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[SSメモ] 26 2011/06

「2」のDLC衣装と新曲から着想を得たSSです。

タイトル: ヴァンパイア・キス   


  • 以下本編-

古い洋館の一室を頼りなく照らす年代物のランプ。
隙間風のせいか、揺らめいた炎が消えかかっただけでベッドに腰掛ける少女は
びくりと体を震わせ、腕に抱えたウサギを強く抱きしめる。
その目の前に、音も無く現れた影がランプの明かりを遮って立った。

「なんだ、千早じゃない、驚かせないでよね」
口調は強がっていても、震えた語尾は小柄な少女の怯えを隠しきれていない。

「ふふっ、ごめんなさい」
千早と呼ばれた少女はくすりと笑い、少女の隣に身を寄せるよう腰を下ろす。

「どうしたのよ。千早も眠れない?」
「そう、ね。……それより伊織にお話があって」
「な、何よ改まって。それに千早、ちょっと顔近いわよ」

背の高い千早が隣に座る伊織の顔を見下ろすように覗き込む様子は、
唇を奪おうと狙っているように見えなくもない。

「ふふふふ。緊張してるの?可愛いわ、伊織」
「どうしたのよ、千早。ねえ、あんたちょっと変よ?」
「ふふっ、うふふふ。いいの」

上機嫌な声とは裏腹に、端正な顔に浮かんだのは空虚で禍々しさすら感じる歪な笑顔。
上体がそっくり伊織に向かうと、伸ばした手がむき出しの華奢な肩を掴み引き寄せる。

「ちょっと、痛いじゃない。離してよ」
「さあ、伊織。気を楽にして。私と一つになるのよ」
歪んだ微笑を形作る、青ざめた薄い唇が捲くれあがり、“それ”があらわになると
伊織の目は、鋭く伸びた一対の犬歯に釘付けになる。

「千早? な、なに、いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

千早は悲鳴を上げる伊織を強く抱き寄せ、その首筋に顔をねじ込むように埋めていく。
尖った犬歯が伊織の細い首筋に深々と突き立てられた瞬間、伊織の悲鳴は止まり
怯えた目がとろんと霞み、やがてゆっくり瞼が閉じていく。
千早は伊織の首筋にかじりついたまま、抵抗を失ったその体をベッドに押し倒し……

 ◇

「カット!!」
太い声がかかり、部屋の明かりが点される。
それと同時に、息を潜めていたスタッフがベッドの少女達のもとに駆け寄っていく。

「水瀬さん、首、痛くない? 大丈夫だった?」
「平気よ千早。ゴムだから痛くなんかないわ」
「そう、よかった」
伊織を引っ張り起こしてやりながら首筋を改めると、歯形こそついていないが
噛み付く芝居の時についたらしい唾液が残っているの見つけ、そっと指先で拭い取った。

その二人をスタッフが囲み、メイクやヘアセットの手直しを手際よく進めていく。

「喉渇いたわ」
少し苛立った声で伊織が呟くと、即座に冷えたオレンジジュースが差し出される。
一方の千早は、差し出された飲み物を断り、台本を見ながら何度も呟くように口を動かしている。
その二人を見ながら、カメラの後ろに陣取った二人の男が声を潜めて話をしていた。

「NG……ですよね」
「だな。ちーちゃんちょっと固いんだよね……お姫様との絡みはよかったのに」
「確かに」
「部屋に入って座るまでは雰囲気バッチリなんだよね。いおりんとの相性かな?」
「いや、悪くは無いですよ」
「そうか…。演技も悪くないけど女っぽい表現が弱いな。プロデューサーさん、どうにかなる?」
監督の注文に、プロデューサーと呼ばれた若い男は腕組のまま小さく唸る。
「……どうにかします。リテイクはこのまま続けます?」

その時、伊織に付き従っていたもう一人の若い男が話に加わってきた。
「いおりんはまだいけるって。どうします、続けますか?」
「いや、このシーンは明日仕切り直そう。せっかくだからいおりん一人のシーン、
押さえで何テイクか貰って今日はおしまいってことでいいかな、伊織Pさん?」
「オッケー。休憩明けたら、チャチャっとやっちゃおう」
「千早Pさん、イメージはお姫様と絡んだシーンまんまの妖艶な感じで、明日ヨロシク!」

 ◇

PV撮影現場の洋館は、水瀬家が所有する別荘の中でも特に年季の入った部類らしい。
西洋のナントカ調かはわからないが、外観、内装ともそのままPVのイメージ通りだった。
流石に照明や空調などの設備には手を加えられているのだが、せっかくだからということで、
アイドル達に割り当てられた別棟の部屋には雰囲気あるランプが照明に用意されている。

