某大型掲示板などで公開されたSSのまとめ、たまに2ちゃんスレもなWiki

■???

中年の男が大声で問いかける。

「何故君達に能力があるのか! 何故君達にチカラがあるのか! 不思議に思わないのか!」

据えた煙草の匂いを振りまきながら[M000]というコードネームを持つ中年の男は大袈裟に両手を広げる。

「もしかしたらだ! 君達はチカラを持つ必要など無かったのかもしれない!」

静かにそれを聞いているのは10人近くの少年少女。

「この計画が達成すれば! この悲願にさえ到達すれば! 君達はその“憎らしいチカラ”に怯えなくてすむんだ!」

その台詞に自ら酔ったようにして[M000]は更に大声を張り上げる。

「そう! 君達は誰かを傷つけることに怯えなくてもいい!」

そう言って懐から一枚の写真を取り出した。
そこに映っているのは宇宙空間とおぼしき場所に浮かんでいる機械の破片。

「これだ! この[残骸《レムナント》]さえあれば! これさえ我等が手にすれば!」

そこまで言って[M000]は言葉を切ってグルリと部屋を見渡す。
そこには己を見つめる若く真っ直ぐで情熱的な視線。

ブルリと快感で背筋を震わせ、[M000]は続きの言葉を口にした。


「判るかね諸君! 君達の悩みは! 解決したも同然なのだ!!!」

少年少女たちの間に広がっていく羨望と感謝と熱意を肌で感じとり、[M000]は満足そうに頷いた。

「そしてだ! 君達は感謝しなければならない! この計画に無くてはならない“大能力者”!」

そう言って[M000]は机の隅に座っていた少女に向かって声をかける。

「[A001]! 君には期待している! 君も“普通”になりたいだろう? 我等と同じく“正常”になりたいのだろう?」

その言葉と同時に[A001]と呼ばれた少女が立ち上がり、頷いた。

それを見て、[M000]は感動したように大きな声を張り上げる。

「これは君がいなければ不可能な任務だ! 君と!私と!君達は! 共に等しく“仲間”なのだ!」

さざ波のように感動がその空間を支配していくのを感じながら[M000]は叫んだ。

「さぁ! 諸君! 時は来た! 今こそ奮起の時なのだ!」

その言葉と共に万雷の拍手が沸き起こる。
少年少女たちの中には涙ぐんでいるものまでいた。
そして、[A001]と呼ばれた少女は。
どのような障害があろうとも、任務を遂行しようと決意の光をその瞳に宿らせていた。


■風紀委員第一七七支部

「[キャリーケース]の強盗事件…ですの?」

訝しげなその声の主は白井黒子。

「そうなんですよー。 犯人は地下に向かって逃走したみたいなんですけど…
 何故か信号機の配電ミスが相次いで警備員《アンチスキル》は身動きがとれない状況らしいですー」

紅茶の本をデスクの横に置きながらそう初春飾利が答えた。

「はぁ… なんだかきな臭そうな匂いが漂ってきますのね…」

そう言われてパァッと初春飾利の顔が輝いた。

「あ! じゃあ紅茶でも淹れましょうか? いいにおいですよー! 美味しいですよー?」

はちきれんばかりの笑顔を浮かべる初春飾利だったが。

「…お断りですの。 なんで貴方は犯人ほっぽらかしてアフタヌーンティーに勤しもうと思えるんですの?」

付箋がいくつもついた紅茶の本をちらりと横目で見ながら白井黒子が呆れたようにそう告げた。
ガーン!とした顔をするのも束の間、すぐに気を取りなおした初春飾利が不思議そうな声を出す。

「うう、今度こそ100点のお茶を出せると思ってたのに… あ、でも白井さん? つまりそれって…」

恐る恐るそう問いを発する初春飾利に白井黒子は薄っぺらな鞄を持って出口に向かいつつこう言った。

「ええ。 今回はお邪魔な金髪の殿方もいらっしゃいませんし? 私一人ならば地下だろうがどこだろうが関係ありませんもの」


■地下街出口・裏路地

「ふぅ…どうってことはありませんわね」

パンパンと埃を払いながらそう白井黒子が呟いた。
地面には黒いスーツに身を包んだ男が10人近く倒れている。

今更言うまでもないだろうが、白井黒子の能力は『空間移動《テレポート》』である。
点と点をつなぐ慣性を無視した三次元の軌道だけでも脅威だというのに。
更にああ見えて有事では頼りになる初春飾利のナビゲーションをもってすればキャリーケースを抱えて逃げようとする強盗犯を補足することなど朝飯前だった。

(ま、朝飯前というか午後の紅茶前といったほうが正しいのかもしれませんが?)

