論題:台湾は、原発運用を継続するべきである。是か非か。

論題背景

 今回の論題は、脱原発の方針を転換し、原発を利用し続けるべきであるかである。現在、台湾の原発は2025年に運転が停止される予定である。台湾政府は、原発稼働免許期間(商轉執照期限)を延長させない立場をとっているため、第二原発2号炉は2023年3月14日に停止し、第3原発1号炉は2024年7月26日に、同2号機は2025年5月17日に停止されることになっている。

台湾政府は、原発の停止による電力不足を火力発電および再生可能エネルギーによる発電によって埋めようとしている。2021年時点の台湾の発電量に占める各電源の割合は、経済部能源局によれば、火力が83.4%、原子力が9.6%、再生可能エネルギーが6.0%、水力が1.1%である。再生可能エネルギーによる発電は、太陽光及び風力発電に重点を置いた方針をとっている。

 以上が、台湾の原発における現状である。本論題を議論してもらう前について、発電に関する基本的な事実を確認しておく。まず、発電量(供給)と電気の消費量(需要)がほぼ一致していないと、大停電を起こすことがあるため、電気の需要量にあわせて発電量を制御する必要がある。また、電気代の上昇は、増税とほぼ同じ意味を持つため、発電コストも重要なポイントである。そのため、発電方法は、発電コストと発電出力の変動の容易さ、発電の継続性などによって、ベースロード電源、ミドル電源、ピーク電源の3種類に分けられている。ベースロード電源とは、低コストで、発電出力が概ね一定の電力源で、原子力、石炭火力、水力、地熱発電が該当する。次に、ミドル電源とは、ベースロード電源よりも発電コストは高くなるが、発電出力の変動が可能な発電方法で、LNG(液化天然ガス)、LPガスなどによる火力発電がこれに該当する。ピーク電源は、ベースロード電源、ミドル電源でも電力が足りなくなった際に利用される電源で、石油火力発電、揚水式水力発電などがこれに該当する。石油火力発電は、発電コストが最も高いが、出力変動が容易な発電方法である。揚水式水力発電は、電力に余剰がある夜間に水をくみ上げ、電力需要が高い時間に流して発電する方法で、貯水量に限界があるため、継続的な安定供給はできない。太陽光発電および風力発電は、自然条件の変化によって、その発電出力が大きく変化するため、ミドル電源による発電と組み合わせて利用されているのが現状である。

この視点から、台湾の脱原発政策をまとめると、原発というベースロード電源の割合を下げ、LNG火力発電というミドル発電の割合を増やしていく政策とまとめることができるだろう。ここで、LNG火力発電についても少しふれておこう。LNGとは、天然ガスを冷却し、液化したものである。台湾は日本と同様に、島国であるため、海外から天然ガスを輸入するには、天然ガスを液化する必要がある。よって、台湾は、天然ガスパイプライン網が張り巡らされたヨーロッパより、天然ガス火力発電のコストは上がらざるを得ない。以上のことから、脱原発によって、電気代が上がることは避けられないと言えよう。

発電方法を考える上で、コスト以外にも重要な点として、CO2排出の削減がある。台湾政府も、グリーンエネルギーの増加を推し進めている。しかしながら、上述したように現在は、まだ、再生可能エネルギーによる発電は不安定である。そのため、EUは、電力の安定供給と温室効果ガスの排出抑制を両立するために、2022年2月に原発を地球温暖化対策に役立つエネルギー源だと正式に決めた。これに、後押しをしたのがフランスの積極的な原子力発電政策にあるだろう。一方、ドイツは2022年末の脱原発を目指し、再生可能エネルギーによる発電と天然ガス火力発電の併用を推し進めていた。そのため、EUは、原発をグリーンエネルギーに認定すると同時に、もっともCO2の排出量が多い発電方法ある石炭火力発電から、CO2排出量が比較的に少ない天然ガス火力発電への移行も認めた。

この状況を大きく変容させたのが、ロシアのウクライナ侵攻である。この侵攻を契機に、化石燃料価格が高騰した。ただ、現在は、物価上昇による世界経済の減速、特に石油消費大国の中国経済の減速などから、化石燃料価格は下がっている。しかしながら、ロシアへの制裁によって、ロシアの天然ガスを輸入することができなくなったことにより、天然ガスの価格上昇圧力は当分の間続くことが予想されている。このことが、ドイツの脱原発の延期という決断につながった。

 以上の前提条件を踏まえ、台湾は、原発の利用継続をするべきかどうかの議論をしていただきたい。

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