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著者:◆C/oSFSeeC2氏


「大好きだ、澪。・・・死ぬまで一緒にいようぜ。」
私はこの時。私の愛する人・・・田井中律とずっと一緒にいられるものと・・・ずっと彼女の愛を一身に受けていられるものと・・・本当にそう信じていた。

朝。目を覚ますと私は律の腕の中だった。
「・・・んー。朝、か。」
律を起こさないように注意しながらのびをして。そっとベッドから出る。
今日はなんにも予定ないし。一日、のんびり律と過ごそうかな。
律の顔を覗き込む。かわいい。前髪を下ろした律は普段の活発な彼女と違い、女らしい印象を与える。いつもカチューシャを外すことのない律の、私だけが知っている表情。
それにしてもよく寝ているな。
「くかー・・・みお・・・」
はい?・・・何だ、寝言か。
「そんなとこ・・・だめだよぅ・・・」
な、なんの夢を見てるんだ?
「んにゃ・・・みお・・・あいしてる・・・」
自分でも顔が熱くなるのが分かる。
り、律ったら、もう。
ばか。
えっち。
他に人がいたらどうするんだよ。
・・・そっか。お前、そんなに私のこと、好きなのか。
ここは律と私の部屋だけど、一応、まわりを見渡してからほっぺにキス。
「私も、だよ、律。」
律はくすぐったそうに身を縮めて、また熟睡。
なに、このかわいい生き物。
しばらくの間、私は律が起きないように気をつけながら、くすぐったりつついたりして反応を楽しんだ。

