まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

562 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/06(火) 14:08:21.75 0

ハウスキーパー雅ちゃん〈7〉

ピピッという音で、雅は目覚めた。続いて部屋のドアが控えめにノックされた。雅は起き上がるとドアに向かい、そっとドアノブを引いた。パジャマのモモが立っている。
「どしたの、こんな夜中に」
「怖い……こわい夢見て」
子どもみたい……と雅は思ったが、実際、月明かりに見るモモの顔は幼気で、縋るような目で見られたら部屋に入れないわけにはいかなかった。
揺らぐ。それから、引き戻す。
「一緒に寝る?」雅は子どもを寝かしつけるようにモモの背を押してベッドに横たわらせた。隣に入って手を握ってやると冷えきっていた。

「寝れそう?」
「うん」
「おやすみ」雅は目を閉じた。隣でモモが口を開く気配がした。
「みーやんの着せ替え楽しかった」
「……うん、楽しかった。写真撮りたかったな」
この家にカメラの類いは一切ない。それも機密保持なのだろうと雅はもう諦めている。
少し置いてからモモは言った。
「でもさ、可愛い服ならまた、いくらだって着れるよ。……戻ったら好きな服、いっぱい買いなよ」
「そう、そうなんだけどね」
モモが結ってくれた三つ編みは解かれてしまった。何も残らない。

あと二週間でお別れ。雅は頭の中でカレンダーを追う。
キスされた時に気付いてしまった事。心が痛くなる程求められても、この気持ちは深く深く沈めておかなければならない。
モモはあれきり求めてくるようなことはない。雅を思ってそうしているのだとわかる。
今ならわかる。気の所為などではなく、あの翌朝、ダイニングに下りてきたモモが「おはよう」と言った時に、それがどれほどの自制なのか感じ取ってしまったから、だからあの時、雅は泣きそうになったのだ。
昼下がりにお喋りしながら髪を結ってもらった時間、手を繋いで並んで眠る時間。
この島に来たときはまるで想像していなかった、間違いなく幸せな時間だ。
このふんわりとした幸せをそのままに、それ以上深追いしない。
知ろうとしない、知らないままで平穏に過ごす。それがふたりの為になる。

モモの寝息を確認して間もなく、雅も眠りに落ちていた。

564 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/06(火) 14:16:17.47 0

吐き気がする。情報の奔流に呑まれながらモモは思う。必要な情報にだけ手を伸ばしたいのに、一度アクセスすれば目の前はノイズだらけだ。要らないノイズばかりが方々で膨れ上がる。
針の穴より小さい〈使える真実〉が一瞬で潰されるのを無数に見てきた。まったく人間には腹が立つ。

モモは全身で〈手〉を伸ばし、注意深く、且つ素早く〈今〉を探す。毎回タイムトライアルだ。これもゲームだと思えれば楽しいのにね。

どうして自分が〈魔法使い〉になったのか、茉麻は「既になってるものをこっちは見つけちゃっただけだからねえ」と言った。
未知の知能からの干渉、その予兆を感知した者は、時期こそ多少のズレはあれど世界中に点在したという。まずその意思を読み取るためだけにも、膨大な金が注ぎ込まれただろうと茉麻は言っていた。
「目的のような意思は存在しない。それが今のところの結論だよ」
「それ結論にしていいの」
「とりあえず決めなきゃ先に進めないじゃん。要は、探るだけの時期はもう終わったってことだよ」
「物理的干渉もないだろう、と」
「あちらさんにとって、物理的干渉で得られる情報に有益なものなんて何もないからね」

悪意がない、そもそも意がないということは、好意にも期待できないということだ。そこまで仮に結論づけたところで、対策の考察が始まった。
こちらから干渉できる対象がない故に防御一方の、あらゆる方法が今も検討され続けてるのだという。
「あたしがもといたシンクタンクも何かやってんだろうと思うけど」
「何やってるかはわかんないんだ」
「そりゃそうでしょ。どこが先んじて地球外知能からの干渉を封殺できるか、これはバトルだよ」
「くっだらない。みんなで手を取り合えばいいのに」
「あちらさんも手を取り合ってないから、魔法使いなんかが生まれるんでしょ」

