ブログ「日々是千早」もよろしくね!

[SSメモ] 101 2013/01/21

貴音誕生日SSとして1/21〜4回にわたりブログで連載したテキストを
一部加筆訂正を加えたのがこの書庫バージョン。(話の大筋は変わらない)

※この転載時点ではまだ本スレへは未発表。

  • 以下本編-



「あなた様、不束者ですがよろしくお願いいたします」

深々と頭を下げた彼女の胸元から、こぼれんばかりの乳房が覗きみえる。

「あっ、うん、ここ、こちらこそよろしく」

さっきから圧倒されっぱなしの僕はそれだけ言うのがやっとだった。
ついにここまで来たということより、何故こうなったのかという疑問は
顔を上げた貴音を見ればどうでもよくなった。
薄っすらと頬を染め、伏せた顔から上目遣いで見る彼女と今から……
そう考えると一気に血流が下半身に流れ始めた。



スタジオミュージシャンだった僕が音楽プロデューサーに転身した理由は
ある女性に一目惚れしたことがそもそもの発端である。
初対面で目が逢った、その瞬間に彼女こそが一生の伴侶となる人だと感じ
気がついたら彼女の所属する芸能事務所に音楽プロデューサーとして
転職していたというわけである。
彼女の名前は四条貴音、僕が担当する人気アイドルである。

ただ理想と現実のギャップは厳しいもので、パートナーとして一緒に過ごした時間は
相当積み重ねたつもりだけど、親密になるどころか、未だ素性すらよく分っていない。
信頼関係は仕事限定で彼女のプライベートに触れられるほどのものではない。
転職したことに後悔はないけど、こうも先行きが見通せない毎日が続くとさすがに
不安な気持ちが芽生えてくるのもしょうがないことだろうか。



彼女が話を切り出したのは、局の喫茶室で時間を潰していた時のことだった。
大盛りパフェを夢中で食べ尽くした後、彼女はふと顔を上げて僕を見た。

「少しお伺いしたいことがあるのですが……立ち入った質問でも構いませんか?」
「何だろう? 僕に答えられることならいいけど」
「プロデューサーは以前“すたじおみゅーじしゃん”をされていたとお聞きしました」
「そうだけど……それが?」
「腕前の方も中々確かなものであったとのこと」
「そんなことはないよ。僕なんて平凡もいいとこさ」
「ご謙遜を申しますこと。音楽に関する素養は確かなものだと私にも分っておりますのに。
ただ同じ音楽に携わる仕事とはいえ、みゅーじしゃんとアイドルのプロデューサーとでは
大きく違うものではありませんか?」
「そ、そうかな?」

表現は婉曲でも、確かにそれは僕がプロデュース業に転向した理由を問う質問だった。
彼女は口を閉ざしたまま、答えに窮した僕をじっと見つめている。
そのとき携帯が鳴り、収録開始の連絡を受けた僕は彼女を促すと席を立った。
収録を見守りながら、僕はずっとさっきのことを考えていた。
彼女が突然あんな質問をしてきた理由、そしてそれにどう答えるべきかを。
まさか「一目惚れをしました」などと答えるわけにもいかないし、かといって嘘や方便で
誤魔化そうにも、聡い彼女にはすぐばれそうな気がして憚られる。
散々考えても答がでないまま、僕が選んだ答えは……

「答えが『秘密』とは。これは一本取られました」
帰りの車中、僕の言葉に彼女はくすりと笑ってそう答えた。
彼女の真似なんて芸が無いけどそれしか方法が無かったから仕方ない。

「では私の『秘密』と交換に教えてもらうというのは如何でしょう」
「そうだな、じゃあ四条さんの素性を教えてもらおうかな」
「それは“とっぷしーくれっと”です」
「そういうと思ったよ。誰も素性を知らない謎のアイドルだもんな…」
「いいえ、全てを知る方は一人だけ……」
「そんな人がいるのか?」
「ええ、私の伴侶となるおには私の全てを……」
「伴侶って……まさか許婚がいるとかそういう話?」

