大学の寄付講義「国家基盤づくりに係る土地・家屋の調査」で利用するための用語集です。

民法に関する用語

不動産(ふどうさん)

民法第86条第1項で規定されている。

第86条 (不動産及び動産)
  1. 土地及びその定着物は、不動産とする。
  2. 不動産以外の物は、すべて動産とする。

具体的には、土地とその地上にある建物を指す。だが、何が建物であるのかについての定義は法律によって異なる。不動産登記法の目的は「取引の安全」であるから、取引の対象とはならないような建物は不動産とは取り扱わない。一方、建築基準法の目的は「国民の生命財産の保護」であるから、取引の対象とはならずとも、建物として取り扱われる場合が多い。
不動産の対抗要件は登記である。引き渡しを受けて占有を開始しても、登記がなければ登記のある第三者には勝てない。

動産(どうさん)

不動産以外は全て動産である(民法第86条第2項)。動産であるためにはその前提として、有体物でなければならない。電気のような無体物は、民法上は「物」ではない。しかし、刑法上は窃盗罪の対象となる「物」とされている。動産所有の公示方法は所持・占有であるとされる。従って、所持・占有している者が所有者であると推定される。所持・占有と言っても常時身につけている必要はなく、例えば自分が賃借している部屋に置いてある書籍などは、所持・占有している状況であると判断される。
また、動産の対抗要件は引き渡しを受けることであるが、引き渡しの形態には以下の4つの形態があるとされる。
  1. 現実の引渡し
    現所有者から新所有者に物が手渡される形態の引き渡しのこと。
  2. 簡易の引渡し
    これまで借り主であった者が所有者となる形態の引き渡しのこと。一旦所有者に物を返還する必要はない。
  3. 占有改定
    これまで所有者であった者が借り主となる形態の引き渡しのこと。引き渡しの前後で立場が弱体化したにも関わらず外形的な変化がないことから、民法上引き渡しが行われたとは認められない(=法律上保護されない)場合が複数ある。
  4. 指図による占有移転
    物が第三者の手元にある場合に、現所有者がその第三者に対して「以後は買主のために保管するように」指図し、買主がそれを承諾した場合に占有が移転するという引き渡しの形態である。典型例は賃貸されているアパートのオーナーが交代するというケース。賃借人はそのまま住み続けることができる。
動産の場合には、引き渡しが対抗要件となるが、不動産の場合には引き渡しは対抗要件とはならない。であるから、購入した家屋の鍵を前所有者から引き渡されて、実際に居住(=占有)を開始しても、対抗要件を備えたとはいえないから、注意が必要である。

代理(だいり)

民法が定める取引に関する制度の一つ。ある人(代理人)が他人(本人)に代わって第三者(相手方)に対して意思表示を行い、または第三者から意思表示を受け、その法律効果がすべて直接本人に帰属する制度。十分な専門的知識を持たない人が、全てにおいて自己で意思表示をしなければならないというのでは、世の中は回って行かない。また、ひとりの人間が対処でできることには時間的、空間的な物理制限があり、それを拡張することができなければ、経済が回って行かない。代理制度は、本人の行為能力を大幅に拡張するための法律的なテクニックといえる。

代理人が行為能力者である必要はない。従って、未成年者であっても代理人となることができ、未成年者である代理人が行った法律行為であっても本人は代理人が未成年者であったことを理由に取り消すことができない。

法律の規定に基づく法定代理と、授権行為によって生ずる任意代理がある。代理権の範囲は法律の規定または授権行為によって決まる。代理権を持たない者の代理行為は無効とされるが、代理人が代理権の範囲を越えてなした行為等、一定の場合に表見代理となり、正当な代理行為と同じように取り扱われることがある。

通常の代理権は本人の死亡によって消滅するが、不動産登記の申請代理権は本人の死亡によっても消滅せず、本人の死亡後もそのまま登記の申請をすることができるという特徴がある。

委任契約(いにんけいやく)


