著作権法（途中）
３．現在の著作権制度が抱える問題点
�．汽ぅ弌雫�間の出現による問題点
今までみてきたように、ベルヌ条約は現在の著作権制度における考え方の根幹を成すものである。しかし近年のインターネット技術の発達によってその著作権制度は少なからず変容を迫られており、著作権制度の根本的な概念そのものが揺らいでしまう可能性をも孕んでいる。以下、具体的に何が問題なのかを述べる。
ベルヌ条約以後に起こった技術発展で大きな影響となったのはデジタル技術である。著作物がデジタル化されると、アナログの場合よりもはるかに著作物の複製が容易になる。しかもその複製物はオリジナル（原本）と比較しても劣化の少ない高品質であり、また複製にかかるコストも小さい。そのため、本来著作権者に保証されていた複製権が侵害される機会が多くなってきた。さらにデジタル技術はネットワーク環境と結びつくことでより深刻な問題を引き起こす。デジタル化された複製物はネットワーク等を通じて品質にほとんど劣化を生じさせないまま、非常に広範に流通させることが可能である。国境を越えるような広い範囲での流通にはこれまで巨大な資本が必要であり、当然その流通には相応の時間がかかっていたのだが、資本力の大きさに関係なく一個人の手によって瞬時に世界中に流通させることが可能になった。
ここで具体的に問題となるのは「私的領域における複製権」である。私的領域における複製についてはベルヌ条約には直接の規定はないが、日本の著作権法第３０条で「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは（中略）その使用する者が複製することができる」と規定されているように、基本的に私的に使用するための複製は合法であるとされている。普段の生活での日常感覚、あるいは私的自治に介入しないという法の原則に照らし合わせてみても、この考えが土台となるのは間違いない。しかしネットワークを通じて質の高い複製がほぼ無制限にばらまかれる現在の状況では著作権の侵害は深刻であり、著作権者や著作物を扱う事業者側からは早急な保護の必要性が唱えられている。これを受けて著作権法は徐々に改正され、平成１１年に第３０条２項として「私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器（放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。）であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない」と追加された。つまり、著作権者への経済的侵害があまりにも大きいような複製には、それが私的利用のためであっても、補償金の支払いを義務付けたのであり、私的領域における複製を制限し著作権を強化しようという動きであるといえよう。
しかしネットワーク上での著作権保護を厳格化しようという考えは本当に著作権者の保護につながっているのか。今まで著作物の大規模での普及には資本に裏打ちされた宣伝・広告が不可欠であるかのように思われてきたが、そのような資本のない個人でもインターネット上での口コミによって普及させることができる可能性がある。一例に過ぎないが、例えば大手のレコード会社を介さないで自らの手で自分たちの楽曲を生産・流通させようとするミュージシャン（いわゆるインディーズ）の例を考えてみればよい。法の不必要な厳格化はこうした可能性を排除してしまうことにならないか。以下で具体的に検討する。
��国際条約における対応
前項でみた著作物のデジタル化及びネットワーク上での流通という問題点に対応した代表的な条約は１９９６年に採択されたＷＩＰＯ著作権条約（著作権保護に関する世界知的所有権機関条約）である。この条約では無方式主義等のベルヌ条約での基本原則を再確認すると共に、コンピュータ・プログラムの保護（第4条）、データその他の素材の編集物・データベースの保護（第5条）、著作物の有線又は無線の方法による公衆への伝達権の保護（第8条）、著作物の電子的権利管理情報の除去・改変等の規制（第12条）などで新たな対応策が示されている。ここではコンピューター上でデジタル化された著作物も従来の著作物と変わらない保護を受けることとされ、デジタル化そのものに関しては特に問題はない。
未だ問題点が残るのはネットワークに関する部分である。現在、ネットワーク上では一般に「インタラクティブ（双方向）送信」と呼ばれる方法がとられている。これは簡略化すると�〜�信者がサーバーにデータをアップロードしておく、�⊆�信者がサーバーに対して「このデータが欲しい」とリクエストする、��受信者のアクセス（リクエスト）に応じてサーバーがデータを送信する、という3つの手順を踏むものであり、送信者が一方的に情報を送り続けるテレビ放送等とは区別するべきものである。そしてＷＩＰＯ著作権条約が採択される以前は多くの国で後者の放送しか規定の対象になっておらず、インターネット上で主流となっているインタラクティブ送信については違法とされていなかった点に留意したい。
