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著者:◆C/oSFSeeC2氏


律が交通事故のショックで私と過ごした長い時間を失ってしまってから。
私が一番大切にしていた居場所を失ってから。正確には失うことを選択してから。一週間が過ぎていた。

人間というのは便利なもので。私は自分の想いに鍵をかけて律の前で器用に幼馴染を演じていた。
「りっちゃん、うぃーす。こないだのドラマ、見た?」
「おお、唯。見たぞ。看護婦さんの目を盗んで、な!」
「りっちゃん、さすが!策士だねぇ!」
やっぱり唯とは気が合うみたい。唯に向けられる律の笑顔が妙に私の胸をざわめかせる。
「・・・律、あんまり看護婦さんに迷惑かけるんじゃないぞー。」
「だいじょおうぶ!見つかってないから!」
それでも。律の笑顔は誰にでも平等に向けられる。もちろん私にも。それを見るだけで幸せになれた。
意気地なしの私は段々とその小さな幸せに慣れてきて・・・また一週間が過ぎた。

律は記憶は戻らないものの、状態が安定したため、無事退院できることになった。
ただ律が戻るのは、私との部屋ではなく、しばらく様子を見るため、実家。
その代わり、退院祝いは私と律の部屋で行われることになった。
放課後ティータイムのメンバーと和。さわ子先生と憂ちゃんはどうしても外せない用事があるとかで欠席。
大学に進んだ私達はお酒も飲めるようになっていたけど、律がNGのため、お茶とケーキのみ。
「あ、でもこれ、ほんとに高校の頃、思い出すね。ムギちゃんのケーキ、おいしー。」
「律、部活の時のことはどこまで覚えてるの?」
「それがさー。ぼんやりとしか分かんないだよなー。きっと登場人物がはっきりしないからじゃないかなー。」
「む、それはもったいない。よし!じゃあ一年の時からずっとイベント挙げていこうよ!最初は・・・えーと、廃部?」
「・・・最初は律が無理矢理私を軽音部に入れたんだよ。」
「先輩は誰もいなくて廃部寸前。私だって文芸部に入ろうと思って入部届まで書いてたのにさ。律がこう、びりーって。」
私がちょっと大げさに入部届を破く仕草をするとみんながどっと沸く。
「そんなことあったんだー。軽音部で知らないことなんかないと思ってたけど、意外にあるねー。」
「そりゃそうだろ、唯は私らの代では一番最後だったんだから。元々中学の頃に、律がバンドやろう!って言い出してさ、律がドラムで。私がベースで。ほんとはあの時が始まりだったんだよな。」
あの時もびっくりしたけど。断る理由なんか何もなかった。だって小さい頃からずっと律が私の手を引いて新しい扉を開けてくれたんだから。
「律・・・でもさ、あの時私を誘ってくれてありがと。おかげでこんなにいい仲間ができたよ。」
「・・・よせやい、澪ー。照れるだろー。」
「はいはい!次は『天才ギタリスト現る!』だよね!」
「待って待ってぇ。『美人キーボード加入』が先!」
「お、今自分で美人って言ったぞー。」
「ああん、それを言うなら唯ちゃんだって自分で天才って言ったー。」
「唯はどっちかっていうと災いのほうの天災だけどな。」
「・・・私の順番が来るまでに時間がかかりそうですねぇ。」
「私のはやめておくわね。律には思い出したくないことが多いだろうし。」
和が言うとみんながどっと笑った。律だけが一人、きょとん、としていた。

