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[SSメモ] 085 2012/03/16  [33] 028

テーマ:千早が愛した一人の男・千早を愛した二人の男。
その二人間で葛藤する千早の女心的な何か……という長編です。

  • 以下本編-

ぎこちない微笑と似合わない流行りのスーツという芳しくない第一印象。
そんな人を信じようと決めたのは、クラシックの知識と耳の良さだけが私の根拠。
悪い人ではなさそう、などと随分なご挨拶を口にする世間知らずの小娘に
苦笑いを浮かべながら差し出してくれた彼の手はとても暖かかった。

「虚飾に満ちた芸能界では、正直というのは決して美徳ではないんだ」
正直な小心者である彼は口癖のようにいう。
「でも嘘つきは俺だけで十分。君は今のまま純粋無垢でいて欲しい」
虚飾に満ちた世界の中、私だけが純粋無垢でいられるのかという疑問は胸に仕舞っておく。
ともあれ最初こそぎこちなくても、時間を重ねれば雑談を交わす程度には打ち解けてくる。
そのきっかけとなった彼のCDコレクションを是非見せてほしいと私は頼み込んだ。

「聞きたいのはどれでも貸してあげる。見るためのコレクションじゃないからな」
「見せてもらいにいくのに何か不都合が?」
「君も年頃の女の子だからそれくらい分かるだろ?」
「分かりません。私が年頃ということで何が不都合なのでしょう」
「その危機意識の低さも問題だな。男の家で二人きりになるなんて避けるべきだよ」

なるほどそういうことか。
担当アイドルとの一線はきちんと守るといいたいのだとしても、私には彼が不埒な行為に
及ぶとは到底思えず、本心からの警告とは考えつくわけもない。
千枚を越すという膨大なCDに目が眩んだ私は、彼なら大丈夫という根拠のない信頼感のまま
その一線を自ら踏み越えたのである。

「ここまで来て帰れというのも気の毒だからな」
苦々しい小言は耳に入らず、壁一面を埋め尽くす膨大なCDに圧倒された私は
ラックの真ん中に飾られている自分のデビューシングルを見つけ無性に嬉しかった。
ヘッドホンを取り上げられるまで外が真っ暗なのに気づかないほど夢中だった。
「今日はもうこれくらいにしとけ。聴きたいのは好きなだけ貸してやるから」
「まだまだ聞き足りません。次のオフにまたお邪魔しても?」
「それは……だめだ」
「ならもう少しだけ」彼の手からヘッドホンを取り返して耳に当てる。
高価なコンポで聞く音の良さは私の安物より天と地ほど違っていた。
ホールで聞くようなブラームスに意識が入り込んだ瞬間、彼の行為が割って入った。
背中を向けた私を彼は強引に抱き寄せると、あっというまに唇が重ねられていた。
生まれて初めてのキスに私は目を閉じることも忘れ彼の目をただ見つめていた。

「……プロデューサー、どうして」
「注意しといたはずだが」
「……危機意識と言っていたことですか」
「そうだ。これで懲りたならCDは好きなの貸してやるから家に帰れ」
「キ、キスくらいで今時の高校生が懲りるとでも?」
「そのキスひとつで声が震えているぞ。いいからもううちに帰れ」
「いやです、私は諦めません。キスくらいで済むのなら……」
「警告はしたからな」
最初のキスでは分からなかったものが二度目のキスで感じ取れた。
それは……そう悪いものではなかった。

「俺が本気だったらどうする気だよ」
「アイドルに恋愛沙汰はタブーだと教えてくれたのは誰でしたっけ?」
「……とにかく。俺の立場ってものも考えてくれないか」
「ではファーストキスを奪われた私の立場は?」そういって私はCDラックに目をやる。
「分かった分かった。来るのはいいが入り浸るなよ」
彼を見上げたのは、そろそろ抱擁を解いてほしいという意思表示のつもりだったが
彼はそれを私の肯定と受け取ったらしく、私もつい目を閉じて彼の唇を迎え入れる。
深くて長い三度目のキスを終えたあと、私は弾む呼吸を懸命にごまかそうとしている。

秘密の関係はそんな風に始まった。
オフの日は朝からプロデューサーの家にお邪魔して心ゆくまでCDを鑑賞し
プロデューサーが求めるままにキスを受け入れた。
別にそれを約束したわけでもなく、交換条件でもないのだけれど
信頼するパートナーとのキスは悪いことじゃないというのが私の理屈だった。
キスの心地よさに夢中になりかけていたなんて本音に気づかないふりで。

玄関で靴を脱ぐ前にするキスは挨拶の代わり。
お料理の最中にも。あるいは何もしていないときにも私たちはキスをした。
彼の舌が入ってきたときは驚いたけど、すぐに慣れ刺激と興奮に夢中になった。
抱き合えば彼と繋がっている気がして、唇を重ねればさらにそれが深まっていく。
居心地のいい彼の家で、彼の膝の上に座って温かい体温を感じ取りながら
唇を重ね合わて一緒にCDを聞いていることは幸せだった。

彼が私の全てを求めていることに気付くまでは。



その夜は、唇を重ねながらぺちゃくちゃと音を立てる遊びに夢中になっていて、
彼の手が胸に置かれたときも、それを無視してまだ私は唇を舐めていた。
けれど彼の手が胸を揉み始めたとき、その感触に驚いた私は唇を外していた。
「そういうのはダメです。私たちはそのような関係ではありません」
「それは心外だな。こんなキスをする仲の俺たちはどういう関係なんだ?」
「どうもこうも、ふふっ、ただのアイドルとプロデューサーですよ」
彼の返事は舌を絡める大人のキス。それだけで息が弾んでしまう。
「…キスは親愛の証です。ただそれだけ……」
「これだって親愛の証だからいいだろ、少しくらい」
押しのけたばかりの彼の手が、また私の胸に添えられる。
「ダメです。プロデューサーは変態になりたいのですか?」
「変態……どうして?」
「恋人同士でもないのにそういうことをするのは変態か痴漢です」
「ひどいな千早、そんな言い方はないだろ?」
押しのけようとしたけれど、彼の手はびくともしなかった。
「ちょっと触るだけだから……」
私が手を引っ込めたのは彼を容認したからではない。
力のこもった彼の、いや男性の力に少し恐れを抱いたからかもしれない。
少しくらいなら我慢すればいいと目をつぶった直後。
ブラの上から乳房を揉まれた感触はあまりに生々しく、そして気持ちよかった。
無意識に声を漏らしてしまうほどに。


そういうことが何度か続けば、気持ちも自然と変化していくものらしい。
気持ちのよさが我慢しようとする心を押し流せば、もう彼に抗ったりしない。
恋愛沙汰はタブーのはずなのに、擬似的とかごっこという感覚は揺らぎ始め
本気で彼のことを考えていいのかと迷いだしている自分がいる。
彼が本当に好きだといってくれたら、私も覚悟や決心ができたかもしれないけれど
その言葉を求めることができずにいて、その理由もはっきり分かっている。
ジレンマに苛立って、胸に置かれた彼の手をそっと抓ってみる。

手をつなぎ、抱きしめられ、唇を重ねて彼を感じるのはとても心地がいい。
そこが私の居場所だと思えると心も落ち着く。
なのに彼の手が胸をさわると、途端に心も体もざわめいてしまう。
それ以上求められると代わりに何かを失ってしまいそうな根拠のない予感。
求めに応じなければ居場所を失うのではないかという恐れ、それに対するずるい私の打算。
彼が私の何を求めているのか気付いていながら知らないフリ、分からないフリ。
つまり、私はそういう自分勝手な人間だということ。

彼の忍耐が限界を超えたことは彼だけの責任ではない。
私を求める彼の手を、突っぱねるどころか密かに心待ちにしていたのだから。
それだけではない。胸を包まれる心地よさが忘れがたくなっていた私は
服と下着に隔てられることに不満すら感じ始めていたのだから。
キスまでの関係でいるつもりだったはずなのに。

自分で胸に触れてみても彼がするようには感じることができない。
なのに彼の手が服の上にかざされるだけで心臓がドキドキ弾み始める。
彼の手で肌に触れられたらどんな感じがするのだろう?
少しだけ、ちょっと試すだけ。 自分の好奇心が引き起こす事態に気付かないまま
トイレに立ったとき、こっそりブラを外してしまう。

彼の膝に戻って体重を預けると、彼の手がシートベルトのように私を抱きしめてくれる。
邪魔にならないようヘッドホンはつけず、手も脇にどかしておくと
待ちかねていた彼の手がゆっくりお腹の上から移動を始める。
くすぐったいのを我慢して、その手の動きを私は見守る。
彼の指が胸の膨らみの下側に触れたとき、動きがぴたりと止まった。
指先が何かを確認するよう小さく動いてから、もう一度手が動き始めると
ほどなく私のささやかな膨らみはすっぽりと彼の手に覆い包まれていた。
思ったほど特別な感じがしないのは、まだシャツで隔てられているからだろうか。
その代わり耳元をくすぐる彼の荒い吐息が私の中を満たし始める気がしていた。
焦れた私は乳房を包んだままの手をどかしてシャツのボタンを外し始める。

「……千早、いいのか」
「触るだけ……ですよ」
最後の一つが外れるのと同時に、彼は慌しくシャツを開き乳房に手を伸ばす。
包まれるというよりも掴まれたとき、手が乳首にこすれた感触に声が出てしまう。
千早、千早と彼は私の名を呼びながら、掴んだ乳房を揉み始める。
彼が私の胸に夢中になり、我を忘れて胸を揉んでいる。
そうやって乳房を揉まれる快感よりも、彼の気持ちを感じるほうが心地よかった。

「……んっ、はぁ、はぁ、んんっ……んは、ふぁあ……」
「千早、気持ちいいのか、胸」
「わ、分からない……わからないけど、あんっ、変な感じ」
「そうか。じゃあこれは分かるかな」
彼は手を胸から外すと私を抱き上げて膝の上で向かい合わせにされる。
女の子に当たっている固くて大きい膨らみ。