そのうちの1室。
長い黒髪の先が床につくのも構わず、ベッドに座った少女が項垂れたまま、床を見つめている。

「ただいま、千早。ってどうした、そんなに黄昏ちゃって」
「……プロデューサー、水瀬さん怒っていませんでしたか?」
「伊織が? なんで?」
「何度も撮り直しに付き合わせ、結局OKも出せずでしたから」
「伊織がそんなこと気にするわけないだろ。それより演技でも名前で呼ばれた方が嬉しいってよ」
「……水瀬さんが?」
「そうだよ。だから伊織の為にも明日の撮影はばっちり決めないとな」

 * * *

新曲のPVに挿入されるイメージシーン、それを洋館で撮影しているわけで、
ストーリーというほど込み入った内容でもない。
森で迷った千早と伊織が、辿り着いた洋館の女主人・貴音(実は吸血鬼)に一夜の宿を求め
貴音に襲われた千早が吸血鬼にされ、今度は千早が伊織を襲うというありがちの話だ。
メインは吸血鬼をあしらった可愛らしいドレスで三人が歌う部分だが、
ホラー映画風に作ったイメージシーンも短いなりにインパクトはあるはずなのだ。
その中で、ビジュアルに抜きん出た二人に千早が対抗するには、あり来たりの演出では駄目だ。
そう考え、本来なら伊織と千早が逆だったシーンをお願いして変更までしてもらったのが
さっき撮影していたあのシーンというわけである。
俺の考えた千早のイメージは「清純と妖艶の対比」である。
清純な千早が貴音扮する吸血鬼により妖艶な吸血鬼となり、伊織を襲う。本来千早に無かった
大胆なイメージをぶつけることと、清純さとの対比。この二つがポイントだったのだが……。

「うーーーん……あと1歩、いや、あと2歩くらいで完成なんだけどな」
「……済みません、プロデューサー」
「やっぱり千早には難しかったかな、台本のココは」
千早の目も台本のその部分に落ちる。
『……千早、ベッドに座り伊織を肩を抱くと、途端に妖艶な雰囲気を漂わせ……』

「やっぱりここは、最初の台詞に脚本に戻してもらおうか」
「い、いやです。何とか頑張ります。ですから……」
答えてみたものの、プロデューサーが用意してくれた自分のための演出を掴めておらず
そのメドすら立っていないのである。


「千早……スケジュールの都合上、明日が最後の勝負ってことになる」
「はい。それは分かっています」
「明日のための特訓、というより一種の荒療治だが、試してみる気はあるか?」
「もちろんです。せっかくのチャンスを私の不甲斐なさで無駄にはできませんから」
「結構無茶なことするつもりだけど……それでもいいな?」
「私はプロデューサーのことを信じていますから」
「わかった。それでは」
せっかくの信頼を無にしてしまう可能性は黙っておいた。
とりあえず千早をベッドに座らせておいて、用意してあったものを取り出した。
企画初期の試作品で、光沢に拘った結果、硬さのせいで噛むと痛い欠点から没になったものを
俺が引き取って、牙の部分だけ改造したものである。
趣味に走ったという事実は、千早の呆れた目が怖いから決して明かせない。
「特訓といっても芝居の稽古と一緒だ。俺が相手するから遠慮を捨てて思い切りやること」
「は、はいっ」

ランプで照らされた西洋風の洋館の一室。
風で炎がゆらめくたび、ネグリジェ姿の千早の影がゆらめいて雰囲気は抜群だった。
その千早の前に立ち、両手を肩において一昨日撮影したシーンを脳裏に浮かべる。

貴音扮する女吸血鬼が千早を抗えない視線の誘惑で縛り付け、その首筋を牙で犯すシーン。
胸元の開いた貴音の衣装も見ごたえ十分だったが、その大柄な貴音に抱きすくめられながら
表情の変化だけで芝居を完成させた千早の演技も評価は高かった。
吸血鬼に対面した恐怖が、首筋を鋭い牙で穿たれた瞬間甘美な苦痛に変わる変化。
それが吸血という愉悦で蕩かされて魔の快楽に屈し、快楽の地獄に堕ちていく喜びの表情。
それはPVに使うのが躊躇われるほど、性的に絶頂した女が浮かべるそれと酷似していた。
経験皆無のはずの千早が浮かべたアクメに似た表情、それを見た野郎ども全員、
俺を含めみな勃起させていたことは間違い違い。

