ストロベリー・パニックのSS保管庫です。

16話 陽だまり(前編)

 エトワール選に出ると決めてから・・・様々な練習をするうちに日々は過ぎ、本番まで
あと一週間となりました。
「どうしよう・・・。なんだか緊張してきた・・・」
「渚砂ちゃん・・・。まだ練習ですよ」
「それはそうだけど。でも舞台とか衣装は本番さながらだし・・・少ないけど観客も
いるし・・・それにやっと一通りのステップ覚えたばかりなんだよ、私」
「私を信じてください。しっかりフォローしますから」
「玉青さん、渚砂さん、始めるわ」
「「はい」」
 曲が流れ始める。渚砂ちゃんがミスしやすい場所は覚えました。後は先回りで
フォローすれば・・・。
 曲が半分ほど終わったところで・・・なんだか・・・不思議な感覚が・・・。これは・・・
渚砂ちゃんを抱きしめた時に似ているような・・・。渚砂ちゃんは・・・なんだか楽しそう、
つられて私も楽しくなってくる。とても・・・心地いい。

 え?いつの間にか曲が・・・。客席が静まりかえっている中、六条様が歩いてくる。
しまった、フォローするのを忘れていました・・・。
「どうしよう・・・。怒られるかな?」
「多分・・・」
「渚砂さん」
「は、はい!」
「一通りのステップを覚えたばかりと言っていたけれど、本当なの?」
「はい・・・その・・・」ごめんなさい、渚砂ちゃん・・・。
「素晴らしいわ」
「「・・・・・・はい?」」
「前半はぎこちないから心配だったけれど、後半は見事だったわ」え?
「珍しいわね。深雪がここまで誰かを褒めるなんて。本番は雪かしら?」
「静馬」
「もっとも・・・私も同感だけど」静馬様も?
「あの・・・ほんとですよね?」
「渚砂?」
「実は全然駄目だったけど・・・冗談で言ってる。・・・とかじゃ・・・無いですよね」
「ええ、本気よ。何か気になるの?」
「なんだか・・・途中から不思議な感じがしたんです。なんだか・・・玉青ちゃんと
一緒にベッドの中にいる時みたいな感じが。すごく気持ち良くて・・・後はそれに
流されちゃって・・・」
「渚砂ちゃんもですか?」
「うん。ってことは・・・玉青ちゃんも?」
「ええ」
「なるほど・・・ね」
「「静馬様?」」
「あなた達なら・・・そのくらいは造作無い、ということなのね。後は数を重ねるだけね」
「それと、本番で実力を発揮出来れば問題無いわね」
「それは心配ないでしょう。二人とも舞台度胸はあるから」
「そうだったわね。これなら、明日にでも出馬宣言をできそうね。いいかしら?」
「「はい」」

「私、涼水玉青と」
「私、蒼井渚砂は」
「「ミアトルの代表としてエトワール選に出馬することをここに宣言します!」」

 出馬宣言の後で部屋に戻ると・・・千代ちゃんがお茶の用意をして待っていました。
「どうぞ」
「ありがと。それにしても・・・緊張したよー」
「ですね」
「そうですか?でも・・・渚砂お姉様、素敵でしたよ」
「そうかな?本番まで後少し。悔いの無いようにしないと」
「がんばって下さい。そういえば・・・今朝噂で聞いたんですけど・・・スピカも
明日出馬宣言するそうです」
「スピカは天音さんと・・・光莉ちゃんが出るんだよね」
「大変よ!」
「あ、千早ちゃん。お茶飲んでく?」
「それどころじゃなくて・・・。今ちらっと聞いたんだけど、天音様が落馬して
保健室に運ばれたって・・・」
「「「ええっ!?」」」そうでした・・・。忘れていたけれど・・・確かこの頃に・・・
。これまではあまり気にしていなかったけれども・・・今は前とは違う。でも・・・
前にあったことは少なからず起きている?なら・・・渚砂ちゃんも・・・また?
「玉青ちゃん、玉青ちゃん!」
「え?あ・・・なんです?」
「大丈夫?顔が・・・真っ青だけど・・・」
「・・・なんでもありません。それより・・・様子を見に行きませんか?」もし・・・
天音様が光莉さんのことを・・・。
「うん!」
 どうか・・・光莉さんのことを憶えていてください・・・。そうしたら・・・きっと・・・。