律と私が恋人として付き合うようになってから、もう3年になる。
あの時。
いつものように律が遊びに来ていた。律がいい曲があるから一緒に聞こう、なんて言って、ベッドに二人で座って携帯MP3プレイヤーから流れる曲を聴いていた。イヤホンは一個ずつ。甘々のラブソング。
「へえ・・・いい曲だけど、律、こういうのダメだったろ?どういう心境の変化だ?」
片耳で曲を聞きながら、ふと律の方を見ると。
律は真っ赤になってた。
「・・・あ、あのさぁ、澪。」
「なに?」
「・・・今から言うこと、もし嫌だったらはっきりそう言えよ?」
「なんだよ?お金ならもう貸さないからな。」
「いいから。約束してくれよ。」
まるで喧嘩を売るみたいな口ぶり。
「・・・うん。まぁいいけど。」
律は深呼吸して、がばっ!と私のほうに向き直った。
「み、澪っ・・・」
「わ、わぁっ!なんだよ、急に。」
「私・・・澪のこと、好きだ!」
「・・・へっ?」
律は真っ赤になったまま、目を逸らす。
「授業中、澪のことばっかり考えてるし。澪が和と仲良くしてるのを見るとおかしくなりそうだし。夜とかさぁ、たまらなく逢いたくなるんだよ。・・・私・・・」
「私、絶対澪に恋してる!」
「・・・ふへっ?」
私は多分相当マヌケな顔をしていたと思う。
「り、律っ・・・だって私、女の子だぞっ!」
「・・・知ってるよ。」
「律も女の子だぞっ?」
「・・・知ってるよ。・・・だってしょうがないだろ!好きになっちゃったんだからぁっ!」
律の気持ちがまっすぐ伝わってきて。私も真っ赤になって俯いた。
「・・・嫌だった、か?」
律が不安そうに聞いてくる。
「い、嫌じゃないけど・・・」
あれ?なんかドキドキする。
律は上目使いでじっと見つめて、私の答えを待っている。
「けど?・・・私のこと、どう思ってる?」
あれ?律ってこんなにかわいかったっけ?
「そ、そのぅ・・・分からない、よ。・・・いやっ、私だって律のこと、好きだぞ!小さい頃からずっと一緒だったし、一番の親友だって思ってるし、だけど・・・」
妙に恥ずかしくなって私も目を逸らす。
「急に言われたって・・・そんな・・・」
「・・・そっ、か。」
律はベッドの上に座り直した。膝を抱えて並んで座る私と律。片耳から聞こえるラブソング。
「・・・あ、あのさ、律。」
思えばこの時、すでに私は律にハマってしまっていたんだと思う。
「私のこと、好きって・・・あの・・・キスとかしたいって、そういうことなのか?」
「・・・してみるっ!?」
律はすごい勢いで私の方に向き直った。ベッドがぎし、と音を立てた。
「え?・・・あ、と、その・・・ちょっ、まっ・・・」
すごいドキドキする。ラブソングが聞こえなくなるくらい。
「み、澪・・・きっとさ・・・キスしてみたら、嫌かどうか分かると思うんだ。」
・・・おい、律、なんだ、その理屈。私のファーストキスの行方はどうなる。
あ、両肩つかまれた。・・・律の目、すごいマジだ。
や、律、顔近いよ。あれ?律も顔、真っ赤だな。
どうしよう、目、閉じたほうがいいのかな。
なんだか律のいい匂いする。い、息とかどうしたらいいんだろ。
頭の中ではぐるぐる考えたけど体は全く動かなかった。
唇が触れる瞬間に目を閉じた。律の両手が肩から背中へ回ってくる。
抱きしめられる。わ、背中、まさぐられるとぞくぞくってする。
律の唇、思った以上に柔らかい。・・・あれ、なんか・・・すごく気持ちいい。
「・・・ん、んぅっ・・・」
息が続かなくなったところで、ちょうど律の唇が離れる。
律も息を止めてたみたいだ。荒く呼吸をしながらじっと見つめ合う。
「・・・どう、だった?」
不安そうな律。恥ずかしくなって私は俯いた。
ちょっと迷ったけど、素直になることにした。
「・・・柔らかかった。」
きょとんとする律。
「いや、澪、そうじゃなくて、その・・・んむ?」
私は左手を伸ばして律の唇に触れる。
「小さい頃から長い間、ずっと一緒にいたのに、律の唇がこんなに柔らかいなんて・・・全然知らなかったよ。」
律があんまりじっと見つめるから。目を逸らそうと思って律の肩に顎を乗せる。
「すごくドキドキした。それで・・・もっともっと律のこと、知りたいって思った。」
意図せず、律の耳元で囁く。
「・・・ねぇ、これって恋なのかな?」
言ってみたら予想以上に恥ずかしかった。
真っ赤になって俯いたらぎゅうって抱きしめられた。
「あーもう!こんなん我慢できるかー!たっぷり教えてやるぜ、子猫ちゃーん!」
そのまま、ベッドに押し倒される。
「ちょ、ちょっと待て!待てってば、りーつーっ!」
「待ーてーなーいー!かわいすぎんぞ、澪−っ!」
弾みで二人をつないでいたイヤホンは取れちゃったけど。
ラブソングはもう必要なかった。
ねぇ、律。私、きっと一生忘れない。律が勇気を振り絞って私に告白してくれたこと。

高校を卒業した後、無事同じ大学に合格した私達はすぐ部屋を借りて同棲するようになった。私は律に頼んで人前・・・特に放課後ティータイムのメンバーの前では私達が恋人同士であることを黙っておいてもらっていた。
あくまで。幼馴染のルームシェア。
律にその話をした時、律はちょっと不満そうな顔をした。
「・・・なんでさー。せっかく一緒に住むのにー。」
「だって、みんなとはバンドの練習でしょっちゅう会うし、・・・その・・・冷やかされるの恥ずかしいし・・・みんなの前でどんな風にしてたらいいか分からないから・・・」
律はちょっと考えてから、私の頭をくしゃっと撫でた。
「分かった。でもいつか機会を見てみんなにはちゃんと話そうね。私、澪とのことは世界中に発表したいくらいだけど、澪が冷やかされるの嫌なら待つよ。」
私はその時、律の優しさに甘えてしまった。

