まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

843 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/30(金) 01:04:16.47 0

「おはよう」

雅が声をかけると、猫のように丸まっていた塊がころんと転がった。
まだ寝ぼけているのだろうけれど、素直に広げられた両手にそっと身を寄せる。
きゅっと抱きしめられたのつかの間、またするりと腕はシーツに着地した。

「もも、まだ起きない?」
「……ん」

放っておけば、桃子は再び眠りの世界に旅立ってしまいそうだった。
けれど、もうそろそろ午前中が終わろうとしている。
疲れているだろうと寝かせておいたが、そろそろ待つのも飽きつつあった。

「ももー、お腹空いてない?」
「……すい、た」

そこだけはきちんと返信するのね、と苦笑しつつも雅は桃子の頬をつついた。
少しだけ歪められた眉に、もうひと押しだと直感する。
もうちょっと、とか言い始める桃子の耳に口を寄せて。

「ご飯作るから、起きて?」

雅の言葉に、ぱちり、と音がしそうなほどはっきりと桃子のまぶたが持ち上げられた。

「おなか、すいた」
「うん。何か食べよ」
「お昼なに?」
「まだ考え中」

でも、何かさっぱりしたものが食べたいよね。
そう提案すると、賛成、と桃子が跳ね起きた。

「じゃあ、何か考えるから。シャワー浴びといでよ」
「うん。……あ、みやもう浴びちゃったの?」
「当たり前でしょ」
「ちぇー」
「いいから入ってこい」

一緒に入りたかったのに、とかブツブツ言っているのが聞こえた気がしたけれど。
そこに関しては、聞かなかったことにした。

844 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/30(金) 01:08:31.32 0

桃子の家の冷蔵庫事情は、以前訪れた時とあまり変わっていなかった。
相変わらず、自炊の類はあまりしていないらしい。
雅も普段は親に頼りきりであるから、あまり強くは言えないけれど。

「さっぱりしたもの、ねー」

シソやネギはベランダに植えられているが、薬味だけでは腹が膨れない。
冷蔵庫には、以前の明太子の残りと卵がある程度。
どうしたものか、と冷蔵庫の前で腕を組んだ時、部屋に突然インターフォンが鳴り響いた。

「……は?」

どうせ宅配便か何かだろうとモニターを覗きこみ、雅はそのまま固まった。
ちょっと緊張した面持ちでカメラを見つめる、五つの視線。
全員と面識はあるけれど、ここで鉢合わせるのはまずいのではないか。
ちょうどその時、浴室からぺたぺたと足音が聞こえてきた。

「もも!」
「え、な、どしたの?」

どうしたもこうしたもない、とモニターの前まで桃子を引っ張って行くと、桃子も同じように一時停止。
数秒の後、雅を振り返った表情には、明らかに「やらかした」と書かれていた。
そんな二人を催促するように、インターフォンがもう一度鳴ら響く。

「……まあ、いいか。後ろめたいことは別にないわけだし」
「は? え、本気?」
「え、だめ?」

おとももち同士、お家に泊まっても変じゃないでしょう、と桃子は言うけれど、そんなにことはうまく運ぶものだろうか。
まだ不安の残る雅の横で、桃子の指がぽちりと通話ボタンを押すのが見えた。

845 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/30(金) 01:14:12.56 0


桃子の能天気な声に連れられて、わらわらと部屋に入ってくる後輩たち。
雅と目が合うと、皆が皆同じように目を丸くして動きを止めた。
それでも挨拶はきちんと返してくれるところは、律儀というのか真面目というのか。
いつもなら少し傷つくところだが、今日のところは仕方ない。
ただでさえ先輩の家を訪ねるなんて緊張するだろうに、加えて別の先輩がいるなんて。

「いやー、ごめんね。みやってば昨日終電逃したらしくて」
「あー、うん、そう。本当はもっと早く帰るつもりだったんだけど」

我ながらぎこちない演技だと思ったけれど、乗りかかった船だった。
桃子がそういう方向で話を進めるならば、乗っかる以外に方法はない。
雅からもごめんねと告げると、五人——カントリー・ガールズの後輩たち——は、両手を振ってそれを否定した。

「まあ、お詫びと言っちゃなんだけどみやがお昼ご飯作ってくれるから」
「そうそう、……っておい」
「え、違うの?」
「いや、作ってもいいけど……ももは?」
「あ、いや! ここは私たちがっ」

はいっ!と小学生のようにぴんと伸びた綺麗な挙手と共に、梨沙の声が割って入る。
次いで、我も我もと続く皆の挙手に、思わず雅は桃子と顔を見合わせた。
本当に良い後輩たちだよね、という気持ちもあって。
全員の挙手の綺麗さがどこか団体芸のようでもあって。
桃子と二人、同じタイミングで吹き出す。

