ブログ「日々是千早」もよろしくね!

[SSメモ] 22 2010/11
妊婦千早さんの第一子懐妊エピソード。
結婚時期や年齢は明示してないけど高校卒業後に歌手として再デビュー。
そして正式にPと交際開始し、二十歳前後で結婚。その少しあとくらいの話。

  • 以下本編-

ベッドには入ったけど、まだ全然眠れそうにない。
ライブのあとはいつもそうだけど、今夜はステージでの興奮だけではない。
差し入れに来てくれたあずさが連れてきた、小さい赤ちゃん。
抱っこさせてもらったときの感触や匂いが、まだはっきり記憶に残っている。
恐る恐る抱っこした赤ちゃんがじっと私をみつめ、それからふにゃっと笑ってくれて
それが嬉しくて、とても幸せな気持ちになれて。
私も赤ちゃんが欲しい……。
唐突に心に浮かんだその気持ちを、とっさに打ち消そうとして気付いた。
否定する必要なんてないってことに。
私だってお母さんになれるのだって。

寝返りを打つフリをして彼の寝顔を窺っていると、彼がパチリと目を開けた。
「まだ眠くないんだろ?」
うなずく私の肩を抱き寄せ、彼が耳元で囁く。
「眠くなるおまじない、してあげようか?」
私を恥かしがり屋だってからかうけれど、あなただって同じじゃないですか。
だって……いつも、その、する時はそんな風に間接的に言うじゃないですか。
はっきりと<セックスしよう>なんて、言わないじゃないですか。
それは、わたしだって……恥かしいからいえないけれど。
でもこの事だけは、ちゃんと私から言わなければ。だから今、先に伝えてしまおう。

「あの、あなた……私、赤ちゃんが欲しくなりました」

きっと吃驚するだろうと思っていたのに。
あなたは表情ひとつ変えずに、私の事をぎゅっと抱き締めてくれて。
「千早、本気? 思い付きとかドッキリとかじゃなくて?」
「はい。本気です」
「嬉しいな、千早。じゃ、今から早速」
「はい。……って、え? あの、あの……今から」
「うん。俺と千早の子供。今夜作ろう」
「ふぇぇ、あ、えと……こ、今夜…ふぇ、ふぇぇぇぇぇん」
「え、あ、あれ?……なあ、何でここで泣いちゃうのかな。ほら、こっち向いて」
「だって……反対されたらどうしようとか、あなたが子供欲しくないかもって思うと……」
「馬鹿、そんな訳あるか。 ……な、初めてのときのこと覚えてるだろ?
 あれ、あの時は出来てもいいって思ったからなんだぞ。無責任だけど本気だったぞ?」
「……ほんとに?」
「ああ。だから、千早が欲しいのなら、つくろう」
「……は、はひぃ」
「ま、なんだ。とりあえず涙拭いて、鼻水もきれいきれいしようね、ちーちゃん」


ツアーを終えて数日間のオフ。その間だけ私は専業主婦になる。
もっとも寝坊して、お弁当を持たせる事ができなかった落ちこぼれ主婦だけど…………
夫は私のプロデュース以外に新人アイドル育成業務も抱えていて、同時に休める時が案外少ない。
仕方がないとは分かっているけど、夫を送り出した後、つい溜息が出てしまう。
昨夜は久しぶりだったし、できれば朝もベッドの中で甘えていたかったのだけれど。
慌てて家を出る夫を見送りながら、そんなわがままは慎むべきだと思った。
あと、目覚まし時計はもう一つ、強力なのが必要だと。
そうやって切り替えた気持ちを、溜まった家事に向ける。なんせ私は主婦なのだから。

今日の必須課題。お洗濯、お布団干し、部屋の掃除と片付け、それと夕食にご馳走をつくる。
でもその前にシャワーを浴びなきゃ。髪はクシャクシャ、頭もまだ半分眠っているみたいだし。
ベッドに入ったのは11時前だったのに、眠ったのは1時過ぎ。流石に疲れ果てて、
シャワーを浴びるどころか起き上がる気力もなかった。
脱いだパジャマと下着を洗濯機に放り込み、1回目のお洗濯開始。
そして私の体もシャワーで綺麗にしなければ。