「少し早いけれど、今日はここまでにしましょう。明日は本番前の打ち合わせをするから」
「「はい」」
 いよいよ明後日がエトワール選。私達の方は順調に進んでいますけれど・・・。
「ね、玉青ちゃん。お御堂に寄ってもいい?」
「ええ、構いませんよ」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
天音様は光莉さんのことをすっかり忘れていました・・・。そして、そのことは
渚砂ちゃんに影を落としていました。それは・・・私にも。こうしている今も
感じている。失うことの・・・怖さを・・・。
「光莉さん達のことですね」
「うん・・・。明日が出馬宣言の期限なんだよね」
「ええ」
「私は・・・玉青ちゃんと一緒にエトワールになりたい。それはほんとなんだよ・・・でも・・・」
「ええ。でもそれは・・・こんな形ではないですよね」
「うん・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「上に登ってみませんか?」
「え・・・?」
「この季節なら前とは違う景色が見えると思いますし・・・。それに・・・
少しは気が晴れるかもしれませんよ」
「そう・・・だね」

 だんだんと、冬の色に染まりつつあるアストラエアは・・・少し寂しげでした。
「光莉ちゃん達・・・大丈夫だよね?」
「わかりません・・・」私の『記憶』では・・・天音様は光莉さんのことを
思い出すはずですけど・・・。でも・・・。
「信じましょう。あんなに思い合っていたお二人なんです」
「うん・・・。だけど・・・それだけじゃないの」
「なんですか?」
「玉青ちゃんは忘れないよね。私のこと」
「渚砂ちゃん・・・」
「もしも・・・玉青ちゃんが私のこと忘れたらって・・・そう考えたらね、
すごく怖かった」渚砂ちゃん・・・。
「大丈夫。貴女を忘れたりはしません。それに・・・貴女が私を忘れることも無いですよ。決して」
「・・・ごめん。おかしなこと言って」
「そろそろ戻りましょう。風も冷えてきましたし。それに・・・」手を握ると・・・。
「手もすっかり冷たくなっています」
「うん・・・」

「ねえ、玉青ちゃん」降りる途中、渚砂ちゃんは立ち止まりました。
「はい」
「こないだ・・・さ。怖い夢を見て泣いてたよね?」
「ええ・・・」
「その時なんだけど・・・」
 そう言って手すりに寄りかかった渚砂ちゃんの体が・・・後ろに・・・倒れた?
「え・・・!?」
「渚砂ちゃん!!!」

「くぅっ・・・」
「玉青ちゃん!?」
 落ちる渚砂ちゃんの手を掴み反対の手で手すりを掴んだものの・・・私も宙づりに・・・。
両肩が痛い。上を見ると手すりが壊れていた。まさか実際にこんな経験をするなんて・・・。
「玉青ちゃん!?」
「私なら大丈夫。それより、私の体をつたって上に登れま・・・」
 ミシッ!
 今の音は!?上を見ると・・・私が掴んでいる手すりにもヒビが!?このままじゃあ・・・。
「離して」え!?
「このままじゃ二人とも落ちちゃうから」渚砂ちゃん?何を?
「上手く着地出来れば大丈夫だよ。きっと」
「無茶です!四階以上あるんですよ!」
 ミシッ!!
「玉青ちゃん!」
「嫌です!」
「離して!お願いだから!もし・・・玉青ちゃんになにかあったら・・・私・・・
きっと耐えられないよ!!!」
 それは本心からの言葉だったと思う。でも!
「馬鹿なことを言わないでください!また・・・私を置いて行くんですか!?」
あの夢が・・・。
「また貴女はいなくなってしまうんですか!?」あの・・・事故の知らせが・・・。
「今度は私の目の前で!?」あの・・・空っぽの棺が・・・。
 ミシッ!!!
「お願い!!!離して!!!このままじゃあ・・・」
「それでもいい!」
「え・・・?」
「嫌です・・・。また・・・貴女を失うくらいなら・・・私も・・・消えてしまいたい!!!
その方がずっと・・・ずっといい!もう嫌なんです!あんな思いをするのは!!!」
 バキッ!!!
 ひときわ大きな音、一瞬の浮遊感の中で私は・・・渚砂ちゃんを抱きしめた。
 激痛、反転、そして・・・大きな衝撃。
「かはっ・・・」
「玉青ちゃん!玉青ちゃん!」
「なぎ・・さ・・・ちゃん。だいじょ・・・ぶ・・・ですか?」
「うん・・・。私は平気」
「よかっ・・・こん・・・は・・・まもれ・・・」
「玉青ちゃん!」
(泣かないでください。貴女の涙は苦手なんです)
 あれ?声がでない?なんだか・・・目の前が・・・暗く・・・。
「玉青ちゃん!?そんな・・・玉青ちゃん!!!玉青ちゃん!!!」


