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芳乃 | | 声が聞こえます……わたくしを呼ぶ声がー。 光が見えます……星のように瞬く光がー。 |
芳乃 | | この気配は……いつか感じた……。 優しく、しかし、とても強い……。 |
芳乃 | | …………。 |
肇 | | はっ……はっ……。 ……あら? |
肇 | | 芳乃さん? |
芳乃 | | ……肇さん。 |
肇 | | おはようございます。 ごめんなさい、お邪魔してしまいましたか? |
芳乃 | | いえいえー。かえってありがとうございますー。 ぼんやりと歩いていましたらー、 このようなところまで来ておりましたー。 |
芳乃 | | 肇さんにお声をかけていただかなければ―、どこまでもどこまでも歩いていって、 迷子になっていたかもしれませんねー。 |
肇 | | そうだったんですか……? 何か考え事でも? |
芳乃 | | 考え事……そうですねー。 何かが自分を呼んでいるようでしてー。 わたくしは、その何かを探しているのかもしれませんー。 |
肇 | | 「何か」ですか……その何かに心あたりはないのですか? |
芳乃 | | しいて言えば……「星」のようなもの、でしょうかー。 はっきりと形は見えないのですが、 どこかでちかちかと音をたて、光っているようなー……。 |
肇 | | 芳乃さんが探し物だなんて、珍しいですね。 それにしても、星のような何か……ですか。 形のないものを探すのは、難しいことですよね。 |
芳乃 | | ええー。 肇さんにも覚えがー? |
肇 | | 焼き物について……求める何かがあるのに、 その何かがつかめない、といったことはありました。 |
芳乃 | | ほー……。 そのようなとき、肇さんはどうされていましたかー? |
肇 | | がむしゃらに挑戦して、何度も何度も失敗してしまって、 どうしても上手くいかなくって……迷子になることもありました。 |
肇 | | そんな時はきまって、おじいちゃんが釣りに誘ってくれたんです。 特に何を話すわけでもなく、ふたりで清流に釣り糸を垂らして…… |
肇 | | 求めるものが見つからないときは、 いったん離れてみることも大事なのかもしれません。 流れに逆らってあがいても、上手くいかないものですから。 |
芳乃 | | そうですねー……。 肇さんのおっしゃる通りですー。 |
芳乃 | | 探し物のことは置いておいて、 流れのままに、いつものように、 一日を過ごしてみようと思いますー。 |
肇 | | そうですね、迷子になってはいけませんから。 |
芳乃 | | ふふ。はいー。 肇さんも、よき日をお過ごしくださいー。 |
芳乃 | | ただいま戻りましたー。 |
芳乃 | | さてー……今日はお掃除がまだでしたねー。 せっかくのおふですし、のんびりとお片付けでもー…… |
歌鈴 | | ひゃううっ!!! |
歌鈴 | | あいたたた…………。 |
芳乃 | | その声は、歌鈴さんー? 大丈夫ですかー? |
歌鈴 | | 芳乃ちゃん〜……うう、目の前に星がチカチカ……。 でも、大丈夫ですっ。いつものことですから! |
芳乃 | | 星が……ふふー。 |
歌鈴 | | 笑わないでください〜っ! 私だって転ばないように頑張ってるんです〜。 |
芳乃 | | ごめんなさいー。 歌鈴さんを笑ったのではなく、こちらの話でしてー。 |
芳乃 | | あら、椅子が出しっぱなし。 これにつまづいてしまったのですねー。 あるべきものは、あるべき場所へー。 |
歌鈴 | | 芳乃ちゃん、ありがとう。 想定していなかったところに想定してないものがあると、気づかずに転んじゃうんですよね……。 |
歌鈴 | | こないだだって……ひゃうっ!? |
歌鈴 | | あいたたた…………。 今度は何〜? |
芳乃 | | あらー、こんなところに、ばななの皮がー。 |
歌鈴 | | ばつ、バナナっ!? あるはずのないものが、あるはずのない場所に……? |
芳乃 | | どなたかのおやつでしょうかー。 食べたものを放っておくのはいけませんねー。 ごみはごみ箱へー。 |
歌鈴 | | あ、私が捨てますっ。 よっ……っと、つとっととと……! うあああっ! |
歌鈴 | | な、なんで〜? バナナを拾おうとしただけなのにっ! 手からバナナが滑っていって……。 |
芳乃 | | ほー………見事なころびようでしてー。 なにやら大いなる力を感じますねー。 |
歌鈴 | | きっ、気をつけて芳乃ちゃん! このバナナ……ただのバナナじゃないっ! |
芳乃 | | では、気をつけてー。 よいしょー……ぽーい。 |
歌鈴 | | おおおおー!バナナに勝ったっ! さすが芳乃ちゃん、強いですっ! |
芳乃 | | はいー、勝ちましたー。 しかし、わたくしが特別に強いわけではないのでしてー。 |
