某大型掲示板などで公開されたSSのまとめ、たまに2ちゃんスレもなWiki


「今日も酒場は平和だ……」

一人呟く。
今頃レイドックの王子一行は、とっくに大魔王の所まで辿り着いているのかも知れない。

「テリーさん、今日もいつもので良いかしら?」

「……ああ、頼む」

ルイーダは慣れた手つきでホットミルクを作る。小さじ一杯程の砂糖を入れるのが彼、テリーの好みだ。


「はい、どうぞ。……テリーさん、貴方は……本当にいいの?魔王討伐に参加しなくて」

「……」

「凄く強くて有名な剣士だって聞いたわ。でも、身につけてたものも……無くして、丸腰でここにやってきて」

「あなたもきっと、魔王を倒せる力を持っている筈なのに。今だって沢山修行してるじゃない……」

まだ口をつけていないホットミルクが、ゆらゆらと湯気をたてている。

優しい言葉遣いなのに、その内容は酷く胸に突き刺さる。
あの日の事を無理矢理にでも思い出させる言葉だ。
残念だが、彼女には知らない事が沢山ある。





「テリー、これからよろしくな」
あいつはそう言った。

「お前ミレーユの弟だったのかよ!早く言っとけよな!そんな事!ハッハッハ!!」
やけに汗臭い男だ……恥ずかしくないのか?その格好は。

「ッフン……五月蝿い、俺は姉さんが居るから着いて行くだけだからな」

「テリー……ありがとう、一緒に来てくれて……」

「姉さん……」
優しい微笑みも、身に纏う温かい雰囲気もあの日のままだ。
俺は……この姉さんの為に強くなったんだ。


その後過ごした二日間はあいつの提案から、休養も兼ねて世界の各地を回った。
三日目の早朝、あいつに呼び出されたのが事の始まりだ。

「テリー、起きてくれ。ちょっと行きたい所があるからついて来てくれないか?皆を起こさないように静かに来てくれ」

行きたい所……?どこだ、そこは。

「……わかった」

「ありがとう。さて……ちょっとルーラでひとっ飛びするかな」

「ちょっ待て!先にどこに行くのか……!!」
皆まで言えずに空に引っ張り上げられ、瞬間、固い地面に着地する。

ここは……?ダーマ……神殿?


転職か?さとりとやらでも手に入れてたのかこいつは。

「よし、テリー、ちょっとらいめいの剣を見せてもらっていいか?」

剣を見せる必要がある職業なのか?聞いたこともない。意味が解らない。

「その前に、ここに俺だけを連れて来た目的は何だ」

「それはちゃんと後で説明するからさ、ちょっと後で必要になるから、しっかり見ておきたいんだ」


嫌な匂いがする……。しかし、どうするわけでもないだろう。第一俺に何かあって困るのはこいつだ。

「……ほらよ」

「……ありがと……よ!!」
無防備な頭部に強い衝撃が走った。事態を飲み込めないまま、意識が遠のく……最後に見たのは、不敵な笑みを浮かべたあいつ……だ

った。


「本当に驚いたわ、彼に背負われて、気絶したままここに来て……」
憐憫の情が、そのしかめた顔から見て取れる。
それはそうだろう。誰だってそう思うさ。
あいつが彼女と姉さん達に何と言い訳しているのかが気になるが、まあ良い。
知った所でどうにもならない。
こうなったのは、少しでも油断した俺のミスだ。



「……ちょっと行ってくる」
思い出す度憎悪が沸々と湧き上がってくる。この感覚は嫌いだ
……嫌と言うほど、少年の頃に味わった……。

「また修行?無理しないように、ね」

「ああ、ありがとう」

毎日朝から夜まで、修行をするのは日課になっている。
あいつに全てを奪われてから、世界最強の剣を探すのではなく、自分が世界最強になる事が目標になった。
人を守る為に大事なものは、剣でも鎧でも盾でもなく、自分の強さだという事に今更気付いたのだ。
単純すぎる事、灯台下暗しとも言い訳出来ない程に、今までの俺は馬鹿だった。
その切っ掛けをくれたのが他ならぬあいつというのは、可笑しくて堪らないが。