「わ、わか……りません。こんなの…し、知らないから」
「ほんとに?じゃあ教えてあげないといけないかな」
恥ずかしくてつい下を向いた私の目に、彼の指に包まれた乳首が目に入る。
硬く膨らんで充血した紅色の蕾に彼がゆっくりと唇を寄せようとしている。
「千早のこれ、美味しそう。食べてもいい?」
「いや……だ、だめです」
本当はして欲しくてたまらなかった。
触れられるだけであれだけ気持ちよかったのだから、そこにキスをされたら……
肩に置いていた手で彼の頭を抱き寄せながら私も体を寄せていく。

「さ、触るだけっていったはずです……」
「そうだったな。だから唇で触れるだけにするよ」
彼は体を屈め、私の膨らんだ乳首をぱくりと咥えた。
「ふぁああっ! ああっ、やぁあああ……」
手指の愛撫とは比べ物にならない快感が電流のように私を貫く。
彼の唇は咥えるだけではなく、舌が絡み、吸われ、歯を立てられて
そのたび私は声を止めることができず、ひたすら甘い快感に耐えるだけだった。

一通りの愛撫のあと、私が息を整えるのを待っていた彼が囁く。
「千早が欲しいんだ」
「わ、私がほしい……のですか」
「そう。千早が欲しい。俺じゃだめか?」
「それは…………分かりません」

彼が何を望んでいるかは分かっていても、それを許していいのかが分からない。
考えようにも既にまともな思考はできなくなっている。
なぜなら彼のものが押し付けられた女の子が熱くてたまらず
そのせいで頭も体もカッカしてしまっているから。

「そっか。じゃ止めておこう」
引き寄せられ唇が重ねられる直前、私は顔を引いて首を振った。
「キスもいやになったかな?」
違う、違う。そうじゃない、嫌なわけない。
彼の求めを拒んだことで居場所が失われるのは私にとって一大事だ。
それに比べたら私のこんな体なんてどうってことない。
だから。彼に覆いかぶさって、私から唇を重ねた。

「私が欲しいの…でしたら」
「ああ、俺は千早が欲しい」
「なら…あげます。あなたのものになりますから……」
「いい…んだな」


返事の代わりにもう一度キスして、今度は彼を真似て私から舌を絡めにいく。
いつものように彼の家にお邪魔して、CDを聞き、彼といっぱいお話をして
それからキスをするありふれた夜が、今夜だけは違う。
抱っこされて運ばれたベッドで、いまから私は初めてを迎えようとしている。
覚悟はできたけど、まだ「好き」という言葉を貰ってないことが心の隅に引っ掛かっている。

少し前までキスすら想像もできなかった私が今から彼とセックスしようとしている。
さっき前を開いたシャツはもう脱がされていて上半身は裸。
そして今、彼の手は私のズボンを脱がそうとしている。
恥ずかしいから明かりを消して欲しかったけど、見えないと出来ないといわれて
つけたままのオレンジ色の電球すらまぶしく、私はじっと目をつぶっている。
ズボンが脱がされてしまうと心細いくらい無防備な感じがして丸まってしまいたくなる。
もう私が身につけているのはパンツ1枚だけで、それすらもうすぐ脱がされるはず。

「ほら千早。緊張しすぎ」
彼は私のとなりに横たわると、頭をぐしぐしと乱暴に撫でられる。
「力抜いて。別に怖いことするわけじゃないんだから」
「そ、そうですけど、やはり怖いです」
「初めてだから不安に思うかもしれないけど大丈夫だから」
「は、はい……でも最初は痛いものだと思うと……」
「大丈夫、できるだけ痛くないようするから」
「痛くないように、ですか」
「そう。でも千早だって気を楽にして力を抜かないとダメだよ」

顔を近づけてきたからキスかと思って目を閉じた瞬間。
彼の指が、パンツの上から私の女の子を軽く押さえていた。

「きゃっ……!、やぁダメです、そんなとこ」
「うーん、これなら大丈夫かな」
「ふぇ? あの、大丈夫って何が……ひゃあっ、やぁ!」


下着の脇からするりと入ってきた指が、そっとソコを撫でていく。
「プロデューサー、いやらしいです。そんなとこ触らないで」
「いいからほら。分かるかな、千早のココはちゃんと準備できているよ」
「……準備、ですか?」

彼の手で導かれた下着の中はびっくりするくらい熱くてぬるぬる濡れている。
「や、やだ。こんなの変です…」
「女の子がこうなるのは変じゃないよ。むしろ濡れないと困るから」
「濡れないと……困る?」
「すぐにわかるよ。それよりおしゃべりはここまで。そろそろ…」

彼は私の唇をふさぐと、ゆっくり覆いかぶさってきた。
彼の体重を受け止めると身動きできないのに、なぜかその重みが心地いい。
唇を合わせるだけのキスが舌を絡めあう大人のキスになっていて、
気がついたときには、もう私は生まれたままの姿になっていた。


彼が体を起こし、私の足を大きく開くとその間に膝をついた。
そのとき一瞬だけ目を開けたことを私は後悔している。
見なければよかった、そう思うくらい彼の性器は大きかった。
あんなに大きくて固い物が入ってくるのだからきっと痛いに違いない。
だけどそれは恐怖であり、同時に私のとっての希望でもあった。
処女を失うときに痛くてもいい、あの大きなモノが私を引き裂いてもいい。
その代わりちゃんと最後まで我慢できたら。
ううん、きっと我慢する。
そうしたら私は彼のものだ。
もう、彼を失うことを恐れてびくびくしなくてもよくなるはず。
彼と体が繋がることで、心も繋がってしまいたくて、息を詰めてその瞬間を待つ。

「千早、息は止めないで」
彼のペニスが当たっているのが分かる。でも彼はまだ動かず私の耳元にそう伝える。
「ほら、吸って。大きく吸って、ゆっくり吐いて」
彼の指示に従って呼吸を整えるだけで精一杯だった。
それでも、息を吸い、大きく吐くという繰り返しの中、少しづつ、すこしづつ
彼が私の中に入ってくるのが分かった。
入り口のところが広がっているのは、さっきちらっとみたあの太い先端部分だろう。
それが今、入り口を通り過ぎたのも分かった。

「ほら、息とめないで。吸って、そう。吐いて」
「やっ、い、いいっ……」
「痛い?」
彼の心配そうな声に、つい首を横に振る。
痛くない。彼が心配してやめてしまうと、私は彼のものになれない。
「大丈夫です。そのままで」
「わかった。でも痛かったら無理して我慢せずにちゃんというんだぞ」
私は何とか目を開き、彼に微笑んで見せた。
あなたに私の初めてをあげられるのですから、大丈夫です。
彼が動きを再開させると、痛みは動きに伴って大きくなる。

「んぐぅ……はぁ……ぐっ……」
「千早、もう少し。半分は過ぎたから、力抜いて」
しかしもう苦痛が彼の声をかき消して聞こえなくなってきた。
「いぃ、あがぁっ……ぐっ、やぁ、あ゛あ゛っ……」
「止めようか、千早? 凄く痛そうだぞ」
「ちが……だめ、やめちゃだめ、あ、あぐぅ、全部、お願い」
「い、いくぞ、もう止めないで最後までいくからな」

意識を失いかけた私はもう言葉で答える余裕はなかった。
彼の背中に深い跡が残るくらい強く爪を立ててしがみつきながら、
大きく開いた両足で無意識のうちに彼の腰を抱き寄せた。
その瞬間、彼もブレーキを外して力いっぱい腰を進めて。

「い、いだぁいいいいい、やぁぁぁぁぁ、ぎゃあああああ、いだいぃぃっ」
「千早、全部はいったから。もう、ほら、終わったから」
「や、だぁ、いだい、ブロデューザァ、いだいです、ふぇっ、うぇ、ふぇえええん」
「わ。な、泣くなって。痛くしたのは謝る。ほら、じっとしてたら収まってくるから」
「ぢがう、いだいがらぢゃない、泣いてるのじゃない」
「わかったから落ち着け、な千早。ちゃんと最後まで出来たから」
「うぅ、ぐすっ……ほんとに? ちゃんと?」
「ほんとだ。ほらここ、分かるか?」

彼のいうとおり、差し入れた指先に触れた彼の根っこ。
「じゃあ、わたし、これで……ほんとに」
「ああ、千早は俺のものだ。今から俺だけの女だ。いいな」

どれだけの時間、彼と繋がったままじっとしていただろうか。
激しかった痛みも収まってきて、じっとしていれば我慢できる程度だったけれど、
彼が動けばビリビリ痛むから、その度に背中に爪を立てていたと思う。
そして最後の瞬間。
彼が少し動いたのが痛くて、つい爪を深く立ててしまった弾みで。
「ち、千早すまん、出る」

一体何が出るのだろうという疑問に、すぐその答えが頭に浮かんだ。
妊娠、それから避妊のことも。
セックスは本来子供をつくるための行為。
避妊せず彼の「出す」精液を受精すれば、私は妊娠する。
処女は初めてのセックスで妊娠しない、なんてことを信じていたわけではない。
妊娠するということが、冗談ごとではない重い事実だと忘れていたわけでもない。
アイドルが、そして現役高校生でもある自分が妊娠したらどういう騒ぎになるってことも。
私はただ漠然と彼の子供なら産んでもいいと考えていた。
理由なんか分からない。


一通りの行為が終わり、ようやく落ち着きを取り戻した私たちは
まだ抱き合ったまま顔を寄せて言葉を交わす。
「大丈夫だとは思うけど」
「……そうですね。多分」
冷静に考えればすぐ理由に思い至る。
今は始まる直前だということに。
体調管理の一環として、生理の周期と状態は彼も正確に把握している。
予想通り、それから数日後にお客さんは来てくれた。
すぐ彼には報告したけれど、なぜ不機嫌そうな顔を見せたのだろうか。


