援の犠牲になったのではないかと見られているようである。北のベルゴロド方面からイジュームへの補給路は2本あり、バラクレヤが失陥したことで西の道路は直接占領されるリスクすら出てきた。東のほうはオスキル川を橋で渡る箇所があり、昨今ではウクライナに都合のいい正体不明の攻撃が加わりやすくなっている。しばらく静かだった北東ウクライナに火が付いた。

 呆然としている全国1億2000万ミリヲタの皆様こんばんは。いやもう言葉がない。戦車や装軌車両がどれくらい先頭に立ったのか、軽装の装輪車両が突っ走ったら抵抗がなかったのかといった細部はそのうちわかるとして、とんでもないロシアの大黒星である。ベルゴロドからイジュームに至る補給線は陸の半島のようになっており、更地になったセベロドネツクあたりで南東からの鉄道は途切れているので、潜在的に危ない場所ではあった。補給線を北から延ばすしかなく特定方向に限られるので、ウクライナもロシアの反撃を受け止めやすいだろう。補給の要衝クピャンスク市の東側が占領できなくても、線路に砲弾どころか小火器も届きかねず、南への補給路は事実上絶たれた。なお9月17日ごろ、クピャンスク市の東側にもウクライナ軍が進出したことが確認された。

 10月1日、ロシア国営タス通信もリマンからの「撤退」を認めた。ただしウクライナ軍は市街戦を避け、逃げるロシア軍を地雷と砲撃で攻撃しているともいわれるので、ロシア軍撤退=ウクライナ軍市内確保ではない。市内にロシア軍が取り残されている可能性に至っては神の味噌汁である。※やはり撤退を許されなかった若干のロシア兵がいたが、間もなく制圧されたようである。

 10月3〜4日、インフレツィ川岸のダヴィディブリッドへ向かう道とドニエプル西岸を南下する道のふたつで、ウクライナ軍が大きく距離を稼いだ。挟まれている地域は長方形の農地と狭い農道が続く地形手で、包囲戦は困難であったろうが、ロシア軍が撤退命令を出したともいわれ、潰走により大きな空白地帯ができた。リマンから北東に進んだウクライナ軍によりクレミナが新たな焦点となった。

ハルキウ東で起きたこと(2022/9/17)




 Ian Matveev氏の経歴や正体をマイソフは知らない。ひょっとしたら実在の人物ではないかもしれないくらい、知らない。ただそのロシア語メッセージを読んでいくと、全く説明できなかった最近の戦況がきれいに説明できることも確かである。長い連続ツイートを簡単にまとめてみる。


ハリコフ地域で起こったことはすべて、ロシア軍の重大な過ちと未解決の問題の合計の結果です。 1 統率力の欠如 2 供給障害 3 補充なし 4 軍の資質の低さ 5 戦術的ミス それぞれを詳しく見てみましょう

 氏がまず指摘するのは、統一的な指揮系統の欠如である。大統領直属のPMCが独立性を持ち、DPRやLPRの徴募兵が戦線維持の中心となり、治安組織である国家警備隊がそれを補完させられ、陸軍は砲兵を中心としてわずかであった。

 捕獲された砲弾には、この戦域ではあまり役に立たない対戦車HEAT弾が多く見られた。ウクライナ軍の攻勢が今後もないものと決めつけられ、他の地域が優先されて、必要な弾薬が届かない一方、古い装備や故障装備が送り込まれて放置された。戦闘力のある部隊はおそらくヘルソン戦線などに送られた。だから国家警備隊がしばしば戦線にさらされ、重車両や兵器はあっても稼働せず、動く軽車両で急いで逃げるしかなくなったのである。

 後方にあるべき予備も欠如していたか、いてもすぐ動ける位置と裁量を持っていなかったか、投入の決断が遅れたか、あるいはそのすべてであった。

 バラクレヤを通ってクピャンスクまで、ウクライナ軍がもし前進すれば川にさえぎられるところがなく、ロシア軍は取られてはならない交差点があちこちに散在して守りにくく、大きな兵力で守っておかねばならない場所であったが、そうなっていなかったし、いったん事が起こってからでは間に合わなかった。とくに、有事に下がれる第二防衛線の準備がなかった。