……姉さんには、少なくとも今は会う事はできない。
いや、会いたくない。
自分が惨めで堪らないのもある。

俺があいつを圧倒する程に強くなるまで、俺は会う事は出来ない。
ただの我儘と自尊心だ。

大体は地底魔城、モンストル、ゲントの村周辺、魔術師の塔を回って、職を磨いて種と木の実を集める。
自分自身を強くする為には必要不可欠だ。

「サンチに言ったらどんな反応するだろうな。俺が剣士だって」
懐かしい、あのおてんば娘。
元気にしてるだろうか。
次もし会えたなら、昔の様に話せるだろうか。


「会ったら驚くだろうな。モンスターマスターが今や宇宙最強の剣士様だ」

それいいすぎ。か

「おっと…」
オークマンの攻撃が頬を掠める。
油断大敵。戦闘中に考え事してる様じゃまだまだだな。

隼の剣を素早く振るう。
戦闘では素早さが特に重要だ。
先手を取る事も出来るし、何より一つのモーションを早く終わらせる事で、相手の攻撃を余裕を持って避けられる。

残りの2匹を斬り捨てたら今度は天馬の塔にでも行くか。
はぐれメタルでも狩って帰ろう。


地に伏した魔物はぴくりとも動かない。
俺以外は全て斬り伏せた。

まるで、世界中でたった一人になったみたいだ。


______


「ねえ、強さって何かな?」

「何の?」

「自分の、強さだよ」

「強さは心だよ。挫ける弱い自分に勝てるなら、誰に負けたって君は強いよ。わたわた」



「ふーん……。でも人を守れないなら、自分に勝てても弱いんじゃないかな?」

「テリー、そうは言うけど、自分を守れない奴が他人を守るなんて出来ないよ」

「……それもそうだね、でもよく解らないや」

「仲間が居れば自然とわかるよ、たぶん」

「なるほどー」

「適当だなぁ」

「ふふっ」
____

「仲間ねぇ……」

居ないな、今は



モンスター仲間にするのも良いかもしれない。
やっぱり一人は寂しい
……とか言うのは柄じゃないか。

ふと気がつくと雨の匂いがする。
無数に落ちてくる雨粒
ただひたすらに地上を目指すこいつらは、何が強さかとか、寂しいだなんて思った事も無いんだろうか。

「今はひたすらに高みを目指す。それだけでいい」

そう呟いてから歩き出す。
いつのまにか、あの日から一年が経とうとしていた。





「あら、お帰りなさい」

「ああ」

「ちょっと待ってね、タオルを持ってくるから」

「すまない」

明日もまた、修行だ。
いつかあいつと大魔王を倒すその日まで、鍛錬を怠る事は許されない。

いつか、本当の強さが何かわかるまで。


「テリーさん」

「ん?」

「はい、ホットミルク」

「……どうも」

これはちょっと、格好つかないが。


ふと気が付くと彼女の目が、何か言いたそうにこちらを見ていた。

「何だ?」

「いや……テリーさんは昔はどんな人だったのかなーって」