それが千早の天性か、それとも貴音の魔力のせいかは分からないが、
それでも一度は、千早は演技を完成させているのである。
言葉では説明できそうにないそれを、俺が擬似的なアクメを感じさせることで再現し
千早の体に刻み込んでやろうというのだから無茶もいいところである。
己の内にある奇妙な自信が錯覚でないことを祈るばかりだ。

「伊織とのシーンは一旦忘れてくれ。俺が言う事を頭で考えず体で反応するのを心がけてくれ」
「考えずに感じろ、ですか」
「そう。千早が歌うとき、いちいち頭の中に歌詞を思い浮かべないのと一緒」
「分かりやすい例えですね。実行できるかどうかは別としても」
「一回出来たのだからきっと出来る。それと途中体に触れることになると思う。
もしそれが我慢できない場合、俺をひっぱいてくれたらその時点でストップする」
「それは……そういう場所に触れるという予告なのですか?」
「必ずしもそうではない。触れないでも俺の考える成果が出ればそれに越したことはないから」
「では私次第、ということですね」
「俺次第でもある。俺にしてもこれが非常手段なのに変わりがないから」
「分かりました。機に乗じて卑劣な真似をする方とは思いません。不快を感じた場合には
暴力ではなく言葉で止めてもらえるようお願いすることにします」
「配慮はありがたいが、叩いて止めていいことを覚えておいてくれ」
「それより時間も時間です。そろそろ始めませんか」
「そうだな。千早は一人で部屋に閉じ込められた女の子。そこに吸血鬼が襲いに来る」
「……はい。考えず、感じるよう」

自分に言い聞かせるよう呟いた千早を見て、俺はランプの灯芯を絞り部屋を薄暗くした。
恥かしがりの千早を慮ってではなく、集中力を高めるための雰囲気づくりのためである。
歌にせよ芝居にせよ、一旦“入って”しまえば、千早には羞恥心など存在しないのと同じだから。

改めて俺は千早の肩に置いたままの手に力を込めた。
俺を見上げかすかに体を震わせた千早に、まっすぐ顔を近づける。
「怖いか」
返事をせず、というより返事ができずガクガクと頷く千早。出だしは上々か。
「すぐに怖くなくなる。俺がたっぷりといいことを教えてやるからな」
体を強張らせて動けないでいる千早の髪をそっと払いのけ、首筋を露出させる。
鼻腔に忍び込む髪と肌の匂いに負け、牙を突き立てる前に鼻を首にぶつけ
千早の体臭を存分に吸い込んだ。
甘く酸っぱい思春期の少女特有の体臭にまぶされた汗の臭いは、決して不快なものではない。
それが証拠に、もう俺の分身に血流が轟々と集まりだしている。

「はぁっ……」
知らずに溜め込んだいた息を吐き出す、千早の微かな声。
それに促されるよう、役目を思い出した俺はもう一度だけ深呼吸をしてから口を開く。
目の前にさらけだされた、無防備な千早の首筋。
俺はそこに開いた唇と牙を押し当てた。

「ふぁっ……」
ほかよりも敏感な場所だからか、俺の唇が接した瞬間
千早は小さく声を漏らしながら、その細い体をぴくりとふるわせる。
それはそうだろう。噛みつくのでなく、キスするように唇を押し付けたのだから。
客観的に見れば、間違いなくペッティングに他ならない。
そして俺は牙を立てるのも忘れ、押し付けた唇の中で伸ばした舌で首筋を探っていた。

「んぁっ……んっ……」
我慢しきれずに漏らした甘えるような鼻声。自分があるべき状況に反するそれを恥じて
堪えようとしても、俺の舌が首の血脈をなぞるたび止めきれずこぼれてしまうらしい。
俺は千早の首筋にぴったりと吸い付いたまま、舌による刺激に加えて
少しずつ牙による圧力を加えていく。

「んっ、やぁっ……やめぇ……いや」
突如与えられた唇による愛撫は、思った以上に千早に何らかの感触を与えているらしい。
感じるだけではあらぬ方向に流されると危惧し抗う千早に、意地悪く愛撫の圧力を強めていく。
中腰の体勢は苦しかったが、思った以上の反応が得られている今が責め時と判断し
首筋につけた唇をわざと音を立てて離しては位置を変え、ぴちゃくちゃという咀嚼音で
千早の耳朶をくすぐってやるのも効果的だった。

「美味い血だな、千早。たっぷりと吸い取ってやるからな」
「んっ…ふぅっ……んぁ、んんっ、ぁあっ…やっ、ふぁぁっ」
既に千早に漏れ出す声を止める力はなく、俺の唇が、舌が、そして牙が首筋を嬲るたび
悩ましさを滲ませる喘ぎをこぼしていく。
「千早、首を噛まれるのは気持ちいいか?」
千早に、俺の優しい問いかけが陥穽であると見抜く余裕はない。
「んっ、はぁ、はい……」
小さな喘ぎとともにこくりと頷いてみせる千早。
俺は期待した返事が出たことに満足し、ピンク色に染まった可愛い耳朶をそっとくわえる。

