まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

67名無し募集中。。。2019/12/02(月) 15:56:40.360

「おめでとう」と桃子が送ると、既読の文字は一瞬にして吹き出しの横に現れた。
まだ起きてるんだ、と桃子は小さく目を丸くする。
可能な限り絞られたベッドサイドの明かりの下で、ぼやけた時計の長針と短針は一つの線になっている。
やがてひょっこり現れた吹き出しの脇には、23:58と表示されていた。

『ギリギリすぎない? 忘れてたでしょ笑』

まあ、もものことだからそんなことだろうとは思ってたけどさ。
返ってきた文面は、そんなセリフを言う佐紀の表情や声までも浮かぶようだった。
11月22日、日付が変わった瞬間からBerryzのグループLINEは佐紀を祝う言葉がぽろぽろと投稿されていた。
それを見て桃子も勝手に祝った気持ちになっていたのだ。
たった今、ご機嫌な様子で返ってきた雅に「一言くらいお祝いした?」と言われて初めて気がついた。
見返してみれば、メッセージを読んだ記憶はあれど、桃子が書き込んだ形跡はなかった。

「ギリギリすぎって言われちゃった」
「そりゃ、そーだ」

まあ、もものことだから、おどろかないんじゃない。
隣から聞こえてくる雅の声は、すでにふにゃふにゃと柔らかい。
もう半分くらい夢の中にいるのだろう。
桃子が左手を突っ込んだ羽毛布団の中には、子どもっぽい熱が籠もっていた。
可愛い、と不意に口をついた囁きは雅にも聞こえていたのか、雅の指先がぴくりと動いた気配があった。

「電気、消そっか」
「ん……」

ふやけた声を漏らしながら、雅が熱っぽい指先を桃子の指に絡めてきた。
二人の薬指がぶつかって、かちりと微かな音を立てた。

68名無し募集中。。。2019/12/02(月) 16:01:06.070


佐紀が"ひみつの食事会"と称して桃子を呼び出したのは、それから数日後のこと。
ひみつ、と言いながら雅には佐紀に会うことを伝えていたし、どうせだからと佐紀へのプレゼントも預かっていた。
しっかりとした厚手の紙袋には、プレゼントの包みが二つ収まっている。
いつだったか、「今度は二人で選ぶ?」と雅が言っていたように、二人で買いに行ったもの。

ここ数日ですっかりと冬に変わった風の中で、桃子は緩むマフラーを軽く締め直した。
家を出る直前、雅が「なんでそんな寒そうな格好なの!」と慌てて巻いてくれたマフラーだった。
佐紀が選んでくれた店は、表の大きな道路を少し入ったところにあった。
2階まで上がると、奥まったソファ席に座る佐紀が桃子を見つけて軽く手を振る。
黒っぽいニットに包まれた佐紀の体は、桃子の記憶よりさらにほっそりとして見えた。

「たんじょーび、おめでと」

席に着くなり紙袋を差し出すと、佐紀は両手でそれを受け取った。

「えーっと?」
「みやと、私から」
「ほー、そう」
「なによぅ」
「んーん、なんでも」

からかうような響きを声の端に含ませながら、佐紀が紙袋から二つの包みを取り出す。
ピンクと紫。その二色を当たり前のように選んだのは雅だった。
佐紀の手がてきぱきと包装を剥いでいくのを眺めながら、桃子は小さく拳を握った。
プレゼント交換など飽きるほど経験してきたが、真面目に選んだものとなると話は変わる。
いつものおふざけで逃げる手が使えないからだ。

「お、かわいい」

アイスクリームがモチーフのコスメと、淡いイエローのサシェ。
両手に抱えたそれらを眺めながら、佐紀がしみじみと感想を漏らす。

「両方みやが選んだやつだったりして」
「ひどっ! ちゃんと選んだってば!」
「本当にぃ?」
「本当!」

70名無し募集中。。。2019/12/02(月) 16:03:16.710

へえ、とつぶやきながら佐紀の指がサシェの表面を撫でた。
雅が品の良い化粧品を手にして悩む横で、桃子は桃子なりに考えた結果だった。
雅がしたことと言えば、桃子が選んだものを見て「いいじゃん」と笑顔で太鼓判を押したことくらい。

「あ、いい匂いする」
「でしょ? なんだっけ、何かさっぱりしたやつ」
「そこ覚えとらんのかいっ!」
「いやあ……へへ」

やれやれという顔をして、佐紀の視線がパッケージに落ちた。
香りの名前は忘れてしまったけれど、効能ならしっかり覚えている。
集中力を高め、勇気を与えてくれる香り。
佐紀に贈るものを考えたとき、ソロ活動をする佐紀が不意に浮かんだ。
頼もしいリーダーであると同時に、脆さを孕む小柄な背中。
楽屋裏で、舞台袖で、その背をふざけて叩くことはもうない。
それを意識した瞬間に、何かお守りめいたものを贈りたいと思いついた。