昔……か


「何だいきなり」

「ふふ、気になっただけ。忘れてちょうだい」

「……モンスターマスターだ」

「え?」

「モンスターマスター」

「モンスターマスターって……魔物使いのこと?」

「ああ、そうだ」

「へぇ……魔物使いとは違うの?」

何故か嬉しそうに聞き返す。
どこが違うのか……というとやはり

「自分は戦わない」


「モンスターだけを戦わせるの?」

「そうだ」

「それで、戦わせてる間自分は?」

「指示を出す」

これが、自分も戦うより案外難しい。

「楽しそうね」

「まあな。だが多分思ってるより楽じゃないぞ」

「そうなの?私もできるかなーなんて思ったんだけど」

「モンスターマスターは魔物を知り尽くし、それぞれに合った指示を出して力を全て引き出さなければならない」


配合とかは言っても彼女にはよく解らないだろう。

「テリーさんなら、モンスターマスターで自分も戦うとかできそうじゃない?すっごく強そうだわ、それって」

まあ、確かに……強いかも知れないが……。

「自分も戦いながら、魔物達の状況を分析して指示を出す。それが出来ればとうにしている」

「確かにそうね……。ふふっ」

「何だ?」


「モンスターマスターについて話してるテリーさん、何だかとても楽しそうだったわ」

……

「そんなに話すテリーさん初めて見た」

「……そうか」

本当はあの世界は、夢か現かわからない。
だが、現実だったと俺は思う。
何故か?
あんなに長くて、リアルな夢があるわけ無いからだ。



「あ、そういえば」

「ん?」

「テリーさんが洞窟で拾ったって言う本を神官様に渡してたんだけど……」

ああ、あの何が何だかわからない本か

「その事について神官様が探してたわよ」

「わかった、ありがとう。行ってみる」

酒場を出て神官の所まで行く。
極めるべき職がなくなってから、会う意味も無くなったと思っていたが……。


「おや、探していたよ」

白髪白髭の老人が、髭を触りながらこちらに話しかける。

「ああ」

「そなたが拾ったと言う本だが……はぐれの悟りだ、これは」

悟り?と言うと……あの悟りか?

「そんなものが何故アモールに……」

「それはわしも解らん、まあ折角手に入れたのだ。そなた、はぐれの悟りを使ってみるのはどうか?」


考えるまでもない、使うに決まっているだろう。

「ああ、頼む」

儀式を終え、身体の調子を確かめる……
までも無かった
身体が軽い。軽すぎる。

「何だこれは!何だ?」

今なら何処まででも走って行ける気がする程だ。

「ほっほっほ、どうかね?わしも興味深い」



「とにかく……身体が羽の様だ。凄すぎる」

「ふむ……極めるとどうなるか、見ものじゃな」

「そうだな、ちょっと行ってくる!ははは!」

軽い!身体が軽い!!今なら誰の攻撃でも躱せる筈だ!