それは夏の暑い日だった。
お盆休みで律が田舎に帰ることになり、私は一人で暇をもてあましていた。
テレビはどうせ面白いものないだろうし、私は新しい歌詞を考えるふりをして、音楽を聴いていた。
律は日帰りのつもりだったようだけど、たまにはゆっくりしておいでよ、と私が言って2泊ほどして帰ってくることになった。律は最近免許を取ったばかりの車で帰る予定だったし、それで日帰りなんて危ないじゃないか。
淋しいから一緒に帰ろうと律が誘ってくれたけど、女友達が突然田舎にお邪魔するのも、なぁ。これが嫁だったり婿だったりすれば、ごくごく自然にご挨拶に行くところなのだろうけど。
「・・・やっぱ変だよな、そういうの。」
口に出してみると胸の奥がモヤモヤする。
律のことは大好きだし、一緒にいるだけで幸せになる。それだけで十分だけど私達の関係は一般社会には認められないものなんだろうな。
もし律が私を好きになってくれて告白してくれなかったら。私はこの気持ちに気づいたとしても蓋をしたまま、終わっていただろう。私は律のようにはっきり物が言えないし。子供の頃からいつも律が私の手を引っ張って新しい扉を開いてくれた。
でも、律はなんで私を好きになってくれたんだろう。
「幼馴染だしな。ずっと一緒にいたし。律のこと、多分律のパパとママより分かってるんじゃないか。」
机の上に突っ伏して指で好きな人の名をなぞる。り、つ、りつ、律。
初めて律が私に告白してくれた時のことを思い出す。
「・・・教えてやるぜ、子猫ちゃーん、か。・・・ほんとにあれから、色々教えられちゃったな。」
律の指、律の舌、律のにおい、律の味、いつもの律と違う甘い声。
律の肌、律の髪、律の背中、律の胸、蕩け切った律の瞳。
律のおなか、律のお尻、律の太もも、律の・・・一番熱いとこ。
はぁ、と今日何度目かのため息。
「律・・・早く帰ってこないかな。」
留守番をさせられている飼い犬ってきっとこんな気持ちだろう。

一人なので、夕飯は簡単に済ませてしまおう、と冷凍しておいた作り置きカレーを解凍する。
「カレーのちライス!・・・なんてね。」
大好きなカレーの作り置きが減ってたら、律、怒るかな。まぁ、いいや。そしたらまた作ってあげよう。律専用の特製甘口カレー。
サイレントモードの携帯が震える。ムギからか。メールなしにいきなり電話は珍しいな。
「もしもし、ムギ?」
電話のムギは既に泣き声だった。
「・・・澪ちゃん?りっちゃんが、りっちゃんが大変なの!」
「どうしよう、りっちゃんが死んじゃう!・・・テレビで今、交通事故だって・・・」

はい?

たまたま同じチャンネルだったのだろう。急いでテレビを付けると緊急ニュースをやっていた。
「・・・もう一度お伝えいたします。○○高速で大規模な玉突き衝突事故があり、現在東京方面が不通となっています。病院に搬送された方のお名前をもう一度お伝えします・・・」
テレビはぐちゃぐちゃになった事故車の絵から無機質な人名リストに切り替わった。

田井中 律(20)

え?・・・なにこれ?何を言ってるの?・・・り、つが交通事故?

「なにこれ・・・やだ・・・律・・・死んじゃうの?・・・嘘。嘘だよ!絶対嘘!」
携帯電話の向こうでムギが怒鳴っているのが聞こえるまで数秒はかかっていたはず。
「・・・澪ちゃん!聞こえてる?りっちゃんの病院が分かったの。私も今すぐ向かうからメモして!」
私はムギに手短に礼をいうと化粧もせず、部屋を飛び出した。

病院の検査室に通された時、律のパパ、ママ、ムギがすでに到着していた。
「ムギ!おじさん、おばさんっ!・・・律はっ!律は大丈夫なのっ?」
検査室の重そうな扉が目に入る。
「澪ちゃん、落ち着いて聞いて。・・・とりあえず看護婦さんに聞いた話だけど。」
「外傷自体は大した事はないらしいの。ただ、頭を強く打っていて意識が戻らないままみたい。」
ムギは目を逸らした。
「・・・危険、な状態らしいわ。」
私は全身の力が抜けてその場にへたり込んだ。
神様、お願い。律を連れていかないで。まだ律としたい事いっぱいあるの。
他の物だったらなんでもあげるから。私から律を取らないで。