だが何を聞いても彼女は薄く微笑んだまま口を閉ざしたままだった。



「プロデューサーは何故わたくしを担当に選んだのですか」

レッスンスタジオでの待ち時間、またしても不意をつく質問に
僕は言い繕うこともできず答えに窮している。

「それも“秘密”なのでしょうか?」

彼女の口調に咎めるニュアンスはなく、むしろ楽しげですらあった。

「ならばいっそのこと、私が秘密を明かして見せましょうか?」

彼女は悪戯っぽい微笑を浮かべると更衣室に着替えに去った。


もしかして彼女もここが僕達が初めて出会った場所だと知っているのだろうか?
いや…それはちょっと考えにくい。出会いといっても何か話をしたわけではなく
離れたところからほんの一瞬視線が合った程度の事だ。
だけどレッスンを見守る僕に何度も視線を送ってくる彼女を見ていると
あの時の全身が沸き立つような感情が今でもはっきり思い出される。

彼女は冗談めかしてあんな風にいったけど、聡明な彼女のこと、
僕の考えていることなんて先刻お見通しなのかもしれない。

だとしたら僕の方から潔く打ち明けてしまうというのはどうだろう?
下らない冗談と一笑に付されるかもしれない。
不埒なことと怒りを買うかもしれない。
あるいは社長に訴えられて事務所を追い出されるかもしれない。
だけどどのような結末であれ、僕が夢想するハッピーエンドだけは存在しないことを
この仕事を始めてから身に染みて感じてしまっている。
ここらが潮時、この茶番に幕を引くのは始めた僕の責任だ。
彼女と過ごした時間、その素晴らしい思い出だけでもう充分じゃないか。



事務所に戻ろうと乗り込んだ車の中。
告白の言葉を切り出そうとする僕の唇を四条さんの柔らかな指が塞いだ。

「いささかお腹が空きました。このあとの予定はどのように?」
「今日はこれで終わり……それなら事務所には戻らず晩飯に直行しようか」
「それは有難きこと。では大切なお話その後お聞きするということで」

僕の顔を見ただけで大切な話だと悟った彼女の洞察力も大したものだけど
今は逆にそれが有難かった。
突然の告白で不愉快な思いをさせるのなら、彼女にも心の準備が必要だろうし
食欲を満足させて上げたあとなら、少しは機嫌もよくなるかもしれない。
そう考えた僕は“色気より食い気”などと四条さんには失礼なことを考えながら
この近くにある中華料理店を頭の中で検索しながら駐車場から車を出した。


中華は人数が多い方が色々な料理を楽しめるけど、彼女がいれば二人でも充分だ。
テーブル狭しと並んだ料理の皿を見れば二人分とは思えないくらいだけど。
とにかく頼んだ料理は綺麗に片付き、デザートの杏仁豆腐と胡麻団子もぺろりと
平らげ、ジャスミン茶を頼んだところでようやく彼女は顔をあげた。

「大変美味しゅうございました。ではそろそろ本題の方に?」
「そうだな。美味しい料理の後にこんな話をするのは申し訳ない限りだが……」
「はて…? プロデューサーはなぜそのようなことを」
「何故って、僕の話が四条さんに不愉快な思いをさせるかもしれないし」
「これはまた面妖な……プロデューサーは何のお話をされるおつもりですか」
「何って、前に君から聞かれた質問の答えなんだけど」

一体彼女は何の話と勘違いしているのか訝りながら、僕は例のレッスンスタジオで
出合ったことから話をはじめ、転職の理由と彼女を担当アイドルに選んだ理由を
一通り説明した。といって顛末を事細かに説明したわけじゃない。
簡潔明瞭、そして正直にあのときの思いを一言で伝えただけだった。

「まあ……ひ、一目惚れなどと……そ、そのようなことが」

彼女は何故だか頬を真っ赤に染めると、いつもの落ち着いた素振りはどこへやら
うろたえ狼狽しながら視線をあちこちにさまよわせている。

「いや、その……すまん」
「まさか本当にそのようなことが……し、信じられません」
「四条さん? あの、本当に申し訳ない、だけど僕は」
「今のお言葉、偽りなき真のものと信じてよろしいのですね?」
「……えっ?」
「まさか私とプロデューサー、いえ貴方様が同じ気持ちで通じていたとは」
「あの、四条さん?」
「これほど喜ばしいこともありません、本当にこのようなことが……」