16話 陽だまり(後編)

「ん・・・」なんだか体がだるい・・・。眠っていたんでしょうか?ここは・・・
渚砂ちゃんとの思い出の場所?どうしてこんなところで・・・?
「玉青ちゃん・・・」いつの間にか隣では渚砂ちゃんが・・・泣いていた・・・。
どうして・・・?見ている私まで苦しくなる・・・。
「どうかしたんですか?」
 でも・・・渚砂ちゃんは私のほうを見ようとしない・・・。
「私の・・・せいだ・・・。私を助けようとしたから・・・玉青ちゃんは・・・」
渚砂ちゃんは何を・・・?あ・・・思い出した。私は・・・お御堂で・・・。だけど・・・
私は・・・。
「泣かないでください。私ならこのとおり。なんともありませんよ」だから・・・どうか・・・。
けれども・・・伸ばした手は・・・渚砂ちゃんの体を・・・すり抜けた?
「え・・・?」
「どうして・・・玉青ちゃんと出会ったんだろう?どうして・・・好きになっちゃったんだろう?
私と出会わなかったら・・・私なんかを好きにならなかったら・・・きっと・・・
玉青ちゃん・・・こんなことにならなかった・・・」そんな・・・。
「渚砂ちゃん!そんなこと言わないでください!私ならここにいます!」
でも・・・渚砂ちゃんは私を見てくれない・・・。声も届かないの!?
「私も・・・玉青ちゃんのところに行くから」
「え?」
そう言って取り出したのは・・・包丁!?まさか!?
「待って!だめ!だめです!!!」だけど私には触れることもできずに・・・。
 渚砂ちゃんは刃を手首に・・・そして・・・流れた血が辺りを真っ赤に染め・・・
渚砂ちゃんはその中に・・・沈んでいった・・・。
「あ・・・嫌・・・嫌・・・いやあああああああっ!!!」

「いやああああああっ!!!」
「玉青?気が付いたの?」目の前にいたのは・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・。え?静馬様・・・?」
「ひどくうなされていたようだけど・・・大丈夫?」
「・・・うなされていた?なら・・・今のは・・・夢?」
「気分は・・・良い訳ないわね」
「はい・・・。最悪の気分です・・・」だるい上に全身が痛い。それに・・・右足が動かない。
見ると・・・吊られていた。
「ここは・・・保健室ですか?」
「病室よ」
「4日も眠っていたのよ。覚えてる?」
「はい・・・。お御堂で渚砂ちゃんと一緒に・・・。渚砂ちゃん!渚砂ちゃんは
無事なんですか!?くぅっ・・・」あちこちが痛い・・・。
「落ち着きなさい。渚砂は怪我一つ無いわ」
「・・・良かった」
「はぁ・・・少しは自分の心配をしなさい」
「そういえば・・・我ながらよく無事でしたね・・・私」
「無事・・・ねぇ。正直あなたが助かったのは奇跡みたいなものなのよ」
「奇跡・・・ですか?いったいなにがあったんですか?あまりよく覚えていないんですけど・・・」
「推測になるけれど・・・落ちる途中、二階の手すりに当たったらしいわ。あなたの右足が・・・」
「それで・・・折れてますか?」
「ええ、ものの見事に。でも・・・それで勢いが弱まったのね。そして・・・
あなたが下敷きになったから渚砂は無傷で済んだ」
「そんなことが・・・」
「後は・・・ル・リムの源千華留に感謝しなさい」
「千華留様?」
「たまたま近くを歩いていたらあなた達の悲鳴が聞こえた。入ってみたら二人がぶらさがって
いた。それで・・・持っていた生地をクッション代わりにした」
「生地?」
「防寒着の材料と言っていたわ。あなたが助かったのはそのおかげ。その後上に登る途中で
あなた達が落ちた・・・と」
「そんなことが・・・」
「すぐに救急車を呼んだのも彼女。渚砂は怪我こそなかったけれど・・・ひどく
錯乱していたから・・・鎮静剤を打たれて一緒に運ばれたそうよ。その日のうちに
帰ったけれど」