お客さんが帰った翌日、晴れ晴れとした気持ちで私は彼の家に遊びにいく。
彼は避妊具を用意して待っていて、玄関で抱き合ってキスしたあとは
二人ともそうするのが当然のようにベッドに直行して体を交えた。
まだ痛みは少なからずあったけれど、前のように泣け叫んだりはせずに済んだ。
それでも彼は終始穏やかに、私が少しでも顔を顰めると動きを止めてくれた。
密かに期待していた快感が分からないまま、二度目はただ穏やかに過ぎていく。
そもそも快感を得るのは私がセックスをする目的ではない。
私にとってのセックスは彼と繋がっていられる、ただそれだけのことなのだから。

キスをして、彼の手を受け入れて、そして脱がされてベッドにいく。
言葉を交わさなくても、お互いの体温や吐息だけで流れていく一連の儀式。
ベッドに横たわった私の足が大きく開かされて、その中心に彼を迎え入れる。
体が内側から広げられて、内臓がおしのけられるような奇妙な感覚。
私は彼が入ってくる間、ただ息をつめてじっと待つ。
やがて体の一番奥に、ずんとそれがぶつかったら受け入れは完了。
さっきまでは異物感を与えるだけの侵入者だったそれは、
今はもう私の中を埋め尽くし、満たされる感触を与えてくれる大切なもの。
私は全身の力を抜くと、ためていた息を大きく吐き出した。
それまで異物感でしかなかったものが、私の中で交じり合いひとつになる感覚。
私の体が慣れてきただけの話なのか、それとも彼と交わるごとに感覚が変わって
くるということなのだろうか、ともかく何かに期待している自分がいる。

「痛くない、大丈夫?」
「いいえ、平気です」
本当は気遣ってくれるのが嬉しいのに、意固地な私は笑顔一つ見せるわけではない。
それでも彼は気にも止めず、頭を一つ撫でるとゆっくり動きを始める。
そのうち繋がっている部分から熱を帯びて浮かんでくる奇妙な感覚。
彼の動きにつれ場所を変え輪郭が変わる、もどかしい感覚を追いかけるのだけれど
動きが激しくなると、彼のせわしい呼吸が私の耳を叩き続けるようになるため
考えることができなくなった私は、彼と同じように荒い息を吐き出すだけになる。
やがて彼が私を強く引き寄せ、奥にぐいぐい押し付けてきたらそれがおしまいの合図。
彼は私の名前を呼び、何度か震えて終わりを迎えるとぐったりともたれかかってくる。

重いけど、苦しくはない。むしろ愛しいとさえ思える。
彼が私の中で終わるのは、私に満足している証拠だと思っているからだ。
私は彼に求められている。必要とされている。だから今はこれで十分だ。
そんなことを考えながら、彼を真似て頭を撫でてあげたりする。

「ごめん、重かっただろ」
「いいえ、平気です」
始めるときと同じ言葉なのに、今度は素直な気持ちでいるから現金なものだ。

ほんの短いインターバルを経ただけで彼は後始末にとりかかる。
必要性はわかるけど、本当はもっとゆっくり満たされたままでいたい。
そんな私に構わず、彼はそれを抜き出すと私に背中を向けて胡坐をかく。
私はベッドの上をごそごそ這い、彼の足にこてんと顎を乗せて見物する。

「こら、千早」
「……勉強のためです」
決まり文句をいうと、彼は諦めて避妊具を外し始める。
ピンク色のゴム製品に溜まった白い液体を見て、私は無意識に手を伸ばしていた。
「こらこら。なんだよこの手は」
「見るだけです」
「こんなもの見なくていいから。もう捨てるぞ」
“こんなもの”という言い方にカチンときた私は、彼を押し倒して手首を掴んだ。
破れて零れるのを恐れ抵抗を止めた彼の手からそれを奪い取る。

「だから見るだけです。これがプロデューサーの精液なんだと……」
「……それでご感想は?」
「そうですね、見るだけでは分かりませんね」

結び目を解こうとしたけど、固く結んでいる製で中々解けない。
その私の背中に彼が馬乗りになり、押さえつけられた。
「そんなに見たいのなら、出るところから直接見せてやる」

セックスを終えたばかりだから、当然私は丸裸のまま。
彼は私の腰を持ち上げると、足で太ももを開くと後ろから性器をこすりつけてくる。
柔らかかったそれはあっというまに固くなり、強引に私の入り口を押し広げながら
さっきよりも乱暴に入ってこようとしている。

「いやっ、だめです……やめてぇ、プロデューサー、だめ、抜いてください」
けれど彼は強く腰を突き出し、その勢いで一番奥まで届いてしまう。
「ほら、入ったぞ千早」
「あっ、やぁぁ、プロデューサー、まだ……つけていません」
「そうだよ。千早が直接見たいっていったから」
「やめぇ……いやぁ、まって、あっ、今日は危ないから、んぁああ」
「知ってる、もうすぐ排卵日だろ」
「そ、そうです、だからぁ、やぁん、だめ、とまって、ほんとにできちゃう」
「千早が欲しいっていったんだろ。大事そうに持ってるもの見ろよ」
「ち、ちがうぅぅ、見るだけ、あん、見るだけだったぁ、あ、ああ」
「遠慮するな。初めての時も中に出したの忘れたのか?」
「やぁ、しらない、あ、だめ、おねがいです、プロデューサー……いやだぁ、あああ……」

けれども抵抗は言葉だけで、私は避妊具をつけないペニスの感触に酔い痴れていた。
後ろから犯されながら、大きな声も、自分で腰を押し付ける動きも止められない。
そして今まで掴めなかったあのもどかしい感触が形を取り始めていることに気づく。
ペニスが膣を、特に膨らんだ先端が通り抜けるとその形がはっきり分かる。
ごりごりとした感触。その形状、そして感触自体が既に快感だった。
性器同士の接触。膣の粘膜にこすりつけられる彼の性器、彼の肌。

興奮する。 凄く興奮する。
気持ち、いい。 凄く気持ち、いい。

快感は体だけで得ているのではなかった。
動物みたいな四つんばいを強いられ後ろから犯されているような屈辱感すら、
あるいは強姦のような乱暴な口調や荒々しい動作すら
私の心はそれを受け止め、快感であると認識している。
いや、今の私は彼に何をされてもそうとしか感じなかったのかもしれない。
そんな私を彼はがっちりと押さえつけ、動きはどんどん激しくなっていく。

「んんっ、ぁあん……だ、だめ、抜いちゃやぁ」
奥まで突っ込まれたペニスがじわじわ引き抜かれ、あと少しで外れてしまう瞬間。
「あああああんっ!」
ずん、と激しく叩きつけられる衝撃でのけぞりながら大声で叫んでいる。
叫びながら、彼のペニスが私に与えてくれる快感を貪っている。
声を限りに私は叫び続け、声が掠れてきてもまだ終わらない。

これが……これが本当のセックスなの?
もう意識を集中なんてしなくても、彼が入っているだけで。
彼の手が胸にふれるだけで、抜くたびに。突き上げられるたびに。
体中を、電気が走る。手足の先が痺れて冷たくなっていく。

唐突に、彼はペニスを引き抜くと私の体をベッドに押し倒す。
「いやああ、まだぁ……もっと、もっと欲しい」
体がひっくり返される。

「足、開け」
彼の言葉に従い、股関節の限界まで広げて彼を見つめる。
彼の股間のそびえた大きなペニスがゆっくり私に近づいてきて。
奥まで入れてもらえた嬉しさから、私は涙をこぼしながら、彼にしがみつく。

「本当に出して欲しいのか、千早は」
「はい、いっぱい出してください、プロデューサーの精液」
「いいんだな千早、本当に出して。妊娠するんだぞ?」
「いい、いいから、わたし、産むから……プロデューサーの赤ちゃん」
「わかった、わかったぞ千早。千早は俺のものだからな」
「はい……はい、わたし……プロデューサーのものです」
「好きだ、千早。好きだ……」

嬉しかった。何より欲しかったその言葉。
たった二文字の無敵の呪文。
私に無限の喜びをもたらす魔法の言葉。
私も好きですプロデューサー、大好きです。だからください私の中に。
私、プロデューサーの赤ちゃん産みます。

やがて彼の動きが大きく、深くなる。
もうすぐ、もうすぐだ。 彼は果てる。私の中で。
私の奥深くをぐいぐい突き上げる彼のペニスから迸る精液を
私の子宮で受け止めれば、彼の子供を孕むことができる…

けれども彼は射精の直前、私の中からそれを抜き放ってしまった。
霞んで見える視界の中、彼が握ったペニスを私に向けた瞬間、
吹き出した精液が私の顔に降りかかり、私は目を閉じて温かい液体が
顔を流れていく様子をぼんやりと思い浮かべていた。



彼は荒い息を整えたあと、またすぐに私にのしかかってきた。
彼のペニスはまだ十分な硬さではなかったけれど、ぐしょぐしょの性器に
擦り付けているうち力を取り戻し、私の膣を押し広げ再び一つに繋がった。

「顔、汚しちゃったな」
ゆるやかに腰を動かしながら、彼は私の鼻筋を流れる精液を指で拭い取る。
私はそっと首を横にふり、その手首をつかんで引き寄せる。
「こらこら、何をする気だよ」
「見るだけではわかりませんから」
だから触れてみたい、味わっても見たい、そう思い精液に塗れた指を咥えてみた。
美味しいとは思っていなくても、何か彼を感じ取れるのではという期待。
けれどもそれは苦くて青臭くてとても味わえた物ではなかった。
そして彼は中に出すといっておきながら、次の射精は子宮ではなく胸に浴びせかけた。
「中に……ださないのですか?」
乳房にかけられた精液の筋がゆっくり流れ落ちていくのを彼は黙って見つめている。

その後明け方近くまで何度も交わりながら、彼が私の中で射精することはなかった。
眠り込んだ彼から静かに体を離すと、私は浴室に向かった。
どんなに気持ちが一致しても、私はまだ高校生であり、アイドルでもある。
そんな私が妊娠することの問題やリスクが大きすぎるのを彼は慮ったのだろう。
けれどもう少し私が大人になればそんな問題もなくなるのだから。


シャワーを終えてリビングに戻ると、カーテンの隙間から薄青い朝の光が差し込んでいる。
夜明けの清冽な空気は火照った体に心地いいに違いない。
まだ熱気の篭った部屋にメモ一枚を残し、私は大きく深呼吸すると街を歩き出した。

挨拶の代わりに彼の寝顔に残したキス。
それが最後に見た彼の姿だった。


◆第二部 (2P編)

リハと本番、合わせて一週間もプロデューサーと離れるのは寂しかったけれど
大きなステージで歌えるのは、それがライブゲストでも楽しいことには変わりない。
だが舞台を満喫した私がお土産を抱えて事務所に戻ると、そこに彼の姿はなかった。
空っぽになった彼の机に呆然としている私に、社長は彼が自己都合で退職したことと
来週にも新しいプロデューサーが来るとだけ説明した。

彼が私に何も言わず退職するなんて明らかにおかしい。
だが携帯は繋がらず、慌てて駆けつけた彼の家は既に空き家になっていた。
握り締めていた合鍵をポケットに戻し、私はそのドアに背中を向けた。
彼は辞めたのじゃない、辞めさせられたのだろう。
彼が懸命に守ろうとしていた秘密の関係が事務所にばれたに違いない。
でも……たとえそうだとしても、せめて一言でも伝えることができなかったのだろうか。
何故あの人は何も告げずに姿を消してしまったのだろう?