私達は律に一つ一つ高校時代の思い出を自分の解釈で説明していった。
あっという間に時間が過ぎていく。

「澪。私、もうそろそろ東京へ帰らないといけないんだけど、ちょっと駅までの道、自信ないから送っていってくれない?」
和の言葉にふと窓の外を見るとすっかり夕暮れ時になっていた。
和は無理をしてこの日までこちらにいる期間を延ばしていたが、この日のうちに東京へ帰ることになっていた。
「え、う、うん。いいよ。」
若干の違和感を感じつつ、頷く。
「和ー、またなー。」
「和ちゃん、次はお正月ね。」
「和先輩、お気をつけて。」
「和ちゃーん・・・ぷぎゅっ」
和はいつものように抱きついてきた唯を器用に右手で押しのけて、微笑んだ。
「律、こんな時に一緒にいられなくてごめんなさい。また連絡するわ。みんなもまた会いましょう。今日は楽しかったわ。」
みんなに、ゆっくりしてって、と一言残して私は和と一緒に外に出た。
「・・・珍しいね。唯ならともかく和が道分からないなんて。」
「そう?私、結構方向音痴なのよ。」
そういえば、修学旅行の時も一緒に道に迷ったりしたっけ。律が自信ありげにこっちこっち!なんて言うから余計に分からなくなってさ。
「・・・でもね、澪。さすがにあなたと律の部屋には何度か行っているから道は分かってるわ。ちょっと二人きりで話がしたかったの。」
和はいつも通りのポーカーフェースで言った。
「ちょうどいいわ。そこの公園のベンチででも。時間は取らせないから、ね。」
多分、初めからこの公園に来るつもりでいたのだろう。和は迷わず公園のベンチを指差した。
「で、なぁに?二人だけで話すのって結構久しぶりだよね。」
私はベンチに座りながらつとめて明るく言った。和の『いつも通りのポーカーフェース』が只ならぬ決意を感じさせたからだ。
「・・・ねぇ、澪。この際だからはっきり聞くわ。どうしてあなた達の関係、元に戻そうとしないの?」
「へっ?・・・か、関係って・・・何?」
「恋人同士だったんじゃないの?あなたと律。」
顔が一気に熱くなる。
「え・・・や、その、ち、違うよ・・・」
「ばか、ね。そんなの見え見えじゃない。あなた達の部屋の表札。田井中 律 澪になってるでしょ。」
り、律のやつぅ〜・・・私に黙ってなんて事を。気づかない私も私だけど。
「う、うん。実は高校の時から。・・・隠しててごめん。」
「隠してるつもりだったの?・・・あなた達を見てたら分かるわよ。高校時代からラブラブ光線、出てたもの。・・・まぁ、もっとも・・・」
和は意地悪に、もっと言えば、そう、サディスティックに。ふふ、と笑った。
「あなたが関係を元に戻そうとしないなら、私にとってはラッキーだけど。」
「え?・・・ど、どういう意味?」
「これでもあきらめるまで結構泣いたのよ?あの時はあなた達の積み上げた時間に敵うわけがないと思ってあきらめたけど。今は違うわ、澪。」
和はすっ・・・と私の耳に口を寄せてささやいた。

「取っちゃうわよ。律のこと。」

急に頭のうしろが冷たくなる。
「え・・・の、和、律のこと・・・」
「ええ、好きだったわ。結局誰にも・・・律にも告げなかったけど。」
ああ、そうか。今はもう律は私のこと、ただの友達だと思ってる。幼馴染ですらない。次に誰を好きになるかなんて決まってないんだ。
・・・律は和と恋人になったら私とのこと、忘れたままになっちゃうのかな。
そこまで考えて頭が真っ白になった。
「やだ。・・・お願い、和。律のこと、取らないで。私、律がいなきゃだめなの。律が・・・」
「律が私のこと、忘れちゃうなんて絶対嫌だよぅ。」
顔を覆って泣いた。こんなに涙が止まらないのはいつ以来だろう。

ああもう。と和の小さな声が聞こえて、ふかっ・・・と抱きしめられた。
「ごめん。意地悪しすぎたわね。・・・律じゃなくて申し訳ないけど、泣かないで。」
「ああいう風に言えばちょっとは勇気出るかなと思ったけど、失敗したわ。ごめんね。冗談よ。」
「・・・冗談?」
「結構、傷つくわ、澪。私、あなたの親友のつもりでいたんだけど。親友の大切な人を取ったりするほどひどい女に見える?」
和はまた、ふふっと笑った。
「澪って普段はクールな癖にこういう時、ほんと可愛いわね。律が惚れちゃうのも分かる気がするわ。」
「そ、そんなこと・・・」
「もう自分の気持ち、分かったわよね、澪。大切なのは今。そしてこれからよ。・・・後、どうするかは任せるわ。そっちの相談をしたかったら他に適任者がいるでしょ?」
言われてすぐにムギの顔が浮かぶ。
「和・・・ありがと。あと・・・ごめんね?」
「あなたらしいけど・・・謝る必要はないわ。ただし・・・」
和は私に背を向けた。