そう心中で呟きながら白井黒子はこちらに向かっているという警備員《アンチスキル》を手持ち無沙汰のまま待っていた。
如何に『空間移動《テレポート》』を使えるといえど、こうまで人数が多いと動くことは出来ない。
この場を離れれば、意識を取り戻したスーツの男達が逃げ出すかもしれないのだ。


.
(そういえば…最近随分とお姉さまがそっけないですの…いったいどうなさったんでしょう…)

そんなことをぼんやりと考えていた時である。
突如肩口に突き刺さったのは鋭い痛み。
更には自らが浮遊している感覚が白井黒子を襲う。

「ッ!?」

完全に油断していたこともあり、受身も取ることが出来ずにペチャン!と痛々しい音を立てて白井黒子が仰向けに倒れた。
肩に刺さり、激痛の元であると主張しているのはワイン抜きだった。

「…これは…随分と趣味の悪い成金みたいですわね」

そう毒づきながらゆっくりと白井黒子が起き上がる。

そこには。

クスクスと笑う少女が[キャリーケース]に座っていた。
肩にかかった赤毛を鬱陶しそうに背中に払いながら。


「初めまして。 風紀委員《ジャッジメント》の白井黒子さん」


本来は年相応の可愛らしい声だろうが、今は随分と意地の悪そうな声がそう言った。


■長点上機学園・放課後

「…すまないけども。 もう一度言ってくれないかしら?」

呆然とした口調でウェーブ髪の少女が今聴いたことの内容の確認を求める。

「うんいいよ! えーっとね、昨日の夜ね、王土とイッポーツーコーって人が戦闘《バトル》したんだ☆」

「……」

ハキハキと元気よく面白そうにそう答えた小柄な同級生の言葉を聞いて、布束砥信は今度こそ幻聴の類ではないのだということを理解した。

「suppose 勘違いとかその辺のスキルアウトっていうわけでは…無いようね…」

この小さな同級生が嘘を言っているとは思えない。
だが、信じられるだろうか?

一方通行。
それは学園都市最強の超能力者であり、“妹達”を一万人も殺した実験計画の中心人物であるのだ。

そのような男と都城王土が相対して戦闘をした?
それならば当然の帰結としてあそこの席、都城王土の席には不在の主を慰めるように白い花瓶が鎮座していなければならない筈なのだが。

その席には金髪紅眼の男が退屈そうに腕組みをしていた。

「thought 何を考えているか判らないだなんて、初めて見た時から理解はしていたつもりだけど…まさかここまでとはね」

どこぞのホラービデオに出てくる幽霊のようにバサリと前髪を顔の前に垂らしてそう布束砥信が呟いた。
その時、布束砥信の机の側に立っていた行橋未造に都城王土の声がかかる。


「さて行橋よ。 そろそろ日も暮れてきたところだ。 今日こそ俺の寛大さをあの修道女達に示してやらんとな」

尊大にそう言って笑う都城王土の元にトテトテと行橋未造が駆け寄っていく。

「えへへ! そうだったね! ボクもう忘れちゃいそうだったよ☆」

仔犬のようにまとわりつく行橋に向かって鷹揚に都城王土が笑う。

「おいおい まったく仕方のない奴だなおまえは」

「えへへ☆ そう言うなよ王土! なにせボクは王土に付き従うんだから、王土が要らないと決めたことをいちいち進言するはずないじゃないか☆」

そう言ってピョンと両足を揃えて行橋未造が布束砥信に振り返った。

「それじゃ布束さん! また明日ねー!」

「え、ええ… よい放課後を…」

そう言ってプラプラと力なく手を振る布束砥信に向かって、何かを思い出したように都城王土も振り返った。


「む、そうだ布束よ。 おまえの案内、悪くはなかったぞ」

「え? あ、ええ… それは良かったわ…」

そうぎごちなく答えることしかできなかった布束砥信だが、その返答で満足したのだろう。
うむ、と頷いて都城王土は行橋未造を引き連れて長点上機学園を後にした。

彼等が向かう先。
それはツンツン頭の少年と銀髪シスターの元である。

先日、彼等と接触したときにぶちまけたコロッケの代わりとなるであろう“ソレ”を持って都城王土と行橋未造は学園都市を歩く。
もちろん、彼等の住所はとっくに行橋未造が端末から“聞き出している”