それだけ言うと、彼女はハンカチで目頭を押さえあふれ出る涙を拭いながら
懸命に声を押さえながら泣き続けた。



半時間ばかり泣き続けた後、ようやく彼女は落ち着きを取り戻してくれた。
化粧を直しにいったときに頼んだらしい追加のデザートを平らげながら
四条さんもあのとき僕をみかけて同じような思いを感じたことを話してくれた。
彼女はそれが“一目惚れ”とは分らず、もやもやした心に悩んでいたところに
担当プロデューサーとして僕が現れ、少しづつ自分の気持ちに気付いていったらしい。

色々あったけど取りあえず両思いだったからめでたしめでたし……
と安易に喜んでいいものだろうか?
確かに一目惚れしたと打ち明けたけど、それはあくまで質問の答えであって
恋愛感情を前提とした告白を敢行したわけじゃない。
そもそも恋愛も告白も僕に許されることではないわけで、そこから逆算していれば
もっと言葉を選ぶべきだったと考えるのは後の祭りだ。
聡明で冷静な四条さんをあれほど泣かせることになった僕の言葉。
その責任を取らなければならず、別の形で泣かせるわけにもいかなくなった。
実際今から僕は四条さんにどう接していけばいのだろうか?
泣き止んでからの彼女はニコニコとご機嫌で、それはそれで可愛いのだけど
彼女はあの言葉をどう受け止めてくれたのだろうか?
僕と同じ気持ちということは、彼女も僕に好意的な感情を抱いているはずで
場合によっては恋愛感情の可能性もなきにしもあらずなわけで、だとしたら……

「さて……そろそろ時間もいい頃合いかと」
「えっ? あ、ああ……そう、遅くなる前に帰らないと」
「今宵は貴方様がお送りくださいまし……」

店を出たとところで、彼女は僕の腕にぎゅっとその身を寄せた。
あ、当たってます……四条さん…………



四条貴音を担当してから数ヶ月、何度も家に送ると申し出てはかわされてきた。
それがその夜、初めて受け入れられた、というか彼女から送ってくれと頼まれた。

その彼女の道案内で辿りついた深夜の高級住宅街。
重厚な門扉が音も無く開き、そのまま敷地の中に車を乗り入れると
そこはまるで別世界、というより別次元の空間が広がっていた。

「お渡ししたいものがあります。準備の間、暫しお待ちいただきます」

彼女はそう言い残すと屋敷の奥に姿を消し、入れ替わりに現れた使用人の
行灯に誘われるまま僕も廊下を辿った奥の小さな部屋に案内された。
板敷きの部屋には作り付けの棚があるだけで、柳行李の中には浴衣が一着。
妙だと思って扉と反対側の板戸を空けるとやはりそこは風呂場だった。

「これは……一風呂浴びろってこと?」

使用人に尋ねようとしたけど彼女はいつの間にか姿を消していた。
こういうもてなしなんだろう、そう覚悟を決めた僕が檜造りの風呂を堪能して
脱衣場に戻ってくると僕のスーツが消えており、仕方なく用意された浴衣に
着替えたところでさっきの使用人が現れた。

相変わらず無言のまま足音をたてずに歩く彼女に案内されたのは
畳敷きの広い和室で、部屋の隅にある行灯に明りが灯されると
部屋の奥にあるものがその白い姿を浮かび上がらせた。

ふ、布団……!? まさか今夜泊まっていけってことなのか?
慌てて使用人を呼び止めようとしたときにはもうその姿は消えており
代わりにひたひたと小さな足音が部屋に近づいてきた。

襖を開いて部屋に入ってきたのはやはり貴音だった。
彼女も奥で着替えてきたのか真っ白な浴衣のような着物をつけている。

「あの、四条さん、これは一体……」
「お寛ぎいただけたご様子、安心しました」
「なんかお風呂まで入らせてもらって……じゃなくて!」
「はて、なにか行き届かぬことでもございましたか?」
「そうじゃないって。ここには送ってきただけで、四条さんが渡すものがあるから
待ってただけなんだ。それが何でお泊りみたいになっているんだ?」
「ですからお渡ししたいものがある、そう申しましたとおりです」
見たところ彼女は白い着物一枚着たきりで何か持っている様子はない。

