総大将×珱姫・エロ無

220 209 sage 2009/06/17(水) 01:17:49 ID:Rnsp1d9T
昨日の209です。
素敵なシチュを与えてくれた207氏に感謝を

エロ要素皆無です。すみません

「総大将なら湯殿に向かわれましたよ。奥方様」
「そうですか…牛鬼殿、貴方もお疲れでしょうに。ごめんなさいね」
部下を連れてどこぞへと三月も家を開けていた夫今しがた帰って来たと聞いて珱姫は慌ただしい本邸で指示を出す牛鬼に夫の所在を訊ねた。
「いえ、お気になさらず。それより、あなた様が居られないと我が大将が寂しがっておられましたよ。奥方様」
「そう、ごめんなさい」
しゅんと項垂れる珱姫に牛鬼は声をかける。
「我等も報せを出したのですが、もしや届いておられなかったのでしょうか?」
「はい…」
身軽だからと一反木綿を行かせたのは間違いだったのだろうか。珱姫の返事を聞いて牛鬼は胸中で息を付いた。
「分かりました奥方様。どうやら此方の手違いだったようです」
「いえ、そんな…」
深々と頭を下げる牛鬼に珱姫は慌てる。
「我が大将が早く帰りたいと申されましてな。それで配下のものを向かわせたのですが…。総大将にお顔をお見せになってくだされ。奥方様を恋しがっておられましたからな」

かあっと頬を染めた珱姫は牛鬼に一礼すると何処ぞへと向かっていった。
奥方様はいつになってもお美しいと牛鬼は思う。
人であることを止めてしまった自分を見れば尚更に。珱姫の姿が見えなくなってから牛鬼は一つ息を吐くと、配下の雑鬼達に大方風か何かで煽られてその辺の木にでも引っ掛かってるのであろう一反木綿の探索を命じた。




2

「あの、お前様…?」
控えめに掛けられた声にぬらりひょんは振り返った。
「なんじゃ、珱姫か」
久方ぶりに見る妻の顔にぬらりひょんが片眉を上げる。
「どうしたんじゃお前」
「背中をお流ししようと思って」
「おお、そりゃあ嬉しいわい」
襦袢に襷を掛けて、湯殿に入ってきた珱姫ははにかみながら夫に近づき膝を折った。
妻の提案にぬらりひょんも頬を綻ばせる。
「お帰りなさい。あなた」
何より会いたかった伴侶に満面の笑みを珱姫は浮かべた。

濡らした手拭いを絞り、夫の背を珱姫は丁寧に洗った。
初めてこの背を見たときから、この見事な彫り物は好きだった。
百鬼を率いて夜を行く男の、背骨に沿って後光を背負った弥陀仏。
何度この背に守られたことか。
ハラリと後ろで束ねた髪が一房肩口に落ちてきた。
ああ、と珱姫は息を吐き出す。
もうすっかり白くなってしまった。
指は萎み、顔にも深い皺が刻まれた。
一体何年、と珱姫は胸中で呟く。



3


一体何年、この方と共に歩んできたか。
初めて外に連れ出してくれた日の事を今でも鮮明に覚えている。
力強い腕で抱きしめ抱き上げてくれた。
広い胸の中で眠った。
優しく触れてくれた。
何度、この背に守られたことか。
共に年を取り、二人とも老いた。
思い返す度に言葉に成らないものが胸に込み上げてくる。
湯で背を流した時、「ああ」と珱姫はまた吐息を漏らした。

ぬらりひょんの背に刻まれた仏様が齢を重ねてにっこりと笑っているように見えた。

「ん?どうしたんじゃ、珱姫」
ひしと突然背中にしがみついた妻にぬらりひょんが声を掛ける。
小刻みに震える手に泣いているのかといぶかしんだ。
「…ねえ、お前様。私は貴方と共にいれて、幸せでした…」
「どうしたんじゃ?藪から棒に」
「いいえ。ただ、幸せで」
肩に乗せられた手をぬらりひょんは無言のまま取った。
どれだけ齢を重ねても、この妻は美しい。
側にいて欲しいと願った時そのままに、いや寧ろ共に年月を過ごす毎に願いは強まった。それは今も変わらない。
「お慕いしてます。あなた」
「何を言っとるか、ワシの方が惚れておるわい」





2011年05月28日(土) 16:20:51 Modified by ID:99JzfgdaZg




スマートフォン版で見る