「……って? あっ!!」
不意に流れ出してきたものが、ゆっくり太ももを伝っていく。
全てが私の子宮の中に吸収されるというわけでもないみたいね。
それに……その、さすがに3回分ともなると量だってそれなりに多いだろうし。
彼が残した精液をそっと掬い取る。
この僅かな液体の中に、何千万、あるいは何億という量の精子がいるのだそうだ。
だからこれは、私のもうひとつの夢を叶えるための証拠。
君たちは私の卵子に出会えなかったけど、君たちの同期の一人、そう、たった一人だけが
いま私の体の奥で、私の卵子に出会っているはず?
だから君たちも私の中に。そう、私の一部になるのよ。……んくっ。

……苦いけど、そうせずにいられないのが不思議。
それにしても。
基本、避妊は彼任せで、当然彼は私の仕事を第一に考えるからそれはしっかりしている。
だからこの感触を味わうのも随分久しぶりで、この前がいつだったかなんてもう思い出せない。
初めてのときは、避妊どころか……何もなしで勢いにまかせてしまったくせに。
ふふっ、本当にあの人ってしっかりしているのか、抜けているのかよくわからないわね。
あのときよく私は妊娠しなかったものだと思う。
でも。
今回は、どうしても私がお母さんになりたくてそうしたわけなのだから
本当に出来ていればいいのだけれど。
寝室の片付けが大変だったけど、それさえ済ませてしまえば、あとは順調だった。
午前のうちに予定の課題はほぼ片付き、お昼ご飯の用意をする。


あの人も今頃お昼ごはんだろうか。コンビニ弁当に手をだしていなければいいのだけど。
目覚ましでも起きられずに寝過ごし、お弁当を作れなかった私が悪いのだけど……
いいわ、夕食でその穴埋めをするべき。
明日は揃って仕事を休めるはずだし、今夜こそゆっくり、ふふふっ。
だから栄養があって、エネルギーになるメニューを考えなければいけないわね。

そんなことを考えていると、<歌さえあれば>などと思っていたのが、とても昔の事のよう。
もちろん今だって歌は大切だけど、それと同じくらい大切なものができた。
いいえ、彼と二人で築いてきた。
そして、いままた一つ、彼と二人で大切なものをつくろうとしている。
そのことがすごく嬉しくて、幸せで、充実していて。
二十歳そこそこで子作りなんて、周りから早いなんて言われるだろうけど構わない。
そっとお腹をさすってみる。
いまはまだこんなに平たいお腹だけど、赤ちゃんができたらどんな風に大きくなるのだろう。

それにしても。
我ながらよくここまで成長できたものだと、いえ、正確には成長させてもらえたのだと。
初めてを済ませ、彼とそういう関係を持つようになったときに
まず、私の(性に関する)知識の低さが発覚した。
今でこそ知識も経験も備わっているけれど、あの頃は本当に酷かった。
学校で受けた最低限の性教育以外は、当時の彼曰く、《壊滅的》だったらしい。
ぼやきながらもきちんと私に教育を授けてくれたのには感謝している。
彼曰く、せっかくの機会なので自分好みに教育しておいたということらしいが……。

避妊に関してだけど、さすがに初体験の際の暴走には懲りたらしく、まず欠かしたことがない。
その一方で、彼とのセックスにそういうゴム製品が介在することを毛嫌いしていた私は、
彼が使おうとする度に文句を言って困らせていた。
曰く、ゴムの臭いが嫌(本当)
曰く、それ使うと痛い(…嘘)
曰く、直接触れてほしい(本音)
曰く、使わないと駄目なら、するの嫌だからもう寝る(嘘)
もっとも最後の文句は、そう言って本当に中断されて困ったことがあって以来一回も言ってない。

いまだから言えるけど、よくぞ失敗しなかったものだ。……いろんな意味で。
そんな回想を切り上げてソファーから立ち上がる。
課題は終わったけど、まだまだ主婦の仕事はたくさんあるはずよ。
台所を片付けると、干しておいた布団を取り入れる。
日差しを浴びて、ふかふかになった布団が心地よくまるで誘われているみたいに思えて
つい布団の海にダイビングした私は、太陽の匂いに包まれ眠りに落ちていく。


大きなベッド。そう、このふかふかのクッションには覚えがある。
そうだ、ここはあのときのホテルの部屋だ。
じゃあこれは……えーと、夢なの……か。 でも、どうして?