「そうだったんですか・・・。ところで・・・渚砂ちゃんは来ていないんですか?」
「ええ、一昨日来ただけ」
「そう・・・ですか」
「今は謹慎中」
「え・・・?」
「一昨日・・・エトワール選の日にここに来たの。無断でね」
「エトワール選・・・?」
「ええ。今年はスピカの鳳天音と此花光莉で決まったわ。鳳天音の記憶は戻ったそうよ」
「そうですか・・・。申し訳ありません。結局棄権してしまって・・・」
「あれは完全に事故だった。手すりの老朽化ということで決着も付いている。
気にすることじゃないわ。話がそれたけど・・・渚砂は謹慎中。理由は無断外出。
幸い・・・というか今日までだから明日は会えるわ」
「良かった・・・。渚砂ちゃんは元気にしているんですね」
「元気?どうやったらあれがそう見えるの?」
「え?」
「ごめんなさい。あなたを責める気は無いの。でも・・・見ていられない、というのが
正直なところ。まるで・・・抜け殻みたい」
「渚砂ちゃん・・・」さっきの夢は・・・まさか!?
「でも、あなたが目を覚ましたと聞けばすぐに元気になるわ」
「静馬様!」
「何?」
「あの・・・渚砂ちゃんは・・・手首を切ったりは・・・してないですよね?」
「随分唐突ね。なぜそう思うの?」
「さっき・・・夢を見たんです・・・」
「そう・・・それであんなにうなされていたのね。わかったわ、すぐに帰って伝えるから。あなたが目覚めたと」
「お願いします」
「ええ。あなたも・・・お大事にね」
「はい。ありがとうございました」

「私は・・・渚砂ちゃんに隠し事をしてるんですよね・・・」さっきの夢・・・。
あれは・・・きっと以前の私・・・。ずっと隠していたこと・・・私の全てを・・・
知って・・・受け入れて欲しい。でも・・・同時に恐怖もある・・・。もし・・・
渚砂ちゃんがこのことを知ったなら・・・。わからない・・・
私が望んでいるのはどっちなのか・・・。

「入るわよ、渚砂」
「・・・・・・」
 渚砂はベッドの上に座っていた。玉青の心配は取り越し苦労ですんだようだけど・・・。
机の上に置かれた食事には手をつけた様子が無い。昔の私もこんなだったのかしらね?
「渚砂」
「・・・・・・」
 はぁ・・・ショックなのはわかるけど・・・。
「玉青が目を覚ましたわ」
「・・・え!?」
 途端に目に光が戻る。そして、こっちに走ってくる途中で・・・。
「あ痛・・・」転んだ・・・。
「あの・・・ほんとですか!?」
「ええ、ついさっき。今は検査中でしょうね。詳しくはわからないけど、意識は
しっかりしていたわ」
「玉青ちゃん・・・よかっ・・・よかったよ・・・」
 抱きしめて頭を撫でる。昔はよく深雪にしてあげたわね・・・このくらいなら
いいでしょう?玉青?
 ぐぅ〜。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「渚砂?」
「え、えーと・・・気のせいです」
「だけど・・・」
 ぐぅ〜。
「気のせいです!」
「そう。まあいいわ。なんにしても・・・今夜はしっかりシャワーを浴びて髪を
洗っておくこと。玉青にみっともないところを見せたくないでしょう?」
「はい!」この分なら夕食はきちんと食べるでしょうね。もっとも・・・
何人前になるかは知らないけど・・・。
「あなたの外出許可も申請しておくわ。まさかとは思うけど今から飛び出さないように。
いいわね?」
「え・・・。あ、あはは。そ、そんなことは思ってませんよ。それはもう全然、
全く、これっぽっちも」
「渚砂・・・」考えてたわね・・・本気で。
「あと一日我慢しなさい。また謹慎しくはないでしょう」
「はーい」