30分ほどして、唯と梓が飛び込んできた。
「ムギちゃん、澪ちゃんっ!りっちゃんはっ!?・・・あずにゃんとのデート中に連絡が来たからびっくりしたよぉ!」
「なっ・・・デートじゃありませんっ!じゃなくてっ・・・律先輩、大丈夫なんですか?」
「・・・唯ちゃん、梓ちゃん・・・ここ病院だから、静かに、ね?」
苦笑いを浮かべたムギが唯と梓に説明しようとした時。
検査室のドアが開いた。
本当は出てきた医師にすがりつきたかったけど。おじさんとおばさんの後ろから話を聞いた。
「・・・右腕の骨折は単純骨折で時間が経てば治るでしょう。他の外傷も後で傷が残るような事はないように思います。問題は頭を強く打っていることで、脳の腫れが引いて意識が戻るまで、注意が必要です。」

それから3日3晩、律は眠り続けた。
私は大学の講義に出る気になれず、入学以来初めて講義をサボった。
他のみんなも一緒にいる、と言ったが、何かあったらすぐ連絡するから、と言って帰らせた。
とにかくずっと律と2人でいたかった。少しでも離れたら律がどこかに行ってしまいそうな気がした。
お願い、律。
早く戻ってきて。早く私にキスして。早くぎゅうって抱きしめて甘い声で「愛してる。」って言ってよ。

和は1日遅れで到着した。
和は東京の大学に合格して、東京で一人暮らしをしていた。
「全く・・・唯が電話で『りっちゃんが死んじゃう』しか言わないものだから、本当に焦ったわよ。」
「はは、唯らしいな。夏休み、だったのか?」
「ううん。ちょうど上期末の試験中で。全部追試にしてもらうのに時間がかかったわ。」
「ええっ?そんなことして大丈夫なのか?」
「律の一大事だもの。澪だって・・・」
和にしてはめずらしく少し言いよどんだ。
「・・・私達みんな、同じ立場だったら多分そうするんじゃない?親友同士だもの。」
「うん・・・高校卒業したらみんなバラバラになっちゃうと思ったけど、相変わらずバンドは続けてるし、今回もあっという間に集まったよな。」
「でも、まぁ・・・これで、成績が下がって就職できなかったら、律に責任取ってもらおうかしら。」
「せっ、責任って・・・?」
和は私に笑いかけると眠ったままの律の髪を優しく撫でた。
「・・・冗談よ。これでも成績は良い方なんだから。」
和は律に向かって優しく微笑んだ。
「早く起きなさい、律。それでも2週間くらいしかこっちにいられないのよ?」
和は相変わらずのポーカーフェースに戻ると、しばらくの間、律の髪を撫でていた。

4日目の早朝のこと。
私は人気がないのを見計らって毎朝こっそり律にキスをしていた。
なんとなくそうしたら律が目を覚ましそうだったから。お姫様は王子様のキスで目覚めるものだから。
この日もあたりを見渡して小声でつぶやいてみる。
「りーつ。起きろ。朝だぞー。」
まずおでこにキス。ほっぺにキス。唇にちょっと長めのキス。
昨日までは全く無反応だった律が、少しだけくすぐったそうにした気がした。
「・・・律っ!律!起きてっ!」
閉じられたまぶたがぴくんと動く。
うっすら目が開く。
「ん・・・まぶし・・・」
「律!・・・意識が戻ったんだな!良かったぁ!」
点滴がついている上、骨折している律の右腕はギプスで固められていたので抱きつくわけにはいかなかった。代わりにナースコールに飛びつく。
「もしもし!田井中です。今、意識が戻りました!・・・ええ。はい!すぐに来て下さい!」
ナースコールを切るや否や、涙があふれてきた。
「・・・ほんとによかったぁ、りつぅー。もうこのままなんじゃないかって思ってわだし、ほんどにしんぱいしたんだから・・・」
私は。この後起きた出来事をしばらくの間、夢に見てはうなされることになる。
律はぼんやりと私を見つめてつぶやいた。
「・・・えーと。あなた、誰?」
一気に背筋が凍りつくような気がした。嬉し涙が一気に引いてしまう。
「・・・や、やだな、律。冗談きついよ。」
「律っていうのが私の名前?」
「そ、そうだよ。・・・田井中 律。で、私が澪。秋山 澪だよ。」
律がむー・・・と顔をしかめる。
「あれ?・・・なんで私、思い出せないんだろ。・・・ここは、病院?」
「そうだよ。律は車を運転していて交通事故に巻き込まれて運ばれてきたんだよ!」
「・・・車?・・・交通事故?」
「り、律。・・・冗談だったら、今ならまだ許してやるから。・・・ほんとに私のこと、分からないのか?」
「・・・ごめん。秋山さん?・・・なんだか頭がぼんやりしてて・・・」
そこへ医師や看護婦が入ってきた。
「すみません。検査をしますので、一旦外にお願いします。」
私はふらふらと病室の外に出た。律は申し訳なさそうに微笑んでいた。

