大学の寄付講義「国家基盤づくりに係る土地・家屋の調査」で利用するための用語集です。

裁判外紛争解決手続に関する用語

ADR(えい・でぃー・あーる)

Alternative Dispute Resolution の頭文字。
判決などの裁判によらない紛争解決方法を指し、民事調停・家事調停、訴訟上の和解、仲裁及び行政機関や民間機関による和解、あっせんなどを意味する。このうち、(民事)調停や訴訟上の和解は、民事訴訟手続に付随する手続として裁判所において行われるが、紛争解決の作用面に着目して、ADRに分類されることが多い。
裁判による解決が法を基準として行われるのと比較すると、ADRは、必ずしも法に拘束されず、紛争の実情に即し、条理にかなった解決を目指す点に特徴がある。
「法律学小辞典(有斐閣)」より

最終的な目標は「勝ち負け」ではなく、「Win-Win の関係構築」である。裁判とは異なり、ADRの手続きは非公開が原則であるため、争いを公にすることなく解決することも可能である。また、民間型ADR機関においては、法律だけにとらわれない自由な発想での紛争解決が可能である。

土地境界問題ADR(とちきょうかいもんだい えい・でぃー・あーる)

土地境界問題に特化した民間型裁判外紛争解決手続のこと。全国に50ある土地家屋調査士会の全てが、各地の弁護士会と協力して土地境界ADR機関を設置・運営している。それらは全て法務大臣の指定(土地家屋調査士法第3条第1項7号に規定する指定)を受けており、弁護士と認定土地家屋調査士は共同して、当該機関に対する事件の申立等の代理を受任することができる。しかしながら、申立は代理人なしでも可能であり、土地境界問題ADR機関では、土地家屋調査士と弁護士が調停人として必ず手続きに参加することになっているため、わざわざ申立代理人として2人の専門家(弁護士と土地家屋調査士)を選任するという例はほとんどないのが現状である。
さまざまな士業者団体が民間ADR機関の立ち上げを行っているが、全国すべての都道府県で法務大臣の指定は受けている士業専門ADR機関を運営している士業者団体は、土地家屋調査士会だけである。ホームページ
その内の幾つか(令和5年4月時点では26の機関)は、さらに「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR促進法)」第5条に規定されている法務大臣の認証を受けており、「かいけつサポート」機関として運用されている。法務大臣の認証を受けた土地境界ADR機関では、手続きの期間中は時効の完成猶予、和解に至った場合には時効の更新効が認められている。しかし残念なことに、執行力は与えられていないので、和解に至ったとしてもその内容を当事者に強制するということはできない。参考資料
先にも説明したように、土地境界問題ADRセンターでは、本人からの申立による利用がほとんどであり、認定土地家屋調査士が申立を代理するという場面はほとんどないが、センターそのものは利用されており、少なからぬ件数の調停が行われている。

認定土地家屋調査士(にんていとちかおくちょうさし)

法務大臣が指定する機関(通常は日本土地家屋調査士会連合会)が実施する特別研修及び考査を受け、一定のレベルに達していると認められた者は、認定土地家屋調査士登録をすることができ、土地家屋調査士法第3条第1項第7号業務及び第8号に規定されている裁判外紛争解決手続関連業務を行うことができる。すなわち、認定土地家屋調査士は、弁護士との共同受任を前提として、法務大臣が指定する土地境界問題ADR機関に対する申立の代理人となることができ、土地境界問題ADRに関する相談を受けることができる。認定土地家屋調査士でない土地家屋調査士は、これらの業務を行うことが法律上許されていない。
認定土地家屋調査士の登録者数は、残念ながらそれほど多くない。逆に言えば、認定土地家屋調査士は業務の幅や知識の面において優秀であると言える。認定土地家屋調査士であるかどうかは、日本土地家屋調査士会連合会のホームページで簡単に調べることができる。

申立人(もうしたてにん)