一人教室に残っているのは布束砥信。

もはや布束砥信にとって彼等は核弾頭のスイッチにも等しい存在である。
彼等が動けば面倒な事件が巻き起こる気がしてならない。

「naturally 出来るならば私は無関係でいたいのだけれど…」

だが、布束砥信のその儚い願いは叶えられることがなく。
その小さな希望は数時間後には容易く打ち破られる。

[残骸]とよばれる物を中心として、都城王土、上条当麻、一方通行、御坂美琴という4人少年少女達がが巻き起こす事件に布束砥信も巻き込まれることとなるのだ。




■常盤台中学学生寮・御坂美琴と白井黒子の部屋・バスルーム

カチャンという乾いた音が響き、そして噛み殺しきれなかった悲鳴が白井黒子の口から漏れる。

「あ…グッ…!?」

ひどく弱々しい声と共に大量の血液がバスルームの床を伝い排水口に流れていった。

(っ… まさかここまでとは… 完敗ですわ…)

先程の音の正体はワイン抜きや黒子の持ち物である鉄矢が硬質タイルの上に落ちたときの音。
それは裏路地で対峙した赤毛の少女に笑みをもって己の身体に打ち込まれたということ。

そう、彼女もまた移動系の能力を持っていた。
いわば同族との戦闘は、一方的に。 白井黒子の身体にのみ夥しい傷と出血を残して幕を閉じた。

雑菌が入らないよう身につけていた服は全て能力で排除した。
そして今、白井黒子はその白く細い身体を血に濡らし痛みに悶えていた。

右肩、左脇腹、右太もも、右ふくらはぎ。

(唯一の救いは鉄矢やコルク抜きといったところでしょうか…)

出血は未だ続いており、その幼くも艶めかしい身体を熱い血が汚しているにも関わらず、ふと白井黒子はそう思う。

傷は深いが、それでも傷の面積に限って言えば非常に小さい。
時間が経って傷がふさがればそれほど目立ちはしないだろう。

白井黒子は中学生という若き身でありながらそんな悲しいことを当たり前のように考えてしまう。


.
(…けれど。 今はそんな事はどうでもいいんですの)

痛みと熱に浮かされながらも少女はゆっくりと立ち上がる。
たったそれだけの動作で新たに鮮血吹き出して白井黒子の身体を濡らした。
薄い胸をゆっくりと伝い、細く引き締まったウエストを滑り、太股の内側を通ってタイルにポタリと音を立てる。

だけれども。今の白井黒子はそんな事は気にしていられない。
今、彼女の脳裏をグルグルと駆け巡るのは赤毛の少女がペラペラと口した言葉である。


【[レムナント]って言っても判らないわよね? [樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》]と言えばさすがに判るでしょう?】

【そうよ。 壊れて尚、莫大な可能性を秘めたスーパーコンピュータの演算中枢】

【あらあら。蚊帳の外って顔ね? 『御坂美琴』があんなに必死になっていたというのに】

【ふぅん… そう『御坂美琴』は貴方に何も言ってないの。 噂通り理想論者で甘い考えをしてるみたいね】


本来なら。

このような事態になった以上、風紀委員《ジャッジメント》の出る幕はない。
素直に大人に、警備員《アンチスキル》に任せるべき話だ。

だが。
“あの人”の名を聞いてしまった以上、そういうわけにはいかないのだ。


.
“御坂美琴”

そう。
確かに、あの赤毛の少女はその名を口にしたのだ。
ならば、ここで自分勝手に痛がって悶えている場合ではない。

白井黒子はここ最近、御坂美琴がやけに気落ちしているのに気が付いていた。
だというのに、それ以上追求をしようとはしなかった。
いくらなんでもプライバシーにまで踏み込むつもりは無いと勝手に自分だけで線引きをして。

その結果がこれだ。
赤毛の少女が言っていたことの内容は悔しいことにいまだ全貌をつかめていない。
しかし、それでもたったひとつ判っていることがある。

このままではお姉様が。 “御坂美琴”が悲しむ事態が巻き起こる。
痛みにひきつり弱音を上げそうになる自分の身体を、ただ意志の力でもって奮い起こす。

手早く傷の処置をして、包帯を巻いて。
下着をつけて。シャツを羽織って。予備の制服に袖を通して。

白井黒子は携帯電話で頼りになる後輩へ連絡をしながら宙へと消えた。


…そして。
白井黒子が『空間移動《テレポート》』をしてから5分程経過しただろうか?