<私をあなたのものにしてください>

18年生きてきた中で、一番緊張した告白。
自分からそうお願いしておきながら、それでも不安と恐れと恥ずかしさがたまらなくて
大きなクッションに埋もれて隠れようとした私を
彼の大きな手のひらが、ゆっくりと撫でてくれて、その温かさに安心できた。


<もう怖くありません、大丈夫です>

広いベッドの上に横たえられる。
私を包むバスローブが開かれ、初めて彼の前で生まれたままの姿になる。
自信が無くて、それに恥ずかしすぎて頭の中が真っ白になりそうな私に
とても綺麗だよって言ってくれたのが嬉しくて、なのに涙がこぼれてしまって。


<ち、違います。これは、その……嬉し涙ですから>

彼が唇でそっと涙を拭ってくれて、そのあと長い時間抱き締められていると
重なり合った肌が温かくて、気持ちよくて、そうしていると
不安な気持ちは消いつの間にか消えてしまっているようで。


<……来て、ください>

唇から始まったキスが首筋、胸へとおりていく。
初めての場所を唇で触れられるたび、からだが勝手に反応して、声が出てしまう。
それが恥ずかしくて、手で口元を押さえようとしたら、その手を彼にどけられて。
胸からお腹。それにおへそ。彼の唇はそれでも止まらずゆっくり下がってきて。

足が開かされる。

吐息を感じる。
だ、駄目です……そこは……だめ……お願いです、やめ……
触れられた瞬間、そこからつたわった電気が頭の中に弾け、真っ白になって飛び散った。
私の上に覆いかぶさった彼が、私の耳に聞き取れない何かを囁く。
ふと目を開け、問い返そうとした私の唇が彼の唇で塞がれたその瞬間。

わたしのなかにあのひとがはいってきた

ひとつになった瞬間の、引き裂かれるような鋭い痛み。
彼にしがみついて、ただひたすら痛みが去ってほしいとそれだけを念じながら、
涙を流して耐える私に、あなたはとても真剣な顔で

千早のなかでいくから

その時の私は訳がわからないまま
なのに、あなたの言葉に何度もうなずき、背中にまわした手が離れないようにして
自分でもどうしてなのって思ったけれど
すぐに、そう、あなたがわたしのなかで果てたときに、理由が分かった。

絶え間ない痛みの向こう、かすかに温かいあなたのものを感じた時に
あなたのものを受け取ったのだから、これで私はあなたのものなのだって。
そして、一番大切なことを。
そのとき芽生えた女としての本能。
わたしはあなたの子供を産みたいのだと。

 
ふと気付くと、私は取り込んだ布団の山の中にいた。
目覚めはとてもすっきりして、とても気分がよかった。
そう、あの時からずっと、わたしはあのひとの子供がほしかったんだ。
あの夢は、そう、あの時の私が感じたことを思い起こさせるためだったのだろう。
初めてのときはただ受け止めるだけだったけど
昨日の夜受け止めたときには、今度はちゃんとできたのだって教えてくれたのかも。
ふふっ、そうだとしたらとても素敵なことだ。
それなら今夜は、その素敵な思いをあなたと一緒に感じていたい。

さてと。
え、もうこんな時間……!?
大変、晩御飯はごちそうにするって決めてたから、すぐに準備しなくちゃ。
えと、メニュー、いや、まずお買い物。えと、あー、どうしよう!!

 - - -

部屋は綺麗に掃除をしたし、お布団も干してふかふか。
お昼寝は長引いたけど、おかげで睡眠も充分だから夜更かしも大丈夫。
夕食には豪華なステーキ肉を用意して、ソースは特製のニンニク味。
今夜の準備をしっかり整え、あなたの帰りを手ぐすね引いて待っていたというのに
テンションゲージ真っ黒で帰ってくるとはどういうことですか……
なんとか宥めすかして、食卓に座ってもらい。ほら、どうです、お肉の焼き加減は。
ええ、ニンニクです。(ふふ、少しあからさまでした?)
は? 音無さんが餃子スタジアムに…しゃべるとにんにく臭くて?……それは災難でしたね……。
お風呂に? ええ、入れますよ。 あ、あの…少し待ってもらえれば私も一緒に…
…………聞こえなかったみたいね。 仕方ないわ、洗い物すませてしまおう。