「いいよ、みんなは座ってなって」
「うん、そうだね。そこにソファあるから」

でも、と食い下がるのを押し込めて、ソファとクッションに全員を整列させる。
昨晩のうちに冷やしておいた麦茶を出すと、皆はようやく観念したらしかった。

846 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/30(金) 01:16:42.21 0

「にしても、人数多すぎじゃない? どうする?」
「そうだねえ……簡単にたくさんできる料理……」

そもそも後輩たちが来るなら用意をしておくものじゃないだろうか。
雅の指摘に、桃子は小声で明日の予定と勘違いしていたことを教えてくれた。

「買い物行かないと無理じゃない?」
「あー、やっぱり?」

冷凍うどんも7人分ほどの量はなく、ご飯だって一人暮らしでそんなにストックがあるわけもない。
近所のスーパーを思い浮かべながら、食材調達の算段を始めた雅の思考に、ふと別の声が割り込んだ。

「あのー」
「ん? どしたの、梨沙ちゃん」

雅の目に、梨沙——というよりは梨沙の腕に抱えられた桐の箱——が飛び込む。

「これ、うちの母がですね、ももち先輩にって」
「えー、本当に? いいの?」
「はい。あの、美味しいのでぜひにと」

そうっと蓋を持ち上げると、そこには白く細い麺が黒い帯にまとめられ、見事に並んでいた。
そうめんだ。しかも、これまた大量の。

「え、ちょっと……これ、お高いやつじゃないの?」
「いえ、でも、そんなに大した値段では!」
「梨沙ちゃんちの大した値段じゃないって十分大した値段だからね」

桃子と梨沙の会話はおいておくとしても、これだけの量があれば十分に全員分の腹を満たせそうだった。

848 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/30(金) 01:19:12.15 0

大きめの鍋に湯を沸かしつつ、具材の準備にとりかかる。
かけつゆにしても良いけれど、人数も多いし複数の具材を用意してつけつゆにした方がきっと楽しい。

「もも、何したらいい?」
「ネギ刻んでくれる?」
「お、ももち菜園大活躍だね」

ついでにナスとシソも取ってきてもらうと、キッチンバサミを手渡した。
小口切りなんて桃子はさっさと飽きてしまいそうだし、包丁はこれから雅が使う予定があるから。

「なるほどねー、ハサミでやると速いのか」

なぜか上機嫌にネギを刻む桃子の横で、雅はナスを手に取った。
細長く切って水にさらす間に、卵を割ってさらさらと溶く。
溶き卵をこすのは少し手間だけれど、一度それをやらずに作ったら舌触りが違う気がした。
それ以来、結局そこだけは手抜きをできずにいる。
十分に熱されたフライパンへと卵液を流しこむと、小気味良いさざめきと共にふわりと立ち上る湯気。
ここからが勝負、と菜箸で固まりかけている端を持ち上げようとした時、横から桃子の声がした。

「みやぁ、おわった」

一瞬だけ箸の先が震え、薄い卵の膜がぴりりと裂けていくのがスローモーションのように映った。

「あっ、ちょ」
「あーらら……ごめん」

桃子がすまなさそうにしていたが、今は破れた卵の方が優先。
どうにか端をつまみ上げてひっくり返すと、もう片方も裏返してどうにか事態を収める。

「……みやって、卵料理と相性悪いの?」
「も、ももが話しかけるから!」
「でも、ももがいなくてもさあ、」
「あーあー、はい、次これ」

放っておけば回り続けそうな桃子の口を遮り、ツナ缶を手に押しつける。
やることと言ったって、ツナ缶の油をしぼって盛るだけなのだけれど。
それが終わったら明太子をほぐすよう伝え、雅は空にしたフライパンにナスを広げた。
くたくたの方が桃子の好みらしく、雅もそれには同意だった。
油の染み込んだナスは、確かに美味しい。

「生姜ってあったっけ?」
「みやが買ってきたのが残ってる」
「じゃあ、ボウルにそれと醤油混ぜといて」

まだほかほかと熱を持つナスをそこに漬け込むと、桃子がほぐした明太子にはごま油を垂らして皿に盛る。
ついでに、桃子が適当に盛りつけたらしいツナも綺麗な山状に整えた。

「おおー、なんかそれっぽい」
「ももが雑すぎるだけだからね」
「だって、結局食べちゃうじゃん?」
「外見! 大事だから!」

ステージ立つ時に衣装やセットにこだわるでしょ、と説くと、桃子も納得してくれたらしい。
だからといって、色気より食い気だったりする桃子にどこまで響いたかは謎だったけれど。

852 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/30(金) 01:30:47.43 0

しゅうしゅうと音を立てて、鍋が二人を呼んだ。
ぼこぼこと大きな泡が現れては消えていく湯に麺を入れると、ぱっと咲いた花のように広がって沈んでいく。
もうそろそろ完成だ、と目を細めていると、視界の端でそろりと皿に伸びる箸。

「……おい」
「あ、バレた」
「バレた、じゃな、んぐ」

器用につまみあげられたナスが、ぎゅっと口に押し込まれた。
熱いうちに染み込ませた醤油の香りに混じって、生姜の爽やかな香りが鼻に抜けた。
噛むほどに、じわりとにじみ出る汁が口の中を潤した。

