ストロベリー・パニックのSS保管庫です。

著者:名無しさん(2-441)

17話 Always Together(前編)

「どうかしら、深雪?」
「そうね・・・。『泣き虫だった親友』というのは一体誰のことなのか問い詰めたい
ところだけれど・・・おおむね良いと思うわ」
「そう・・・」
「答辞の最後に詩を贈る・・・か。玉青さんの影響?」
「多分ね。それにしても・・・この部屋も随分と殺風景になったわね」
「ええ、私物は全て引き払ったから・・・」
「アレは明日持っていくの?」ただ一つ机の上に残されていたのは・・・以前に渚砂と玉青が
投げたブーケ。風に流されて・・・後ろの方にいた深雪の手に舞い降りたもの。あの時の
深雪の顔、見物だったわね。
「いいえ、置いていくわ。私が持っていったら・・・二人に申し訳ない気がするの」
「深雪・・・」
「皮肉なものね。私の手元に来るなんて・・・」
「・・・・・・」そうだった・・・深雪は・・・卒業したら・・・。
「ずっと・・・覚悟していたから。このアストラエアで過ごした六年間は本当に充実していた
のは本当。でも・・・後悔もしている」
「後悔?」
「ええ、失うことも初めから知っていたから・・・」
正直・・・深雪がどんな想いでいたのか・・・私には理解できないと思う。でも・・・。
「私と出会ったことも後悔しているの?」
「そんなことはないわ・・・」
「初めから無いよりも失うほうが辛いに決まっているわ。それでも・・・出会わなければ
良かったなんて考えるのは・・・間違っていると思う。私も気付いた・・・教えられたこと」
「理性では解かっているの。大丈夫、私も・・・いつか乗り越えるわ、あなたのように。
心配しないで、これでも強くなったのよ」
「嘘・・・」
「嘘じゃないわ」
「なら・・・どうして・・・泣きそうな顔をしているの?」
「な、何を言って・・・る・・・の。そんな・・・こと・・・ないわ・・・」
「深雪・・・」言ううちにも涙が溢れてる。
「ごめんなさい・・・。そろそろ行くわ」
「待って」
「深雪?」
「静馬・・・最後に・・・一つ・・・だけ・・・お願い。今夜は・・・一緒に・・・
いて・・・。あの頃のように・・・」

 いつの間にか深雪は・・・泣き疲れて眠っていた。いつも隣で支えてくれた。それが
当たり前になって・・・すっかり忘れていたのね。深雪が・・・こんなにも小さかった
ことを・・・。

「深雪?」
 翌朝、目が覚めると深雪の姿は無かった。まだ式の開始までは大分あるけど・・・
準備に行ったのかしら。机の上を見ると昨日は無かった手紙があった。
「深雪の?」

 静馬へ
 昨夜はありがとう、そしてごめんなさい。恥ずかしいところを見せてしまったけれど
心配しないで。あなたとの思い出があれば・・・きっと大丈夫だから。

「深雪・・・」
内に沸きあがったのは・・・悲しみでも寂しさでもなく・・・怒り。生まれた・・・
生まれる前からの鎖で深雪が縛られることへの。深雪がそれを受け入れていることへの。
そして・・・ずっと支えてくれた親友に・・・何も出来ない自分自身への・・・?
「え・・・?」
 不意に・・・繋がった。前に玉青が話してくれた・・・『以前』に経験したこと。
留学自体は夏ごろに取り止めていたからさほど気に留めていなかったけれど・・・
かすかに引っかかっていた・・・それは・・・。
「もしかしたら・・・?」
「静馬?起きていたの」
「深雪?」
「忘れ物があったの。式まではまだ時間があるからゆっくりしていてかまわないわ」
 いつもの深雪だったけれど・・・それは演技だと・・・なんとなくわかった。
「・・・一つ聞かせて」
「どうしたの?」
「もしも・・・もしもの話よ。この先・・・自由を手にするチャンスがあったなら・・・
あなたはどうするの?」
「静馬・・・。無意味な問いかけよ」
「言ったでしょ、もしもの話だって。それでも・・・聞きたいの。その時が来たなら・・・
初めからあきらめるの?それとも・・・全力で足掻くの?」
「静馬・・・」
「答えて」
「もしも・・・もしも可能性があるなら・・・。でも・・・そんなことは」
「ありがとう。無駄話に付き合ってくれて。それと・・・あのブーケは私が預かるわ。
いいかしら?」
「ええ」
 決心がついた。今までの借りは・・・返す。

