まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

134 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 14:43:35.39 0

ハウスキーパー雅ちゃん〈3〉

ふたりで食べるとなれば、調理もしようという気になってくる。雅は初めて冷凍庫の食材を端からチェックした。
「明日の朝ご飯は一緒にとります」とモモに宣言されたのだ。冷凍野菜の袋をいくつも手に取った。しかしこんなにたくさん解凍したらあとが困ってしまう。
「スープにすればいっか」火入れしながら分けて食べ尽すか、冷凍すればいい。雅は何種類かの野菜を袋ごと解凍し、大きい鍋に中身を全部ゴロゴロと放り込んだ。
ソーセージも見つけた。「すごーい、繋がってる」一本ずつに切り分けようかと思ったが、もったいないような気もして、雅はそれもそのままスープに放り込んでみようと決めた。
ガチガチに凍って繋がっているソーセージを手に取ると、なんとなくいろんな形をつくってみたくなる。大きい輪っかをつくったり、両端を持ってぴんと伸ばしてみたり、そのまま縄跳びのようにぐるぐる回してみたり。
「早く切ろうよ」
急に後ろから声がして雅は振り返った。いつの間にかキッチンの入り口に寄りかかって、モモがこちらを見ていた。「あっ、切るんだやっぱり」照れ隠しに笑いながら雅が答えると、そう。とばかりにモモは大きく頷いた。
「おはよう」とモモが言って「おはよう」と返した。雅はくすぐったいような気分になった。
「何作ってるの?」モモは鍋を覗き込んで来た。「トマトスープ」「いいね」
「煮込んでる間にお洗濯しようと思うの」
「じゃあ、見ててあげる」モモはご機嫌だった。
楽しそうに鍋の中を菜箸でつつくモモをキッチンに残し、雅はランドリーへ向かった。「一緒に洗っていいんだからね」というモモの声が追いかけて来た。

そう、分けて洗うべきなのかと思って、自分の分とモモの分は別々に回していたのだ。「環境のことを考えようよ」とモモは言った。「三日おきでいいくらいだよ」
確かに、量を考えればそれでいいくらいだった。しかし仕事だと思うと毎日その分を洗いたいとも思った。
カゴを持って屋上へ上がった。ぐるりと取り囲む森。昨日までは雅を四方から閉じ込めているような気がした緑が、ただの爽やかな自然の景色に見えた。

キッチンに戻るとモモはジャムの瓶を並べて遊んでいた。「オムレツ食べる人」と言ってみたら黙ったままの片手が挙がった。
卵液を解凍して葉ものを混ぜたオムレツをつくった。トーストも焼ければもう朝食だった。
ふたり一緒に両手を合わせた。
「「いただきます」」

135 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 14:48:49.02 0

「みーやんは今日は何するの」
「このあとは一通り拭き掃除したら、階段の手摺を徹底的にやって、それから水回り」
「えらいね」
「何かしてないと退屈で」思わず言ってしまった。モモはフォークの端を口に咥えたまま顔を上げた。
「後でみーやんに仕事あげようか」「欲しい!」「面倒くさいよ」「え、全然いい」
「助かるなあ」モモはパン屑を皿の上で払っている。
「やることがあるって大事だなと思った」と雅は言った。
「そうだね」2枚目のトーストに半分ずつピーナツバターとジャムを塗っているモモを見ながら、雅は思った。
モモに〈やること〉はあるんだろうか。

ここに来るまでの記憶もなく、大事な物を隠されているこの家から離れられない。雅はこの一ヶ月の仕事を終えれば都会の生活に戻り、今度こそ改めて次の人生の目的を探しに動き出すだろう。
その後も、モモはこの家で毎日こんな風に、生きていくんだろうか。
「私にだってやることはあるよ?」
雅の内心を見透かしたようにモモが口を開いた。

「あ……そうだよね、何もなかったら生きていけないよね」
「うん。生きていけない」
「ももは毎日何してるの」
「お仕事とそのためのお勉強」「何の」「ICT系」
「……もうちょっとわかりやすく言うと?」
モモは口に運びかけていたトーストの欠片を皿に戻した。
「これ、わかりやすく言うとさあ、みーやんにズルイって言われそうなんだもん」
「言わない、絶対言わない」
「ここまでしか言わないからね?簡単に言うと情報通信セキュリティシステムの更新」
一気に言い切ってから、雅の顔を見て「の、ようなもの」とモモは付け加えた。
「情報……?」雅は頭の中を左から右に流れて抜けていく言葉の一端を掴まえる。
「ツウシン……あ、ももは、外と繋がってるんだ」
「そう。みーやんには制限かけてるのにね、ごめん」
「え、全然構わない。良かった」
「……何が?」
「良かった。ももが外と繋がってて」
モモは瞬きをした。それから苦笑い。
「ごちそうさまでした。美味しかった。また午後に声かけるね」
そう言って立ち上がった。

136 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 14:53:13.26 0

「ハイお仕事です」
昼過ぎに階下に降りてきたモモに手渡された袋、そこにはぐちゃぐちゃに絡まった色とりどりの刺繍糸が入っていた。
「なんでこんなことになるの」
「なんでだろうね。どんどん使える色がなくなっていってさ」
「刺繍が趣味なんだ。可愛い」
「無心になれるよ。集中できるしね。……ほどけそう?」
「多分、大丈夫。そんなに時間もかかんないと思う」
モモは嬉しそうな顔をした。「じゃあ、お願い」そう言って、自室に戻っていった。

雅はダイニングのテーブルに糸の塊を広げ、少しずつほどいていった。何を刺繍しているんだろう。聞くのを忘れた。作品があるなら見せて欲しいな。
雅が一瞬想像した閉塞感ある生活、でも実際のところ、モモは彼女なりに楽しく生きているようにも思えてきた。それは雅にとっても少し安心できることだった。
でも、もしできることならば、須藤が戻ってくる前に、モモの記憶を取り返してあげたい。そうすれば、モモはこの家からも出られる。きっともっと自由になれるに違いない。そこまで考えて、雅は糸を取る手を止めた。
もし、思い出さない方がいい記憶だったら?
だとしたら、モモは須藤に守られていることになる。
糸をほどく間、考えはあちこちに飛んで、雅はよくわからなくなる。
ただ、この仕事が終わってモモとお別れする時、私は寂しくなるんじゃないかな。そんな事を思った。
仲良くしたい、と初めは思ったけれど、モモとの距離が縮まっていってしまうことに、雅は小さい怯えも感じ始めていた。

そのせいか、刺繍糸の袋をモモに返す時、ちょっとぶっきらぼうに押し付ける形になった。
「あ、ありがとう」
礼を言うモモの顔を見ずに雅は言った。
「ほどくの簡単だった。絡ませないように今度からは丁寧に取りなよ」
「……うん。気をつけるね」
「じゃあ、他の仕事もあるから」
すぐに踵を返した。背後にモモの部屋のドアが閉まる音がした。そのまま真っ直ぐ自室へ向かう。別にもう今するべき家事もなかった。
部屋に入ると、ベッドに突っ伏す。私がモモのためにしてあげられることが、あまりにも少ない。
それが苦しい。何だろう、この気持ち。
やっぱり、こんなバイトに来るんじゃなかった。雅は八つ当たり気味に枕をギュっと抱きしめ、そう思った。

〈4〉へ続く

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