大体、私一人が舞い上がっていただけで、準備が無駄になったなんて思ってはだめ。
主人が誘ってくれないのなら、仕方ないもの。
その気にならないのなら、しょうがない。だってテンション真っ黒なんだし。
私がアイドルの時を思い返せば、そういうときの気分はよくわかる。
プロデューサーだった主人は、そんな私の気分を盛り上げるため色々と気を使ってくれて。
ひょっとして私、結婚した今も主人から気を使ってもらうことばかり?
セ、セックスも……主人に誘ってもらうばっかりよね……
いえ、間違いなくそう。だって私から誘ったことなんて無いのだから。
でも……だからって……私から誘うのって、そんなこと無理だわ。
恥ずかしいし……だいいちどうやって誘えばいいのかも分からない。

私もお風呂に入ろう。お湯につかって気分転換するべきよ。
無理なことを考えていても仕方ないのだし。体と気持ちをさっぱりさせよう。
でも。少し残念だなぁ……。だって、家事も晩御飯も一生懸命がんばったのだから。
やっぱり………………思い切ってやってみるべき?
夫婦なんだもの。夫に喜んでもらう事が、変なことのはずは無い。
とりあえずどうすべきかは分からないのだけど、髪と体をいつも以上に丁寧に洗って。
そ、そう、そうよ。主人の喜ぶポイントは分かっているはず。
衣装の傾向とか髪型、アクセのことを考えれば。
あとは……女の魅力を総動員して。や、やっぱりココが一番恥ずかしいのだけど。
とにかくやるしかない。出たとこ勝負よ!

お風呂を出て、脱衣場からそっと窺ってみるとまだ主人はテレビの前。
眠ってなければいいのだけど……大丈夫、ばっちり起きてる。
まだ時間が早いうちにさっさと準備すまさないと。
まず髪型を少し変えてみよう。あの人は纏めるのが好きみたいだから、二つ結びにして。
次は着るもの。派手なのは無いのだけど、……さすがに下着は迷うわね。
男の人って、やはりエロチックなのがいいのかしら。それとも、可愛いのが?
あ、これ春香にもらったまま開けてなかった分。どれどれ……うわ!これTバック? しかも黒。
今この局面でこれが出てくるか……春香のドヤ顔が見えたきがしてちょっと微妙だけど。
パジャマはあえて普通ので。中身とのギャップがポイントです。それから胸元のボタン。
さりげなく一つ外して、ブラがわずかに見えるかどうかに。ふふっ、私って意外と策士かも。
メイクは……スッピンは手抜きっぽいし。グロスつけて、軽くファンデをつけて。
これでいいや。あとはフレグランスを少しだけつけて。うん、いい匂い。
で、こっちの準備はできたのだけど。 最大の問題が残ったわけよね。
そう、何て言って誘えばいいのか。

<あなた、よかったら私とセックスしませんか?> じゃ、ちょっとストレートすぎるし。
<私の火照った体、あなたに鎮めてほしいな> だめだめ。まるで怪しいメロドラマの台詞だ。
<………………> 思わせぶりに見つめるだけっていうのは通じなかったらアウトだし。
<ちーちゃんにいっぱいちゅうちてほちいの> 無邪気な子供を装っても…………駄目ね。

決心はしてみたけれど、やはり難しいものね……
いやらしい感じじゃなく、もっと自然に。夫婦なのだから、すっと流れるような感じで。
ああ……わからない。あの人は今までどうしてたっけ………?
ぎゅっと抱き締められて、それからキスされて。あとは、えっと、ごにょごにょってされて……
あれ? そう考えれば開始の言葉っていうのはなかった……のかな?
考えていても仕方が無い。
今日は、お仕事でテンションが下がったあの人を元気づけるために、
私が優しく癒してあげることにしましょう。
大丈夫、なんとかなるはず。鏡の向こうで不安げな私に、にっこりと微笑んで見せた。