芳乃 | | 歌鈴さんの恐れる気持ちが、 物事をその大きさの何倍にも 難しいものにしてしまっているのですー。 |
芳乃 | | ばななは、ばなな。 おいしいばななはあっても、 強いばななや恐ろしいばななは、ありませんよー。 |
歌鈴 | | そ、そうですよね……。 バナナの皮に苦手意識があるから、 もっと苦手になっちゃって……。 |
歌鈴 | | 芳乃ちゃんっ、ありがとうっ! 私……もうバナナを恐れないっ! |
芳乃 | | はいー。ばななは美味しくいただきましょうねー。 |
歌鈴 | | ふうー。ごみ捨てはこれでおわりですね! 次はどうするんですか? |
芳乃 | | 歌鈴さん、お手伝いいただいてありがとうございますー。 次はー、そうですねー……。 |
友紀 | | オーオーオオオオー!キャッツ〜キャッツ〜♪ |
歌鈴 | | 友紀さん!こんにちは! とってもゴキゲンですね? |
友紀 | | おー!歌鈴ちゃんに芳乃ちゃん! ふっふっふー、わかっちゃうー? |
友紀 | | 昨日の試合、キャッツの快勝だったんだよー! いやー、気持ちよかったー! |
芳乃 | | 友紀さんがそのように喜んでいることはー、 きゃっつのみなさんにとっても喜ばしいことでしょうー。 |
友紀 | | そうだといいなーっ! っていうか、それがファンとしての役割だよね。 |
友紀 | | よーっし!キャッツの選手たちのやる気と元気が 出るように、今日も思いっきりエールを送っちゃおうっ! |
友紀 | | オーオーオオオオー!キャッツ〜キャッツ〜♪ |
友紀 | | はいっ、ふたりもっ! |
歌鈴 | | ええっ!?えっと……。 |
芳乃 | | お〜お〜おおおお〜、きゃっつ〜きゃっつ〜♪ |
友紀 | | おーっ!芳乃ちゃん、知ってたの? もしかして隠れキャッツファン? |
芳乃 | | いえー。 友紀さんやー、きゃつつを応援するみなの想いや願いー、 それらを感じたまででしてー。 |
友紀 | | んー? よくわかんないけど、あたしの熱いキャッツ愛が ばっちり伝わったってことかな! |
歌鈴 | | たぶん、ちょっと違うと思います……! |
友紀 | | あはははっ。 それにしても、今日は事務所が誇る縁起者のうち、 ふたりが揃ってるんだね。 |
友紀 | | そうだ! せっかくだし、今日の試合もキャッツが勝ち星ゲットできるように、 ちょこーっと神様にお祈りしてもらえない? |
歌鈴 | | 必勝祈願、ですかっ。 |
芳乃 | | 勝ち星……友紀さんも星を求めていらっしゃるのですねー。 そうですかー。ふむー……困りましたねー。 |
友紀 | | あれ、そういうのって難しい? |
芳乃 | | そうですねー。 それに、心苦しいのですが、 わたくしはそういったお願いごとはお断りしておりましてー。 |
友紀 | | えーっ、そうなの?なんでなんでー? |
芳乃 | | 物事の結果というのは、当人たちの意志や行動、 それを取り巻く世界が複雑に絡み合って決まるもの。 結果だけをどうにかする、というのは難しいのですー。 |
芳乃 | | それに、どちらかの勝ちを願うことは、 どちらかの負けを願うこと。 |
芳乃 | | 仮に野球の試合の流れを意のままに操ることができたとして、 そのようなことをしては、喜びの際に同じだけの悲しみが うまれてしまうでしょうー。 |
友紀 | | ああー……そっか、そうだよねー。 なんか……ごめんなさいっ! |
芳乃 | | あやまらないでくださいー。 友紀さんがちーむを想う気持ちは伝わっていますよー。 とても熱く、力に満ちた気持ちが。 |
芳乃 | | ですからー……勝利ではなく きゃっつのみなみなが、その力の限り試合にのぞめるように、 お祈りをさせていただきましょうー。 |
友紀 | | うんっ、ぜひそれで! 全力で戦ってくれればあたしはそれで……! いや、うーん。やっぱり勝ってほしいけどっ! |
歌鈴 | | あはは…。 |
芳乃 | | さあ、戻って拭き掃除にしましょうかー。 |
歌鈴 | | はいっ! ……っと、あれ。あそこにいるのは……。 |
千枝 | | ぴょん……ぴょんっ……! |
芳乃 | | 千枝さんですねー。 どうされましたかー? |
千枝 | | あ、芳乃さん。 ポスターをここに貼りたいんですけど…… ちょっと、高くて……。 |
芳乃 | | ふふ、それで跳ねてらっしゃったのですねー。 どれー、貸してみてくださいー。わたくしがー……。 |
芳乃 | | ぴょーん……あらー? ぴょーん……ぴょーん……。 |
歌鈴 | | と、届いてないっ! 届いてないですよっ!芳乃ちゃん! |
千枝 | | あ、あの……ごめんなさいっ。 |
芳乃 | | あやまらないでくださいー。 |
歌鈴 | | あっ、私、台かなにか探してきますねっ! |
千枝 | | それなら千枝が……ああ、行っちゃった……。 |