566 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/06(火) 14:20:43.50 0

奇跡的な干渉の欠片が地球に、しかも日本に残されていると確信した時の興奮を、茉麻は何度もモモに語った。
「このあたしがだよ、全世界に先んじて存在しない筈のたった一文字を見つけた。魔法使いの存在を知ったわけよ。震えたね」
モニタのスクショも何度も見せられた。「この文字があり得ない訳」と何度言われても、モモにはただの膨大な文字列に埋もれたアルファベットの一つにしか見えなかった。

地球外知能からの攻撃があるとするならば、それを唯一事前に感知できるだろう欠片。茉麻はそれを〈魔法使い〉と名付けた。

その一文字から見い出せるラインの可能性を当たり、茉麻は魔法使いが存在する位置を割り出した。
樹海を三日三晩かけて探した。
「人間だとは正直思ってなかったんだよね。よくあの場所に留まっていてくれたよ」
「だってあの時もう記憶もなかったもん。周りに何もないし、手当たり次第に草の実食べながら、このまま死ぬんだなあと思ってた」
「うん、ごめん、見つけた時死んでるかと思った」
「私と、私の記憶がそこにあったのをやっと見つけたわけだ」
「別に、記憶の方はぽろっと落ちてたわけじゃないからね」
モモの体に残されていた謎の痕跡が〈記憶〉だと気付くのにも時間がかかった。解読し、それが一つの画になった時、茉麻は、これはいずれ返してあげなくてはならないと固く思った。

「まあさ的には、やっぱり、今、思い出したりして欲しくないわけ」
「今思い出されるのは困る」
「私が逃げ出すと思うの」
「そうじゃなくて……ううん、その話は全てが終わってからにしよう」

そう言った時、茉麻が優しく笑ってくれたから、今まだここに居る。
モモはゆっくりと息をついた。今日は、今までで一番早く辿り着けた。

567 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/06(火) 14:24:08.79 0

「冷凍庫がもうスカスカ。冷凍のおうどんも、もうない」
「乾麺があるでしょ」「ないよ昨日今日で何回おうどん食べたと思ってるの」
空前のうどんブームが来ていた。モモがどこからかレシピを持ってきて、毎食雅にうどんをつくらせた。雅はもう飽き飽きしていた。
「うそでしょ……みーやんちょっと頼んできてよ」
「頼むって、誰に」
「緊急のとき使える電話があるんだよ」
「いや……そんなドヤ顔で言われなくても知ってるけど、どう考えても緊急じゃないよね」
「お願い」「自分でかければ」「まあさに怒られるじゃん」
「私なら怒られてもいいってわけ」
「みーやんのお願いなら聞いてくれるよお願いお願いお願い」
「……今日のお昼はリゾットにしよっかな。そうだシーフードのトマトソースにしよう。まあ?ももはリゾットなんて食べたくないだろうから、自分の分だけつくればいいか」
「私は何を食べたらいいの」
「電話してきなよ」
「……みーやんは、私の事嫌いになったの?」
「おうどんを嫌いになりそう」
「うどんが可哀想じゃん!」
それきり雅はモモを無視することにしてキッチンに立った。やっと洋食が食べられる。
冷凍庫から玉ねぎスライスを出してくると、フライパンにオリーブオイルを注ぐ。玉ねぎを熱するとすぐにいい匂いが立ち上がってきた。
モモの扱いにも慣れたよね。と雅は思う。散々絡んできても、結局雅が昼に何を作ろうが大人しく食卓に着くに違いない。

案の定、テーブルに皿を並べて呼ぶと、モモは先ほどの言い合いなどまるでなかったかのように「すごーい!おいしそう!」と言った。
「須藤さんが戻ってくるまで、おうどんは諦めな」
「その頃はもう、別のブームが来てると思う」
「あと十日のうちに今度は何ブームが来るんだろうね」
「さあ」
「あと十日でお別れだね」

雅の言葉は、少し投げ遣りにダイニングに響いた。
何故わざわざそんな事を言ってしまったのだろう。雅はそれきり口を噤んだ。それについて何らかの返事が欲しいわけではない。感傷的になったわけではない。
散々に甘えられて懐かれて、十日後には引き離される境遇に、八つ当たりしたくなったのかもしれない。
「お別れだったら、何なの」ポツリとモモは言った。
雅には何も答えられず、それきり、昼食が終わるまでふたりとも一言も発さなかった。

〈8〉に続く

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