「少年の様じゃな……まるで」

魔術師の塔まで飛んで、ひたすら魔物を斬り続ける。
魔物の動きは、まるでカタツムリの様に遅い。


魔術師の塔まで飛んで、ひたすら魔物を斬り続ける。
魔物の動きは、まるでカタツムリの様に遅い。

試しに一度攻撃を食らってみるが、全く痛くも痒くもない。

しかし……力がかなり落ちたな……。
そこは、手数でカバーといった所か。

結局その日は深夜まで戦い続けた。


「ん……」

窓から差し込む日の光で目が覚める。
昨日あれ程戦ったのに、疲労感はほぼ無い。

それより気になるのは、戦闘の途中に感じた……魔力を全て解き放つイメージ……。

「ちょっと外の魔物に試してみるか」

着替えて朝食を食べると、賢者なや転職してから外へ出る。
魔力を解き放つなら、それが多ければ多い程良いだろう。


神殿から充分に離れてから、口笛を吹くと、魔物に囲まれる。

「やってみるか……」

一度呼吸を整えて
魔力をイメージ通りに、外に放出する。
瞬間、魂が抜ける様な脱力感が身体を襲った。



……気が付くと、魔物も木々も消し飛んでいる
何時の間にか膝を付いて気を失っていた様だ……。

「何なんだ一体……この呪文は……」
おぼつかない足取りで神殿まで帰ると、倒れこむ様に宿屋のベッドに飛び込む。


危険過ぎる、あれは、奥の手で使うにも尚危険だ。



「……起きたかね?」

「……ああ」
白髪白髭の老人がぼやけた視界に映る。

「そなたが使った呪文は……何かお分かりか?」

「いや……」

「……マダンテと言う呪文だよ。全ての魔力を放出し攻撃する物だ」

聞いたことはある……。
しかし限られた人間しか使えないのでは無かったか……。

「はぐれメタルは未知の悟り。わしも知識の及ばない所がある」

「用心して修行するように」




ひょっとすると、はぐれメタルこそ最強の職ではないのか。
思わず笑いがこみ上げてくる。

あいつにマダンテを使うのはどうだろう?
あいつは粉々に消し飛ぶのが、お似合いの末路だ。

……何を考えて居るんだ俺は

「先ずは大魔王、あいつはそれからどうとでもなる」

そう自分に言い聞かせると、荷物を持って外に出る。
今からまた修行だ。
職業は極めなければ何も始まらない。



神殿を出てから塔に着くと、口笛を吹いて魔物を倒し続ける。
そろそろ口笛奏者にでもなれるんじゃないだろうか。
そんな下らない事を思いながら一匹、二匹と斬り伏せて行く

あと200と言ったところか。

ダーマの婆さんによると丁度あと200回で極められるみたいだからな。

「それにしても、これだけ斬られて何故魔物は絶滅しないんだろうな……」

まあ、大魔王が居るからだろう。
考えるだけ無駄か。


……目標の200に到達すると、直ぐにその変化に気付く。
呪文をことごとく弾き、魔物の息でさえ俺を傷つけることは叶わない身体になって居た。

「これじゃ本当にはぐれメタルになったみたいだな……怖い物無しだ」

誰にも負ける気がしない。
疾風の様な速さに頑丈な身体。
呪文も効かなければ火も氷も効かない。
ネックの打たれ弱さや力も種と木の実、装備でカバー。

「とりあえず、神官に報告してやるか」




「おい」

「む?……そなたか」

「どうやら極めたみたいでな。報告しに来た」

「うむ、一目でわかる」

「何も効かないんだ、本当にはぐれメタルになっちまった」

神官は何やらメモを取って居る。
熱心な奴だ。

「よくわかった。有難い」

「それと、わしからも伝えたい事が有ってな」

いつもの様に髭を触りながら話す。

「下に大きな燭台が並べてある場所はおわかりか?」

確かに……そんな所があったな。
いつのまにやら火が灯る燭台か。


「その燭台の全てに火がついておる、行ってみなされ」

「そうか……わかった」


全てに火が灯った……?
一体それで何が起こるのか……。

色々思案しながら下へ行くと、燭台の広間に着く。

なるほど、確かに全てに大きな火が灯って居る。

と、奥を見ると

「何だあれは……」

壁がある筈の場所に壁が無い。
奥へ行くと、階段があった。

「行って見るか?……しかし……」

何があるか解らない。
嫌な予感もするが……。

「とりあえず、確かめるか」

一呼吸置いて、階段を降りて行く


「ここは……」

洞窟……か?
蛍の様に光を放ちながら何かが舞っている。
入り組んだ場所に着いた。

壁を伝いながら進んで行く……。

また、階段があった。

「何がどうなって居るんだ……。意味が解らない……」

またそこを降りると、何処かで見た様な洞窟にたどり着く。

行き着く先が予想外な上に、魔物が他の場所とは段違いに強い。
はぐれメタルでなければ、恐らく進めない程だ。


また見えた階段を降りれば、今度は海底神殿の様な場所だ。
こうも景色が変わっていく物だろうか?
それに広い……。
神殿の面積よりもかなり広く、絶えず魔物が襲いかかる。

今度は上り階段が目に入る。

「ちょっと意味不明過ぎないか?ここは」

上るとまた洞窟、進むとまた洞窟……。
キラーマジンガなんて物騒な奴等も出てくる始末だ。


先を見ると、光が見える。
どうやらあの場所から洞窟はおさらばみたいだ。

連戦の疲れがそろそろピークだ。少し安堵してそこから進むと……。

「な……何だここは?!」

目に飛び込んで来たのは……タイジュの国と、生活しているスライム……魔物達だった……。

「何故タイジュに……いや何故タイジュが……」

理解の範疇を逸脱している
いや逸脱どころか別の次元に行っちまった。
それか俺自身がおかしくなったのか?