芳乃 | | ご厚意に甘えて、わたくしたちはここで待ちましょうー。 千枝さん、このぽすたーは? |
千枝 | | 今度、千枝か参加するLIVEのポスターなんです。 さっき事務所に届いたばっかりで、 色んなところに貼らせてもらってます。 |
芳乃 | | そうでしたかー。 頑張ってらっしゃいますねー。 |
千枝 | | はい……あ、でも、千枝だけじゃなくて、 みんなすごく頑張ってて……。 でも、なかなか結果がでないことも多くって……。 |
千枝 | | だから、千枝にできることなら、 小さいことでも、何でもしようと思ってます! もしかしたら、ムダな頑張りかもしれませんけど……。 |
芳乃 | | 千枝さんの頑張りは、必ず誰かが見ていますよー。 |
千枝 | | そうでしょうか……そうだといいな……。 |
芳乃 | | ええー。見ているのは人に限りませんからー。 |
千枝 | | 人に限らない? それって……オバケ、ですかっ? |
芳乃 | | そのように怖いものではありませんよー。 お天道様が見ている、という言葉もありますようにー、 世界が見ていてくれるのですー。 |
芳乃 | | 望んだことが全て、望んだとおりに叶うかどうかは、 わかりません。 いえ、そのまま叶うことの方が少ないですねー。 |
芳乃 | | ですがー、人の動きはその大小にかかわらず、 必ず世界に波をおこして、何らかの形で世界を動かしー、 自分のもとにかえってくるものですー。 |
芳乃 | | 千枝さんの心がけはとても素晴らしいものでしてー。 どうぞ、自信をもってくださいませー。 |
千枝 | | 芳乃さん……ありがとうございますっ。 |
歌鈴 | | お待たせしましたーっ! 会議室からイスを借りてきましたよっ! |
芳乃 | | 歌鈴さん、ありがとうございますー。 |
芳乃 | | ……さきほど、叶えたい願いが、 そのまま叶うかはわからないと言いましたがー……。 |
芳乃 | | それでも、どうしても届きたい場所があるのなら、 こうして、人の力を借りて連れて行ってもらうのも、 ひとつの方法ですよー。 |
千枝 | | はいっ。 よいしょ……貼れました!ふふっ。 おふたりとも、ありがとうございますっ! |
歌鈴 | | どういたしましてっ! |
芳乃 | | よかったですー。 小さいことから、こつこつと。 叶えていきしょうー。 |
芳乃 | | あら……もうこんな時間ですかー。 歌鈴さん、今日は一日、つきあってくださって、 ありがとうございましたー。 |
歌鈴 | | いえいえっ! なんだか実家のお掃除を手伝っているようで、 楽しかったですっ! |
歌鈴 | | それじゃ、私はお先に失礼しますね。 お疲れさまでしたっ! |
芳乃 | | お疲れさまでしたー。 |
芳乃 | | さて、わたくしも帰りましょうかー……。 あ、いえ。あと一か所、お掃除を忘れていましたねー。 |
肇 | | お疲れさまです。 ……あ、芳乃さん。 ふふっ、今日はよく会いますね。 |
芳乃 | | 肇さん。 そのようなめぐりあわせなのですねー。 |
肇 | | そうだ、探し物はどうなりましたか? |
芳乃 | | 結局、見つかりませんでしたー。 ですが、今日もみなと平和な一日を過ごせましたのでー、 これでよかったのではないかとー。 |
肇 | | そうですか…… でも、探し物は忘れたころにひょっこり出てくるものですから。 |
芳乃 | | はいー、そう願いますー。 |
肇 | | でも、よかったです。 |
芳乃 | | なにがでしょうー? |
肇 | | 芳乃さんが迷子にならないで。 |
芳乃 | | そうですねー……ふふー。 |
肇 | | ふふっ。 |
芳乃 | | ふぅー……もうこんな時間ですかー。 ですが、念入りにお掃除した甲斐もあって、 ぴかぴかになりましたねー。ふふー。 |
芳乃 | | さてと……そろそろ帰り支度を……。 むー? |
芳乃 | | この感じは……星が近づいてきているようですー……。 ふむー……わたくしを求めているのは…… そうでしたかー、然り然りー。 |
プロデューサー | | ただいま |
芳乃 | | おかえりなさいー。 ……わたくしを探していたのは、そなただったのですねー。 |
プロデューサー | | よくわかったね |
芳乃 | | ふふふー。わたくしはそなたとみちをともにしておりますゆえー。 |
プロデューサー | | LIVEが決まったよ |
芳乃 | | わたくしのLIVE…… たくさんの人々にー、わたくしの声をー わたくしの祈りを届けられるのですねー。 |
芳乃 | | おまかせあれー。 そなたより授かった、温もりあふれるこの歌でー、 みなと幸せな時間をわかちあいましょー。 |
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