社長の言葉通り、1週間後に新しいプロデューサーという男が来たが
この男は初対面のときから不躾で無礼な男だった。
親知らずでも痛いのかと思うくらい不機嫌な顔でまっすぐ私を見据えている。

「事務所期待の星らしいが甘やかす気は一切ないからそう思え」
「……望むところ、です」
「余裕だな。しごかれて泣くなよ? って何睨んでるんだ、怖えーよその目つき」
「わ、私は別に何も……」
睨んだつもりなんてなかった。
ただ真剣にこの男がどういう人間か考えただけなのに。

洒落たスーツを無造作に着こなす美男子なんて私には全くの無価値。
歌の仕事をくれるなら、それ以外何も求めたりはしない。
だから口も態度も悪くアイドルを商品としか見ない無神経なサディストであろうと
優れたプロデュース手腕の持ち主でさえあればそれでよかった。
パートナーに仕事以外のことを求めるのは愚かなことだと
あの人が貴重な教訓を私に遺してくれた通りなのだから。


「どうした如月、ぼんやりして。お客さんでも来たか?」
「よくご存知で。お腹に響くので大声はださないでください」
「ケッ、だからってレッスンで手を抜くんじゃねえぞ」

生理が来ているのは本当だけど、痛みなんてどうってことはない。
それに私はつまらない憎まれ口に返事する必要は無いと決めていた。
言いたいだけ好きなことを言っていればいい。
そうでも思わないとやりきれないほど、この男の口は悪かった。
彼の辞書には「誉める」「優しい」といった単語が見事に欠落しており、
その代わり悪口や罵倒の語彙は呆れるほど豊富だった。

ただ人間性に問題はあっても、仕事に関しては本当に凄腕だった。
仕事は前より倍以上増え、おかげでろくに休みも取れなくなったけど
そのおかげで、じくじくと痛む心の傷はいつの間にか薄らいでいたのだし
何より私が望んでやまない“歌”の仕事が飛躍的に増えたことも大きかった。


そしてこれだけは言っておかなければならない。
あの男は、あの人と過ごす間に私が“歌”を疎かにしかけていたことに気付かせてくれた。
だから彼がどのような人間であろうと、私は彼に感謝しなければならない。

地方での仕事は泊まりになることも多い。
あの人とは関係ができる前から同じ部屋だったけどこの男はフロアすら別にした。
夜の打ち合わせを考えると部屋の移動ですら億劫なのに。
早朝からの移動と仕事で疲労が溜まった体を早くリラックスさせたかった。
着替えやメークも面倒だったから、少し考えてから携帯を開いた。

「あのプロデューサー、この後の打ち合わせのことですが」
「20時半にロビー集合。変更は認めない」
「まだ何もいっておりません」
「言わなくてもわかる。部屋での打ち合わせは却下だ」
言い返す前に電話は切られた。話し合いが通じないなら仕方無い。
私なりに考えた服に着替えると、時間を見計らいあの男の部屋の前で待ち伏せした。
ドアが開いた瞬間、私の姿に彼が気を取られた隙に部屋に入り込んだ。


「馬鹿野郎、ベッドじゃなく椅子に座りやがれこの小娘が」
言葉にいつもの威勢がないのは、私の奇襲が成功した証拠だろうか。
「ったく、せっかくのお頭を悪知恵ばかりに使いやがって、ろくなもんじゃねぇ」
「たかが打ち合わせをするだけなのに、大袈裟すぎませんか?」
「前言撤回だ。やっぱりお前は馬鹿だ。危機意識も低すぎる」
また危機意識か。そんなに私は無防備なのだろうか。
それとも、このがさつな男も私なんかを相手に不埒な衝動が抑えきれないとでも?
そんな馬鹿げた考えを放り捨て、あえてとぼけた声で聴いてみる。

「あの、この部屋にどのような危機があると?」
「部屋で男と二人きり、おまけにベッドに座ろうなんてどこのビッチって話だよ。
わざとらしいキャミで露出まで増やしやがって、貧乳のくせに生意気な」
意図が見抜かれていたことを隠して、つとめて冷静さを装い聞き返してみた。
「ベッドに座るのが何故だめなのですか?」
「……誘いの合図だよ、それは。まっ、お前みたいなペタ子に誘われても困るだけだが」
「ご心配なく。私にも相手を選ぶ権利はありますし、一応少しは膨らみもありますから」
「胸張るなコラ。見てるこっちが悲しくなる。それよりこれ羽織ってろバカ」
投げつけられたのは女物のパーカー。そんなものまで準備しているところを見れば
なんだかんだいっても、この男の職業意識だけは大したものだと思ってしまう。

ともかくいつもより軽めの罵倒のあと、打ち合わせ自体はスムースに進んだ。
明日の予定確認。衣装のチェック、挨拶が必要な相手の確認、その他もろもろ。
指示内容を書き込んだ私の台本を見せ、チェックしてOKならば打ち合わせはおしまい。
届くだろうと思い、座ったままでプロデューサーに手を伸ばした。
目を逸らしながら受け取った彼は、即座に丸めた台本で私の頭を引っぱたいた。

「い、痛いです。何をするのですか!」
「それはこっちの台詞だ。お前、なんでノーブラなんだよ」
「…ふぇ?」
「見ちまっただろ、お前の乳を! あークソッ、まったくお前は本当にロクなもんじゃない」
乳って…え、えっとそれは……胸が見えてしまったということ?
確かキャミにはカップがついているから、大丈夫だって思うのだけど。
俯いて胸元を覗いてみたら、たしかにカップが浮くからバストが丸見えになる。
だけどそれがどうしたのかしら。女の子の胸がそんなに珍しい?
さっき頭を叩かれたから仕返し、ちょっと冷やかしてやる。

「女の子の胸なんて見慣れていると思っていました。随分と初心なのですね」
「ああそうだ。あんなペッタンコを見たのは初めてだ。それよりさっさと部屋帰って寝ろ」
「分りました。ですが、あの……そこまでショックなことなのですか?」
「ショックだあ? ちげーよ馬鹿たれ。お子様じゃあるまいし」
「ではなぜそんなに……?」
「あのな如月。俺がアイドルを商品扱いするのは綺麗な女の子と一緒にいて余計なことを
考えないようにただの商品と思い込むことにしてるんだ、わかったかボケナス」
「茄子は好物です。それと、あの、あと一つだけ」
「聞きたくない、いい加減にしろ」
「私、ペッタンコではありません」
無表情で私に歩み寄ってきた彼のただならぬ気迫に、思わず後ずさってしまう。
彼はその私の手首を掴むと、無造作に頭の上に持ち上げて壁に押さえつけた。
「……な、何を」
「一回しか言わないから黙って聞け。本当は一回言うのだって嫌なんだが……
今度あんな真似しやがったら、服ひん剥いてその貧乳を丸出しにしてやる」
「…………」
「いいな、今度部屋に来やがったらその場で押し倒すぞ? 
これは脅しじゃないからな。分ったら部屋に戻ってゆっくり休め」
手首が解放され、彼の手が頭に伸びるから引っぱたかれると思ったら
その手は頭を軽く撫でただけだった。


部屋に戻ってそのままベッドに潜り込んだのは寝るためではない。
下着の中に手を差し入れると、そこは先ほど感じたとおりになっていた。
彼の部屋で濡れ始めたそこは、もう下着にしみができるほど溢れてきている。
そう、あの男の言葉のおかげで。
部屋を追い出される前に言われたあの言葉。
決して本気ではないだろうし、間接的な表現だけどそれが意味するところは、
私を押し倒して無理やり犯すということだ。

それが埋もれていた記憶を掘り起こし、空っぽの体に火を点した。
あの人との最後の夜、最後にしたセックスの記憶。
押し倒され、後ろから犯され、初めて性の快感を覚えたあの夜。
それを思い出しながら指を奥まで伸ばしていくのだけれど
脳裏に浮かぶのはあの人ではなくあの男の冷たい目つき。
それでも構わなかったし、記憶が鮮明な分むしろ都合がよかった。
私は着ているものを全部脱ぎ捨て、足を大きく開いてもう一度そこに手を伸ばすと
目を閉じて頭の中でシーンの再現を始める。

《犯してやるぞ、千早》
あの男の部屋。彼は私をベッドに押し倒して乱暴に服を剥ぎ取っていく。
下着も無造作に外されて裸にされると、彼の手が無防備な体に近づいてくる。
胸を揉まれながら、もう片方の手が閉ざした足をこじ開けそこを探る。
乱暴な言葉とは裏腹に、繊細で丁寧な指使いのせいですぐあそこは熱い粘液が溢れ
指で掬い取られたそれを乳首に塗りつけたりしながら、あの男の顔や言葉を思い浮かべて
決して満たされることのない空虚な行為を私は何度も繰り返した。
彼の脅し文句は私を戒めるための苦肉の策だったのだろうが
それは彼の意図とは全く違う形で私の心に刻み込まれることになった。