「さ、どうか褥のほうにお座りくださいな」
「し…褥って、ちょっと四条さん、あの……これって冗談だよね?」
「この期に及んでどうして戯れ言などを申しましょうか」
「それより、あの…いきなりお泊まりとかあれだし今日のところはこの辺で、ね?」
「まあ、貴方様はどうしてそのようないけずなことを申されるのです」
「ほら、こういうのって人が聞いたら誤解されそうだし」
「ふふふふっ……この屋敷の中でそのような心配はご無用です」
「わ、分った。渡したいものってのを受け取るから四条さんは自分の部屋で寝ようよ」
「それはなりません……渡したいものというのは、この私のことでございますゆえ……」

そういうと四条さんはすっと姿勢を正した。
彼女もお風呂に入ってきたらしく、微かな石鹸の香りと
どこか艶かしいお香らし香りが身じろぎのたびに立ちこめて
僕の鼻をくすぐっていく……


「あの、四条さん……?」
「私の事はどうか貴音とお呼びくださいませ」
「じゃあ…た、貴音。渡したいもののことなんだけど」
「はい。覚悟は出来ておりますゆえどうかご存分に」

どこまでも真剣な彼女の瞳を見て、僕はそれ以上の抵抗を諦めた。
これ以上言葉を重ねても、既に覚悟を決めた彼女に失礼だと思ったからだ。
今日の告白がなぜこういう展開になるのか理解はできないけど
ただ彼女の気持ちにだけはしっかり応えてあげたかった。

「貴音……正直言って僕なんかで、その……いいんだろうか」

「私のほうこそ……不束者ですがよろしくお願いいたします」

深々と頭を下げた彼女の胸元から、こぼれんばかりの乳房が覗きみえる。

「あっ、うん、ここ、こちらこそよろしく」

さっきから圧倒されっぱなしの僕はそれだけ言うのがやっとだった。
ついにここまで来れたことより、なぜこうなったのだろうという疑問も
顔を上げた貴音を見ればどうでもよくなった。
薄っすらと頬を染め、伏せた顔から上目遣いで見る彼女と今から……
そう考えると一気に血流が下半身に流れ始めた。



「えっと、あの……じゃあ取りあえずこっちにおいでよ」

実は僕にはこういう経験が無く、正直いって童貞である。
学生時代にキスはしたことがあるがそこから先は未知の世界だ。
ただ経験が無くても男と女がすることは知識として知っているわけで
いきなり布団に押し倒すような無作法な真似はせず、とりあえずキスから
始めるようと、どこかぎこちない彼女の体を抱き寄せた。

嗚呼、女性の体のなんと柔らかく、そして熱いことか。
僕の腕の中には貴音がその体をしんなりと預けてきており
石鹸の香りの向こうから、彼女自身の肌の匂いが押し寄せてくる。

「あの……恥ずかしながら私、このようなことは初めてのことで……」
「実は僕もなんだ……上手くできるか自信はあまりないけど」
「左様でしたか……それならば私に妙案が」
「……ん?」
「どうかこれをご覧ください。四条の家に古くから伝わる物……」

そういって彼女が懐あたりから取り出したのは一本の巻物だった。
その巻物を僕に押し付けるように手渡すと、貴音はさっきより顔を赤く染めて俯いた。

日本史の教科書に出てくるような、随分と年季の入った様子である。
紐で閉じられた巻物には題名らしき字が書かれており、掠れた達筆の文字を
行灯に照らして読み取れるところを拾い出してみれば

「月 要、枕ノ草子」というようにも読める。

枕草子……って、あの紫式部さんが書いたあれなのか?
それと月の要という最初の文字は何か意味があるものなのか?
首を捻りながら紐を外すと、慎重に和紙を畳の上に広げていく。

ああ、草子って……こういうことか。

年月を経ているお蔭か彩色はかなり薄れてしまっているけれど
これが描かれた当時は極彩色の豪華カラー絵巻だったことが偲ばれる。
そして貴音が何故赤らめた顔を背けているかも。