「こんな風に襲われているのに、千早は気持ちよさを感じているんだ」
無理やり乱れさせられた少女を非難する、抑えた低音を咥えた耳朶の中に押し込んでやる。
その上で止めの一言。
「千早は変態だな」これも効いた。

「いやぁぁ、違う……わ、わたし変態じゃない……」
「じゃあ何で吸血鬼に血を吸われているのに、そんな気持ちよさそうなんだ?」
「だってぇ……吸ってない、舌が舐めるから変になってる…」
「ちゃんと噛んでるよ、ほら」
だが、既にスイッチが入ってしまった千早には、舌も牙も同じだった。
一旦唇を離し、今度は吸血鬼がするように作り物の牙を首筋に押し当ててやると、
柔らかい素材とはいえ、それだけで千早の肌に二つ並んだ牙孔が残される。
本当に吸血鬼に血を啜られたかのように赤い痕跡。
誰も来るはずのない、深夜の密室で二人きりの今、
押し倒してしまいたい欲求はギリギリ理性で支えているが、
予想外の千早の反応にそれすら危うくなってきている。

そんな時、千早の手が持ち上がり俺の手を掴んだ。
ようやくストップか。もう少し乱れさせてみたくもあったが、これ以上は俺も自信がない。
何せ目の前の千早はネグリジェ1枚という無防備な姿なのである。
押し開き、はだけ、まだ見ぬ乳房にも牙を突き立てたい、そんな欲望を押し止めて体を離した。

「今ので何か掴めた?」
「……あの、プロデューサー。わたし、わたし……」
「どうした、千早?」

千早の目から涙が溢れ、頬に流れていく。

「千早、いやだった? つらかったのか?」
俯いた千早は首を横に振るだけ。

「あの、ごめん千早。なんか気に障ったのなら謝るから……」
ややあってから、蚊の鳴くような小さな声で千早は言った。

「わたし、やっぱり変態……なんです」



人付き合いを苦手とする千早が、特に強く苦手意識を持つ貴音。
その彼女とのユニットということで、撮影前から不安に悩んでいたのは知っていたが
そんな千早の悩みを解決したのも、やはり貴音だった。
撮影が始まった直後のリハーサル。
緊張でガチガチの千早を、貴音がハグひとつでリラックスさせたのは見事だった。
その時の貴音は、威厳ある女王というより、母性溢れる王女様のようだった。

「あのハグのおかげですっかり緊張がとれたのですが」
ぽつりぽつりと話を始めた千早。
その話のどこが変態に繋がるのだ、と突っ込みたいのを我慢して千早の言葉を待つ。

「本番の撮りが始まると同時に四条さんが《入った》のがわかりました…」

先ほどの優しい面影は消え、女吸血鬼が鬼気迫る表情で千早を見下ろしている。
感情が一切感じられない冷酷な視線で見つめられた瞬間、体の力が萎えてしまって…

「その、恥かしいのですが……少しお漏らし……してしまったみたいで」

下着がじんわり濡れていくのが分かったけれど、お芝居は続けないといけない。
その思いだけで何とか我慢したらしい。

それで俺にも合点がいった。
あの時千早が見せた、劇的な表情の変化の理由はそういうことだったのだ。
それにしてもお漏らしって……怖くてちびったのならそれは
貴音の演技力が凄かったってことで、別に変態の理由にはならない。
そもそもアレは俺の好きな言葉責めであってだ。
顔を赤らめ、もじもじと指をいじりながら言葉を捜す千早を俺は見守っている。

圧倒的な恐怖。死に直面した絶望感で萎えていく体と心。
千早は気づいていないようだが、貴音が吸血鬼という役に《入った》のと同様
彼女も生贄役として見事に《入った》のも事実。

「でも、そのあと四条さんに抱き寄せられたときには……」

生き血を、命の全てを吸い尽くす、吸血美姫による死の抱擁。
だがそれは温かく柔らかで、限りない心地の良さだったらしい。
貴音が真っ赤な口を開き、尖った牙を閃かせたとき
千早はヴァンパイアのキスが待ち遠しくてたまらなく
貴音の牙が千早の首筋に死の接吻を与えたその瞬間に