「お、おい、そこのスライム」

「え?あ、ここはデスコッドの村だよ。見る人によって色んな村に見えるらしいんだ」



デスコッド
確かにスライムはそう言った。
どうやらタイジュではないらしいが……ここは、確かに昔俺がいたタイジュだ。

とりあえず探索をするしかない。
ここが一体何なのか知らなければ。

……しかし、見渡す限り魔物しか……。
と、その時懐かしい少女が見えた

「サ、サンチ!」

少女の肩を掴んで揺らす。

「サンチ、サンチだよな?!俺がわかるか?!テリーだ!テリーだよ!!」

我ながら必死だったと思う。まあ仕方ない事だ。
するとサンチ?は迷惑そうな顔をして

「はぁ?」




「誰よそれ?何アンタ?宿に泊まりたいの?」

「は……?サ、サンチ?」

「だからサンチじゃないって。で、泊まるの?」

ああ、確かに……こいつがサンチなら……少女の姿そのままな訳がない……。
ここは、まやかしの世界……なのか?

「ねえ、アンタ聞いてる?泊まるの?泊まらないの?」

よく状況を理解できないが……疲れもある、それにただの夢かもしれない。
夢の中で寝たら夢から覚める。
多分。

「あ、ああ、泊まる」

「じゃあ一晩1800ゴールドね」




1800ゴールド……って馬鹿かコイツは……。
いや、夢だからまあいいか……。

「……ほらよ」

代金を払ってベッドに入る。
こんな夢を見るとは、よほど疲れて居たんだろう。
それにしても懐かしい顔を見た……。
修行のし過ぎは禁物だな。

等と考えている内に寝てしまったらしい。
身体を起こして周りを見ると



「……」

デスコッドだった。


もう仕方ない。これは現実だ。

相変わらず意味は解らないままだが……。
とりあえず、ここを周ってみるか。

「配合所にいってみるか」

階段を降りるとそこには机と本棚、そして座っている……プリオがそこにいた。

「そこはじいさんだろ……」

「へいらっしゃい!買って行くかい?こりゃスグレモノだよ!」

口調が全く違うがもうどうでも良い、こいつもプリオの様でプリオでは無いのだから。

「それは何だ?」

「こいつはドラゴンの悟り!30000ゴールドだよ!」

「は?今何て?!」




「だから悟りだよ!これを読めば強いのなんの!買ってくかい?」

こんな所に有ったのか……まあ買わない訳が無いが……。

「じゃあ……一つ頼む」

「どーも!また来てね!」

思わぬ収穫だった。
ここは結局何なのか、解らないままだが。

王様の所へ行けば、何か手掛かりがあるかもしれない。
他の場所は全て最初からそうだったかのようになくなって居る。

最上階までついて、先へ進むとそこには広い場所に一つ井戸があるだけの部屋に着いた。


「王様はいない……か」

仕方なく井戸を降りると、旅の扉が見える。
まあ、入るしかないだろう。

飛び込むとたちまち景色が歪み、上下左右の感覚が解らなくなる。
初めて飛び込んだのならちょっと気持ち悪くなってたかもな。
上手く着地?できたのは、昔取った杵柄ってやつだ。

目を開けると、あの日仲間達と冒険したままの景色が広がっていた。

懐かしみながら進む。
ここにも強力な魔物が出てきて、油断は出来ないが。


いくつか旅の扉に飛び込む。
3つ目、降り立って直ぐに筆舌に尽くし難い圧倒的なオーラにあてられる。

……城内……?