「ローズマリーだって。ちゃんと覚えといてよ」
「あーそうそう、ローズマリー。やだなーど忘れしてただけだって」
「もー適当だなー」

佐紀の呆れた目をかわし、桃子は曖昧に笑いながら頬を掻く。
いつだったか。
緊張を解すおまじない、とおどけた調子で雅がボディミストを振りかけてきたことがあった。
それを真似たものだとは、口が裂けても言えやない。

「で、えっと、何か用事でもあったの?」
「は?」

タイミングよく運ばれてきたコーヒーとオレンジジュースをきっかけに、桃子は別の話題を振ってみた。

71名無し募集中。。。2019/12/02(月) 16:06:27.540

「いや、だって、佐紀ちゃんが声かけてくるの珍しいなあって思って」
「ももから声かけてくることなんてないでしょーが!」
「はは……ごもっとも」

わざとらしく息をついた佐紀が、不意に姿勢を正した。
にわかに張り詰めた空気を感じ、桃子の指は自然と薬指の指輪に触れる。

「用っていうか……仲良くやってるかなーって思って。ケッコンセーカツ」
「へ? ……それだけ?」
「そうだけど?」

予期せぬ言葉に、桃子は思わず佐紀の表情をまじまじと見つめた。
桃子の気持ちなど知らぬ様子で、佐紀は呑気な顔でコーヒーをすすっている。
どうやら、そのまま素直な質問だと思って良いらしい。

「やってるに決まってんじゃん」
「そ? じゃ、よかった」
「あ、聞きたい? どんな感じか」
「えー、どうしよっかなー」
「なんでそこで悩むのよ」
「だって結局のろけでしょ?」

佐紀の眉間に皺が寄る。
お腹いっぱい、ノーサンキュー。
ステージの上で悪ノリが過ぎそうになった時、桃子にそっとブレーキをかけた顔と同じ。

「まあ、そうとも言うけど」

大人しく言葉を引っ込めて、身を乗り出しかけた桃子はしんなりとソファに沈んだ。
で、佐紀ちゃんは。最近どうなの。
代わりに、当たり障りのない言葉を引っ張り出そうとした桃子を、佐紀が「そもそもさ」と遮った。

72名無し募集中。。。2019/12/02(月) 16:09:49.240

「みやから散々聞いてるんだよねー、のろけ」
「え、うっそ」
「ほんと」

にやっとしながら、今度は佐紀が桃子の方に身を乗り出す。

「一体どんな話聞いてんの……」
「あ、聞きたい?」
「いや、えっと……いい」
「しょーがないなあ」
「いいっ、いいってば!」

桃子の言葉などどこ吹く風で、佐紀の口からは雅から聞いたであろう話が次から次へと流れ出る。
最初の頃、桃子が干した洗濯物を見ただけで感激してLINEをしてきただとか。
初めて二人で作った料理の写真も即座に送られてきただとか。
嬉々として二人で選んだカーテンの話をされただとか。

「一番笑ったのは、ももがソファに収まって寝てるやつ」
「ちょっ! そんなものまで?」

もちろん、と佐紀が机の上に放置されていたスマホを手にする。
まさか、その時の写真でも探すつもりじゃなかろうか。
桃子は慌てて佐紀の手を押さえ込む。頭の中心が妙に熱い。

「え、見たくない?」
「ない!」

ちぇ、とさほど残念でもなさそうな風で、佐紀は押さえ込まれていた手を引っ込めようとする。
それにつられて、桃子が力を緩めた時だった。

73名無し募集中。。。2019/12/02(月) 16:10:26.690

「もものこと好きすぎでしょって言ったらさ、『まーね」って」

雅を真似る佐紀の声から、これ以上ないほどにくしゃりと笑う雅の顔が用意に想像できた。
甘ったるい熱が、炭酸のように頭の中で弾ける。飛び散った熱は桃子の頬を一瞬にして火照らせた。

「あ、照れてる」
「照れてないし」
「えー照れてんじゃん、珍しい」
「だーから!」
「はいはい」

佐紀の笑顔は余裕たっぷりで、桃子が何を言っても効果はなさそうだった。
桃子はしぶしぶ口を閉じ、「それでいいよ」と吐き出す。

「はー、誘ってよかった」
「え?」
「珍しいもも、見れたし。今日は満足」
「何それー」

目的を果たしたらしい佐紀の興味は、既にメニュー表へと移っていた。
「アイスでも食べようかな」と言う呑気な佐紀の声が聞こえてくる中、桃子は自分の顔を手で扇いだ。
雅ときたら、一体何を話してくれているのか、と恨めしく思う気持ちが半分。
佐紀といる時でさえ、思い出してくれているのを嬉しく思う気持ちが半分。

帰ったら雅を問い詰めてやろうと心に決めて、桃子もメニュー表に目をやった。

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