ばか。ばか律。
あんなにいっぱいキスしたくせに。あんなに優しく抱きしめたくせに。あんなに何回も耳元で「大好きだ」って囁いたくせに。なんで・・・私のこと、忘れちゃうのよ。
ああ、私は強欲だ。律が生きて戻ってくれればそれでいいと思っていたのに。
「やだ。律、思い出せよ・・・私のこと、思い出せよぅ。」
今、嬉しさより悲しさの方が大きい。
ああ。もう世界で私一人しか。長い時間をかけて培った私達の大切な気持ちを覚えていない。
私は自分が世界中から忘れられたような気持ちになっていた。

「おそらく、ですが。」
あの後、なんとか、律のご両親も含め、みんなに連絡をとった。
みんな集まったところで、医師から説明を受けるところだ。
「事故の苦痛を忘れるために本能的に記憶を消してしまった時に、その他の記憶が一部失われてしまっているようです。」
医師は沈痛な表情で言った。
「記憶が戻る事もありますが、このまま、戻らない例も多くあります。一部だけ戻る例もありますが、事故の苦痛も含めて全部戻ることもあります。何がきっかけとなるか分かりませんので、できるだけ多くの方が気をつけてあげてほしい、ということです。これからご面会いただく前にご承知おき下さい。」
・・・そうか。私のこと、思い出してほしい、と思ったけど、いいことばかりじゃないんだ。
「・・・でも、律はきっと思い出したいはずです。」
律のママが絞り出すように言った。
「律が皆さんのこと、話す時は本当に楽しそうでしたから。それを忘れたままでいいはずないんです。」
そして、私達の方に向き直って頭を下げた。
「皆さん、どうかこれからも律と仲良くして下さい。よろしくお願いします。」
「もちろんですとも!ね、みんな!」
唯が明るく言うとみんなが頷いた。
「唯・・・でもその前に涙、拭いとけ。」
私の差し出したハンカチで涙を拭う唯。
「ぐすっ・・・ありがと。でも澪ちゃんが一番ひどい顔してるよ?」
・・・そうか。ほぼ3日徹夜の上にさっき相当泣いたから。
「・・・そうかもな。ちょっと顔洗ってくるよ。」