「……さっきより、もっと沢山」
そこが千早の羞恥心には限界だった。
太ももをこすり合わせながら、両手で顔を覆った千早の後を俺が引き取った。

「…お漏らしした。下着を濡らしたんだろ、さっきそうなったように」
小さく頷いた千早の肩を抱き寄せて俺はその耳に囁いた。
「大丈夫。千早は変態なんかじゃないから」
「ほ、本当……ですか?」
「ああ。………………多分な」

撮影後、いつもなら挨拶を欠かさない千早が、慌てて自室に走り去った理由。
スタッフ連中は極度の集中が切れたせいだろうと好意的な判断をしてくれたが
今その真相がはっきり分かって、ある意味ほっとしていた。
晩生の千早が、ようやく女の魅力を発揮させる準備を整え始めたのである。
満足すべき絵も撮れたし、それに合わせるように千早の女も目覚めようとしている。
ならば今夜、担当Pとしての親心、男としてのスケベ心、俺個人の悪戯心、
その総力を結集し、千早の女の子レベルを上げてやろうではないか。
ちーちゃんの言う「変態」がどのような定義かは知らないが
本当の変態は、この俺がしっかり教えてやる。


「多分、ですか?」
変態の完全否定で無かったことが千早の表情を曇らせる。

「俺も違っていて欲しいと切に願うよ。千早が変態だと大変困ったことだからな」
「ええっ、私だって困ります。ですからプロデューサー、違うといってください!」
「違うって言ってやりたいけど、根拠が無ければただの気休めにしかならないよ。
俺は千早の話を聞いただけで、直接確認したわけじゃないから」
「……あの、では確認したら違うってわかりますか?」

千早の顔が真剣を通り過ぎて必死なのが気の毒に思えてくる。
晩生で真面目。そんな千早に付け込むのは気が引ける、なんていうのは奇麗事すぎるか。

「ああ。こう見えて経験はつんでいるからな」
「それなら……あの、いまここで確認してもらうというのは……駄目でしょうか」
「駄目じゃないけど……千早だって心の準備がいるだろ?」
「で、出来ます! 大丈夫です。特訓に慣れているのだってご存知のはずです」
「大丈夫かな。特訓より恥かしいと思うけど」
「それは……暗くしてもらったらなんとかなると思います、いえ、なんとかします」
「よし、千早がそこまで決心したのなら、俺も担当プロデューサーの責任をしっかり果たす!」
「は、はい! お願いします、プロデューサー」



ランプの明かりをさらにしぼると、千早の姿はおぼろげな影のようだった。
千早をベッドに座らせるとその前に立つ。

「千早に抵抗が少ないよう、さっきの特訓みたいに芝居の稽古の感じでするよ」
「はい」
「ただ芝居といっても難しく考えることはない」
「考えずに感じる、ですね?」
「そう。それに変に我慢もしなくていいってことを覚えておいてくれ」
「我慢、ですか……。あの、それは一体」
「すぐにわかるよ」
そういって千早の頭を撫でてやりながら、腰をかがめ顔を突きあわせる。

「あと俺は男の吸血鬼だから、貴音や伊織とは違うからそのつもりで」
「あの……違うというのは?」
「それも気にしなくていい。ほら、始めるから目、つぶって」

両頬を挟み、唇を掠めるように軽くキスを与えた。
「んっ!?」
千早は一瞬驚いて目を開いたが、それ以上キスが続かないので何も言わず目を閉じた。

千早は特訓のつもりでも、俺はそうじゃない。吸血鬼なんてただの口実だ。
千早の思惑関係なしに、俺は男として、千早を女として扱うのだから
その始まりはキスでないといけないはずだ。

愛撫を首から始めたのは、先ほどの特訓で千早の弱点だと考えたからである。
それで千早がどれだけ潤ませてくれるのか。
いや、既にそうなっているのも間違いないはずだが。

「んっ、あぁっ……」
最初のキスで、もう千早は声を漏らしてくれた。
「そうそう、その調子。声は我慢しなくていいんだから」
囁きながら、特訓のときよりも濃密な舌の愛撫を加えてやる。
もう立ったままの体勢を捨て、千早の首を捕らえたまま抱え上げた。
大きなダブルベッドの真ん中、千早を押えつけのしかかる。

無意識に閉じようとする両足の間に下半身を割り込ませ押し広げた。
起立したものが千早の体に触れるのは構わなかった。
少女が女になるためには、男を知らなければならないのだし
今夜奪うつもりは無くとも、その存在だけは千早の体に刻んでおきたかった。

尖らせた舌を脈打つ頚動脈にそわせて舐めあげながら、
持ち上げ狙いをつけた股間をそっと千早の秘部の上に重ね合わせる。
今しも開花を待つソコはふっくら柔らかく俺の一物を受け止める。