パチパチと火を上げる小さな燭台、そして立派な扉がある。

「どうする……?」
ここまで来たら行くしかない。
急に不安になる。
嫌な予感が収まらない
心臓が早鐘を打ち、溢れる冷や汗を拭う事で手一杯だ。
やっとの思いで扉を押し開けると、そこには床に描かれた呪文の様な物がある。
その中心に祭壇があり、お供え物?が置いてあった。


呼吸を整える。

ここには、必ず何かが居る。

今まで出会った事も無いような。

この祭壇は恐らく、その何かを「召喚」する為の物だろう。

詰まり祭壇の前で強く念じれば、それは現れる筈だ。

自然と祭壇へと足を運んでいた。
恐怖心と好奇心が混ざり合う。

そこは、やってみるしか無いだろう


目を閉じる

心に深く念じて暫くすると、それは現れた。


圧倒的なオーラが辺りを包む。


「わたしを呼び覚ます者は誰だ?」

「わたしは破壊と殺戮の神ダーグドレアムなり」

「わたしは誰の命令もうけぬ。全てを無にかえすのみ」

とそこまで言うと、朧げだった姿が急に鮮明になり、直ぐさま襲いかかってくる。




飛び上がり、凄まじい早さで突進。

すんでの所で躱して反撃に移るが、既に視界から消えている

「上か!!」

気付いた時には、既に無数の稲妻を飛ばされていた。

身体は稲妻を弾いて、攻撃圏内から外れる猶予を与えてくれた

「スカラ!」
何があるか解らない。この身体でも防ぎ切れる攻撃かわからない今、こうする事が先決だ

走りながら状況を確認。
ダーグドレアムが息を吸い込んでいる所を見ると、恐らく灼熱か輝く息、といった所か

距離を詰めて斬りかかる。

予想通り灼熱だ

身体が息を弾いている間に、しこたま隼斬りを叩き込む




「……む」
少し驚いている様だ。


ドレアムが次の動きに移る前に距離を開けて、やっとしっかりと姿を確認できた。

「デュラン……?!」

姿形がほぼ同じ。
戦闘力は圧倒的な差があるが……。

「返ってやる気が出るな……丁度いい」

何時の間にか凄まじい速さで近づいて来ている
「バイキルト!」
力を底上げしてこちらも斬りかかる

「……」
するとドレアムは無言のまま、目にも止まらぬ早業で武器を振り回して来た

斬りかかる暇が無い
攻撃に移っていた俺の身体を激しく斬りつけてくる

恐らくはぐれメタルではなかったら、致命傷になって居ただろう



やっと隙を見つけて一撃を躱し、脇腹にせいけん突きを打ち込む。

「グッ……貴様ァァァア!!」

大きく武器を振りかぶって俺に打ち付ける

口の中に血の味。

「メタル斬りか……!」

ベホマを体に当てながら距離をとる
やはりあいつの攻撃が終わった後に、小さくダメージを重ねて行くしかない

メラゾーマを打って牽制

またドレアムが息を吸い込んでいる。
叩き込むなら今しかない

飛びかかり素早く剣を振る。
十中八九輝く息か灼熱だ





ドレアムが息を吐く、予想通……
「ーーーーー!!!!!」

弾き飛ばされる

体中に走る激痛が、意識を刈り取る寸前だった

一体何をやったのか把握出来ない

とにかく回復しなければ

しかし何故だ……?メタルボディをここまで傷つけられる訳が……

「どうした?雄叫んだだけなんだが」

ドレアムの言葉を聞いて更に混乱する

叫んだだけで?