「あなた……何を見ているのですか?」
ソファーに横たわり、テレビを見ている主人の顔を覗きこむよう、腰をかがめる。
それはもちろん計算づくの位置と角度なわけで、ほらほら見ていいのですよー?
「べ、別に……適当に見ているだけ……」
ちらりと私を見た主人の目線がしっかり胸の方を見たわ。ふふっ、まずは成功ね。
「一緒に見ても?」
心もち上目遣い、ほんの少し甘える感じですり寄って、お尻をちょこんとソファーに乗せる。
それから、ゆっくり体を倒して、テレビを遮るよう、主人の顔の前にもたれていく。
顔同士が向き合う。くっ付いた体があったかい。
身動きするだけで落ちそうな私を、彼の腕がしっかり捕まえてくれる。
「千早……テレビ、見えないよ」
「キスしてくれたら、どきます」
「ふーん。じゃ、しなかったらずっとこのまま?」
「いいえ。私から無理やりキスします」
彼の手が私の頭をくいっと引き寄せて。 んんっ……
「キス……したけど?」
「お礼がまだです。それともさっさとどいた方がいいですか?」
「……じゃ、お礼っていうの、してくれる?」
「こうです」
彼の頬に両手を添え、唇を重ねにいく。 んんっ…んむん。…んんっ。ちょっと長めに。
「うん……中々おいしかった。ありがとう」
「それだけ……ですか?」
「お礼したらどいてくれるのじゃなかったっけ?」
「どきますけど私も一緒に見るので、起き上がってください」

寝転んだままだとやりづらいから、起きてもらったのも作戦なのであって。
先に体を起こし、それから彼の手をひっぱって起こしてあげようとしたら
そのまま彼に抱き寄せられた。まだ今夜2回目のキスなのに、そんなに舌を絡めるなんて
「ず、ずるいです。不意打ちは駄目です……」
本当は嬉しいのだけど。体をひねり、なんとか抱擁から逃れ出る素振り。
「どうぞ。ごゆっくりテレビを見てください」いいながら、もたれた肩に頭をのせる。
少しは積極的だったけど、本当は不満。もっと大胆に迫るはずが、キスしかできなかったから。
彼からの2回目のキス。それでいつもの流れになる気がしたけど、でもならなかった。
やっぱり、そんな気分になれなかったから? 私が迫ったのは逆効果?
だとしたら……自分の間違いだったなら、潔く今夜は撤収しないと思って
そっと彼の横顔を盗み見たとき、彼の思っていることが分かってしまった。

彼が唇の端をくいっと持ち上げる。これは意地悪するときの笑い方だ。特に夜、ベッドの中で。
「テレビの邪魔は、アレでおしまい?」
「もっと邪魔して欲しいのですか?」
返事の代わりに、唇を吊り上げてくつくつと笑う。
「では。思う存分邪魔してあげます」

彼に抱きつき、いつも、彼にそうされているのを真似して、顔を首筋に埋める。
突き出した舌の先で首筋を舐めながら、時折、唇で首筋を挟んだり、犬歯をあてがったり。
頚動脈を探りあてると、微かに脈打つそれを舌先でしばし感じ取ってみたり。
彼の体がぴくりと反応するのは、くすぐったいのか、それとも気持ちがいいからなのか?
いいわ、私がされると気持ちいいのだから、彼も気持ちいいってことにしておく。
「千早は首筋が好きなんだね。まるで吸血鬼みたいだな」
言われてみれば、かなり長い時間彼の首筋に唇をあてていることになる。
本当は、彼の膝にまたがって抱っこされたこの姿勢が気に入ったからなのだけど。
「さ、噛んでくれ千早。歯をしっかり立てて」
噛む、という言葉が私の背筋をぞくりと這いあがる。

「……千早、まだ続くのか?」
少し掠れたあなたの声、答える代わりに、もうひとつ首筋を吸って赤い痣を作る。
これで幾つ目だろう、吸血鬼の痕跡。千早のものである印。
わかっています。まだまだ続けて欲しいことくらい。
では、そろそろ次に進むますね。焦らすのは可哀相ですから。