「なんにしても良かった。渚砂が・・・あんな思いをせずにすんで」せっかくだし
明日は二人きりにしてあげたほうがいいわね。

「ごめんね・・・玉青ちゃん」
 ベッドに入ると・・・あの時のことが浮かんだ。よっぽど印象に残っていたのか・・・
はっきりと思い出すことができた。
『馬鹿なことを言わないでください!また・・・私を置いて行くんですか!?また貴女は
いなくなってしまうんですか!?今度は私の目の前で!?』
あの時の玉青ちゃん・・・すごく・・・辛そうだった。きっと・・・前にもあったんだよね。
私が・・・玉青ちゃんの前からいなくなったことが・・・。でも・・・私は・・・
全てを・・・玉青ちゃんとの思い出も一緒に過ごしたことさえ忘れてるんだ・・・。もし・・・逆の立場だったら・・・すごく悲しいと思う。
「思い出したいよ・・・」

 病室の前。ネームプレートを確認する。『涼水玉青』うん、間違いない。ドアを叩く。
「あれ?」
 もう一度、さっきよりも強く。
「いないのかな?」
 ドアノブを握ると・・・。
「開いてる?」
 中に入ると・・・玉青ちゃんは眠っていた。静馬様も言ってたし病院の人にも
確認したから昨日目を覚ましたのは間違い無いはずだけど・・・。近くで見ると、
静かに寝息をたててる。でも・・・あちこちに巻かれた包帯は・・・私のせいなんだよね・・・。
「ごめんね・・・」
 返事は無い・・・。けど・・・玉青ちゃんの唇を見てると・・・なんだかおかしな
気分になってきた・・・。
「よく寝てるし・・・大丈夫だよね?」
 柔らかい・・・。目を開けると・・・玉青ちゃんも驚いた顔で目を開けてた!?
「え!?」
「・・・・・・。うわあぁぁっ!」

「あ、あの・・・具合はどう?」
「ええ・・・右足以外は大したことないそうです。来週中には退院できそうです」
「そっか・・・」気まずい・・・。玉青ちゃんの目を見れないよ・・・。でも・・・
聞かないと・・・。
「あの・・・聞きたいことがあるの・・・」
「はい、なんでしょう?」
「私さ・・・ミアトルに来る前に玉青ちゃんに会ってるんだよね?」
「・・・あの時言ったことですね?」
「うん・・・」私は・・・前にも玉青ちゃんを置いていなくなったことがあったみたいなんだよね。
「昨夜ずっと考えたけど・・・思い出せなかった。でも・・・知りたいよ。玉青ちゃんとの
思い出なんだもん」
「・・・聞いてくれますか。私が・・・今まで隠していた・・・全てを」玉青ちゃんは
すごく悲しそうだけど・・・。
「聞かせて」それでも・・・私は・・・知りたい。
「多分、突拍子も無い話になりますけど・・・」

「私が貴女と初めてあったのは貴女がミアトルに編入してきた日です。それは間違いありません」
「そう・・・なの?」どういうことなんだろう?
「回りくどいのはやめます。渚砂ちゃんがミアトルに編入した年。それを過ごすのは
2度目なんです。私にとっては・・・」えっと・・・。
「それって・・・小説なんかで出てくる『タイムトリップ』?」
「多分」
 そんなのって・・・普通なら信じられない・・・はずなんだけど。玉青ちゃんの目は
真剣で・・・それに・・・私自身すんなりと受け入れることができた。
「前回と今回は似ているところもあるけど・・・違う点もたくさん有ります。例えば・・・
前に渚砂ちゃんと出会ったのはミアトルの保健室でした。渚砂ちゃんはサマースクールに
行くことができました。学園祭の演劇では渚砂ちゃんがカルメンの代役を演じました。
そして・・・渚砂ちゃんは・・・静馬様と結ばれました・・・」
「私が・・・静馬様と?」
「ええ。卒業後、静馬様は海外に留学することになり、渚砂ちゃんは・・・
一緒に行くことを選びました。ですが・・・」玉青ちゃんが目を伏せた・・・。
すごく・・・悲しそうに・・・。
「おふたりの乗った機は・・・墜落。それが・・・永遠の別れになりました・・・」
「うそ・・・」
「それから・・・何日か過ぎて・・・私は夜にいちご舎を抜け出しました。
そして・・・手首を・・・切ったんです」
「そんな・・・」玉青ちゃんが?
「でも・・・目が覚めると目の前に貴女がいたんです。それが・・・貴女との出会い」