冗談だろ……

「どうした?かかってこい」




「クソっ!」
震えが止まらない両足を叩く。
接近戦が不利なら呪文しか打つ手が無い
魔力はあまり使いたく無かったが……

ギガデインを放って距離を取り、次はメラゾーマ

また移動してギガスラッシュ

「グッ……」

良し。全て被弾している
しばらくはこの作戦で行けるか


雄叫びに対抗できるもの……一つしか無いか

攻撃を躱して呪文を繰り返す

ドレアムが息を吸い込む

_____来る

「アストロン!」

「ーーーーーー!!!!」

「……考えたな」

雄叫びの後に大きな隙が出来る
逃げてメラゾーマ

また距離をとってギガスラッシュ

問題は倒すまでに魔力が持つかどうか……




祈りの指輪は十分にある。
尽きるまでとにかく呪文
隙があれば斬る

「バイキルト!!」
ドレアムが補助呪文を使って襲いかかってくる
これを受けると一気に窮地だ

落ち着いて、瞬きすら惜しんで躱す

ドレアムの呼吸に合わせて斬る

目が慣れてくると、一撃、二撃と斬る回数を増やす
ここまでの接近戦なら、とにかく隙を見て斬って、ダメージを蓄積させた方が良い

いつまでこうして居ただろうか。

ドレアムが呼吸を挟む、その間にまた間合いを開ける


疲労したドレアムにメラゾーマを数発放って、先程の小さな傷を回復してまた攻撃




あいつは疲労しているが、それはこっちも同じ。
このまま持久戦に持ち込めば、地力の違いから必ず俺は負けるだろう

魔力もそろそろ尽きてきた

隙を見て祈りの指輪で魔力を回復させる。
十分に魔力が満ちたら、アレを使って一気に決めるしか無い
距離を詰めて来たら、攻撃を挟まずに魔力を貯めながら逃げる




「来た……!」
魔力が満ちた

これを使ってあいつが倒れなければ、恐らく俺は死ぬだろう
かなり大きな賭けだ

しかし

「やってみるしか無いな」


「アァァァアァァア!!!!」
我を忘れた様に武器を振り回すドレアム
返って好都合だ



迫る双刃躱して懐に

ドレアムの右手首を脇に挟んで固定する

「!!!」

魔力を全て放出するイメージ。

「マダンテ!!!!」

ドレアムを離さずに、魔力を放出し続ける
脱力してしまわないようにしっかりと腕を掴みながら。
ゆっくりと膨大なエネルギーは放出されて行く
腕から順に身体を破壊して行く魔力
苦悶の表情を浮かべながら、身を削られながらダーグドレアムは消滅して行った