民法第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

委任契約は原則として片務契約(報酬の支払を約した場合には双務契約)であり、諾成契約である。民法上、委任契約書を作成することや、委任状を作成することは必要とされていない。土地家屋調査士が業務依頼を受任する行為は、請負契約ではなく委任契約であるとされる。

請負契約(うけおいけいやく)


民法第632条(請負)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

典型例が建物建築の請負契約である。請負契約は仕事の完成を約する必要がある。そして、結果がはっきりしないうちは原則として報酬を請求することができない。土地家屋調査士の業務受任は、委任契約であるから、たとえ受任された業務を完了しなくても、中間報酬を請求できるとされている。

対抗要件(たいこうようけん)

同じ権利が衝突したときに、どちらの権利を保護するのか判定するための条件のこと。所有権を例にとると、動産の場合には、民法178条の規定によって、「引き渡しを受けること」が対抗要件とされている。不動産の場合には、民法177条の規定によって、「登記を備えること」とされる。動産所有権の場合にはリレーのバトンタッチをイメージすれば良い。バトン(動産)を受け取ったものが新所有者となるのである。例えば二人がリレーゾーンで待ち構えていてもバトンを受け取ったものが確定的に新所有者となり、受け取れなかった者は無権利者となる。他方、不動産の場合には、登記が所有権の対抗要件であるとされているので、買主がいくら鍵の引き渡しを受けても、引っ越しをして住み始めても、登記を備えていなければ、登記を備えた別の買主に追い出されることになる。

権利能力(けんりのうりょく)

権利の主体・客体としての能力を指す。自然人は出生から死亡まで権利能力があるとされる。法人は設立から清算結了まで。出生に関する定義は民法と刑法では異なる。民法では胎児の全身が母体から生きて出てきた時を出生と定義するが、刑法では胎児の体の一部が母体から露出した時を出生と定義している。民法は胎児の死産を想定しており、刑法は胎児が被害者となることを想定しているので、このような違いがあると考えられる。

意思能力(いしのうりょく)

完全な意思表示をする能力のこと。小学生の低学年までは意思能力がないとされる。また、泥酔した状況では意思能力がないとされる。意思能力のない者がした意思表示は無効とされる。

行為能力(こういのうりょく)

単独で有効な法律行為を行い、またはその法律効果を受ける能力のこと。行為能力に制限のある者(制限行為能力者)には以下のような類型がある。
  1. 未成年者
  2. 成年被後見人
  3. 被保佐人
  4. 同意権付与の審判を受けた被補助人
これらの者が行った法律行為は、無効であったり事後に取り消しができたりする。行為能力に問題がある者を保護するためである。一般に行為能力に制限があっても、日常生活に必要な買い物などは例外とされ、取り消すことはできないとされる。また、行為能力者であっても、婚姻などの身分行為に関する制限はない。

瑕疵のある意思表示(かしのあるいしひょうじ)

意思表示の効力は行為能力の制限を受けるだけでなく、意思表示そのものに瑕疵(傷・不完全性)があれば、法律効果に影響を及ぼす。瑕疵ある意思表示には以下のような類型がある。
  1. 制限行為能力者による意思表示(民法4条〜21条)
  2. 心裡留保(しんりりゅうほ)(民法93条)
  3. 虚偽表示(きょぎひょうじ)(民法94条)
  4. 錯誤による意思表示(民法95条)
  5. 詐欺による意思表示(民法96条)
  6. 強迫による意思表示(民法96条)
瑕疵の種類によってその取扱は異なるので、注意する必要がある。

無効な行為(むこうなこうい)

法律行為に対して最初から法律効果が発生しない類の法律行為を無効な行為という。例えば愛人契約や奴隷契約のような公序良俗に反する契約は無効とされる。無効な行為は最初からなかったものとして取り扱われる。取り消し得る行為(取り消されるまでは有効な行為)とは異質なものなので注意が必要。

取り消し得る行為(とりけしうるこうい)