「はい、きょーはん」

いたずらっ子のようなほほ笑みに、見惚れたなんて、言えるはずもなくて。

「……ちょ」
「あ、」
「は?」

文句を言おうとした口から、代わりに妙な声が漏れ出る。
ふと気がつくと、湯の表面にもこもこと白い泡がせり上がっていることに気がついて、慌てて火を止めた。

「ほら、みやがぼーっとしてるから」
「誰のせいだと」

ごちゃごちゃと言い合いながら、そうめんは手早くお湯からあげて。
流水で洗ってしめると、くるりとまとめて一食分ずつに分ける作業は桃子にも手伝ってもらった。

「あとは卵切って……トマトでもあれば彩りよかったけど」
「あ、ミニトマトならあるよ」
「え? あんの?」

待ってて、とベランダへ駆けていった桃子が持って帰ってきたのは確かに赤く染まったミニトマト。
以前見た時に気がつかなかったのは、ちょうど夜だったせいだろうか。
桃子を待つ間に刻んだ卵は少し太くなってしまったけれど、許してもらおう。
薬味やナス、ツナに卵を添えて、真ん中にトマトをのせると皿の中の色彩がぐっと引き締まる。

「おぉ、おいしそう」

桃子からぱちぱちと拍手が起こる。雅自身も満足の出来栄えだった。

853 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/30(金) 01:35:00.20 0


果たして子ども達の反応も上々で、あちこちから聞こえてきた感嘆の声に雅は気を良くした。

「めっちゃカラフルですね!」
「でしょー」
「いや、ももは雑だったじゃん」

身を乗り出す結に、なぜか胸を張る桃子。
それにツッコミを入れていると、他の後輩達が肩を震わせるのが分かった。
段々と漫才をしているような気持ちになってきて、ほら食べるよ、とそれぞれの手に皿を押しつけた。
いただきます、と全員で手を合わせる。
つゆの中に各々が好きな具を浮かべ、真っ白な麺を泳がせて。
しばらく静かにそうめんをすする音がした後、んー!っと目を丸くさせて美味しい!と声がそろった。

「あぁ、シソがいい味出してます」
「それね、私が作ったの」
「トマトが、その、すごくトマトって感じです!」
「いや、そりゃトマトだからね」

でもそれも私が育てた、とまんざらでもなさそうに桃子が表情を緩ませるのが見えた。
褒められた時、鼻の下が伸びる桃子の癖は相変わらず。
けれど、後輩達の手前少しだけカッコつけている様子なのが可笑しかった。
そんな皆の様子を眺めながら、雅も器を手に取る。
まずはシソでシンプルに、と口に含んだそうめんは、程よい弾力で舌に触れた。
そして、つるりと舌から喉へと滑り落ちる感触が心地よくて、雅はひとり目を見張る。
梨沙が持ってきたものだから普通のそうめんではないと思っていたが、こうも喉越しが違うものか。

「このそうめん……おいしい」

しみじみとしてしまって、どちらかというと独り言のようになってしまったけれど、梨沙には聞こえていたらしい。
よかったです、と梨沙が胸を撫で下ろしたように笑った。
大勢でこんな風にご飯を食べるのも悪くないな、とじんわりした幸せに浸りかけた雅だったが、それも一瞬のことだった。

「みや……」

神妙な雰囲気を漂わせるから何かと思えば、桃子の箸には一部がつながってぷらりとぶら下がる錦糸卵。

「おい嗣永」
「あ、あの! 卵の甘さがしっかりと味わえて美味しいです!」

せっかく人が、と言いかけたところで、すかさず奈々美のフォローが入る。
物は言いようとはよく言ったものだけれど、桃子の教育の賜物とも言うべきか。
まっすぐな瞳にそれ以上何かをいうのも野暮な気がして、素直に感謝の言葉を述べる。
ひょっこりと持ち上がる奈々美の特徴的な眉に、思わずくすりと笑いが漏れた。

854 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/30(金) 01:44:28.30 0

全員でごちそうさまと手を合わせると、おもむろに桃子が立ち上がった。

「はいみんな、自分のお皿は運んでね」

さながら幼稚園の先生のような言いぶりに、けれど素直な返事が聞こえてくる。
よくできた子たちだと改めて舌を巻きながら、雅も自分の食器を手にした。
わらわらと後輩たちが後を追う中で、不意に最後尾の舞が立ち止まる。
振り返ったその表情は、以前一緒に話した時よりも随分と大人びたようだった。
はっと胸を突かれた雅に、舞はふっと目を細めて。

「ももち先輩のこと、よろしくお願いしますね」
「へっ……」

口元に手のひらを添えて、とても大事そうに放たれた言葉。
聞き返そうとした時には、何事もなかったかのように舞はくるりと方向を変えていた。
にわかにとくとくと心臓が早まって、食器を取り落としそうになる。
桃子を囲む皆の横顔を一つ一つ眺めて、舞同様に成長しているのだと気付かされて。

ももが思ってるより、ずっとこの子達は大人みたい。

後輩たちに向けられる桃子の笑顔に、心の中でそんなことを囁いた。

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