「これで卒業・・・。ここでやることもあと一つね・・・」
 昨夜・・・深雪の部屋に行く前に渚砂達の部屋に手紙を入れた。『明日、式が終わったら
二人に来て欲しい。私と渚砂が出会った場所に』と。

「静馬様とも今日でお別れなんだね・・・」
「ええ・・・。渚砂ちゃんは・・・寂しいですか?」
「うん・・・。玉青ちゃんは?」
「寂しいです。いつの間にか・・・私にとって・・・静馬様も特別な存在になっていたん
ですね・・・」
「嬉しいことを言ってくれるのね。でも・・・浮気はだめよ?」
「「静馬様?」」
「悪かったわね。呼び出した上に待たせてしまって」
「あ、いえ。そんなことは・・・」
「そう・・・?ならいいのだけど。それにしても・・・この場所には随分とたくさんの
思い出があったのね・・・。花織とのこと、渚砂に出会ったこと。玉青に叩かれた
こともあったわね」
「ええっ!?玉青ちゃん、そんなことしたの?」
「ええ・・・まあ」
「ふふ、これでも感謝しているのよ、玉青には。私の目を覚まさせてくれたことに。
もちろん、渚砂にもね」
「ふぇ・・・?私なにかしましたっけ・・・?」本当に居心地がいい・・・でも。
「本題に入りましょうか。随分と遅くなってしまったけれど・・・あなた達に受け取って
欲しいものがあったの」
「リボン・・・ですか?」
「ええ、エトワール選の日に渡したかったのだけど」
「えっと・・・?」
「エトワール選でミアトルの候補は緑のリボンを着けるんです」
「そう、受け取ってくれるかしら?」
「「はい」」
「ありがとう。手を出して」
「え?」
「結ばせて」
「はい」

 玉青の手をとる。あら・・・?
「指輪は・・・?」いつも身に着けてくれている、そう思っていたけれど・・・自惚れて
いたのかしら?
「校則に触れるんです・・・」
「それもそうね」
「だけど・・・いつも身に着けていたいから・・・こうしてるんですよ」
 二人とも・・・鎖に通して首にかけていた。
「ありがとう・・・」
 渚砂の手にも結び終えた・・・。これで・・・本当に・・・最後ね・・・。
「名残惜しいけれど、行くわ」
「静馬様・・・お元気で・・・」
「ええ、玉青も元気でね。渚砂?」
「・・・・・・」
 渚砂はうつむいて・・・肩を震わせていた。
「渚砂。また会えるわ。だから・・・笑顔で送って。ね?」
「静馬様・・・。はい!」
「そう。あなたには笑顔が似合うわ。元気でね、渚砂」
「はい。静馬様もお元気で」
 ありがとう・・・私の大切な・・・妹達。あのリボンは・・・私と花織がエトワールに
なった時につけていたもの。花織との思い出は今も私の中にある。決して色あせることなく。
そのことに気付かせてくれたあなた達に受け取って欲しかった。

こんなにも気持ちが高揚するのは始めてかもしれないわね。花園家の自家用機は先月納品された
ばかりで・・・私の知る限りまだ一度も飛んでいない。そして、発注先の経営者は・・・
深雪の婚約者だった・・・。玉青が話してくれた墜落事故。それは『かつて』玉青を
苦しめたと思う。でも・・・今はそれが武器になる。深雪・・・私は・・・あなたを
解き放ってみせる。