ではＷＩＰＯ著作権条約で具体的にどのように規定されたか。伝達権を定めた第８条には、「文学的及び美術的著作物の著作者は、有線又は無線の方法による著作物のあらゆる公衆への伝達を許諾する排他的権利を享有する。ここでいう公衆への伝達には、公衆の構成員が個別に選択した場所及び時において著作物にアクセスできるように、当該著作物を公衆に利用可能な状態にすることを含むものとする。」と規定されている。伝達とは「当該著作物を公衆に利用可能な状態にすることを含む」ものであり、ここから前掲のインタラクティブ送信における手順�，了�点から規制の対象となることがわかる。つまりＷＩＰＯ著作権条約により著作権者の許諾を得ずにデータをアップロードすることは違法であるが、その違法なデータをダウンロードする分には合法である。このような一般ユーザーのダウンロードも含めて規制するべきか否かが争点となっている。
�Ｆ�本の状況
ＷＩＰＯ著作権条約を採択した国々はその基準を遵守しつつ、国内法でそれぞれ独自の規制を行っている。日本ではどのような国内法が運営されているかをみていくことにする。
日本では著作権法が何度も改正され、第２３条で「自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。」とし、従来の送信権に送信可能化権を含めた。これにより、「送信可能化」＝「サーバーに違法なデータをアップロードし、誰かがそのサーバーにアクセスすればそれに対してデータを送信できる状態にすること」も規制の対象となった。しかし個人が違法なコンテンツをダウンロードすることは現時点では規制されていない。ただしYou Tubeやニコニコ動画などのサイトの登場により問題が深刻化した結果、私的領域内での複製を規制せよという要請が強くなっており、文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会で2007年9月26日に中間取りまとめが作成された。未だ議論の渦中であり確実なことはいえないが、無許可の著作権物のダウンロードも違法となる見込みで、2008年の通常国会で著作権法に追加される予定である。
参照：http://www.furutani.co.jp/office/ronbun/wipo.html
ネットワーク時代におけるＷＩＰＯ新条約と著作権法の一部改正
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/pdf/rok...
文化審議会著作権分科会 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて
�．汽ぅ弌雫�間の出現による問題点
今までみてきたように、ベルヌ条約は現在の著作権制度における考え方の根幹を成すものである。しかし近年のインターネット技術の発達によってその著作権制度は少なからず変容を迫られており、著作権制度の根本的な概念そのものが揺らいでしまう可能性をも孕んでいる。以下、具体的に何が問題なのかを述べる。
ベルヌ条約以後に起こった技術発展で大きな影響となったのはデジタル技術である。著作物がデジタル化されると、アナログの場合よりもはるかに著作物の複製が容易になる。しかもその複製物はオリジナル（原本）と比較しても劣化の少ない高品質であり、また複製にかかるコストも小さい。そのため、本来著作権者に保証されていた複製権が侵害される機会が多くなってきた。さらにデジタル技術はネットワーク環境と結びつくことでより深刻な問題を引き起こす。デジタル化された複製物はネットワーク等を通じて品質にほとんど劣化を生じさせないまま、非常に広範に流通させることが可能である。国境を越えるような広い範囲での流通にはこれまで巨大な資本が必要であり、当然その流通には相応の時間がかかっていたのだが、資本力の大きさに関係なく一個人の手によって瞬時に世界中に流通させることが可能になった。
ここで具体的に問題となるのは「私的領域における複製権」である。私的領域における複製についてはベルヌ条約には直接の規定はないが、日本の著作権法第３０条で「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは（中略）その使用する者が複製することができる」と規定されているように、基本的に私的に使用するための複製は合法であるとされている。普段の生活での日常感覚、あるいは私的自治に介入しないという法の原則に照らし合わせてみても、この考えが土台となるのは間違いない。しかしネットワークを通じて質の高い複製がほぼ無制限にばらまかれる現在の状況では著作権の侵害は深刻であり、著作権者や著作物を扱う事業者側からは早急な保護の必要性が唱えられている。これを受けて著作権法は徐々に改正され、平成１１年に第３０条２項として「私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器（放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。）であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない」と追加された。つまり、著作権者への経済的侵害があまりにも大きいような複製には、それが私的利用のためであっても、補償金の支払いを義務付けたのであり、私的領域における複製を制限し著作権を強化しようという動きであるといえよう。