 以下はマイソフのコメントである。上記の指摘がすべて正しいとすると、ごっそり獲得したロシア軍の弾薬は、いま利用したい弾種が少な目かもしれない。またすぐに利用できない故障兵器・摩耗兵器が多いかもしれない。ただしウクライナは多くの援助国とともに、ロシアよりもそれら装備を短期間で戦力化できるであろう。また、これらのこと自体が、ロシアの武器弾薬が補充できなくなってきたという待望のニュースである。

 アメリカが慎重な姿勢を崩さないように、一番崩れやすくなっていたところを突いたら崩れた……というのがハルキウ東の実態であるなら、直ちに大規模な崩壊が連鎖するとは考えない方が良いのだろう。しかし、既報と重なるところが多いので訳さなかったが、ロシアで志願に応じる人々が少ないことをIan Matveev氏は指摘する。そして地域司令官の任命と交代は何度か報じられたが、PMCの特権的地位と陸軍正規部隊のプレゼンスの低さは短期的に改善できなかったということで、仮に陸軍の志願者が増えても多くの問題が未解決のままとなるだろう。

 Def Mon氏はハルキウ東での出来事の背景として、同地にあった第20諸兵科連合軍の指揮所がHIMARSの最初期の標的となったこと(ウクライナ側6月24日発表)を指摘する。指揮スタッフの不足が尾を引いていたのではないかと。

ロシアの攻勢再興〜停滞 2022年8月まで


 5月15日、比較的抑制的なNATOのストルテンベルク事務総長も"Ukraine can win this war"と記者団にコメントしたと報じられた。泥の季節が明けた4月下旬からの攻勢は挫折したように見え、このころが(ウクライナ側から見て)楽観論のピークであった。

 5月19日までの数日間、イジュームから突破を図るロシアの動きは失敗し続けたが、ポパスナでの突破に続いてロシア軍がセベロドネツクへの正面攻撃を激化させ、5月末までにセベロドネツクを概ね制圧する流れになった。6月3日ごろからウクライナ軍が市内で反撃し、押し合いの末、24日にセベロドネツク撤退(の最中)がウクライナから発表された。7月2日にはリシチャンシクもロシアの手に渡ったとISWは判断した。

 6月27日ごろ、セベロドネツクに近いジモヒリアにあったロシア軍弾薬庫が爆発した。この攻撃に何が使われたかは明らかにされていない。25日には、セベロドネツクをはさんで反対側にあるスヴァトヴォでも同様に弾薬庫が爆発した。ここからしばらく報道が途絶えたが、7月9日または10日(報道にラグがありうる)に、ロシア占領下のドネツク市と、ルハンシク市方面へ真東に延びる道路沿いの目標がHIMARSによる集中攻撃を受けた。中心部同士で測って30kmほどドネツク東のShakhtarsk周辺で、養鶏場が大きな二次爆発を起こし、弾薬庫だったのではないかと言われる。指揮所や弾薬庫を中心としたピンポイント攻撃が活発化し始めた。12日にはヘルソン東のノーバカホフカで同様の弾薬庫爆発があった。

 7月11日から断片的に、ロシアの砲撃が衰えた(例えばロシアのMLRSが半分だけ装填して発射する例があった)という同工異曲の話が聞こえてきたが、8月になっても明確な弾切れは起きず間断ない砲撃が続いている。

 7月9日ごろ発表された最新の援助パッケージには「従来より精度の高い砲弾」が含まれると国防総省のプレス発表があった。M982 エクスカリバーのことだとすると、精密砲撃能力だけでなく、射程が40kmから、サブタイプによっては最大57kmに達するとされる。155mm砲M777を供与するときは見送られた砲弾である。ヘルソン東のアントノフスキー橋に穴が開いたのもこの砲弾だったという報道もある。 https://avia-pro.net/news/vsu-nanesli-udary-po-ant... 「噴射炎を伴わない、従来兵器では届かない場所への攻撃」をこの仮説はうまく説明できる。

 5月28日ごろから、へルソン東側でウクライナ軍は攻勢をかけ、道路の結節点Davydiv Brid付近を確保した。南西へルソン方向からの増援に加え、北東方向からロシア軍がいくらか退いてこの地点の除去に投じられた。6月10日前後から、ヘルソンの西側でもウクライナ軍が押し、Davydiv Brid付近で足を取られたロシア軍の空白を突いて、少し土地を取り戻した。6月20日までにDavydiv Brid付近の橋頭堡はロシアが取り戻したとISWは21日に評価した。7月後半に入り、この方面でも再びウクライナが押し出し、8月末のウクライナ再攻勢まで取り合いが続いた。