千早も自分の大切な部分に押し付けられたのが何か悟ったらしい。
男の無作法さに一瞬顔をしかめ、「やぁっ」と抗議の声を上げたが、それだけだった。
ほんの少しソコをこすってやるだけで、刺激の味を占めた千早は抗うのをやめた。

お互いの性器を隔てる何枚かの繊維のせいで、まだ千早の状態はわからないものの
唇と舌で刺激を与えるたびに見せる反応。
少しずつ陶酔に浸りつつある女の表情と、もう我慢することなく発する可愛らしい喘ぎ。
千早が俺に感じている、そう考えるだけで暴発しそうだった。


無言でネグリジェのボタンに手をかける。
二つはずしたところで、瞼を開いた千早が、潤んだ目で俺をじっと見つめる。

「……脱ぐのですか?」
甘えたようなその声に、拒否や嫌悪は見当たらない。

「そうだ」
見つめあいながら、3つめのボタンを開放する。

「全部、脱ぐのですか?」
ただの確認とも思ったが、微かに見えた千早の怯えで理解した。

「今夜は上だけだ」
「……はい」
頷いた千早が、ほっとした顔を見せる。
4つめ、5つめと外し終わり、身頃を開きかけたところで千早は目を閉じる。

ネグリジェの下はシルクのキャミソールただ一枚だけだった。
薄い生地をこんもり押し上げた可愛い頂に二つの膨らみはブラをつけていない証明。
シルク越しに、そっと唇を押し付けてみる。

「んっ、ふぁぁっ、あぁっ……」
「噛むよ?」
膨らみの麓に手を沿えると、そっとなで上げながら頂上へと巡らせていく。

「やぁぁ、ダメ……」
俺の両腕を掴んだ千早の手に力が入る。
「胸を噛まないと、千早を吸血鬼にできない。いいだろ?」
「んんっ……だってぇ…ダメだから。へ、へんになるから」
「大丈夫だって。変になるんじゃなくて、気持ちよくなるんだから」
いいながら胸を撫でる動きは少しずつ強めていく。
決して大きくはないが、柔らかさと弾力のバランスが極上な乳房。
片側だけ陥没気味の乳首も、今ではすっかりその控えめな姿を表している。

「千早、噛まないと変態になるけど、それでもいいの?」
「やぁっ、ダメ! 変態はいや……」
「じゃ、いいよね?」
小さく頷く千早。

細い肩紐を交互に下ろし、薄くしなやかなキャミソールをずり下ろすと
乏しいランプの明かりのもと、千早の乳房が目の前にあらわになる。
あばらの上から始まる曲線が、ほぼ真円に近い輪郭を形作る。
見ただけで弾力を感じる膨らみは、仰向けなのに全く形を崩すことがない。
いまは薄いとしかわからない色素の具合も、清純な千早にふさわしい色合いなのだろう。

渇望すらしていた千早の女の部分。
それを目の前にしていながら、整った造形美に圧倒されていた俺は
微かに震える乳首を見つめて動けなくなっていた。
その気配に気づいた千早は再び目を開ける。

「……噛まないのですか?」
「…………」
「ふふっ。いいですよ噛んでも。でも痛くないようしてください」
「わかった」
「いっぱい吸ってください」

それからはもう夢中だった。
丁寧なのは最初、乳首に唇を重ねたときだけだった。
千早の切なくも可愛らしい喘ぎのせいである。
最初慎ましかったそれは、胸を委ねた瞬間から悩ましさを表しはじめ
俺の理性をいとも簡単に吹き飛したのが理由である。

唇で包み、歯茎ではさみ、舌を絡め、吸い、舐め、歯を当てた。
偽造の牙で乳房にいくつも跡をつけ、乳首を甘噛みした。
時間の感覚なぞとっくに失っていて、どれだけ長い愛撫だったかわからないが
その果て、千早は一際高い悲鳴をあげたあと、ぐったりとベッドに身を沈めた。

俺は千早の脇に体を移すと、今は固く目を閉じ余韻にひたる千早の頭をそっと撫でる。

最後の目的がまだ残っている。

「いいね、千早」
それは質問ではなく、ただの確認だった。
もう片方の手を胸においてから、ゆっくり下にすべらしていく。
くっきり浮き上がる肋骨の感触、そのすぐ下は、
引き締まった腹筋があるはずだが、力が抜けている今、女の子らしい柔らかな感触だけだ。
肌理の細かい千早の肌。ヘソを軽くくすぐりながら、いよいよ目的地が目の前になる。