裁判外紛争解決手続の開始申立をした人のこと。民事裁判でいうところの原告に相当する。申立人とはポジション名であり、申立人は手続きの中で常に申立人と称される。法務大臣の指定を受けた土地境界問題ADR機関に対して申立をする際には、弁護士と土地家屋調査士を代理人として選任することができる。もちろん代理人を選任せずに申立をすることも可能である。

相手方(あいてかた)

裁判外紛争解決手続の開始を申し立てられた人のことをいう。民事裁判でいうところの被告に相当する。相手方とはポジション名であり、手続きの中で常に相手方と称される。相手方から見た申立人は相手方の相手方ということになるが、それでは話がややこしくなるので、常に呼び方が決められているのである。相手方も土地境界問題ADR機関での申立を受ける(話し合いに応じる)場合には、弁護士と土地家屋調査士を代理人として選任することができる。もちろん、代理人を選任せずに、話し合いに応じることも可能である。

調停期日(ちょうていきじつ)

調停をする日程のこと。裁判でいうところの公判日に相当する。調停期日には、当事者双方が調停場所に呼び出され、調停が行われる。裁判の公判と違い土地境界ADR機関での調停は完全非公開であり、調停員にも厳格な守秘義務が課せられているので、調停期日で話された内容が外部に漏れるということはない。

弁護士との共同受任(べんごしとのきょうどうじゅにん)

土地家屋調査士法第3条第1項7号で規定されている法務大臣の指定を受けた土地境界ADR機関に対する申立の代理を受任するに際には、土地家屋調査士が単独でこれを受任することはできず、弁護士との共同受任が大前提とされている。土地境界に関する専門家である土地家屋調査士と、権利関係の争いのエキスパートである弁護士の双方が代理人として関与しないと、利用者の満足する解決が得られないとの配慮からそのように定められている。土地境界ADR制度を利用するには代理人が必要というわけではなく、本人が直接申し立てても何ら問題はないのだが、紛争当事者は可能な限りの手段を尽くして最大限自己に有利な結論を得たいと考えるのが普通であるので、専門家を代理人に選任することもその選択肢に入ると思われる。そういう当事者にとっては代理人を最低でも2人雇う必要があるので、費用の面からはありがたくない仕組みであるといえる。しかし、土地境界ADR機関において、担当弁護士と担当土地家屋調査士が協働して解決に当たるので、相対して的確な解決に向けての話し合いができると思われる。

かいけつサポート(かいけつさぽーと)

裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律第5条に規定されている、法務大臣の認証を取得した民間紛争解決手続実施事業者には、「かいけつサポート」の愛称と、ロゴマークを使用することが認められている。この認証を得るためには厳格な審査があり、その審査を通過した機関だけに認証が与えられる。
近畿の土地家屋調査士会では、大阪土地家屋調査士会の「境界問題相談センターおおさか」、京都会の「京都境界問題解決支援センター」、兵庫会の「境界問題相談センターひょうご 」、滋賀会の「境界問題解決支援センター滋賀」、和歌山会の「境界問題相談センターわかやま」が法務大臣の認証を受けている。
全国の土地家屋調査士会が実施している土地境界問題解決のためのADR機関は、多くが法務大臣の認証を取得している(現時点で50機関のうちの22機関)。
かいけつサポートの認証を受けている機関には、土地境界関係のみならず、さまざまな紛争の解決に特化した機関が全国にあり、紛争の内容に応じた解決機関の選択ができるように配慮されている。
かいけつサポートホームページ

時効の完成猶予(じこうのかんせいゆうよ)

裁判外紛争解決手続の継続中は時効の成立が一時的に停止して、手続きが終了するまで時効が成立しないことをいう。民間紛争解決手続はさまざまな民間事業者でも行うことが可能であるが、時効の完成猶予は全ての裁判外紛争解決手続機関に認められているものではなく、法律に定められた厳格な基準をクリアしているかどうかの審査を経て法務大臣に認証された裁判外紛争解決手続機関にのみ認められているものである。