トイレで顔を洗って律の病室に入ると、そこはライブ会場になっていた。
「はい!次はベースの澪ちゃんでーす!」
唯の明るいMCが入る。
「お、おい、ここ病院だから、静かに・・・」
「次は澪ちゃんでーす。」
ムギがウィンクして、いいから、と目で伝えてくる。
「え、と。ベース担当の秋山澪です。」
律がちょっと体を起こして、笑顔を見せる。
「あ、澪ちゃん!ついててくれた人だよね!」
ほんのちょっとしたことなんだけど。これだけで涙が出そうになる。
「み、澪でいいよ。」
私が泣きそうになったのを見て慌てて唯がフォローに入る。
「あ、え、えーっと、澪ちゃんとりっちゃんはすごく仲が良かったんだよ。小さい頃からの幼馴染で。」
「そうですよ、澪先輩はずっと律先輩について看病してたんですから。」
梓もフォローに入ってくれる。
「え、そうだったのか。ありがとな、えっと、み・・・澪。」
どきん。
「あ、う、うん。いいよ、私がしたいようにしただけだから。」
「ふふふ。ドラムとベースのリズム隊だから『夫婦』なのよね?」
ムギが目をキラキラさせながら言う。
「あら。秋山澪ファンクラブの子からは二人は公認カップルだって聞いたけど。」
のっ和っ・・・そんないきなりな切り込み方しなくてもっ・・・
顔が熱くなるのが分かる。思わず律の顔を伺う。
「へっ?・・・」
戸惑った表情。
「おっ、怪しい反応ですなぁ、田井中殿ぉ〜。澪ちゃんが真っ赤になるのはいつものこととして、真相をどうぞ!」
律は唯のツッコミにうろたえつつ、冗談めかして言った。
「いや、だから思い出せないんだって。・・・でもまさかなぁ〜。女同士だぜ?ありえねーって!」
「なぁ、澪?」
「え?・・・」
頭の中がぐちゃぐちゃで考えがまとまらない。
ああ、こんな事なら誰かに私達の関係を明かしておけばよかった。
私達の関係を知っているのはこの世で律と私だけ。その律が記憶を失ってしまった今、私が律に昔の関係を伝えても誰がそれを支持してくれるのか。
「澪?」
律が不思議そうに覗き込む。
何より、『今の律』は私の想いを受け入れてくれるのか。
この私の気持ちを伝えたら、今の関係まで壊れてしまうのが怖くて。
「あ、当たり前だろ。幼馴染だよ。どっちかっていうと迷惑ばっかりかけられてるけどな。」
言ってしまってから、その事実に改めて気付かされてしまった。
もうあの時の関係には戻れない。だって、私と律が長い間積み上げてきたものはもうなくなってしまったのだから。
もう私達、幼馴染ですらないんだ・・・
「・・・大丈夫?澪ちゃん、なんか顔色悪いよ?」
こういう時、大概最初に気付くのは唯だ。
「え・・・うわっ、顔、真っ青ですよ。体調悪いんですか?」
梓が心配して近寄ってくる。
ほんとは体調が悪いわけじゃないんだけど。
「うん。ごめんな、さすがに3日ほぼ徹夜はきつかったみたいだ。」
「・・・私、今日はこれで帰るよ。多分しっかり寝たら治ると思う。」
そそくさと荷物をまとめ始める。
「えー、澪、帰っちゃうのかー?」
律が残念そうに言う。
「・・・うん、ごめんな。」
律はうー・・・と唸ると、にっこり笑って言った。
「うん、分かった。またな!」
・・・それだけ?律。いつかみたいにお前が私の腕を取って「寝るまで傍にいてよぉ」って言ってくれたら、どんなに体調が悪くったって、私はお前が眠るまで傍にいるのに。
律はいい奴だからみんなに気をつかう。だけど私にだけはわがまま言ってくれたのに。

「・・・うん。じゃ、みんなもまたね。」
そそくさと病室を出る。扉を閉めるや否や、追いかけてきたムギが顔を出す。
「澪ちゃん。・・・本当に大丈夫?一緒に帰ろうか?」
涙が落ちる前で良かった。とにかく一人になりたかった。
「大丈夫大丈夫。ちょっと疲れただけだよ。」
「・・・そう。じゃあ一言だけ、いい?私達は親友で仲間で放課後ティータイムだから。なんでも相談して、思い切り迷惑かけて、うんと頼っていいのよ?一番嫌なのは力になれない事。それを忘れないで。」
「うん・・・そんな時が来たら、ほんとよろしく。」
ムギの優しさが痛くって。
振り向かずに家へと急いだ。
相談したら、みんな、一生懸命考えてくれるだろう。でも、そしたら律に言わなきゃいけなくなる。
あなたの事が好きです・・・って。
でも律は。きっと私を受け入れてくれない。
『まさかなぁ〜。女同士だぜ?ありえねーって!』
一番大事にしていた私の居場所はもうなくなってしまった。
今ならまだ親友として律のそばにいることはできる。
でも告白して律に拒絶されてしまったら?・・・無理。絶対できない。

・・・私の意気地なし。
ごめん、律。
ごめん、ムギ。
ごめん、みんな。
地球は私達二人の事を忘れたまま。それでもゆっくりと回っていた。

#1 My Lost Memories
#2 My Precious Friends
#3 My Better Half
#4 Our Never Ending Song

このページへのコメント

なんだか 涙が でました

0
Posted by はむ 2011年02月26日(土) 01:27:11 返信

3つの中でこれが一番好き

0
Posted by 楔 2010年10月09日(土) 23:50:08 返信

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