「終わった……か」

もしかすると、最初から使ってた方がよかったかもしれない

……いや、それは無いな

膝から倒れこむと、天井に煙の様なものが集まっている


「ま まさか……このわたしが人間一人に破られるとは……」

朧げなダーグドレアムが言う。

「完全にわたしの負けだ。宜しい。お前に従う事にしよう」
悔しそうに言葉を並べて行く


「……俺に?」

「うむ、そうだ」

「いや、そもそも……お前は一体何なんだ……?」



「破壊と殺戮の神だ」

「お前は大魔王じゃないのか?」

「残念だが違う」
何か呆れた様な顔で否定しながら、一呼吸置いて

「まあ良い。お前の望みを叶えてやる。何を望む?」

ランプの魔人か?こいつは
しかし望み……な……。

「大魔王を探して居るのか?倒してやっても良いが」

魅力的な提案だ。暫く戦う気力も無いし、
探す手間も省ける

「まあ……そうだな、倒せるなら頼む」

「よかろう。着いてこい」


「よし、着いたな」


「な、なんじゃお前たちは!?」
胡座をかいて宙に浮いた老人が叫ぶ。
あれが大魔王か?ドレアムの方が何倍も強そうだが……。

「この者を倒せば良いのだな?容易い事だ……」

「な、何を言っておるのだ!愚か者が!!思い知るが良い!!!」
激昂しながらドレアムに襲いかかって来た
ふとドレアムの顔を見ると、薄ら笑いを浮かべて居る


大魔王が燃え盛る火の玉を投げつける
続いて凄まじい冷気を投げつける
ドレアムは火の玉に直撃するがビクともせず、冷気は受け止めて投げ返した

大魔王はぶつけられてもめげずにイオナズンを唱えるが、これも効いていない

輝く息を吐いても、ドレアムは涼しげにして居る

ドレアムが攻撃に移れば、一瞬で大魔王の
体を粉々にしてしまった

……開いた口が塞がらない


残った二つの球が一つに合わさり、やけに厳つくなった大魔王が出て来たが……
突進しようが何をしようがドレアムは薄ら笑いのままで、逆に攻撃を弾き返す

「かくなる上は……」
大魔王は全力で突進するがそれすらオーラで叩きのめされた

「うぎゃあっ!」

……可哀想になって来た……。

大魔王は手と顔だけになったが……そこから更に変身し、巨大化する

「ハァ、ハァ……。もう許さん。遂にワシを怒らせたな……」




そう言って攻撃にするも、左手を消し飛ばされる

「さて……。お遊びはここまでだな。そろそろ終わらせよう」

「な、なに!?」

そこからドレアムは、イオナズン、マヒャド、ギガデイン、マダンテ、ビッグバン、ジゴスパーク……の様な呪文を連続で出し続けた

「グギギギギ……な、なぜだ……?一体どういう訳なんだ……」

「い、いしきが薄れ……わた、しの……世界が……ぐはっ!」

……遂に完全に消滅したようだ。
こんなにも呆気なく倒すとは……

「これでいいのだな、では、戻ろうか」




そう言うと、一瞬で祭壇に戻って来た。

「わたしはまた一眠りするとしよう、また闘える日を……楽しみにしているぞ」

「あ、ああ……助かった。ありがとう」

本当に俺はダーグドレアムに勝ったんだろうか……。
まさか夢じゃ無いだろうかと頬を抓るが、痛い。

「手抜いてたのか……?あいつは」


帰る道中、魔物に襲われる事は遂に一度も無く、あれが本当に大魔王だった事を実感する。
まさかこんな事になるとは夢にも思わなかった……。
ただ単に探索のつもりだったのに。

「大魔王を倒したとなると……あとはあいつとケジメをつけなきゃな……」

燭台の間を抜けて、階段を登ると、お馴染みの酒場に着く。

「……ホットミルクをひとつ」

「テリーさん!!」

「な、何だ」

「心配してたのよ……?燭台の間に行ってからずっと返ってこないから……」


「……そうか」

「でも良かった。最後にテリーさんの顔が見れて」

「……は?」

「私たちは夢の世界の住人だから、今から皆消えちゃうわ……」

冗談だろ

「でも大丈夫。私達はいつも見守ってるから」

嘘をつくな

「じゃあね、テリーさん」


「お、おい!!待て!!そんな馬鹿な話があるか!!!!」

そう叫ぶ内にもみるみるルイーダ達の姿が消えて行く

「さようなら、大魔王を倒したテリーさんなら、きっとこれから何があっても大丈夫よ!」

掴もうと伸ばした手は虚しく空を掻く

強い光で目を開けられず、次に視界に飛び込んだのは、朽ち果てたダーマ神殿だった。


「俺がダーグドレアムに頼んだばっかりに……」

夢の世界の全てを、殺したって言うのか……?

俺がダーグドレアムに立ち向かえる強さを持ってたから……?

「強さって、何なんだ……?」


_____

夢の世界を殺したあの日から

俺は王子達と、更なる強さは何なのかを探し続けている

ダーグドレアムに頼めば、夢の世界を再生する事も出来ただろう

王子達も直ぐに見つけられる筈だ

しかし、夢の世界のダーマ神殿が無くなって、ダーグドレアムに会う手段も無くなった

デスコッドにさえ行けない始末だ

しかしその全ての願いは、俺自信がそれを叶える強さを持てば解決する。簡単な話だ

俺はこれからも、強さが何か知りもしないまま、探し続けるのだろう

end

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