「あ・・・ごめ・・・なさい・・・。ごめんな・・・さい・・・」涙がとまらないよ。
私・・・なんてことを・・・。
「え!?待ってください。どうして渚砂ちゃんが謝るんです?」
「だって・・・あの時・・・私が・・・『手を離して』って言った時・・・言ったよね。
『また置いていくの?またいなくなるの?』って。すごく痛かった。でも・・・玉青ちゃんは
・・・もっと・・・私なんかよりもずっと・・・苦しかったんだよね。私・・・
なにもわかってなかった。気付くことも・・・ううん、気付こうともしなくて・・・
自分が辛い思いしたくないからって・・・玉青ちゃんが・・・どんな気持ちなのかも
考えないで・・・。それなのに・・・玉青ちゃんのパートナーだなんて言ってたんだよ?」
「渚砂ちゃんこそ・・・許してくれるんですか?」
「私が・・・。何を?」
「だって・・・私は・・・ずっと隠していたんですよ?パートナーである・・・貴女に。
怒ってないんですか?」
「そんなことない!」確かに・・・玉青ちゃんは私に隠し事してた。でも、それを
責める気は起きない。
「玉青ちゃんこそ・・・怒ってるよね・・・私のこと」
「いいえ。貴女は何も悪くありません」
「でも・・・」
「・・・・・・・。ねぇ、渚砂ちゃん。こうしましょう。私は・・・貴女を許します。
貴女も・・・私を・・・許してください」
「玉青ちゃん・・・。いいの?」
「キリがありませんよ、きっと。それに・・・」
「それに?」
「貴女と過ごす時間を・・・そんなことに費やしたくないんです」あ・・・。
「うん・・・。私も・・・」
「やっと・・・笑ってくれましたね。渚砂ちゃん」
「そう・・・かな?」
「はい。近くに・・・来てください」
「うん・・・」抱きしめられた・・・。
「嫌ですか?こうするのは?」
「・・・嫌じゃないよ」うそ・・・ほんとは・・・嬉しくてたまらないのに。
「あと・・・どれくらいここにいられますか?」
「えっと・・・10分くらいかな」
「それまでこのままでいさせてください」
「うん・・・」
「ありがとう。私の全てを知って・・・それでも好きでいてくれて」
「玉青ちゃん・・・」
「貴女に・・・全てを知って欲しいと思っていました。でも・・・怖かったんです。
もし、知られたなら・・・今のままではいられないかもしれない・・・って」
「ばか・・・」
「渚砂ちゃん?」
「前に言ってくれたよね。私を嫌いになるなんて私が望んでもできないって。私も・・・
同じだから・・・」
「渚砂ちゃん・・・。私は・・・人知れず・・・自分でも気付かないうちに影を
越えていたんですね。陽だまりの・・・光へ・・・」
「陽だまり?」
「はい。ずっと求めていたんです。貴女という・・・陽だまりの光を」

「そろそろ時間ですね」
「うん・・・」
「行ってください」
「玉青ちゃんは・・・寂しくないの?」
「名残は惜しいですけど・・・門限を破ってまた謹慎になったら・・・明日は
会えませんよ?明日も来てくれますよね?」
「うん。明日は土曜日だから。ゆっくりできるし、千代ちゃん達も来ると思う。
なんか今日は皆用事があるからって言ってたけど」
「そうだ。渚砂ちゃんの髪飾りを貸してもらえますか?」
「え?・・・これ?」
「はい。ありがとうございます」
「どうするの?」
「『ガラスの靴』の代わりにと思いまして。大丈夫、明日も会えますよ」
「玉青ちゃん・・・。じゃあ、また明日ね」
「はい。また明日」


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  2. Shining way(2)
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