しかしネットワーク上での著作権保護を厳格化しようという考えは本当に著作権者の保護につながっているのか。今まで著作物の大規模での普及には資本に裏打ちされた宣伝・広告が不可欠であるかのように思われてきたが、そのような資本のない個人でもインターネット上での口コミによって普及させることができる可能性がある。一例に過ぎないが、例えば大手のレコード会社を介さないで自らの手で自分たちの楽曲を生産・流通させようとするミュージシャン（いわゆるインディーズ）の例を考えてみればよい。法の不必要な厳格化はこうした可能性を排除してしまうことにならないか。以下で具体的に検討する。
��国際条約における対応
前項でみた著作物のデジタル化及びネットワーク上での流通という問題点に対応した代表的な条約は１９９６年に採択されたＷＩＰＯ著作権条約（著作権保護に関する世界知的所有権機関条約）である。この条約では無方式主義等のベルヌ条約での基本原則を再確認すると共に、コンピュータ・プログラムの保護（第4条）、データその他の素材の編集物・データベースの保護（第5条）、著作物の有線又は無線の方法による公衆への伝達権の保護（第8条）、著作物の電子的権利管理情報の除去・改変等の規制（第12条）などで新たな対応策が示されている。ここではコンピューター上でデジタル化された著作物も従来の著作物と変わらない保護を受けることとされ、デジタル化そのものに関しては特に問題はない。
未だ問題点が残るのはネットワークに関する部分である。現在、ネットワーク上では一般に「インタラクティブ（双方向）送信」と呼ばれる方法がとられている。これは簡略化すると�〜�信者がサーバーにデータをアップロードしておく、�⊆�信者がサーバーに対して「このデータが欲しい」とリクエストする、��受信者のアクセス（リクエスト）に応じてサーバーがデータを送信する、という3つの手順を踏むものであり、送信者が一方的に情報を送り続けるテレビ放送等とは区別するべきものである。そしてＷＩＰＯ著作権条約が採択される以前は多くの国で後者の放送しか規定の対象になっておらず、インターネット上で主流となっているインタラクティブ送信については違法とされていなかった点に留意したい。
ではＷＩＰＯ著作権条約で具体的にどのように規定されたか。伝達権を定めた第８条には、「文学的及び美術的著作物の著作者は、有線又は無線の方法による著作物のあらゆる公衆への伝達を許諾する排他的権利を享有する。ここでいう公衆への伝達には、公衆の構成員が個別に選択した場所及び時において著作物にアクセスできるように、当該著作物を公衆に利用可能な状態にすることを含むものとする。」と規定されている。伝達とは「当該著作物を公衆に利用可能な状態にすることを含む」ものであり、ここから前掲のインタラクティブ送信における手順�，了�点から規制の対象となることがわかる。つまりＷＩＰＯ著作権条約により著作権者の許諾を得ずにデータをアップロードすることは違法であるが、その違法なデータをダウンロードする分には合法である。このような一般ユーザーのダウンロードも含めて規制するべきか否かが争点となっている。
�Ｆ�本の状況
ＷＩＰＯ著作権条約を採択した国々はその基準を遵守しつつ、国内法でそれぞれ独自の規制を行っている。日本ではどのような国内法が運営されているかをみていくことにする。
日本では著作権法が何度も改正され、第２３条で「自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。」とし、従来の送信権に送信可能化権を含めた。これにより、「送信可能化」＝「サーバーに違法なデータをアップロードし、誰かがそのサーバーにアクセスすればそれに対してデータを送信できる状態にすること」も規制の対象となった。しかし個人が違法なコンテンツをダウンロードすることは現時点では規制されていない。ただしYou Tubeやニコニコ動画などのサイトの登場により問題が深刻化した結果、私的領域内での複製を規制せよという要請が強くなっており、文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会で2007年9月26日に中間取りまとめが作成された。未だ議論の渦中であり確実なことはいえないが、無許可の著作権物のダウンロードも違法となる見込みで、2008年の通常国会で著作権法に追加される予定である。
参照：http://www.furutani.co.jp/office/ronbun/wipo.html
ネットワーク時代におけるＷＩＰＯ新条約と著作権法の一部改正
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/pdf/rok...
文化審議会著作権分科会 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて
2008年01月12日(土) 15:59:10 Modified by imaishou