早い話、男女の交わりの様子を描いた絵巻物だからだ。
絵柄も相当古く、あちこちが掠れ薄くなってはいるけれど
男女の体や行為の描写はそれなりにリアルに描かれていて
モザイクやぼかしといった無粋なところは全くない。
そして巻物を開いていけば、行為のプロセスが順番に並んでいるのである。
現代風に言えば“漫画でわかるセックスのすべて”といったところか。

「あの……如何でございましょう」
「うん、これはきっと役に立つと思う」

それは僕の本心でもあった。
解説らしき文字は達筆すぎる字体のせいでほぼ判読できないものの
精緻に描かれた絵を見るだけでナニをどうすべきかは良く分りそうだった。

最初の絵は抱擁している男女の姿であり、次のコマでキスに移行している。
どの年代のものかは分らないが、行為自体は古今東西共通ってわけか。
僕はそれを布団の枕元に広げて置くと、改めて貴音を抱擁しなおした。
そして柔らかな銀髪をそっと指で払い、目の前にある桜色の耳朶に
そっと唇を寄せると囁いた。

「貴音、心配しなくても大丈夫。僕に任せてくれるかい?」
「わたくしの全ては貴方様のもの。どうかこの私をお導きください」
「分った。では……」

絵巻物の手順通り、僕は貴音の頬に手を添えると
慎重に狙いを定めて唇を重ね合わせた。
少し位置がずれたのを微調整してから、力みすぎて唇ががちがちなのに
気付いて力を緩めると、貴音も同じ事を考えていたのか
ふっと力が緩んだ瞬間、重なった唇にとてつもない感触が押し寄せる。

や、柔らかい……などというだけではもったいないこの感触。
ぷるぷると弾力がありながら、とろけるプリンのようにどこまでも柔らかく
そして微かな呼吸の感覚や脈動までもが伝わってくる。
そして唇を濡らす唾液すら蜜のように甘く感じられ、僕は呼吸を忘れたまま
長い時間貴音の唇を貪っていた。

途中、彼女に背中をタップされて事態を悟った僕は唇を開放したのだけど
彼女は呼吸困難になるまで夢中になっていた僕を責める素振りは見せず、
濡れた瞳で次のキスを催促してくれている。

キスだけでこんなに夢中になれるのだとしたら、この先に進めばどんな事態が
待ち受けているのだろうか。
僕は段々逸っていく鼓動を抑えながら、彼女の体を支えて布団に寝かせると
もう一度キスをしながら手を伸ばして巻物を先に進めてみる。

僕の知識が予想した通り。
次なるプロセスは着衣を脱がせていくことであり、
上から順路通り進めばそこにあるのは当然ながら

おっぱい である。

グラビアを出すたび世間を大騒ぎさせる貴音のおっぱい。
そう、担当の僕ですらはっきり知らないカップのサイズは推定F。
それが今目の前に現れようとしている。


震える手で開いた着物からぷるんと現れた乳房を見た瞬間、
そのあまりの美しさに僕は文字通り言葉を失っていた。
行灯の柔らかい光にぼんやりと照らされた柔肌の滑らかな輝き。
ボリュームからは信じられないほど盛り上がった張りの良さ。
その頂に小さく震えているこじんまりとした桜色の乳首。

そんなおっぱいに見蕩れていた僕は、小さな咳払いで我に返った。

穏やかな笑顔を浮かべた貴音がそんな僕を見上げている。
グラビア撮影にビキニで臨んだときもこんな表情をしていたっけ。
如月さんや萩原さんのように極端に恥ずかしがるわけでもなく
星井さんのように自らの魅力を挑発的に表現するでもない。
貴音はいつもどおり、あるがままの自然体でいる。


「貴音は落ち着いているな」

照れ隠しに余計な言葉を口にしてしまった僕の手を貴音が掴む。

「いいえ……私も先ほどより胸の高鳴りが止まりません」

彼女はそういうと、僕の手をそっと乳房に添えた。
確かに手のひらには早鐘のような鼓動が伝わっている。
けれどそんなことより初めて触れた乳房の感触に僕は魂を奪われていた。
しっとりとした肌に手のひらが吸い付いたようで、ただそっと置いただけの手を
おっぱいはぷるぷると小さく震えながら、柔らかい弾力で押し返そうとしている。

これはこのままおっぱいを揉んでもいいのだろうか?