 さあ、笑って手を振ろう。今、新しい旅が始まる。
 にぎやかな毎日だった。その全てが宝物。
 桜花のような貴女。心真っ直ぐなあの子達。『いつも支えてくれた』親友。
 みんな・・・みんな・・・忘れない!
 変わりゆくことを怖がらないで。変われないことを抱きしめていて。悲しくなったら
思い出して。ひとりじゃない、大丈夫。
 もう行かないと、未来が待ってるから。
本当にありがとう。いつか・・・また逢う日まで。


最終話 春いちばん

「行ってしまいましたね・・・静馬様」
「うん・・・」
「また一つ思い出が出来ましたね。ここに」
「そうだね・・・」
 不意に・・・風が舞い上がった。
「春いちばんですね」
「ふーん、そんな名前があるんだ。ね、憶えてる?私達が出会った日もこんな風が吹いてたこと」
「そう・・・だったんですか?」記憶をたどってみても・・・。
「うん、はっきり憶えてるよ。あの日、風に乗って赤いリボンが飛んできたの。そして、その先に
玉青ちゃんがいたの」
「あの日・・・春いちばんが過ぎ去ったあの時から・・・また、色を放ち始めたんですね。私の世界は」
 風に乗ってきたのか・・・私の掌には桜の花びらがあった。

 また風が舞い上がった。
「うわぁ!?」
「また!?」
 そして・・・春いちばんで舞い上がった空に一瞬見えたのは・・・。
「え・・・?」
「玉青ちゃん・・・。今・・・空に見えたの・・・」
「まさか・・・?」
「空のむこうに・・・私と・・・静馬様が・・・」
「渚砂ちゃんにも?」
「うん」
「思うんです。あれは・・・『かつて』のおふたりなんじゃないかって・・・」
 あまりに都合のいい考え・・・いえ、私が望んでいるだけかもしれない。
「そして・・・『今』の私達を祝福してくれているんじゃないかって・・・」
「わからない。でもさ・・・幸せそうだったよね、ふたりとも」
「ええ」
 私も・・・応えよう。空に・・・。ふたりに・・・。
「見えていますか!聞こえていますか!私は・・・私達は・・・今・・・幸せです!」
届くかどうかわからない。それでも・・・。
「届くよ」
「え?」
「玉青ちゃんの想いは。春いちばんに乗って・・・。桜が咲く頃にきっと・・・ね」

「渚砂ちゃん」
「何?」
「この先・・・私達の旅がどんなものになるのか・・・全くわかりません」
「うん・・・」
「でも・・・貴女と・・・ずっと一緒にいたいから・・・貴女を・・・守ってみせます。
何があっても・・・なんとしても・・・」
「・・・・・・怒るよ」
「え?」
「私を大事に思ってくれるのは嬉しい。でも・・・そんなこと言わないで」
「渚砂ちゃん?」
「ふたりで・・・越えて行こう?」あ・・・私は・・・また・・・。
「そうでしたね」
「うん。玉青ちゃんと一緒なら・・・私は・・・きっと何だってできる」
「私も・・・貴女がいてくれるから・・・何も・・・怖くありません」
「あはは・・・」
「ふふ・・・」
「だったら大丈夫」
「ええ」

 この手には掴めないと・・・諦めた夢があった。
 口にさえ出さないまま・・・遠ざけた恋があった。
 聞こえていたのは・・・過去達の泣き声。
 ずっと・・・遠回りしていたような日々。
けれど・・・今はそれさえも愛せる。
 さあ・・・その先へ行こう。貴女と一緒に。
 ずっと・・・ずっと・・・。

「私達は・・・どこまでだって一緒だから」
「私達は・・・どこまでだって一緒ですから」


  1. Shining way
  2. Shining way(2)
  3. Shining way(3)
  4. Shining way(4)
  5. Shining way(5)
  6. Shining way(6)
  7. Shining way(7)
  8. Shining way(8)
  9. Shining way(9)
  10. Shining way(10)
  11. Shining way番外編

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