あなたとする時も上から順番のようですから、次は胸ですね。
いつもの仕返しというわけでもないけど、男の人の小さい乳首を、痛くないように
気をつけてこりこりと甘噛みしてみると、あなたが反応してくれるのが面白いくて。
ええ、これでやっとわかりました。
セックスの時、気持ちよすぎておかしくなるからやめてとお願いしても、やめてくれない理由。
ふふ。ですから、たくさんしてあげます、遠慮しないで。
歯で挟むのは痛いのかしら。では唇で。舌でも、こうしてぷにぷにと。
駄目です、やめてあげません。くすぐったいのですか? それでも駄目。
ちゃんと気持ちいいって言ってくれないと許してあげません。
だっていつもそうやって私を苛めるじゃないですか。

「千早、お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「何でしょう」
「もう……勘弁してください」
「あら、もうギブアップなのですか……」
「ち、違うんだ……頼む……一回でいいから、千早から言ってみてくれ」
「何を、ですか?」
「……千早から、しようって誘ってほしい」
「えーと、ですからさっきからずっと。テレビの邪魔するところから」
「うん、分かってる。千早の口から言葉で聞きたい。頼む、千早!」

ええ、分かっています。やっと今、それを口にする決心ができました。
初めての私からのお誘い。凝った台詞は思いつきませんけど。

「ねえ、あなた……今夜もセックスしませんか?」

だからそんな嬉しそうな顔されると、恥ずかしいです。ほんとに……
それに、私のあそこに当たっているところまで、さらに元気になっていませんか。
ふふっ、ほんとにしょうがないですね。そんなによかったのならもう一回言います。

「あの……今日も最後まで中で。その、いっぱい中に出してくださいね」
「うん、わかってるよ。俺と千早の子供ができるように」
「昨日ので出来ているかもしれませんけど、一応念のため……というのか……」
「出来るまで何回でもするからな。んんっ……」
「やっ、だめです。最初はじっとしていてください。私が始めるのですから……」

彼の頬を軽くつねってから、改めて私からキスしてあげる。
最初はチュッって軽く。少しづつ、唇を深く重ね合わせて。
あなたの顔、少し切なそうですよ。でも、我慢はもうしなくてもいいです。
だって、私ももう我慢できなくて……だから、あと少しだけ待ってください。
私が脱がせてあげるまで。
腰を浮かせ、彼のパジャマをずりさげると、あまりの勢いにびっくりしてしまった。
あなたの暴れん坊さんを捕まえて、お仕置きのキスです。ちゅって。
それだけじゃない。私は吸血鬼なのだから、ほら、こうして、あむっ、んむ。
んんっ……あ、あなた。もう、いいですよね……………い、入れても
だめっていっても入れてしまいますから。
「千早もこんなエッチな下着もってたんだ?」
「……もらいものです/////」
やっぱり恥ずかしい……でも。もうゆっくりパンツ脱いでいる余裕なんて無くて
こんな時はこういう下着が便利。ほら、ここ、こうやってずらすだけで……
あっ、あなた……い、入れますよ?
ゆっくりですから、あなた支えていてください……んあっ、は、はいって……

「ふぅぅっ。あんっ……凄い、奥まで入ってる……あなたのがあたって」
「ああ、千早……子宮に当たってるのわかるだろ」
「はい……こつこつって。う、動いてもいいですか?」
「いいよ、千早がしたいようにやってみて」

セックスする時、いろんな姿勢があるのはわかってきたけど
私が一番すきなのは、こうしてあなたの顔が見える姿勢。
あなたにぎゅっと抱き締められる姿勢。
それが好きです。
立ったままとか、四つんばいとか……も、その……イイデスケド
最後は、ぎゅっとされながら、キスしてもらって。
そういうのが好きですから。

あなたにまたがって、かなり夢中で動いていたから。
そろそろあなたにバトンタッチしてもいいって思っていたら。
「千早、俺の首に両手まわして支えてな」
「こ、こうですか?」
私とつながったまま、ソファーから立ち上がり、その拍子に子宮の入口にまたあなたのが
こつんとぶつかって。
「ふぇっ?」
「千早が軽いから、こういうのもできるんだぜ」
す、凄い……けど落っこちそう。だからぎゅっとしがみ付いて足も絡ませる。
「さ、千早。このままどこに連れて行って欲しい?」
「えと……じゃあ、ベッドに運んでください。そこで……」
「そこで、何?」
「こんどはあなたが、あの、いっぱい、してください」


おしまい

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

管理人/副管理人のみ編集できます