カチャリとバスルームの扉が開く。
そこに立つショートカットの少女はバスルームに篭った鉄臭い匂いに、僅かに血液が付着したままの鏡を見てギリ!と奥歯を噛み締めた。


■とあるマンション

『次回!超機動少女カナミン第13話!
 「えっ? 堕天使エロメイド姿でママチャリダンシング(立ちこぎ)?」
 あなたのハートに、ドラゴォン☆ブレス!』


聞いているこっちが恥ずかしくなるほどのロリータボイスと共にジャジャン!と派手な音をたててTVアニメ[超機動少女カナミン]が終わった。
アニメは番組間のCMが終わるまでがアニメなんだよ!と言いたげにテレビの前でフンフンと鼻息を鳴らしているのは銀髪のシスター。

彼女の名は禁書目録《インデックス》という。
10万3000冊の魔導書という恐ろしい書庫をその頭脳に収めている少女なのだが…
転がり込んだ先の少年の部屋で日がな一日ゴロゴロモグモグといった自堕落な日常を送っていたりする。

そんなインデックスがテレビを見たまま気の抜けまくった声をあげる。

「とうまーとうまー! お腹へったんだよ?」

それを聞いてガクリと肩を落とすのはツンツン頭の少年だった。

少年の名は上条当麻。
その右手に『幻想殺し《イマジンブレイカー》』という測定不能の恐ろしい力をもっているはずのなのだが…
今は周囲の状況に振り回されては貧乏くじを掴んでしまうという何とも可哀想な日常を送っていたりする。

「インデックスさん…よくもまぁヌケヌケとそんなことを言いやがってこんちくしょう!」

上条当麻が肩を落としているのには理由がある。
月一回の超特売セールで一週間分のコロッケを買いだめしたのも束の間、それを一口も口にしないままインデックスがそれらすべてを路上にぶちまけてしまったのだ。