視線を例の絵巻物に移すと、絵の中でも同じようなことになっている。
注釈らしき文言は達筆すぎて読み取れず、わずかに一文字だけ読み取れた漢字を
無意識に音読していた。

「柔……らかい?」
「柔らかに、でございます……このように」

貴音はそう囁くと、僕の手に自分の手を重ねてその動きをしてみせてくれた。

「壊れ物を扱うよう……んふっ、あぁ……そ、そうです、貴方様」

彼女に教えられたとおり、手のひらで包んだおっぱいを柔らかく揉み続けていると
加減によって貴音の体が小さく跳ね、吐息と喘ぎで応えてくれるのが分ってきた。
コツらしきものを掴み、リズミカルにおっぱいを揉んでいると
貴音の反応も段々と大胆になってくるようにも見えた。

「あっ、ふぁぁ、こ、こんなにも……心地のよきものとは」
「貴音も気持ちいいんだ」
「まるで…夢心地のようです、愛しき貴方様の手に包まれて」

どうやら乳首のあたりが特に感じるポイントらしい。
最初に見たときには小粒だった乳首が今は膨らんで大きくなっている。
成程……では次にすべきことは。

僕は絵巻物に従って、赤く色づいた貴音の乳首を口に含んだ。
途端、貴音はひときわ高い鳴き声をあげて大きく背中をのけぞらせた。
どこか懐かしい感触に僕は夢中で乳首を吸い、舌先で転がしてもみる。

どれほどそうやっておっぱいを味わっていただろうか。
それまでびくびくと体を震わせていた貴音がくったりと力を抜いたのを気に
ふと口を外してみると、貴音の美乳は僕のよだれ塗れでてかてか光っている。

「貴音……大丈夫?」
「は、はい……貴方様、このままお続けください」
「わかった」

続き、ということは……
僕は思わず生唾を飲み込みながら、巻物をスクロールさせた。
絵の中の女性は腰帯が解かれ、露になった足を男に大きく割り広げられ
その顔が……あそこの部分に埋められている。

こ、これってあれだ、ク、クンニリングスってやつだよな。
上級者向けのテクニックと思っていたけど初体験でやるものなのか…
するべきことは絵で大体は分っても、細かい部分、たとえばキスのように
口をつければいいのか、もっと色々な作業が必要なのかまでは分らない。
解説文にはさっきのように手がかりになる文字も見当たらない。

「まずは帯を……」
「そ、そうだよな」

震える手のせいで少々手間取りはしたけれど、なんとか帯を解き終え
着物を完全に開ききると、やはりというか……その部分を覆い隠す春毛は
彼女の頭髪と同じような銀色だった。
絵のとおりに足を開かせようと、太ももに添えた僕の手を貴音が握った。

「貴方様……少しばかりお願いしたいことが……」
「ん?」
「いささか申し上げにくいことなのですが、どうか」

何か僕のしたことに問題でもあったか?
それとも……これ以上進むのに抵抗を感じて中止したいとか?

「決して……私をはしたなき女だと思わないでいただきたいのです」
「はしたないって……そんな事全然思わないよ」
「ですが……わたくし、こ、このようなことに」

貴音は泣き出しそうなほど困惑した顔で僕の目を見つめながら
握り締めた手をゆっくりと……下のほうに導いていった。
さっき見た銀色の陰毛も頭髪と同じように柔らかい感触なんだと思うまもなく
僕の指先は熱く湿った柔らかいなにかに包まれていた。

女性が濡れるという現象のことは知っている。
だけど貴音のアソコは、その熱さも粘度も予想を遥かに超えたもので
ただ触れているだけなのに神経が焼ききれそうな刺激を感じている。

「貴方様と口付けをしたときから止まらず……このような有様で」
「そんなことはないよ、貴音」
「で、ですが……」
「愛しい貴音がこんな風に感じてくれて僕は嬉しい」
「な、なんとそのような……貴方様、わたくしは……」
「ほら、おしゃべりよりもっと僕のことを感じてくれないか」