執行力(しっこうりょく)

債務名義(さいむめいぎ)に表示された給付請求権の強制執行による実現を求め得ること。
平たく言うと国家権力などによって本来保護されるべき私権を犯すような行為を行う力。裁判等の結果を現実のものとするために、財産の没収や、金銭の徴収など、私有財産等に対して強制的に制限をかけることが許される。そのような力を執行力という。判決の他様々なものに執行力が認められているが、いずれも法のもとでの厳格な手続きによって得られた結論に従って行われるものに限定されている。
裁判所の行う民事調停の結果として作成される調停調書には執行力が認められているが、民間型ADR機関によって行われた調停合意書には原則として執行力はなく、合意内容が実現するか否かについては当事者の自主的な合意遵守にゆだねられる。
ただし、民間型ADRの調停合意に執行力がない点はあまり心配する必要はない。民間型ADRで当事者が納得の上でなされた合意は自主的に遵守される傾向が非常に強いからである。

仲裁(ちゅうさい)

最初に申立人、相手方双方が、裁判所などの公正な第三者が選任する仲裁人に判断を委ねることに合意(仲裁契約)し、仲裁人が示した内容で争いを終結すること。両当事者がその旨の合意(仲裁契約)をすれば、以後、司法裁判所に出訴する権利を失うことになる。仲裁人の示した仲裁案の内容に不満があってもそれを変更することはできない。仲裁とは、このように当事者双方が紛争の解決を第三者に委ね、その判断に従うことを事前に合意したうえで、この制度を利用し、争いを解決することをいう。なお、筆界特定制度は、筆界特定登記官という仲裁人的立場の人に筆界特定の判断をゆだねるという側面があり、このことから行政ADRと呼ばれることもある。

調停(ちょうてい)

紛争を解決するため、第三者(通常は裁判官や専門家複数人で構成される調停機関)が当事者間を仲介し、双方の互譲に基づく合意によって紛争の解決を図ることをいう。当事者による自主的解決に比重の置かれる「あっせん」に比べると、調停機関が積極的に当事者間に介入し、紛争解決の実質的内容についてもイニシアティブをとってリードしていく紛争解決方法のこと。

あっせん(斡旋)← 今は漢字では書かない

紛争の当事者間の交渉が円滑にいくように、その間に入って仲介する行為の一切をいう。あっせん手続きでは原則としてあっせん人が解決案を示すことはしない。和解あっせんとは、あっせん人が申立人、相手方双方に和解案を示し、それに従うように促すこと。提示された和解案に強制力はなく、当事者間でより良い和解方法があれば変更を加えて和解することも可能である。「調停」と比較すると、「あっせん」は、当事者間による自主的解決の援助、促進を主眼とするもので、当事者の自主性に比重が置かれているという点に特徴がある。

筆界特定との連携(ひつかいとくていとのれんけい)

土地境界ADRはあくまでも所有権界についての合意であるため、実際の筆界と所有権界に相違がある場合には、終局的な解決に至らないということも考えられる。また、両制度では同じような証拠資料を用いることが考えられるので、両者が連携すれば、両方の制度を同時又は前後して利用するときに利用者の負担や紛争の解決にかかる時間が大幅に短縮・軽減されるということが考えられる。しかし、両制度には「守秘義務」が課されているため、相互に資料を開示するということが法律上許されていない。従って現時点では、利用者の負担が軽減されることもなく、手間も時間も倍かかるような利用しにくい制度になっている。
筆界特定制度と土地境界ADRが連携すれば、ある意味境界に関する紛争を短時間で終局的に解決することができるのではないかと期待されている。だが、筆界特定制度そのものが筆界を確定する作用を持っていない(特定後に裁判で争うことを禁止していない)ため、両者の連携では境界に関する紛争を終局的に解決することは不可能ではないかという意見もある。

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