あぁ、不幸だなー…と呟きたくなったが。
ふと上条当麻は思い出す。

脳裏に浮かぶのはインデックスが突っ込んだ男。
金髪紅眼の見るからに偉そうで怖そうな男だった。

「まぁいつもの上条さんならあそこで100%絡まれてるはずですし? 多少は運が良くなってきたってことなのかね? …てゆうかそう思わなければやってられませんよ」

涙ぐましくそう自分に言い聞かせながら冷蔵庫をパカリとあける。
そこにはモヤシが所狭しと並んでいたが、そりゃもう全然嬉しくなんかはない。

「わーい…モヤシがいっぱいで上条さんはもう何も考えたくありませんよ…」

ドラゴンボールの仙豆とかあればいいのになぁ…なんて現実逃避をする上条当麻。
その時、心底驚きました!と言わんばかりの同居人の声がかかった。

「とうまー! とうまー!!」

「…なんの御用でせうかインデックスさん。 お願いですから叫んでカロリー消費しないでくださいってば」

しかし、そんな上条当麻の文句はもとよりこの少女に届くはずもないのだ。

「そんなの些細なことなんだよ! いいからこっちに来るんだよ!」

そう言われハイハイと重たい腰をあげる上条当麻。
向かう先は可愛らしくも子憎たらしい破天荒な同居人の元である。




■学園都市・宙空

太陽は既に沈んでいる。

眩いネオンをその瞳にはしらせながら学園都市を白井黒子が飛ぶ。跳ぶ。翔ぶ。
周りからは点々と見えたり消えたりしてるように映るだろう。

『空間移動《テレポート》』を駆使し、痛む身体に鞭打って白井黒子は赤毛の少女の後を追っているのだ。

ブツブツと電波が寸断される為、途切れ途切れの声が携帯電話からは漏れ聞こえる。

「トラウマ…ですの? …あぁ道理で。 確かに彼女は自らを転移させたりはしてませんでしたわね」

頼れる後輩の情報を聞いて、ビルの外壁を蹴りながら白井黒子がそう答える。

『はい! カウンセラーへの通院リストが確認されています! それより白井さん本当に大丈夫ですか?』

電話の向こうから聞こえる心配そうな声に向かって白井黒子はわざと声を張り上げる。

「大丈夫ですわ。 ほんの掠り傷ですもの。 それよりもまだ赤毛女の逃走予測ルートは特定できないんですの?」

『えっ、あ、はい! 今全力でルートを絞っています! 後30秒もあれば…』

だが、今回に限っては初春飾利の助言は必要がないようだった。


ドゴン!と響く凄まじい破壊音。

聞き慣れた爆発音が大気を震わせたのに気付いた白井黒子がそちらを見た。
モクモクとあがる黒煙がここからでも目に飛び込んでくる。

「初春… どうやらこれ以上予想する必要はないみたいですの」

『え? それって一体どういう意味ですか?』

きっと電話の向こうでは、ほのぼのとした少女が不思議そうな声をあげながら首をひねっているのだろう。
容易にその姿が想像できてつい微笑みながら白井黒子は静かにこう言った。

「さっさと終わらせて帰ってきますから。 100点満点のおいしい紅茶を用意して待っててくださいですの」

そう言うだけ言って。
返事を聞こうとはせずに携帯電話をポケットにねじ込んだ。

見間違えるはずも、聞き間違えるはずもない。
あの音の元にこそ、あの黒煙の元にこそ、白井黒子が探しているその人がいる。

あれこそ、白井黒子が大好きで大好きで大好きなお姉様の“超電磁砲”だ。

「今行きますの! お姉さま!!」

そう言って、白井黒子は再び虚空へとその姿を消した。


■学園都市・雑居ビル

建設途中だったのだろうか?
まるで解体されかかった獣のように鉄骨や内壁をさらけ出したそのビルの前には横倒しになったマイクロバスが転がっていた。

「――ッ! いい加減っ! コソコソ隠れてないで出てきなさいって言ってるのよ!!」

ショートカットの少女の苛立った叫び声と共に小さなコインが空を舞う。
どこにでもあるようなゲームセンターの小さなコインは、しかし凄まじい勢いを持って少女の手から射出された。

爆音と共にビルの鉄骨を易々と引きちぎる“それ”は雷神の戦槌のような破壊力で以て大地を揺らす。


少女の名前は御坂美琴。
七人しかいない超能力者(レベル5)の一人であり、学園都市最強の『電撃使い《エレクトロマスター》』である。
中学二年生にして常盤台中学のエースに君臨する少女を人々は恐れと羨望をもって『超電磁砲(レールガン)』と呼ぶ。


そして今、御坂美琴は怒っていた。
ビルの中には10人近くの能力者が篭っている判っている。
だが、それが何だというのだ。

荒れ狂う彼女を止められる者など学園都市に5人もいない。
静まりかえったままのビルに向かって三発目の“超電磁砲”を撃ちこむかと御坂美琴が思った時だった。

「学園都市最強の超能力者のくせに。 …随分と余裕が無いのね?」

ビルから突き出ている鉄骨の上に赤毛の少女がそう言って姿を見せたのだ。


■学園都市・雑居ビル前

「お姉さま…」

現状の確認と把握のために、今すぐにでも飛び出したい気持ちを抑えてビルの陰から様子を伺った白井黒子がそうポツリと呟いた。
そこでは御坂美琴と赤毛の少女が相対していたのだ。

「そんなに[実験]が再開されるかもしれないことが怖いのかしら?」

そう試すように。 赤毛の少女が白井黒子では知りえない事を唇に載せる。
そして。それを聞いた御坂美琴は怒りを抑えこむようにして静かに口を開く。

「…ええ、怖いわ。 でもね…わたしはそれ以上に頭にきてんのよ」

御坂美琴の脳裏をよぎるは大量の血液が流れたであろうバスルーム。
血生臭く鉄臭い匂い。
完璧主義者なはずの少女が鏡に飛び散った血痕すら忘れてしまう程なのだ。


421 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 12:36:51.63 ID:7ofurvBN0
それはいったいどれほどの苦痛と屈辱と苦難だったのだろう。
だから御坂美琴は許せない。