夜通し自慰行為に耽った私が眠りについたのは明け方近くのことだったはず。
翌朝ロビーで合流したときのあの男の驚いた顔は見ものだった。
寝坊気味で身支度がきちんと出来ていなかったせいもあるだろうけど、
その理由はあとで鏡を見て納得した。
髪はくしゃくしゃ、腫れぼったい真っ赤な目の下には隈までできていたのだから。

シャワーを浴びて体にこびりついたままの昨夜の残滓と臭いを洗い落としながら
私はあの男の顔を思い出してはクスクス笑っていた。
髪を乾かし、メークを整え、着替えをしてもまだ笑いは止まらない。
人前では我慢しても、それ以外では思い出すたびクスクスと笑い続けるものだから
あの男は毒気を抜かれたように私への罵倒を忘れ、今度はそれを物足りないと考える
自分が可笑しくて笑いがこぼれる。

以前好奇心から試した時は、終えたあとの空しさや罪悪感のせいで控えていたけれど
それは単に方法を間違えていただけだったみたい。
こんないい気分になれるのだから我慢することなんてなかった。
それ以来自慰は私の習慣になり、最初は回数・頻度とも控えめだったのだけれど
歯止めが無ければ、快楽を求める行為がエスカレートするのに時間はかからなかった。

あの男は気に食わないけど、そのきっかけを作ってくれたことは評価していい。
だからする時には空想のベッドに招待してあげるのが私なりのお礼。
それにあの男のデリカシーの無い暴言も役に立ってくれる。
言葉でいたぶり、乱暴に服を剥ぎ取られ、それから犯される。
優しくて丁寧な愛撫よりも無理やり犯されるシチュエーションを想像するほうが
興奮するし刺激が大きいのはこれまでの経験で実証ずみ。
あの男と一緒にいることが苦痛でなくなったのは自慰のおかげだし、
罵倒されることですら、私の密かな喜びになっていた。

ベッドに入り目を閉じてとすぐ、あの男の台詞を再生する。
<今度あんな真似しやがったら>
あんな真似。そう、彼の目の前でシャツをはだけようとしている私。
<その場で押し倒して犯す>
次の瞬間には固いフロアに押し倒され、私の上にのしかかってくるあいつの影。
(駄目です、やめてください)
影が鮮明になってあの男の姿になると、下着に手をかけいやらしい笑みを浮かべこういう。
<犯してやるっていっただろ?>

形ばかりの抵抗。力のこもっていない抗議の声。
その間にもブラジャーが押し上げられ、胸がさらけだされてしまう。
<ここはガキみたいに小さいが>
彼は私のささやかな膨らみを嘲笑いながら、手を下にすべらしていく。
<こっちは一応女なんだな、こんなにぐしょぐしょに濡らしやがって>
違う、そんなのじゃない。私のそこはあの人だけのもの。
触らないで、いやだ、いや、いやいや、やめてください……
そんな悲鳴をまるで無視して、男の手がわたしの下半身に伸びていく。

くちゅり。
温かく湿った感触を指が探り当てると、もうあとはお決まりのパターン。
あそこを開き、指を入れながら想像する通りクチュクチュとかき混ぜ刺激する。
やがてその時、指をもう1本増やすとクライマックス。
いやだいやだとうわ言のように叫びながら、あの男のペニスで貫かれる想像に悶え
そのまま快楽の果てらしき場所に運ばれ果てる。
自分の指で得られる快感は、逞しい男性器が与えてくれるそれと比較にならない。
だから一度では足りずに、続けて二度、そして三度。
体も心も消耗しきった頃、ようやく私は眠りの底に落ちていく。

けれど、いいことは長続きしないもの。
何を言っても機嫌よく従う私をあの男は不審に思ったらしく、そのうち心配そうな
視線を向けるようになり、例の罵倒もすっかり影を潜めてしまう。
そうなれば自慰の時に思い浮かべる刺激も薄れてしまう。
足りないものは回数を増やすしかなく、体力の限界を超えても私は指を止められず
日付が変わり明け方近くまで行為が及ぶこともざらになった。

事務所に顔を出すと、会った人が皆一様にぎょっとした顔をする。
鏡を見たときにおかしなところは無かったはずなのに、メークが変だったかしら?
「おい如月、顔色が悪いが寝不足か?」
心配そうな声でいうあの男の顔が、視界の中でぐらぐらと揺れ始める。
「お、おい如月、どうした、おい!」
そんなに慌ててどうしたのですか……、揺れています…けど………

次に目を覚ましたのは病院のベッドだった。
腕に繋がった点滴と真っ白な内装を見て、自分の置かれた状況が理解できた。

「あら、眠り姫がようやくお目覚めね」
ベッドの横に音無さんの穏やかな笑顔があった。
「あのドS男、過労で倒れるほどこき使って無いなんて言っているけど、どうだかね」
「過労……ですか」
「そうよ。だから千早ちゃん、今は体を休めることだけを考えなさいね」
リンゴの皮を剥きながら、音無さんは割りと真剣に憤っているらしい。
確かに事情を知らない人が私たちを見てそう思うのは無理も無い。
困ったことがあったら何でも相談しなさいと言ってもらえるのは有難いけれど
過度の自慰が過労の原因なんですと打ち明けられても困るだけだろう。


ただあれほど耽った自慰も、入院してからはするどころか考えさえしていない。
どれだけ昼寝をしても、夜ぐっすりと眠れるのだから当然かもしれないけれど
あの異常な日々を乗り越えられたのかと思ったのはぬか喜びだった。
それが証明されたのは入院してから三日目、しばらく顔を見せなかったあの男が
現れた面会時間を過ぎた夜更けのことだった。
トロトロした浅い眠りの中にいた私は、自分を見下ろす気配に気付いて目を開ける。
憔悴した顔に珍しく無精髯を浮かせた彼は私の寝顔を見つめていたらしい。

「悪かったな、如月」
「何故あなたが謝るのですか」
「担当アイドルが体壊して入院したのを、俺以外誰の責任だっていうんだよ」
「でもその顔…そんな風には思ってなさそうですけど」
布団の中でこっそり手をあそこに伸ばしたのは、ちょっとした思い付きだった。
この男に見つめられながらしてみれば、どんな風に感じるだろうかと。

「確かにお前さんはもっとタフだと思っていたけどな」
「ご覧の通りです。私だってか弱い女の子ですから」
「こきやがれ。あれだけ罵倒してやってもどこ吹く風だったくせに」
「あれは愛の鞭なのでは? 私が倒れたのは別の理由です」
「それは……聞いたらお前は話してくれるのか?」
「理由も何も……あなたが言い出したことじゃないですか」
今更とぼけないでくださいね。
笑顔を作って見せながら、指先をそっとパンツの奥に忍ばせていく。
表側は乾いていても、開いた中はもう熱く潤み始めているのがわかる。

「ですから、んっ……よく考えれば思い出せるはずです」
指を入れた刺激でつい体を震わせてしまったのは、この男に気付かれなかった。
私をこんな風にした張本人の目の前でする刺激は想像以上に凄かった。
体の震えや漏れそうな声を我慢するたび、指をいれたあそこがぎゅっと締まり
そのたびに背筋がぞくぞくと震えるのもたまらない。

「それより、もう体調も回復しました。そろそろ退院さえてもらえませんか?」
人気アイドルを長期に渡って遊ばせるリスクはこの男も分かっているはず。

「精神的なストレスだったと思います、夜眠れなかったのは」
「ストレス……だった?」
「あの人のこと……考えると眠れなくなっていましたから。でも今はもう平気です。
なんせ暢気に昼寝までできるくらいですから」
“あの人”の名前を出したことで、この男にしては珍しくうな垂れた。

それをみた瞬間私は達していた。

私が気付いたことは二つ。
今までの方法が間違っていたこと。そして彼こそが大切な存在だということ。
だから今度こそ手放さないようにしなければならない。
そのためにもまずはここから出て、それをより確実にしなければ。

「本当に大丈夫なんだな、俺はお前を信じるしかないんだぞ」
「私はあなただけを信じています。それで十分かと」
濡れた指をシーツで拭うと、布団から出してあの男に差し伸べた。
彼はその手を取って力を込めていった。
「分った。もう一度やり直そう」

翌日私は無事に退院することができたのである。



「あのプロデューサー、以前のような話し方に戻してもらえませんか?」
「以前って、ああいうのは嫌じゃなかったのか?」
「いえ。あの方が気合も入りますし、二人だけのときだけで構いませんから」
「まあ……やっとプロデューサーって呼んでくれたしな、如月がそういうなら」
「あの、もう一つ……如月ではなく名前で呼んでいただければ」

真剣な顔で真っ直ぐ見上げれば、彼は疑いもせずお願いを聞いてくれる。
百戦錬磨の敏腕プロデューサーといっても、所詮男の人なんて単純なものだ。
彼の指示に忠実に従って仕事をして、時折ほんの少し甘えたお願いを囁いてみせる。
それだけで万事が上手く進んでいく。
時々自分で触れることはあるけれど、本当の楽しみを知っているから
もうあの時みたいなことにはならない。
その時が来るまで我慢することだって楽しみの一部だと思えるのだから。



待ち望んでいた機会が巡ってきたのは、退院から一ヶ月後のことだった。

「同じ部屋にして欲しい?」
「あの、言っておきますけど変な意味ではありませんから」
「んなこと分っているよ。でもなんでだ?」
「それは……こういう機会に仕事以外のお話もできればと思って」
「ふむ、それはいいけど今回は3泊あるから、途中で変更とかいうなよ?」

うまくいった。
時間と手間をかけて準備をした舞台がようやく巡ってきたのだ。
仕事のステージも楽しみだけど、それと同じくらいの楽しみも待っている。
幸せというなら、アイドルになって一番大きいのじゃないだろうか。


