大学の寄付講義「国家基盤づくりに係る土地・家屋の調査」で利用するための用語集です。

境界の裁判に関する用語

原告/被告(げんこく/ひこく)

民事訴訟において、訴えを提起した人を「原告」と呼び、訴えられた人を「被告」と呼ぶ。刑事訴訟では訴追された人(通常は容疑者)を「被告人」と呼ぶが、民事裁判では「被告人」とは決して呼ばない。「人」があるかないかで大変な違いがあるので、注意が必要である。

形式的形成訴訟(けいしきてきけいせいそしょう)

境界確定の訴えの本質は、土地と土地との間の争いであり、人と人との間の争いではない。現行法令下では他に争う方法がないので、やむを得ず訴訟という形式をとっているが、本来の訴訟ではない(=非訟事件)という意味で、「形式的」とされる。また、判決によって境界が新たに形成されるため「形成訴訟」と分類される。なので、境界確定訴訟は訴訟分類として、形式的形成訴訟であると言われている。

所有権確認訴訟(しょゆうけんかくにんそしょう)

所有権の範囲について争う裁判のこと。訴訟の対象は所有権界であり、裁判所は通常の訴訟と同じ手続きで裁判を行う。当事者は自由に終結方法を選択することができ、立証責任も訴訟当事者に課せられている。裁判所は両当事者が提出した証拠等のみをもとに心証を形成して判決を下し、又は訴えを却下することもできる。

筆界確定訴訟(ひつかいかくていそしょう)

土地と土地の筆界について、それがどこにあるのかを裁判所に決めてもらうための裁判。境界確定訴訟ともいう。筆界確定訴訟は形式的形成訴訟であり、当事者に立証責任は課せられていない。処分権主義は適用されず、一旦訴えが提起されれば、裁判所はどこかに筆界を定めなければならないとされる。また、証拠が不十分であるときには裁判官が職権で証拠を収集することもできるとされている。判決の結果示された筆界線は、新たに創設(形成)されたものとなり、かつての筆界は破棄される。
しかし、筆界確定訴訟の結果、すなわち新たに創設された筆界線を登記に反映させるための手続きが法定されておらず、せっかくの判決が表示に関する登記に必ずしも反映されていない(公示されていない)という状況があり、問題であるとされる。これは裁判官や弁護士が土地の登記制度に精通しておらず、紛争の解決(=判決をすること)のみに目を奪われがちであることの影響が大きい。

筆界特定との連携(ひつかいとくていとのれんけい)

境界確定訴訟において問題となっているのは筆界の位置であるから、筆界特定制度の結果として特定された筆界は重要な証拠資料となる。裁判所は、筆界特定登記官に対して、筆界特定に利用した資料や意見書の提出を請求することができるとされ、これを裁判にも利用できる。また、裁判の中で証拠調べの一環として筆界特定制度が利用されることもあると聞く。まだまだ裁判官や弁護士の筆界特定制度に対する認知度は思いのほか高くはないようであるが、その有用性が理解され、徐々にではあるが積極的に裁判の中で利用されるようになりつつある。
現時点では境界確定訴訟の前に筆界特定申請をする義務(前置義務)規定はないが、そう遠くない将来には前置義務が法定される可能性もある。

裁判とADRとの関係(さいばんとえー・でぃー・あーるとのかんけい)

裁判(訴訟)による解決方法とADRによる解決方法との関係は、その対象が何であるかによって、以下の表のように分類することができる。
筆界に関する争い所有権界に関する争い
裁判による解決方法
筆界確定訴訟
所有権確認訴訟
ADRによる解決方法
筆界特定制度
土地境界ADR
土地境界の問題を終局的に解決するには、筆界と所有権界の両方を明確にしなければならないケースが非常に多く、これら4つの方法をうまく組み合わせて土地境界問題の総合的な解決を図っていく必要がある。

処分権主義(しょぶんけんしゅぎ)

裁判関係者にかけられた制限の一つ。原告及び被告はどのように裁判を始めるか、又は終えるか、そして何を訴えるのかについて自由に決めることができる。裁判所は当事者の訴えの内容に拘束され、それを超える判決を下すことができない。例えば原告が100万円の返還を求めたときに、裁判官が200万円の債権の存在を確信したとしても、訴えた本人が100万円といっているのであるからそれに拘束され、100万円を超える金額の返還を被告に命令する判決をすることができない。このように処分権主義とは、裁判の内容などを決める権限を当事者双方に与え、裁判所はその範囲内で裁判をし、判決を下さねばならないという制限のことである。

職権主義(しょっけんしゅぎ)

裁判官が職権によって証拠を収集し裁判を進める方式のこと。通常裁判は当事者双方に立証責任が課せられており、証拠の提出も両当事者が積極的に行うことが期待されている。裁判官は証拠の収集などはしない。しかし、境界確定訴訟は、処分権主義の適用がなく、当事者に立証責任すなわち証拠物の提出義務がない。そこで、裁判官は自己の職権で証拠物の収集を行うことになる。このような裁判官の権限での証拠資料の収集を職権主義と呼んでいる。

公開主義(こうかいしゅぎ)

通常の裁判は、公開することが原則とされている。これを公開主義という。

債務名義(さいむめいぎ)

裁判などで勝訴した者に対して交付される公文書で、執行をする際に必要となるもの。日本では法に基づかない執行を認めていないので、他人の財産に対して何らかの措置(執行)をするためには、その執行の正当性を証明するための公文書が必要である。債務名義はその公文書の総称である。裁判所などの国家機関は、執行の申立人に、その相手方とされる者との関係で一定の請求権があり、それに基づく強制執行が許される旨を公的に証明することになるが、その文書が債務名義と呼ばれる。より具体的には、確定判決、執行証書、執行判決のある仲裁判断等がある。
執行機関(執行裁判所又は執行官)は、迅速・正確な執行のため、自ら債権の存否内容についての判断はしない。他の国家機関(民事訴訟を担当する裁判所や、公証人など)が作成した債務名義に基づいてのみ強制執行を行う。このように執行の可否を判断する機関と実行機関とは分離されている。
強制執行手続は債務名義がなければできない。通常、債務名義には、(1)実現されるべき給付請求権、(2)当事者、(3)執行対象財産ないし責任の限度、が表示される。
境界確定訴訟は給付を求める裁判ではないので、執行を伴うような判決は下されない。判決が確定した瞬間に筆界は創設され、終結する。

強制執行(きょうせいしっこう)

債務者が債務の履行をしない場合に、債権者が、国家の執行機関に頼んで、国家の手で、強制的に債権の実現をしてもらう制度、ないし、その下で行われる手続のことをいう。強制執行は執行機関によって実行される。
筆界確定訴訟では、直接強制執行に結びつくということはあまり考えられないが、所有権確認訴訟においては不法占拠物の撤去などで強制執行が行われることも十分あり得る。

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