白のショーツ。シンプルで飾り気のないその中に指先をもぐらせる。
まばらな陰毛を超える前、指先は既に熱気を感じている。
千早が微かに身をよじらせたその隙に、俺は一気に指先を進めた。



「プロデューサーに一言いっておきます」
「んっ……なんだろう?」
「特訓ありがとうございました。おかげで明日の撮影に自信がもてました」
「そ、それは良かった」
「あの、あくまであれは特訓であって、その、え、エッチなことでは……ありませんので」
「…………」
「勘違いはしないでください。人が聞いたら変に思いますから」
誰に何を言うつもりだよ、ちーちゃん。

「それと、私が変態ではないとはっきりしましたので、そのこともいっておきます」
「わ、わかったよ千早。それはいいから早く寝なさい」
「あの……プロデューサーので構いませんので」
「俺のって何だよ。それにその手は」
「ですから……プロデューサーの……一枚貸してください、パ、パンツ……」


几帳面な千早らしく、着替えは予備まで持ってきていたらしいが
貴音と俺のせいでパンツを全部汚してしまい、もう履き替える分がなくなったらしい。
たまたま買い換えて持ってきていたた新品のトランクスがあったからいいようなものの
ノーパンで過ごすより男物パンツの要求を選択するなんて
ちーちゃん、そこは変態ではないのか?




翌日の撮影では、スタッフ、キャスト一同が驚く会心の演技で一発OKを取った千早。
相手役の伊織も、本気モードで責める千早に押されて、撮影がおわったあとはヘロヘロに
なってしまい、プロデューサーに抱っこされて控え室に戻る始末であった。

そんな伊織を見送っていると、いつの間にかそばにいた千早が悪戯っぽく笑いながら囁く。
「ふふっ。水瀬さんも……お漏らししてしまったようですね」
「おいおい……なんてことを」
「冗談ですよ、プロデューサー。それより私たちも控え室に戻りませんか?」
「ひょっとして……欲しくなったとか?」
「あら。私が何を欲しくなったのでしょうか。ふふふふ、わかりません」
「やれやれ。千早もついに目覚めてしまったか」
「まあ、人聞きの悪い。誰のご指導のおかげなんでしょう」
「さあな。どっかの変態さんじゃないか」
「それは困りました。そんな人は私が噛み付いてお仕置きしてあげなきゃ……」



おしまい



おまけ。

●その頃貴音はみたいな話(未使用設定かも)

千早と貴音が絡むシーンの撮影時、男性スタッフ全員を前屈みにした件。
この時点で貴音さんにサキュバス(ORドラキュラ属性)があって、プロデューサーのみが
その真相と能力を知っているという設定。

ロケ現場の洋館、貴音の居室。
プロデューサーと二人、その日撮影したシーンを確認している。
貴音の牙が千早の首筋を穿つあたり、小さな画面でもはっきりわかる千早の陶酔した表情。
「なあ、貴音さん。まさか千早ちゃんから吸ってないよね?」
「ふふふ、気になりますか、あなた様は」
「そりゃなるさ。まじめな千早ちゃんがこんな顔しちゃってるんだぜ」
「おなごとはそういう生き物。あなた様のいいよう、千早に失礼ですよ」
「そ、そうなの?」
「ご心配にはおよびません。吸ってはおりませぬゆえ……ですが」
「ですが?」
「注ぎはしました。ほんの少々、ふふ」
「やっぱり……そうだと思ったんだよ、でないとこんな顔、いてッ」
貴音の手が男の太ももをぎゅっと抓り上げている。
「あなた様。そのような邪な性根で千早を見るのは許しません」
「み、みてないみてない」
「素直で温かいのが千早本来の心。頑なに見えるのはあの子のせいではありません。
私が注いだのは、それを解きほぐす手伝いをとおもったからです」
「わ、わかったからつねらないで。いたいいたい」
「許しませぬ。あなた様の邪念、わたくしが吸い取って差し上げます」

この二人はエネルギーを分かち合うことで、本来は相容れない人とサキュバスの垣根を
超えて固く結びついているという不思議設定。
どうやって分かち合っているかはまた別のSSで明らかになることでしょう。