一旦は有効に成立した法律行為であっても、意思表示に欠陥がある場合などには取り消しができる。事後に取り消すことができる行為を「取り消しうる行為」という。例えば未成年者がした契約は法定代理人に取り消し権が認められている。また、成年被後見人がした法律行為はほぼ全て取り消すことが可能である。詐欺による意思表示、強迫による意思表示も取り消しうる行為とされる。取り消しの意思表示が行われると、法律行為は最初からなかったものとして取り扱われるが、取り消しの意思表示がない限り有効なものとして取り扱われるのが無効な行為との大きな違い。

期限(きげん)

法律行為の効力の発生・消滅を将来発生することが確実な事実にかからせる付款(ふかん)またはその事実のこと。「3月10日になったら」というような具体的に決まっている日時を指定する付款を確定期限といい、「何某(人)が死んだら」というように、いつになるかはわからないが確実にいつかはおとずれるであろう日時を指定する付款を不確定期限という。「〜したら」というのは条件であると思われがちだが、ひとは生きている限り必ずいつかは死ぬのであり、その日がわからないだけであるから、「何某(人)が死んだら」というのは期限に分類されるのである。

条件(じょうけん)

法律行為の効力の発生・消滅を、将来の発生が不確定な事実にかからせる付款(ふかん)またはその事実のこと。条件が実現することを「条件が成就する」と表現する。解除条件(かいじょじょうけん)と停止条件(ていしじょうけん)がある。解除条件と停止条件は正反対に誤って記憶されがちなので、注意が必要。
解除条件とは
条件が成就することによって法律行為の効力が消滅する(契約「解除」のような状況になる)条件を指す。たとえば「昇級試験に不合格なら奨学金を停止する(が、それまでは約束通り奨学金を与える)」というようなものである。
停止条件とは
条件が成就するまで法律行為の効力の発生を「停止」させた状態にしておく条件を指す。たとえば「東京大学に合格したらこの家をやる(が、それまではおあずけ)」というようなものである。

みなす

みなすとは、法律上反証を許さないということを意味する。反証を許さないということは、事実に反する証拠が提示されても、それだけでは結果が覆らないということをいう。例えば失踪宣告の場合、失踪宣告をされた人は死亡したものと「みなされる」。この場合、実際に生きていることを証明しても、失踪宣告は無効とはならない。失踪宣告を取り消す審判がされて、はじめて失効宣告はその効力を失う。すなわち、この例で言うと取り消しの審判があってはじめて「死んではいなかった」と法律上取り扱われる。

推定する(すいていする)

推定するとは、反証があるまではその事実を認めることを意味する。みなすという場合には反証が許されなかったが、推定するという場合には事実に反する証拠が提示されれば即座に結果が覆る。民法を読んでいると、推定するという言葉がよく出てくるが、それは「反証がなければそういうことにしましょう」ということであり、推定される側は、裁判をするときにそれをあえて証明する必要はないということでもある。推定を覆すためには相手が反証をしなければならないということになる。

善意/悪意(ぜんい/あくい)

善意とは「知らない」ということを意味し、悪意とは「知っている」ということを意味する法律用語である。法律用語の善意・悪意は道徳上の観念とは全く別のものであり、いわゆる「善人である」とか「悪人である」という意味ではない。法律の中で「善意の第三者」という表現が出てくるが、これはある法律事実(又は法律関係)について知らず、しかも当事者ではない人を指す用語である。

一物一権主義(いちぶついっけんしゅぎ)

一物一権主義には二つの意味があるとされる。
  1. 1個の物の上には全く同じ内容の権利は一つしか成り立たない(権利の完全性)
    例えば、1個の物の上には完全な所有権2つは同時に成立し得ないということ。考えて見ればすぐに理解できると思うが、1個の物の上に2つの同等な所有権の成立を認めると、争いの収拾がつかなくなるからである。
  2. 1個の物の一部に独立した権利は成立しない(客体としての完全性)
    例えば、土地の一部について所有権を移転する意思表示は有効であるとされているが、それを公示したり、対抗要件を備えることはできない。一物一権主義を反映して土地を分筆せずに一部について所有権移転をする手続きが用意されていないからである。区分建物についてはこの意味での一物一権主義の例外として、1棟の建物の一部について独立した所有権の成立を認め、対抗要件を備えるための登記ができるように法令が整備されているのである。

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