「あのバカ…私が気付かないとでも思ってたのかしら。 医者にも行かないで、今もまだこの空を飛び回っている救いようのない大バカで。
 その癖きっと!私と明日顔を合わせればなんでもない様に笑う! そんな強がりで! バカみたいな! 私の大事な後輩を!」

ギリと御坂美琴が私怨でもって赤毛の少女を見上げて叫ぶ。


「この私の都合で巻き込んだ! そんな私自身に頭にきてんのよ!!」


放電をその身に纏わせて吠える御坂美琴を見てジワリと白井黒子の瞳に涙が浮かぶ。

「…おねえさまぁ」

だが、しかし今は泣いている場合ではない。
意志の力でもって胸に広がる思いを無理やり抑えこんで、白井黒子は赤毛の少女を注視した。


赤毛の少女は怒りに身を震わせる最強の“超能力者”を見て、耐えられないように呟く。

「…そう。 さぞかし気分がいいんでしょうね。 己の怒りのままにそんな力を奮ってるのだから。
 でもね、悪いけれど“私達”にも貴方と同じくらい退けない理由があるの。 ここで改心して謝る気にはなれないわ」

そう赤毛の少女は笑うが、白井黒子の立つ場所からならば油断無く距離をとろうとしているのが一目瞭然である。
それも当然だろう。
“学園都市に七人しかいない超能力者”という言葉は飾りではない。
赤毛の少女は“大能力者”らしいが、このようなひらけた場所で力を奮う“超電磁砲”に抗うのは無謀にも程がある。


.
その時だった。

「…?」

白井黒子は眉をひそめる。
恐らく御坂美琴の立っている場所からは見えないだろうが、白井黒子の場所からならばそれは舞台裏を覗いたように丸見えである。
ビルの陰でコソリと赤毛の少女の仲間であろう少年が何事かを呟いたのだ。

それを聞いた赤毛の少女はハッと年相応の動揺した感情をその端正な顔に走らせる。

しかし、それも束の間。
御坂美琴を見下ろしながら赤毛の少女が口を開く。

「…貴方も退けない、“私達”も退けない。 ならば“私達”は“目的”を達成させるだけよ。 それじゃあね御坂美琴さん?」

そう言って暗がりの中に逃げこもうとした赤毛の少女に向かって御坂美琴が吠える。

「逃げられるとでも…思ってんの!」

それを聞いた赤毛の少女がどこか苦虫を噛み潰したような顔で、けれど口調は優位を保つようにしてこう告げた。

「えぇ、思ってるわ。 とはいえ“私一人”では無理でしょうけどね」


赤毛の少女の言葉と共に。
一気呵成と言わんばかりの叫びが轟く。
ビルの中から一斉に赤毛の少女の仲間が飛び出してきたのだ。

風力使いが、念力使いが、電撃使いが死をも恐れんと言わんばかりに闘志をその目に燃やし。
“超能力者”に、“超電磁砲”に向かって突撃を開始する。
しかし、それは無謀な特攻でしかない。

蹴散らされ、吹き飛ばされ、地面に転がされ、絶望と恐怖に呻くために走ってくる彼等のことが白井黒子は理解出来ない。

一方的で圧倒的な実力差を見せつけ、完膚無きまでに叩きのめして。
そしてようやく御坂美琴は気が付いた。

「…やられた」

悔しそうにポツリとそう呟く。
赤毛の少女がいない。
たった一つの目的を達成するために、10人以上もの少年少女たちがその身を呈して赤毛の少女を守りきったのだ。


悔しそうな、泣きそうな表情を浮かべた御坂美琴の横顔を遠くから見て。
静かに白井黒子が、己の信念を確認するように口を開いた。

「ごめんくださいね、お姉さま。 けれど、ここからが私の出番なのですの」

赤毛の少女が向かう先など、同じ移動系能力者である白井黒子ならば容易に想像がつく。
ゆっくりと立ち上がると制服のポケットの中から彼女の原点を取り出した。

風紀委員《ジャッジメント》の腕章を取り出して、腕につけ。

「貴方のバカな後輩は。 やっぱりどこまでいっても大バカ者で」

痛覚で悲鳴をあげる頭に無理やり演算を押しこんで。

「けれど貴方の元に帰るためにはやっぱり戦い抜くという選択肢以外頭に思い浮かびませんの」

向かう先は赤毛の少女。
戦場の一番奥深くから生還するために、“お姉様”の隣に立つために。
白井黒子の足が大地を蹴った。

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