「リハでは流せなんて野暮は言わないが、先輩アーティストの方々は顔色変わってたぞ」
「ふふっ、それは申し訳ないことを」
「いいさ。それより明日の本番は連中も本気で来る。火をつけといて喰われるんじゃねぇぞ」
「望むところです、プロデューサー」
「とまあミーティングは以上だ。千早からは何かあるか?」
「いいえ、特には。それより最近プロデューサーは私に甘いのではありませんか?」
「そうか? 甘やかしているつもりはないけど……なんでそう思うんだ」
「いつだったか、こうしてベッドに座っただけで凄く怒られましたけど」
「あれは千早が変な色仕掛けで迫ろうとしたからだろうが」
「あ、あれは……プロデューサーをからかっただけです。変なんて失礼です」

平和なミーティングが終わり、他愛のない雑談も話題が尽きればあとはもう
お風呂と寝る以外にすることはない。
けれど私には待ちに待った大切な用事が控えている。
そろそろいい頃かと、プロデューサーにビールを勧めて自分はベッドに入る。

「千早ちゃんはもうおネムなのか?」
「ええ。ですが興奮で寝付けそうにありません。何かお話してください」

そういいながら、シーツの下で帯を解いて浴衣の前を寛げる。
お風呂上りから下着はつけていないからそれだけで準備は完了。
上機嫌でビールを味わう彼を見ながら、開いた中にゆっくり指を沈めていく。
長い間我慢しただけあって、私のソコはもう熱く湿った沼地のようだった。

彼の話に相槌を打ちながら、沈めた指をゆっくりと出し入れする。
部屋の明かりは落としてあるから、上気して赤い顔がばれる心配はないけれど
声だけは誤魔化しようがないから、時折深呼吸に紛れ込ませた吐息をもらし
どうしてもまずいときは歯を噛み締めて声を殺す。
彼のすぐそばで顔を見ながら、ばれないようにする自慰。
入院中に感じたように、いや長い間我慢した分快感はあの時よりさらに深い。
けれど何か物足りなさを感じたのも事実だった。
もっと私の方を見ていて欲しい、いえ……私に触れてみてほしい。


彼の話が一段落したとき、視線をあげて彼に囁きかける。
「プロデューサー、今日のリハは上出来でしたか?」
「んっ? ああ、良かったぞ」
「では、その……頑張ったのですから……ほ、褒めてください」
彼は無言で私の方に体を向けると、頭をそっと撫でてくれた。
「こういうのでいいのかな」
「は、はい……んっ、はぁっ、あの……頬も」
「とんだ甘えん坊だな、千早ちゃんは」

呆れた声を出しながらも、彼は嬉しそうに私の望むことをしてくれる。
その彼の体温を感じながら、私は指の動きを早く大きくしていく。
彼に見られ、触れられることで刺激と快感は一気に加速する。

あと少し、もうほんの少しで達することができそう。
前には何度繰り返してもたどり着くことができなかった本当の頂点に。
胸を揉んでいた手をシーツから出し、頬に添えられた彼の手に絡ませる。

「プロデューサーの手、暖かいです……」
「千早の頬は熱いくらいだぞ、大丈夫なのか?」
「ええ、体がぽかぽかして、今日はよく眠れそうです」

その時、体の奥底から湧き上がったものが大きくうねりながら理性を流し去り
私は掴んでいた彼の手を唇にあてながら、溜めていた息を大きく吐き出して
彼を感じながら、私は果てることができた。


目を閉じた私を眠りかけたのだと思ったのだろう、
彼は絡めた手を外すともう一度頭を撫でてくれた。
「おやすみ千早」

耳元の囁きを心地よく感じながら、私は眠りに落ていく。


出番を終えた私にあちこちで浴びせられる称賛の熱気で酔ったような気分になっている。
全力を出し切れた満足感と観客席との一体感。
どこまでも歌っていられるような高揚感は、ホテルに戻ってもまだ続いていた。
彼の胸に抱きついたのはただ純粋にそうしたい、そうされたいと考えた結果だった。
そして彼も拒絶などせず、しっかり私を抱きしめてくれる。

「よくやったな千早。ご褒美……頭を撫でるくらいじゃとても足りないかな」
「いえ……こうしてもらうだけで十分です」
彼の胸に顔を埋め熱い体温と男性らしい体臭を感じ取ったとき
本当に欲しいものはこれだったんだと気付いた。
これがあれば昨夜よりもっとよくなるはずだから、これはベッドで……
その夜はもう時間も遅かったから、お風呂に入って早く寝ようということになった。
ベッドに入り明りが消された早々、私は浴衣を開いて準備を始める。

「今夜はお話しなくていいのか」
「そうですね、せっかくなので少しだけ」
そうして私は彼の語る声を聞きながら、ゆっくり指を動かし始める。
快楽を期待する私の体はすぐに熱い粘液をとろとろと溢れさせていく。
指を入れてかき回すだけでは物足りず、指で掬い取って乳首に塗りつけてみたり
口元に運んでいやらしい匂いと味に自らの興奮を高めてみたり。
そうなるともう我慢なんかできそうになかった。
欲しいものがすぐ傍にあり、邪魔するものは何もない。
体を覆い隠していたシーツを跳ね除け、ベッドから降りた。

「お、おい千早、どうしたんだよ」
「欲しいものがあるんです」
「欲しいものって、こら浴衣が脱げかけだぞ。寝ぼけているのか?」
「大丈夫です、邪魔なら脱ぎます」
私はベッドに飛び乗ると、呆気にとられたまま身動きできないらしい
プロデューサーの体に跨って下半身をこすりつけた。
「ご褒美……いただきますから、ちゃんと見ていてください」
彼を見下ろしながら手を股間に差し入れていくと、そこはちょうど彼の股間でもあり
沈めた指先を動かすにつれ手の甲に彼の性器の感触が伝わってくる。
最初は柔らかかったそれが、あっというまに固く大きく膨らんでいくのがわかる。

「な、なにやってんだよお前は……」
「んっ…んはぁ、み、見てわかりませんか?」
「そうじゃない、止めるんだ千早」
「大丈夫です、多分……んんっ、いっ……すぐにイクと思います、あぁっ!」
「た、頼む千早……止めてくれ、一体どうしてこんなことを」
「どうしてって……あっ、あなたが言ってくれたからじゃないですか」
右手の動きは止めないまま上体を前に倒し、左手を彼の頬に添える。

「お忘れですか? いつかホテルに泊まったときのこと」
「俺の部屋でミーティングしたときのあれか」
「あの時あなたが私を犯してやるっていった、それがきっかけで覚えたんです。
あれからいつもあなたに犯されることを想像しながらしていました」
「まさか千早、あの時からずっと、いや……倒れた原因も」
「ふふっ、やっと正解にたどり着きましたね」
「違う、俺は……ただ脅かすだけだったんだ、そんなつもりでいったんじゃない!」
「どういうつもりでもいいじゃありませんか。私これで満足できるのですから」
「いいから止めて俺の上から降りろ」
「いやっ、まだだから、もうちょっと、んはぁっ、くぅ……」
「いい加減にしろ!」
「ああっ! もっと強く罵ってください、怒ってください、虐めてください!」

やっとあの口調で言ってもらえたのに、彼は口を閉ざすと
強張った表情が虚勢とともに徐々に崩れていく。
彼が泣き顔になっても私は止めないどころか、さらに手の動きを早めていく。

「あっ、いいっ、いきそう、もう直ぐいっちゃいそう……」
彼の勃起に手の甲が触れると、久しぶりのペニスが急に欲しくなってしまい
指をあそこから引き抜くと、そのまま彼の固い膨らみに擦り付ける。
浴衣越しでもそれはとても熱く、アソコでこね回すたびぐちゅぐちゅ濡れた音がする。

「凄い……プロデューサーの、固くて大っきい……あっ、あああっ!」
「千早、ああ、くそっ、千早っ!」
彼は涙を滲ませながら腰を突き上げはじめる。
「プロデューサー、嬉しい……もっといっぱい、私のこと虐めて、犯してください」
愛液でぐしょぐしょの手で彼の頬をそっと抱きしめる。
「ほら、こんなに濡れてるいやらしい私を……」
彼が舌を伸ばして濡れた指を舐め取ってくれる。
「あぁっ、おいしいですか……プロデューサー、もっといっぱい」

彼の両手が私の腰を掴み、激しく押し付けられた彼のペニスの刺激が
私のアソコの一番気持ちいいところを擦るたびに意識が飛びそうになる。
まとわり付いて邪魔になる浴衣を脱ぎ捨て、彼が腰を突き上げる動きに私の腰を
シンクロさせると、ペニスがクリトリスを直撃するたび快感で叫んでしまう。
そして体を這い回る手が乳房を掴み、指先で強く乳首をひねりあげられた瞬間。
それまでに経験したことのないような強烈な電気が全身を走り抜け
それが頭に届いた瞬間、私は意識を手放して彼の上に崩れ落ちた。



翌朝すっきりと目覚めた私は、彼に抱きしめられていることに気付いた。
体が浴衣に包まれているのは、あの後で彼が着せてくれたのだろう。
さすがに下着までは無理だったようだけど、それでも気遣いは嬉しかった。

何ひとつ隠さず全て曝け出した私を、彼は受け止め望みに応えてくれた。
まだ完全に繋がったわけではないけれど、そうなるのは時間の問題だろうし
もしかしたら目覚めた彼に求められるかもしれない。
彼との初めては綺麗にした体で迎えたいから、シャワーを浴びておこう。
まだ眠りこけている彼を起こさないよう、そっとその腕から抜け出した。

ベッドの間に落ちていた下着を拾い集めているとき、それに気が付いた。
鼻をつく刺激臭の元はゴミ箱に捨てられていた丸めたティッシュ。
久しぶりに嗅いだ精液の匂いは頭がくらくらするほど濃厚だった。
シャワーの奔流の下、私はそのことについて思いを馳せる。

彼はどういう気持ちでアレを出したのだろう。
いつか宣言したように、私に手を出さないため自ら処理をしたのか、
それとも私が見せた痴態に男の本能が抑え切れなかった結果か。
いずれにしろ彼に性欲が存在し、その結果がここにあるわけだから
それは私にとっては喜ぶべきことだ。

でも。
昨日の夜、彼は私に応えてくれたけど、私はまだ彼に応えてあげていない。
私は彼の体で満足をもらえたけれど、彼は寝ている私を見ながら侘しい気分で
射精したのかもしれない。
ティッシュなんかじゃなく、私の体で受け止めてあげることができればよかったのに。

そう……だったらそうしてあげればいいだけでしょ?


