リクオと淡島 遠野での出来事

361 :名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 20:17:59 ID:I7EchVTX
 
 *


「あー……」
酷使した筋肉のほぐれる感覚に思わず声が漏れる。
リクオはようやく入ることのできた風呂を存分に堪能していた。
日々の修行に加えて、リクオには下っ端としての諸々の雑用が課せられている。
それらをこなしているうちにすっかり夜も深くなり、この広い湯にはリクオ以外もう誰もいなかった。

実家ではいつも食事を終えて良い具合に腹がこなれた頃にはちょうどいい温度の湯が張られていて
どうぞどうぞと言われるがままにそれをある意味当然のものと受け止めていた。
つくづく自分は甘やかされていたのだと思い知る。
ここ遠野の地では、自分は組の大事な跡取りではなくただの一人の妖怪、
それどころかまともに戦うこともできぬ情けない若造だ。
(ほんと、あいつらには感謝しねーとな……)
そんな自分を奴良組の若頭として尊重してくれている側近たちの顔が脳裏に浮かぶ。
しかし一方で、ただのリクオとして扱われることにある種の心地よさを感じていたのも事実だった。


「おっリクオじゃねーか」
静寂がふいに破られる。降りてきた声にリクオはぎくりとした。
「淡島……ってかちょっと待ておめぇが入るんなら俺はあがる!」
「んだよ今更。もうさんざんハダカの付き合いをした仲じゃねぇか」
「男たちん中にお前が一方的に入ってきてるだけだろうがっ。
というかなんで他の奴らはそこにつっこまねぇんだよ!明らかにおかしいだろ!」
「……慣れたんじゃねーの?というか何度も言ってるように俺は半分は女だが半分は男だ。
男に裸見られたぐれぇなんでもないんだよ。それとも何か?初心な若頭さんは二人じゃ
恥ずかしくて風呂につかることもできねぇってか?」
そのように言われてしまったらもう一度風呂につからざるを得なくなる。
安い挑発とはいえヤクザは馬鹿にされてはお終いだ。
それに淡島も一度湯につかれば何を言うでもなしに気持ちよさそうに体を伸ばしていたので
わざわざ出て行くのも馬鹿らしくなってしまった。



362 :名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 20:19:05 ID:I7EchVTX

口を開けば男だと認識することは容易い淡島だが、黙っているとどうにも外見に惑わされる。
瑞々しい若葉を思わせる緑がかった金髪は水分を含んでしっとりと肌に貼りつき、
湯船の上に見える肩や首は白く細い。
幼いころからいかにも可愛いらしいと言った風のカナやつらら、美人で色気のある毛倡妓といった面々に
囲まれて育ってきたリクオの審美眼は本人がそうと意識せぬうちに相当高められていたのだが
淡島のような切れ長の目の、中性的な美形というのは新鮮だった。
ふと彼女にして彼に視線をやれば、水の浮力で心もち持ち上げられている形の良い胸が目に入り―――。
「……っ」
「どした?」
「なんでもねぇ」
視線をそらせるリクオに、淡島は「ははぁん」とでも言いたげな嫌な笑みを浮かべた。
「俺の裸に身体が反応しちまったかぁ?若えなぁ」
「るせぇ!!…………元はといえばおめぇの所為だろうが」
「そーかそーか俺の所為か」
八つ当たり気味なリクオの言葉に、淡島は気分を害するでもなくからからと笑う。
「仕方ね―なー。じゃお詫び代わりにちょいと抜いてやるよ。
 とはいえ、女の裸見る度に反応しちまうようじゃまだまだこっちの方も修行が足んねえな」
「ちょ、抜くって……あ、馬鹿いい離せって」
「遠慮すんな。俺がこういう意味で女になることなんてそうないんだぜ?ありがたく思え」
言うや否や、リクオを思いの外 力強い腕で引き上げて岩の上に腰かけさせる。
「うわ、やめ」
「知らね」
半ば勃ち上がりかけていたそれを躊躇することなく口に含む。
途端に強く吸い上げるのでリクオはたまらず抵抗を忘れて呻いた。
「おー案外立派だなぁ」
完全に反りかえったリクオのそれを見て淡島が感心したような声を上げる。
れろりと下からその形をなぞるようにして舐め上げ、また銜える。
「ぅ……くっ……」
上手い、気持ち良い―――その言葉だけがリクオの思考を支配する。
どのようにすれば気持ちが良いのか、完璧なまでにとらえたその技に酔いしれる他はなかった。
唾液をたっぷりと含ませて全体に馴染ませ、強く吸い上げる。
片方の指で竿を刺激し、もう片方の手で玉を揉みしだく。
喉の奥まで深く銜え込んでいたかと思えば、ちゅうと先端に口づけを落とし
舌を丸めて射精を促すようにくりくりと刺激する。
時折挑発的な視線を以て見上げてくるのがたまらない。
「……ちょ、ほんとにもう離せ!!」
「気にすんな。そんまま出せよ」
限界を感じて慌てて声をかけるが淡島はまるで意に介さずに口技を続ける。
「気に……ぅっ、するっての!」
必死の思いで無理矢理淡島の頭を引き離す。
咄嗟に近くにあった手拭いをひっつかんでそれを覆った。
「…………ぁ、」
「…………」
「…………」
「…………とりあえず浸かるか」
「…………そうだな」