 8月9日前後から、AGM-88対レーダーミサイルの破片がロシア側地域で見つかったという話を伏線に、ウクライナ航空機でも撃てる対レーダーミサイルを供与したというアメリカのプレス向け発表があった。https://edition.cnn.com/2022/08/08/politics/anti-r... [続報によれば、Mig-29でも撃てるよう改修したらしい。]

 8月20日ごろから、クリミアの海軍司令部攻撃を契機として、どうもウクライナが商用ドローンを改造して長距離攻撃に使っているようだ……という報道が出てきた。対空レーダーを潰せるようになったので、バイラクタルが活躍した序盤のようにドローンの生残性が増したのだという説明は説得力がある。もちろん人知れず闇に生まれ闇に消える被撃墜ドローンも出ているのだろう。[付記:9月8日、ウクライナ海軍の発表に基づくキエフ紙記事によると、TB2によるロシア軍攻撃が行われ戦果があった。]


 8月3日、英デイリー・テレグラフ紙がウクライナ軍将官へのインタビューで、アメリカはHIMARSの射撃目標について拒否権を留保しているという発言を引き出した。https://www.businessinsider.co.za/himars-us-has-ef...デイリー・テレグラフはこの種の軍事報道では実績のある新聞のひとつである。HIMARS供与以来の運用実績が積み重なり、いきなりモスクワを撃ったりしない信頼関係ができたのでATACMSを引き渡し、最近の謎の爆発続発になったというのは、ありそうな話に聞こえる。何の証拠もない他のストーリーとしては、特殊部隊だのパルチザンだのと言った説明も語られているようである。たしかにCNNの引用するロシア側軍事ブロガーの指摘するように、ATACMSであるとしたら、飛来音や軌跡に気づいた市民や目撃映像が全くないというのも不自然である。https://edition.cnn.com/2022/08/12/europe/crimea-s... いっぽうサキ基地では4か所に分けられていた弾薬類がすべて爆発しているらしく、肉薄したチームの仕業にしては被害があまりに広範囲、かつ正確である。

 クリミアのロシア海軍航空隊サキ飛行場など、8月以降に従来の兵器では射程の足りない地点で爆発が起きており、原因は明確になっていない。生産開始間近で発注国も出ている、ATACMSとは別の距離延伸型ロケット、ER-GMLRSが供与されているのではないかという観測も見られるようになった。

 結局、ロシア軍戦線後方に「謎の爆発」が頻発する状況のまま、9月を迎えることになった。M982エクスカリバーと、対空レーダーサイト攻撃と並行したドローン攻撃再活発化で説明できるように思えるが、公式に確認されたわけではない。[続報 ATACMSの供与はまだないようである。9月16日CNN日本語サイト「ウクライナへの長距離兵器供与、米政権は当面行わない公算 情報筋」]

ロシアの銃後と経済生活


 不足が顕在化している商品として、オフィス用品を中心とする紙がある。漂白に使う塩素酸ナトリウムを輸入に頼っているためだという。同じ塩素系薬品の問題として、水道用の消毒剤が不足して水道の臭気が問題となっているという報道もある。ただこれは塩化ナトリウムの電気分解で作られるもので、電気代が安い国・巨大な製紙産業を持つ国が高いシェアを持っているだけであって、戦後の価格競争力を気にしなければロシアでも作れるであろう。衣服のボタンの多くを輸入に頼っている問題も同様に考えられる。大小の製パン工場で外国製パン焼き窯が使われ、保守部品・消耗部品が途絶する問題は国産設備への物理的な入れ替えが必要で、比較的容易でないであろう。

 逆に、ロシアが相当長期にわたって輸入の原資に困らないことはほぼ明らかであって、それは問題の中心ではない。ロシアの石油とガスを買わざるを得ない国が外貨を差し出し(先に政府に差し出してルーブルに換えても、この点では同じことである)、代わりに輸入する取引がどれもこれも制裁で整わないとすれば、自然に貿易黒字になってしまう。だがロシアが渇望するのはその輸入なのである。ロシアが外貨を差し出しても求めるものを売ってもらえないとしたら、いま話題になっているように、金地金を差し出しても同じことであろう。輸入部品の枯渇は国内の仕事を減らし、国民の仕事と収入は減少する。