「律、とあなたが幸せにならなかったら、どんなに謝ったって許さないから。」

和の言葉が胸に突き刺さる。聞きたいことがあるのに喉につかえて声が出てこない。
ねぇ、和。さっきの話、どこまでが冗談だったの?今、どんな顔で話しているの?
「じゃあ、私もう行くわね。朗報を待ってるわよ。」
和は私に背を向けたまま。ひらひらと手を振ると去って行った。
私はしばらくベンチに座ったまま、呆然としていた。何も考えられなかった。

サイレントモードにしていた携帯が振動してメールが着いた事を知らせる。・・・ムギだ。
メールにはたった一行。「澪ちゃん、大丈夫?今どこ?」

どうして世界で一人ぼっちになったように思ってしまったのだろう。私の周りにはこんなに私を気にかけて大切に思ってくれている人がいるのに。
どうして居場所がないなんて思ってしまったのだろう。大事に大事に私だけにとっておいてもらった場所があるのに。

でも今回だけは頼っちゃ駄目だ。なけなしの勇気を振り絞って自分でやらなきゃ。

返信。「すぐ戻るよ。大丈夫。」

部屋に戻る時、表札を確認した。
この部屋を借りた時、一番最初に私達が架けたものと同じで「田井中 律 秋山 澪」となっていた。
・・・あの女狐めぇ〜。

「おかえり、澪ー・・・」
「澪ちゃん・・・」
「み、お先輩・・・」
ドアを開けるとみんなが凍りついたように私の顔を見る。
「どしたの、澪ちゃん。・・・あ、和ちゃんとの別れが辛くって泣いちゃったの?」
そう言えばそうだ。あれだけ泣いたら相当ひどい顔になっているだろう。
「う、うん。そう。和ともうしばらく会えないと思うとなんか涙が出ちゃってさ。」
嘘でその場を取り繕う。
「・・・ふーん・・・そっか。」
律がうにうに・・・とストローをいじりながらつぶやく。
その時だった。
「・・・あーっ!しまった!私、大学の課題の本、買うの忘れてた!」
「本屋さん、閉まっちゃう。ごめんなさい、りっちゃん。慌しいけど、また来るわね。」
そそくさと荷物をまとめ出すムギ。
「梓ちゃんも付き合ってくれない?」
「え?・・・私、ですか?」
「そう。ギターの歴史的変遷についてだから詳しいでしょ?」
「え、ええ。お役に立てるか分かりません、けど・・・」
梓は唯に困ったような視線を送る。
唯が慌てて立ち上がる。
「や、やだなぁ!ギターなら私も行くよ!」
「えー?唯、お前が行ってなんか役に立つのかー?」
早速律が茶化す。こうしてたら全く昔と変わらないんだけどな。
「ギターに関する事には特別な感覚が備わっているのです!」
びし!と敬礼する唯。
「はいはい。分かったよー。今度はみんなの演奏、聞かせてくれよな。そしたら私もドラム、思い出すかもしれないから、さ。」
「もちろん(です)!」×3。
三人が部屋を出た後、ムギが扉のところで私に手招きをした。
「澪ちゃん・・・ちょっと。」
ムギはどや顔をして言った。
「どう?・・・正解だった?」
「えっ・・・」
「二人きりになりたかったんじゃないの?」
「うん・・・ありがと。」
ムギはちょっと膨れて言った。
「・・・相談してって言ったのに。」
「ムギ・・・でもなんで分かったんだ?」
「・・・秘密。ずっと見てるとね・・・分かるの。」
「ごめん。なかなか決心つかなかったから。」
ムギは優しく微笑んだ。
「いいわ。今回だけ許してあげる。次、相談してくれなかったらひどいんだから。」
軽ーくチョップが降ってきた。ムギはすごく嬉しそうだった。
「澪ちゃん。・・・グッドラック!」
親指立ててウィンク。ムギは唯と梓が待っている方へ駆けて行った。
「・・・何で英語?」
三人を見送ってから、ふと思った。