363 :名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 20:20:36 ID:I7EchVTX

なんとなく気まずい雰囲気の中二人並んで湯に浸かる。
はぁ、と淡島がため息をついて沈黙を破った。
「おめぇも変な奴だよなぁ。飲んでやるって言ったのに」
「そんなに飲みてぇのかよおめえ……」
半ば呆れながら言うと淡島はまさか、と苦笑いを浮かべた。
「あんなん喉に絡むわ臭いはきついわで美味いもんじゃねえよ」
「じゃあなんで」
「礼儀みたいなもんだろ。俺だって女が飲んでくれたら気分上がるし」
「…………」
明け透けな物言いに、そうだこいつは男でもあったと今更のように思い知る。
この彼にして彼女には振り回されてきたばかりだ。
しかし妖怪に、まるで普通の友人のようにからかわれるというのは初めてで、
胸中にあるのはけして不快感だけではない。

「…………」
「…………ふ、」
くすり。と、淡島がふいに妖艶に微笑む。
そうするのがなんとなく自然のような気がして、リクオはそっと顔を近づけた。
据え膳食わねばなんとやら、という言葉が浮かばなかったと言われれば嘘ではない。




次の瞬間。
「〜〜〜〜〜っ!!!?」
突如顔面を襲った衝撃にリクオは悶絶する。
わずかに遅れて、するりと抜け出した淡島がリクオの後頭部に肘を入れ
淡島が背にしていた岩に叩きつけたのだと知る。
「はははっ。バーカ」
痛みと混乱に鼻を押さえて動けずにいるリクオを余所に淡島は立ち上がる。
「憑もまともにできない奴にこれ以上ヤラせるかっての。
 自力で俺を一瞬でも押し倒せるようになってから来るんだな。そしたら喜んで相手してやるぜー?」
おぼっちゃん。そう付け加えながら淡島は笑って去っていった。




「あの野郎…………覚えてろよ」
一人残された今のリクオには、ちんけな小悪党よろしくそう呟くしか術はなかった。



364 :名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 20:22:29 ID:I7EchVTX

 *


ある夜。
リクオが淡島の寝室に近づくと、襖をあける前に淡島が声をかけてきた。
「誰だ?」
あえて返事をせずに待つ。不審に思ったらしい淡島が歩み寄ってくる。
そしてからりと襖が開き、リクオの姿を認めた淡島が目を瞬かせた。
「おぅ、リクオ。どうした―――?」
問いかけながら、いつもの気安さで淡島がリクオの肩に手をのせる。
と、その手は空を掻いた。
「おお?」
淡島が拍子抜けしたような声を出した時には、既にリクオは彼女の後ろをとっていた。
彼女の足を払い、姿勢を崩したところを横抱きに掬い上げる。
そして襖を素早く足で閉めると敷かれてあった布団に横たえた。


覆いかぶさり、にやりと笑う。そこで初めてリクオは声を発した。
「俺がおめぇを押し倒せるようになったら、何だって?」
「…………『喜んで相手してやるぜ?』」
あの日の約束を思い出したらしい淡島が、リクオと同じくにやりと笑って彼に口づけた。

 
 *

以上です
2011年05月25日(水) 00:25:30 Modified by ID:99JzfgdaZg




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