 国際金融協会のチーフエコノミスト、Robin Brooks氏が5月23日にツイートしたところでは、主要20か国の「ロシアへの輸出額」を合計すると、4月には前年同月比で半減していた。(同氏の他のツイートも参照すると)中国を筆頭に輸出はむしろ伸びている。年末までに、(明記はないが、おそらく四半期の前年同期比で)GDPは30%減となるのではないかと同氏は言う。



 イェール大学から出た研究を紹介する記事(7月29日)。やっぱり制裁は効いていると。https://www.euronews.com/2022/07/28/sanctions-cata...
  • モラトリアムをめぐって

 5月から10月1日まで、ロシアは破産宣告のモラトリアムを実施していた。https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=e1d...

 これは他者からの破産申し立て訴訟を裁判所が「原則として」受け入れないというもので、自発的に破算を裁判所に申し出たり、他者が起こした訴訟に「モラトリアムのそのまた猶予」を申し出て手続きを従来通り進めることはできる。グーグル・ロシアは9月に破産を申請し受理された。9月13日ロイター「ロシアの裁判所、グーグル子会社の破産申請受理=通信社」。

 この措置が延長されない公算が出てきて、いくつかの業界が延長を要望しているようである。もともと他者による破産申し立ては、すでに債務超過している企業にこれ以上赤字を増やす操業をすぐやめさせて、残っているものを現在の債権者で分配しようというものである。これを制限するのは一種の徳政令で、経営改善ではないから、代金受け取りが滞った企業へも静かに赤字が広がっていく。失業や減収を直接救済するか、モラトリアム失効で現状があらわになるに任せるのかが注目される。
  • 財政赤字の急速な拡大

 日本経済新聞9月16日「[FT]ロシア財政が悪化、石油価格下落で 軍事費に影響」を日本語記事の代表として挙げておく。有料記事だがリードだけで要点は尽きている。輸出企業からの特別徴税で財政支出増大をカバーしてきたロシア政府が、原油価格の世界的な値下がりと、上にも書いたガスパイプラインをめぐる(原因はさまざまに考えられるし、実際色々複合的だろう)出荷トラブルによって政府収入が8月から激減したのである。ロシアが存続し、戦争を続ける巨大なシステムがいよいよほころびを見せ始めた。
  • 輸入種子をめぐる危機
 
https://iz.ru/1396490/evgeniia-pertceva/semennoe-p...

 イズベスチヤ紙9月19日。国産種子による代替を政府は指導しようとしているが、減収が待っていると。これはよく知られている問題で、日本語で読める概況としてはロシアNIS貿易会「ROTOBOモスクワ事務所★ビジネスニュースクリップ 2022年8月9日 第32号」6ページの短信がある(PDF)。https://www.jp-ru.org/wp/wp-content/uploads/2022/0...

経済制裁がどのようにロシアを壊すかについての解説(保存版)


 仮蔵さんによる解説記事の日本語訳。スレッドの最期に出てくる果実の砂糖漬けはヴァレーニエといってロシアンティーのお相手。


国連総会のロシア非難決議、反対国棄権国リスト(メモ)

「国連総会のロシア非難決議、反対は5カ国のみ。賛成141カ国で採決 議場から拍手、その時ロシア大使は…」(Business Insider、3月3日)より。
  • 反対(5):ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリア
  • 棄権(35):アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、バングラデシュ、ボリビア、ブルンジ、中央アフリカ、中国、コンゴ、キューバ、エル・サルバドル、赤道ギニア、インド、イラン、イラク、カザフスタン、キルギスタン、ラオス、マダガスカル、マリ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、セネガル、南アフリカ、南スーダン、スリランカ、スーダン、タジキスタン、ウガンダ、タンザニア、ベトナム、ジンバブエ
  • 意思を示さず(12):アゼルバイジャン、ブルキナファソ、エスワティニ、エチオピア、ギニア、ギニア・ビサウ、モロッコ、トーゴ、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベネズエラ

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