部屋に戻ると律は相変わらずうにうにとストローをいじっていた。
「まだやってるのか?よく飽きないな。」
「・・・みんな、もう帰った?」
「ああ。帰ったよ。」
「ねぇ、澪?」
「何?」
「今日、ここに泊まって行っていい?」
「・・・私は構わないけど。ご両親に連絡してOKだったらな。」
心の中では大喜びしていた。律が実家に帰るとしたら時間がない。そこまでに想いを伝えられるか私としてはかなり心配だったのだ。
「私、澪とはずっと幼馴染だったんでしょ?その時の事、知りたいと思って。みんなの前でさぁ、私ら二人の話ばっかりできないじゃん?・・・それと。」
律はいたずらっぽく、へへっと笑った。
「・・・なんか落ち着くんだ、この部屋。居心地がいいっていうか・・・私の居場所が確保されてる感じ?」
私は律の両親に電話して、今日はこちらに泊めさせてくれるようお願いした。
「・・・どうだった?」
「ああ、今晩一晩ならOKだって。・・・それ、楽しい?」
律はまだストローをうにうにしていた。
「うん。ストローってさ・・・」
うにうに。
「すぐ切れそうに見えるんだけど。意外に切れないんだよな。」
どきん。胸の奥がぎゅうっと痛くなった。
「・・・ねぇ、澪ー?」
「ど、どうした?」
慌てて言葉を絞り出す。
「私、記憶を失って思った事があるんだ。私ってこんなに多くの人とつながってたんだなーって。で、私がみんなのこと、忘れちゃってもこんなに強くつながっててくれるんだ。家族はもちろんなんだけど。和に唯に梓にムギ。・・・そんで澪。」
かるくコツンとゲンコを落とす。
「こら。私だけおまけか。」
「ちっ・・・違うよ。澪は特別なんだよ。だってほら・・・私が起きるまでずっと付いててくれたんでしょ?だからすごく感謝してる。」
やばい。泣きそう。
「・・・やめろよ。照れ臭い。親友、だろ。」
「あ、あの時さぁ!澪の顔ったらひどかったぜ!」
律はすぐ私の雰囲気を察して、冗談めかして言った。すぐ気を使うんだから。
「顔色は真っ青だしさ。目は逆に真っ赤だし。せっかくの美人さんが台無し!って感じ?」
「しょうがないだろ!ほんとに心配したんだぞ!毎朝キスしても起きな・・・い・・・から。」
「キス?」
し、しまったぁっ!しかもさらりと流せばいいものを変に口ごもったから余計に強調してしまった。
「んまぁ!寝てるのをいいことにキスだなんてっ!澪のえっち!」
・・・律。顔真っ赤だぞ。・・・多分私もだけど。
「い、いや、ほっぺにだよ。ちょっと刺激を与えた方がいいかと思ってさ!」
ああっ、私のへタレ。ここまできて誤魔化すつもりか。
「へ、へー。ほんとは澪ちゃんったらりっちゃんの美貌に惚れちゃったんじゃないのぅ?」
「なっ・・・ばっ・・・」
ああ、そうか。今まではこんな時、いつも律が背中を押して、手を引っ張って、笑わせてくれて、私を前に前に進ませてくれていたんだ。
今度は自分でやるって決めたじゃないか。・・・逃げんな、澪!
ぎゅうっと拳を握る。きっと今全身の血が顔に集まってる。
「そ、そそそその通りだよっ!」
ああ、カッコ悪い。あんなに決心固めたのに、思い切りどもった。
「・・・その通りって?」
律は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている。

『・・・許さないから。』
和の背中を思い出した。
『グッドラック!』
ムギのウィンクを思い出した。

「り、りり、律。今から言うこと、嫌だったらそう言えよ?」
昔、律が言ってくれたみたいに。
今度は私が勇気を振り絞る番だ。

#1 My Lost Memories
#2 My Precious Friends
#3 My Better Half
#4 Our Never Ending Song

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Posted by 名無し 2010年09月30日(木) 15:53:59 返信

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