絵巻物に無いプロセスだったが、この手指をどうすればいいかは自然と分った。
ここはおっぱいよりも大切で大事な場所だから、さっきより繊細に、慎重に。
僕は指をそっと滑らしながら貴音自身の愛らしい花びらの形をなぞっていく。
最初はつぼみのようだった柔らかい肉の膨らみは、僕の手のなかで
本当の花のように花弁を開いていよいよその内部を明らかにしようとしている。

やがて指の探索に区切りをつけると、体を起して貴音の足元に膝をつき
僅かに開いた太ももの間に手を差し入れた。
さきほど絵巻物で確かめておいたクンニリングスのためだ。
文言の解読は諦めたが、今しがた行った指による愛撫のお蔭で
すべきことは大体分ったつもりだった。

行灯が枕元にあるため若干影にならないでもなかったが
それでも初めてみたそこは美しいの一言だった。
クォーターの血筋ゆえか、ピンクがかった白い肌はそこに近づくほど赤みを増し
花の根元から花芯に向け薄紅色のグラデーションが彩りを添えており
ほぼ完全に開ききったと思しき中心は行為のせいで血色を増しているのか
鮮やかな紅色に染まっている。
そして花全体が透明の液体に浸されテラテラとぬめるように光っていて
僅かに口を明けた膣口らしき部分からさらに粘度を増した液体が溢れている。

僕はそれを確かめると、顔を寄せてキスするように唇を押し当てた。
初めて経験する匂いと味、そして感触は形容しがたいものがあったけど
僕の本能はそれで充分らしく、後は頭で考えなくても体が勝手に動いた。
僕は唇をそこに重ねたまま、そっと舌を伸ばし貴音の花弁をなぞっていく。

さらに大きく切実な喘ぎ声が部屋に響くが構わず僕は舌の探索を続ける。
花びらを丹念に舌でなぞりながら、その形を、味をしっかり覚えるように。
悪戯交じりに舌先をそっと膣口に入れてみたときには、貴音は僕の頭を
両の手でしっかり握りながら、悲鳴のような声で応えてくれる
そして最後の最後までとっておいたその場所。
名前と生物学的構造しか知識の無い僕だけど、それだけで充分だった。
見当をつけた場所にはそれらしき小さな突起があり、尖らせた舌先でそっと
突いたときの反応でそこが正解だとわかった。


これだけすればもう準備は十分だろう。
あと僕が、いや僕と貴音が成すべき事は一つだけ。
いよいよこの瞬間がやってきたと思うと、少しは落ち着いていたはずの僕も
頭に血が上り、それ以上に下半身にも血が集まっている。
絵巻物方もクライマックスにさしかかり、いよいよ男が女を組み敷いて
突入の構えを見せている。

初めての男に”目的地”が分らないという失敗がありがちらしいが
先ほどまでの手と口による愛撫でそれがどこかははっきり分っていた。
あと気をつけるべきことは一つ、初めての女性は“痛い”っということだ。
処女膜を切り裂くわけだから、血も出るだろうし痛みは相当なものだろう。

「貴音、そろそろ……」
「はい、貴方様……」
「あの、もし痛かったら我慢とか無理とかしないでくれよ」
「ふふふっ……ありがたきお言葉です」
「そうそう、深呼吸して力を抜いてたほうがいいと思う」
「それは存知あげ……いえ、な、なんでもありません」

僕は開いた足の間に膝をつくと、先端の感触で入り口を確かめながら
ここぞという場所にきたとき、ぐいっと腰を押し付けて挿入に……


つるん……。

あれ?


ふむふむ、確かにこれだけヌルヌルに濡れているわけだから
侵入角度がずれていると滑ってうまく入らないのだろう。
初めての僕に一発成功など無理、こういうのはリトライあるのみと
何度も狙いを定めて入れようとするけど、先端が入ったと思って
力を入れて押し込もうとするとやはり滑って外れてしまうのである。