◆第三部 


濡れた体をバスタオルで拭い、バスローブを羽織ってから髪を乾かす。
丁寧に髪を梳かし、それからファンデーションとルージュで軽くメークアップ。
艶のあるグロスは朝の光を浴びてキラキラと輝くはず。
彼が気にいってくれるといいのだけど……そんな私の期待に応えるように
彼は目を覚ましていて、カーテンを開いた明るいベッドで私を待っていた。

「おはようございます、プロデューサー」
「……おはよう千早。まずはそのバスローブ、前を閉じようか」
「それより他にいうべきことがありませんか?」
彼が黙ってしまったので、使わなかった自分のベッドに腰を下ろした。
私からは彼の横顔が見えるけれど、彼は自分の爪先をただじっと見ている。

「昨日な、夢を見たんだ」
「夢、ですか」
「ああ、変な夢だった。変というより見てはいけない夢さ。全くとんでもない話だよ」
「とんでもない夢だなんて……プロデューサーには悪夢でしたか?」
「……いや、見たかった夢だよ。とんでもないのは夢を見たあとの話さ」
彼はそういって視線をごみ箱に向けたまま黙り込む。

「夢の話はそれでおしまいですか?」
「ああ、だから着替えるんだ千早。でないと……」
「変な夢を見てしまう? それとも怖い夢?」
「両方だ、そしてそれは取り返しのつかないとんでもない夢になる」

そういうことなら。
私は立ち上がるともう一度彼のベッドに体を乗せる。
胡坐をかいた彼のそばに膝をつくと、耳もとに唇をつけて囁いた。
その夢、私に見せてくださいと。

唐突に痛みを感じ、その数秒後ようやく意識が追いついたときには
私はベッドに突き倒され、のしかかった彼に唇を塞がれていた。
それが彼と交わす初めてのキスと気付いたときには、彼の舌が私の中で
乱暴に蹂躙を始めていた。
荒い鼻息が交差し、酸素を求めて逃れようとしたら頭を押さえつけられる。
侵入はさらに乱暴になり、キスされるというより彼に貪られている錯覚に陥る。
口の周りはお互いの涎でべとべとになり、彼はそれを啜り上げ飲み干すと
今度はお返しとばかりに注ぎ込んでくるから、舌でピチャピチャ音を立てて受け止める。

そうやって荒々しく乱暴な接吻を済ませると、彼は顔をあげて私の目を覗き込む。
「この夢は覚めるまで、いや覚めても逃げられないんだぞ、それでもいいのか?」
「……途中で怖くなったらやめてもらえますか?」
「無理だ。泣き喚いてもやめない」
「本当に? 絶対にですか?」
「くどいぞ、千早」
「なら……犯してください、私のこと滅茶苦茶に、乱暴に!」

次の瞬間、あざができるほど強く掴まれた手首が頭の上に引き上げられ
彼の唇が首筋に埋められる。
そして頚動脈に沿うように彼の舌が首筋を這い回り
その強い刺激だけで私はもう声が漏らし始めてしまう。

彼は私のことをどんな風に苛めてくれるのだろうかと考えれば
それだけでもう足の間は熱を帯び、まだ何も触れていないというのに
刺激と快感は昨夜のアレを上回っている。
もっと乱暴に苛めて欲しい。痛い思いをしても構わない。
痣や傷がつくくらい、あなたの思いを私のこの体にぶつけて欲しい。

首筋から喉元を経て鎖骨、彼はひたすら唇と舌だけを私の体に這わせている。
剥き出しの脇の下まで舐められそうになり、もがいて逃れようとしても
押さえ力は強く、まるで肉食獣に貪り喰われる獲物のようだと思いながら
それならいっそのこと、吸われ舐められるだけではなく鋭い牙を突きたてられ、
噛み砕かれた血肉を彼に捧げてしまいたいなどと夢想している。
その思いが通じたわけでもないだろうけど、彼は手首を掴んでいた手を離すと
その手で乳房を鷲づかみにする。彼の手のひらが私の小さい膨らみを絞り上げると
赤く充血した乳首がぴょこんと顔を出し、そこに彼の口が近づいてくる。

「た、食べてください……わたしのおっぱい」

無意識にそんなことを口走った私を見て、彼は歯をむき出してにやりと笑う。
彼の舌がペロリと乳首を舐め、からかうように舌が絡みながら唇の中に吸いこまれると、
今度は強く吸われて痛みすら覚えるくらいなのにさらに強く揉みしだかれ絞り上げられた
乳房の先に震える乳首を歯に挟んでギリギリと力を加えてくる。

「い、痛い……やっ、いやぁ」
「やめてほしいか」
「ゆ、許してください」
途端にパチンという音とともに頬を痛みが走る。
「口答えするな。千早は俺の言うとおりにすればいいいんだ」
「……」
「返事は!」
もう一度頬が張られ、痛みと同時に湧き出た粘液が太ももに伝うのを感じる。
「おいおい、乳首を喰われるのはもっと痛いぞ?」
「だって……痛いのに気持ちいいからぁ、あぁ……」

敏感な乳首は、舌先を掠められるだけでも声が出てしまうくらいなのに
こんなに強く乱暴に弄られると、その痛みすら大きな快感に変換されてしまう。
自分では小さめだと思っていた乳首が、今では固く大きく膨らんでいる。
そしてさんざん舐めつくした彼は、今度はがぶりと乳房に噛み付いた。

「痛っ! やっ、ひいぃ……ひぐぅ」
乳首の根元に突き立てられた彼の尖った犬歯。
力加減が絶妙で、痛みと同時に快感も与えられながら増えていく彼の歯形を見れば
本当におっぱいを食べられているみたいで、たまらない気分になる。
「痛い目に合わされているのにこんな感じやがって」
「んっ、やぁ、だって……食べられるの、気持ちいいから」
「そうか、そんないいならもっと美味しいところも食ってやるよ、この変態」
「ちがぁ、あっ……変態じゃない」
「千早は立派な変態だよ。自分で確かめてみろ」

彼に掴まれた手首が下半身に突っ込まれる。
触れる前からあそこがぐしょぐしょに濡れきっているのは分かっていた。
さっきおっぱいを食べられているときだって、アソコから溢れるいやらしい液は
まるでおしっこを漏らしたのかと思うくらい沢山だったのだから。
「どうなってる、千早のオ○ンコは?」
「濡れてます」
「濡れてますじゃないだろ? ぐしょぐしょじゃないかよ。
それとも千早は気持ちよすぎておしっこを漏らしたんじゃないか?」
「違う、漏らしてない!」
「こら暴れるな、俺が味わうついでに確かめてやるから」

彼の言葉で何をされるかが分かってしまう。
だめ、そんなところに口をつけるなんて駄目、汚れているのに
なんで私の性器を舐めるなんてこと……

「ほら、足広げないと味見できないだろうが」
「駄目です、そんなとこ舐めちゃ……いや、やめてください」
「また口答えか。ほんと千早は懲りないな。そんな痛い目に遭いたいか?」
「いやいやいや、そんなことしないで、舐めないで」
「お前、ひょっとしてここを舐めてもらったことないのか?」
「無いです、だってそこ汚れているし……恥ずか…痛い!」

最後まで言う前に私の口はひねり上げられる。
「口答えに反抗、お仕置き決定だがその前に教えてやるからよ」
「やぁ、やめて……本当にそれはしないで!」
「一回経験したら、やめないでっていうようになるからな」
抵抗はしたけれど、彼の腕力の前では何の意味もなかった。
彼は足首を掴みあげると、力任せに持ち上げて開かされてしまい
私の恥ずかしい部分が彼の目の前に晒される。
私が見上げる先で、彼が大きく口を開くとそのままあそこに被りついた。

途端。
「ひぃやぁあああん、ぃやああ、だめぇ、あっ、ああぁん!」

彼の口が私の性器全体を覆い隠すように吸い付いて
じゅるじゅる音をたてながら、たっぷり溢れた粘液を吸い取っていく。
アソコに唇が触れただけでも意識が飛びそうになるくらいだったのに
吸われる刺激と震動、それから舌で性器をなぞりえぐられる感触で
さらにやらしい液が溢れさせてしまい、抵抗どころか悲鳴のような
喘ぎ声をあげるだけしかできない。

膣の中を探るように舐めまわされ
花びらのように開いた襞をさらに押し広げられ
おしっこが出るところもほじくられ
それどころか降りていった舌先はお尻の穴まで突付いて
そしてそのどれもが気が狂うくらいの気持ちがいい。
けれど、本当の快感はその先にあった。

私自身よく知らなかった小さな肉の芽のような部分。
ぞろりと舌が舐めあげただけで私は小さな悲鳴を上げ
舌先で軽く突付かれたとき、無意識に太ももで彼の頭をしめつけ
最後は、そこをどうされたか分からないまま体中がびくびくと跳ね上がり、
彼の顔に向けて今度こそ本当にお漏らししてしまっていた。

「さてと、変態な千早には色々とお仕置きが必要だが……」

彼は濡れた顔を拭おうともせず、足を放り出すとベッドに腰をかけ
私の腕を無造作に引っ張るとベッドの下に体を落とされた。
何とか体を支えると、彼の開いた足の間に引っ張り込まれた。
目の前には浴衣を盛り上げている大きなふくらみがあった。

「上手にできたら痛いお仕置きは許してやる。ほら、ぼさっとしてないでしゃぶれ」
「…………?」
「どうした、早く咥えろよ。あいつのチンポはしゃぶってやってたんだろ?」
「し、してません……そんなことは」
とぼけたわけではない。
何を銜えてしゃぶるのかは彼の命令の言葉だけでわかっていた。
つい先ほど自分がされたのと同じ、性器への口による愛撫。
自分がそれをした経験はないし、そのことの抵抗も消えてはいない。
もしも処女の頃の私だったら、悲鳴をあげて本気で逃げ出したであろう行為。
男性器をこの口に入れるだなんて。