「吸う」と「注ぐ」こと。
人から血とか精気を吸い取る力を持っている貴音。普段はPに供給してもらうことで
人として生きていくエネルギーを得ている。(血、精、あるいは生命エネルギー的な何か)
性別に限定がなく女同士でも可能。このテキストで「注ぐ」といっているのはエネルギーを
「吸う」ことができるように、「注ぐ」こともでき、弱った人間に力を与えるとかの場合に使う。
貴音はこのシーンの撮影時、千早の自分に対する苦手意識の原因がその深層心理にあることを
察知、それを「注ぐ」ことで打破して千早の心にあるしこりを解消してあげた、と。
しこりが解けたことで千早が本来持っていいたいろんな魅力(もちろん性的なのも含め)
が一気に表出、たまたまこのシーン撮影時にエロ可愛く見えたのはこれが理由。
貴音Pは、このシーンの撮影時、生真面目な千早があまりにもエロい表情を見せたから
貴音が吸って魅了してしまったことが原因だと勘違いした。(他のSSを含め吸われると
魅了されてしまうというのはデフォルトのようです)

ものっそいわざとらしい後付ですが、こうしておけば今度サキュバス貴音を書くときに
展開しやすいかもしれないし、厄介な縛りになるかもしれないし……
そんときはそんときですよw



● そのあと伊織は……千早と絡むシーンが終わったあと。

本当にとんでもないわよ……
千早との撮影が終わってすぐ、伊織は自室に引っ込んだ。いや、引っ込まざるを得なかった。
ベッドに潜り込んでもまだ動悸が収まらないし、千早に“噛まれた”首筋だって疼きっぱなしだ。
昨日の撮影では、なんの捻りもなく噛み付くだけだった千早が。
思い出しただけで、また鼓動が早まってしまう。
千早の手が私をぎゅっと抱き寄せ、耳元で囁かれる。
伊織、かわいいわね。食べちゃいたいくらい。
それから首筋に迫ってきた千早の唇は、まさに吸血鬼の接吻だった。
カメラの死角になることをいいことに、合わせた唇の中、舌で散々舐められて。
少しだけど感じてしまったじゃない。

一体どんな稽古したらあんな真似ができるようになるっていうのよ。
考えた末、伊織はベッドから起き上がった。
各部屋にセキュリティ目的で配置されているカメラ。迷ったのは本の一瞬だけ。
こ、これは覗くのではないの。千早の特訓を知るためだけよ。
そんな言い訳をつぶやきながら、自室の端末からセキュリティシステムにアクセスする。
千早の部屋を選択し、時間帯を遡っていく。
部屋が暗く、人物がかろうじて判別できる程度に鮮明な白黒の映像。
ベッドで俯いた千早に、ドアからはいってきた男が声をかけている。

夢中になった伊織は、プロデューサーが部屋に来たのも気付かないまま
画面の中で“犯されている”千早の痴態を見つめながら、自らの指をそこに潜ませていた。
先ほどの撮影で受けた千早のキス。その感触を思い出しながらゆるやかに指を動かし。

「いーおーりっ。一人で何楽しいことしちゃってるんだ?」

しどろもどろになりながら、なんとか誤魔化そうとする伊織を、
全てお見通しの伊織Pはねちねちと言葉で追い詰めていく。
やがて白旗をあげた伊織の口から、おねだりのことばを言わせるまでは。



●特訓シーンの没原稿。(千早が役どおり、伊織役のPを噛む練習)

「ふふっ……好き」
呟いた千早は、そのまま顔を俺の首筋に埋め、さっき俺がしたのと同じように。
唇と舌が俺の頚動脈のあたりを直撃していた。
「こら、そんな強く吸うと跡がつく。やめぇ、あっ……」
弱点を攻められ力が入らない上、千早は手足で俺にしがみついているから、簡単に剥がせない。
その間にも千早の唇と舌が、俺を真似た動きでごにょごにょと首筋を這い回るのが気持ちいい。
ちがう、くすぐったいから止めて欲しい。
しかし密着のせいで千早の体臭も柔らかい体も少し熱い体温も。
全てを受け止め必然的な反応が始まってしまう。

「プロデューサー、暴れないでおとなしくしなさい。今から血を吸ってあげますから」
「いやいやまて千早。もう分かった。カット! カットだ!」
「ふふっ、まだ駄目ですよ?」
あ、いて。噛みやがった。くっ……今度は反対側……やめ。こら本気で怒るぞ。

吸血鬼になった千早をPが練習させるシーン。
かなり初期に書いていて、完成原稿とは話の展開が違っていたので没になった。
それにしてもこの千早さん、ノリノリである……
続きはないし、どうするつもりだったかも忘れたけど
多分調子にのってPを責める千早さんに、業を煮やしたというか欲望を我慢しきれなく
なったPが反撃して、吸血鬼っぽく吸うふりをしながら千早を脱がしていき、胸を責め
おへそを吸い、最後は全部ぬがせちゃって、すでにびしょびしょの愛液もじゅるるんって
啜ってはぁぁぁぁん!ってヘブン状態になる展開だったかもしれない。

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