手を添えてみても同じだった。
入口まで誘導できても、突入段階では邪魔になる手を離さざるを得ず、
そうなればあとは同じ顛末だった。

「済まん貴音……なんか上手くいかない」
「……あの、あれをご覧いただければ」

巻物まらさっきから何度も確かめてみてるよ。
絵と同じ体勢でやってるし、解説文に何か秘訣が書いているとしても
残念ながら一文字も読めないわけで……

「あの後に続きがあります。そこにはこう……入れ難き折は腰に枕などあてるべしと」

腰に枕? 
言われたとおり巻物を進めると、結合シーンの先の方に続きがあり、
絵の感じから見るに、どうやらFAQらしき説明のようにも思えた。
理屈はわからないけど書いているのであれば試してみる他はない。
貴音が頭を乗せていた枕を受け取ると、それを腰の下に差し込んだ。
間が空いたせいで力を失いかけてた僕のナニを再び貴音の濡れた秘部に押し当てると
それだけであっという間に力を取り戻した。

ゆっくり当てると、さっきと同じで先端は素直に入り口をくぐったようだった。
問題はここからだけど、今度は腰に力をこめると僕自身に圧力がかかるのが分り
想像よりもきつく感じる締め付けをおしのけるよう奥へと進んでいく。
どうやら今回は外れず、うまく挿入ができているらしい。

「貴音、大丈夫? 痛くない?」
「ええ、そのまま……続けてください、んくっ……」

平気を装うつもりだとしても、苦痛の表情だけは誤魔化せない。
少々心が痛んだけど、最初の痛みだけはしょうがないのなら、せめて苦痛を短時間で
終わらせたほうがいいのだろう、そんな風に考えた僕は無意識にずりあがって逃げよう
とする貴音の肩をしっかり押さえ一気に押し込んだ。



思い切って一気に根元まで挿入し切った時が貴音の苦悶もピークのようだったが
動きを止めて彼女を抱きしめ、ひたすら撫でて過ごしているうちに
苦痛もましになったのか、彼女はそっと瞼を開いて僕を見た。

「貴方様……?」
「ああ、うまくいったらしい。まだ痛そうだし、そろそろ……」

そういって抜きかけた僕の体を彼女は抱きとめる。

「もう少し……このまま貴方様を感じていたいのです」
「そうか。それなら僕もこうして貴音を感じていよう」
「一つになることがこれほど素晴らしきこととは思いませんでした」
「それも同感、だな。だけど貴音、本当にこれで良かったのか?」

「今までのわたくしは……一人でひっそり佇む儚い月でした。
けれど貴方様という太陽に照らされ、夜空に輝くことができました。
どうかこれからも、私をお導きください、あなた様……」


それから少しづつ動かしてみて貴音が痛がらなくなったので
つい本能のまま腰を動かしているうちあっという間にその瞬間が来てしまい
そういえば避妊のことを全然考えていなかったと慌てて抜こうとした瞬間、
再び貴音が僕の体をしっかり抱きとめて……

僕はそのまま貴音の中で果てていた。




貴音はその後も順調にアイドル活動を続け、あの夜から一年を経たころ
トップアイドルの証明たるAランクに到達した。
そして二十歳の誕生日を過ぎるとアイドル引退を表明した。


嫁入り道具の中にただ一つ、古びてはいるけど頑丈な柳行李が紛れており
その中にはかつて見覚えのある巻物と同じようなものが何本も収めてあった。

「貴方様……それはわたくしの“とっぷしーくれっと”でしたのに……」
「ひょっとして、ここにあるのは全部あの手の絵巻物なのか?」
「さて、それは如何でしょう……ふふっ、ふふふふっ」
「なあ、それより一つ教えて欲しいことがあるんだけど」
「草子のこと、ですか」
「あの夜見た巻物…確か月、要、枕ノ草子みたいな題名があったけど
あれは一体どういう意味なんだい?」
「月、要ではございません……あれは腰枕ノ草子と私が名付けたものにて……」


貴音が幼少の頃、蔵の奥で発見した絵巻物。
その意味は理解できなくても、カラフルな絵巻物は子供心に楽しいもので
眺めるだけでも楽しくて、暇さえあれば蔵を漁って読み耽っていたらしい。

それはともかく。

行李の中には軽く十本以上の巻物が収められていた。
腰枕の続編か姉妹作か、それとも……?

それには一体どんな内容が描かれているのだろうか?




おしまい。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

管理人/副管理人のみ編集できます