「嫌ならしなくてもいいぞ。無理やり突っ込むだけだからな」
彼のことさら冷淡を装った声を聞いて、またもアソコがじわりとうずいた。
やはり私はとんでもない変態なのかもしれない。
性器を口に含む決心をしながら、彼の言葉で考えを変えたのだから。
無理やりさせられるほうが感じるに違いないと。

「ん? 千早ちゃんはされるのはいいけど、するのは嫌みたいだな」
私は彼を上目遣いで見上げると、唇をぎゅっと閉じて首を横に振る。
「おしゃぶりするのが嫌なら、ちゃんと言葉でいわないとだめだろ。
あなたの汚いチンポなんて大事な口にいれたくありません、と」
乱暴で下卑た言葉ですらどんどん私を昂ぶらせていく。
そしてもう一度無言で首を振った私に彼が平手を一発。
「じゃあいいんだな、変態のちーちゃん?」
口を閉じたまま彼を睨みつけた。
途端、彼の手が私の顎を掴み上げ、強引に口が開かされる。

「絶対に歯を立てるなよ?」
直後、私の頭は無理やり引き寄せられ突っこまれたペニスで口いっぱいになる。
むせそうになるのを耐えながら、歯があたらないよう顎を限界まで開く。
辛いのは大きさだけ、思ったより柔らかくて弾力もあり味も臭いも不快というほどじゃない。
むしろ舌先に触れる表面は滑らかで、時折びくんと震えるのが彼の快感だと思うと、
口内の異物が愛しく思えてくる。

けれど感触にようやく馴染んだと思ったら
彼は両手で私の頭を掴み、前後に大きく動かし始めた。
私の口を性器に見立てた彼の暴力的な性行為。
口を大きく開いて歯が当らないようするのが精一杯なのに
今度は腰の動きまでが加わり、ペニスの先端が喉をこすっていくたび
えづきそうになりながら涙が滲んでくる。
溢れ出した涎で口の周りがべとべとになり、彼の動きが激しさをますたび
その飛沫が顔に飛び散っていく。

「気持ちいいな千早の口は。その嫌そうな顔も最高にそそられる」
「んっ、んんっ……んぐぅ」
自分の体が性のオモチャにされ虐げられていること。
熱いあそこからとめどもなく大量の粘液を溢れさせながら
彼の動きにあわせてペニスを追い、口から離さないよう顔を振る。
「ううっ、舌をからめろよ……そうだ、唇締めて、あっ、それいいぞ」
歯を立てそうになるたび、あるいは喉を突かれてむせるたび
意識よりも前に体が反応して、ペニスを銜える行為に馴染んでいく。
うまくできれば、すぐそれがペニスと彼の声に反応となって現れる。
そう、私の口が彼の性器に快感をもたらしている……

「そうだ千早、気持ちいい……ご褒美をたっぷりやるからな」
彼の声に余裕がない。セックスの時、男の人がそうなる理由は…知っている。
「一滴も零すんじゃないぞ、全部口で受け止めろ」
かつて一度だけ舐めてみたことのある精液。
それを彼にそのまま口の中に注がれると考えただけでぞくぞくしてきた。
倒錯的な行為の果てに、この口で精液を受け止めるということに。
彼の動きが小刻みにせわしなくなるのにあわせ、私もペニスを強く吸い上げ加勢する。

「いいぞ千早、もうすぐ、うぅっ……い、いきそう、あっ、うああ」
最後の大きな一突きのあと、ペニス全体が一瞬ふくらんでその直後。
勢いよく放出され喉を叩いた奔流が口の中にたまっていく。
ペニスが脈打つたびに、温かくてとろりとした液体が口の中に流れ込み
このままでは溢れてしまうと思ったころ、ようやく射精は止まった。

「千早、出さずに口に溜めておくんだぞ……」
彼はペニスをゆっくり引き抜くと、ベッドから降りて私の前に腰を下ろす。
さっきまでは乱暴に私の頭をゆすぶっていたその手が
今度は丁寧に、そして優しく私の頭を撫でてくれる。
「よくがんばったな、千早。ほら口開けて見せて」
「んっ……んー?」
「いっぱい出ただろ? 千早のおしゃぶりが気持ちよかったからだぞ」
「んっ、んーんー!」
「それ、どうしたらいいか……分かるよな」

初めて口にした男のひとのペニス。初めて口で受けとめた精液。
大切な人にいただいたとても大切なもの。
それに彼の目が私に懇願しているのだもの。全部飲んでほしいって。
だから私は唇を閉じると、彼の目をみつめたまま精液を飲み下した。
大量のそれは何度も喉を鳴らさなければいけなかったけど
空になった口を彼に見せると、引き寄せられてとても優しいキスをもらった。

「でも不味かっただろ?」
「……そんなこと、ないもん」
「でも飲み込むときの千早、つらそうな顔してたぞ?」
「そ、それは……喉に引っ掛かるからです。甘くて刺激的な味でした」
「甘い……わけないよな」
「ふふっ、今度ご自分で確かめてみてはどうですか」
「俺は千早のジュースでお腹一杯」

そういって彼は私を抱き上げると、ベッドの上に横たえられる。
もう彼にさっきまでの乱暴さがないのが少し残念。
だって本当は痛いお仕置きというのを密かに期待していたのだから。
ううん、やはりそれはおねだりしないといけないことかしら。



「プロデューサー……私はまだ……この夢に満足していません」
「欲張りだな、千早は。何が足りないかいってみろ」
「先ほど……あなたのお、おち…おちんちんに歯を当ててしまいました」
「……ふむ。少し痛かったな」
「ですから、その……お、お仕置きの必要があるかと」
「いいのか千早。手加減しないから痛い思いをするぞ?」
「はい…覚悟してます。だから、その、私のことを思い切り…お、犯してください」

彼はもう一度私を抱きしめると、今までで一番やさしくて深いキスをしてくれた。


「立て千早。向こうをむいて。そう、そこで」
ベッドからおりた私は、作り付けのテーブルの前に立たされる。
天板の向こうの壁には大きな鏡があって、私と彼の上半身が映っている。

「テーブルに手をついて。足を開いて。顔はあげて鏡をみていろ」
言われたとおりの姿勢を取って前を見ると、彼が私の隣に立つ。
「千早、どうしてお仕置きされるか分かっているな」
「は…はい、先ほどあなたのおちんちんに歯を立ててしまいました」
「そうだ。俺のチンポに傷をつけた罰を受けてもらう」
「はい、覚悟……できています」
彼の手が大きく振り上げられ、次の瞬間バチンッと大きな音を立て、
彼の平手がお尻に振り下ろされた。
その衝撃は思ったよりもはるかに強く、揺らいだ体を懸命に支えながら鏡を見つめる。

「次は手加減しないからな」
その言葉通り、さっきよりもさらに強い打撃はなんとか支えきれたものの、
悲鳴だけは止めようがなかった。
3発目でお尻はひりひり痛みを訴え、熱をおびてじんじんしている。
けれど彼は止めようともせず、さらに平手を打ち下ろしてくる。

乾いた大きな音。
鋭い痛みに悲鳴と喘ぎ。
体が揺らぐたび零れて落ちる愛液の雫。

「まだ痛いのが欲しいか? それとも今度は中を虐めてやろうか?」
打つ手が止まり、真っ赤に腫れているはずのお尻を擦りながら問いかけられる。
「な、中も……虐めてください」
「欲しいんだな、俺のチンポが」
「は、はぃっ……欲しいです、私のアソコを……犯して欲しくて」
「ああ、さっきよりもぐしょぐしょに濡れているからな」

彼の体が後に回る。
鏡越しにぶつかった視線に私は訴えかける、早くそれを入れてくださいと……
彼の両手が腰を掴み、大きく膨れ上がった先端が濡れたアソコにこすり付けられる。
あぁ……もうすぐ、あれが、彼のペニスが私の中に……

「千早、これでお前は俺のものだ」
直後、彼の逞しいペニスが一気に私の膣を貫通し、奥にある子宮の入り口を
強く叩いた瞬間、鏡の中の私は大きく口を開いて悲鳴をあげた。
それでも彼の蹂躙は止まらず、私はがくがくと震える膝を懸命に踏みしめて
彼の激しい抜き差しを受け、だらしなく涎とはしたない喘ぎ声をこぼしながら
いつまでもいつまでも凄まじいまでの快楽に酔いしれていく。
そして意識が飛びそうになる直前、不意に彼はペニスを引き抜く。
もうおしまい……? ではなかった。
彼は私を抱えてベッドに下ろすと、大きく割り開いた足の間に体を入れて
もう一度ペニスを私につきたてた。
そうして犯されながら、今度は彼の手で、口で胸が愛撫され、唇を求められる。
息も絶え絶えになりながら、私は彼の背中に手を回してしがみつき
そうしてようやく頂点に上り詰め体をのけぞらせた瞬間、
彼はペニスを抜き放ち、私の体をめがけて射精をした。

ぱたぱたとふりかかる温かいしぶきを受け止めながら
私は目をつぶり、ゆっくりと意識の底に沈んで落ちていった……



◆エピローグ


彼と一緒にトップアイドルへの道を走り続けた私は、高校卒業前にAランク昇格を果たし
いよいよ歌手になるという夢が現実のものになろうとしている。
相変わらず仕事モードの彼は“ドS”で音無さんの心配も尽きないみたいだけど
私にとってはそれがエネルギーみたいなもの。

あの朝始まった彼との夢はまだまだ覚めそうにない。
いいえ、この夢はいずれ私が思い描くもう一つの夢へと繋がっていくはず。
彼と一緒でないと叶えられない、私の大事な未来の夢へと。
だからそのときが来るまで、私は彼に支えられて歌い続けていこうと思う。


おしまい。

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