クオータ制とは

今回の論題は、「日本の国会は、クオータ制を導入すべきである。是か非か」である。
論題のクオータ制は、政治分野におけるジェンダークオータ制のことである。政治分野におけるジェンダークオータ制とは、議会における男女間格差を是正することを目的とし、性別を基準に女性又は両性の比率を割り当てる制度だ。政治分野におけるジェンダークオータ制は、主に3つに分類される。1つ目は、憲法又は法律のいずれかによって議席の一定数を女性に割り当てることを定める「議席割当制」、2つ目は、憲法又は法律のいずれかによって、候補者の一定割合を女性又は男女に割り当てる「法的候補者クオータ制」、3つ目が政党が党の規則等により、議員候補者の一定割合を女性又は男女に割り当てる「政党による自発的クオータ制」である。
今回のディベートでは、衆議院の比例代表名簿は男女交互に記載し、参議院の比例代表は候補者を男女同数にするという「法的候補者クオータ制」を導入するべきかを議論してもらう。

女性議員数の現状とクオータ制導入後の増加予測

では、今回の論題のクオータ制を導入した場合、女性議員はどの程度増加すると想定できるだろうか。まず、現状を確認すると、日本の女性議員数は、衆議院が456名中47名、参議院は245名中56名であり、その割合は衆議院が10.1%、参議院が22.9%である。衆議院の比例代表の定員数は176名、そのうち女性議員は24名、参議院の比例代表の定員数は98名、そのうち女性議員は21名となっている。単純に、比例代表の半数が女性になると仮定すれば、衆議院では、比例代表の24名の女性が88名に増加する。衆議院全体でみると、456名中111名が女性議員となり、その割合は24.3%となる。また、参議院の比例代表の半数が女性議員となると仮定すれば、比例代表の21名の女性が49名に増加し、参議院全体から見ると、245名中83名が女性議員となり、その割合は34%になる。これは、単純に比例代表の半数が女性議員となると想定した場合である。現実はそこまで単純ではないだろう。比例代表の名簿を男女交互に記載するにしても、政党の獲得議席数が奇数であった場合、当選者に偏りが出てしまう。そこで、もう少し現実に即して、検討してみよう。
まず、衆議院について考えてみる。衆議院の比例代表は、ドント式による拘束名簿式により当選者が決定されている。これは、各政党は得票に応じて、議席を獲得し、その政党が前もって提出した名簿の順序にそって当選者が決まる方式である。2017年に行われた衆議院選挙において、比例代表名簿が男女交互に記載されていたと仮定してみよう。さらに、すべての政党が奇数を男性議員としていたと仮定する。すると、70名の女性議員が当選となる。女性議員は456名中93名となり、その割合は20.4%と倍増する。もちろん、政党によっては奇数を女性とする政党もあるだろうから、この数値よりも増えるだろうと思われる。また、女性議員が注目され、人材が発掘されることにより、小選挙区でも女性議員が増加する可能性も否定できない。いずれにせよ、この70名が最低ラインであるといえよう。
次に、参議院について考えてみよう。参議院は、非拘束名簿式で行われるため、衆議院のように推定することは難しい。なぜなら、名簿の順序が各候補の得票数によって決まるからである。しかしながら、女性候補者が少ない現状を考えると、その影響は大きいと予測される。例えば、直近の2019年に行われた参議院選挙の女性候補者は候補者全体の24%に過ぎない。候補者の半数が女性でするだけで、おそらく女性議員は急増すると思われる。
以上をまとめると、衆参の比例代表選挙にクオータ制を導入した場合、衆議院の女性議員の割合は、現状の10.1%から20〜24%に増加すると想定される。参議院の予想は難しいが、現状の22.9%から、30%ちかくまで増加するだろう。

クオータ制導入の必要性

クオータ制導入の必要性についてはどうだろうか。「列国議会同盟」(IPU)の調査によれば、各国の国会下院(日本は衆院)または一院制の国における女性議員の割合で、日本は世界191カ国中165位である。1995年からの女性議員の伸び方でも、日本は119位と極めて遅いペースになっている。各国で急激に女性議員の割合が増えていった背景には、1990年の国連の「ナイロビ将来戦略勧告」がある。これは、政府、政党、労働組合、職業団体、その他の代表的団体が2000年までに男女の平等参加を達成するために、「社会のあらゆる分野において、1995年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」という目標と、それに向けたプログラムの策定を勧告したものだ。この勧告に対応して、国際的には1990年代から女性議員が急増した。この急増には、クオータ制が導入されたことが大きく影響している。現在、クオータ制を導入している国は130カ国近くにも上る。
各国がクオータ制を導入するなど積極的に女性議員を増やしているのに対し、日本政府の動きは遅いと言わざるを得ない。日本政府は、2003年に「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」という目標を掲げ取り組んだが、達成することはできなかった。2019年には「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が施行されたが、この法律は男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指すという法律でしかない。議員どころか候補者の数の均等を目標としなければならないのが、日本の現状なのである。
このように、日本において、女性議員は増加傾向にあるものの、その増加のペースは非常に遅く、急増するような兆しは全く見えていないと言えるだろう。この状況の打破のために、2020年9月7日に自民党の下村博文選対委員長が二階俊博幹事長に、クオータ制の導入を申し入れるなど、クオータ制導入の動きも出てきた。日本の女性議員を急増させるために、クオータ制の導入を検討する意味は十分にあると言えるだろう。

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