まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

547 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/07(金) 18:37:12.64 0

じりじりとしながら時計と睨めっこをくりかえし、病院に行くなどと適当な理由をつけて雅は会社を飛び出した。
机に放り投げてきた仕事に首を絞められそうだが、明日のことは明日考えよう。
そんなことよりも、今は思いがけない再会を果たした桃子のことで頭がいっぱいだった。
昼間のコンビニに飛び込んで、レジへと視線を走らせる。
そこには暇そうにしている初老の男性がいて、柔和な笑顔が目に飛び込んだ。

「……いない」

そこでようやく、すっと頭が冷えた気がした。
昼にいた人間が、夜までいるとは限らない。
そんな当たり前のことさえも頭からすっぽ抜けていた。

「どうか……されましたか?」

雅の様子に何を思ったのか、レジにいた男性から声がかかる。
答えあぐねた雅の目に、ふと名札の上に小さく書かれた「店長」の文字が映った。
もしかして、彼ならば。

「あの……ここに働いている人について、なんですけど」
「はい」
「嗣永さんという方は、いらっしゃいますか?」
「あー、桃子ちゃん」

その名を口にする彼の雰囲気を見るに、雅を訝しんでいる様子はない。
彼以外に手がかりはないと、すがる思いで雅は彼に詰め寄った。

「嗣永さんに、以前お世話になりまして」

優しそうな彼を騙すのは少し気が引けたが、それも一瞬のこと。

「じゅ、住所とか、教えてもらえませんか……っ!」

自分でも拙い言い訳だと思ったが、彼はあっさりといいよ、と答えてくれた。
個人情報なのにそんな管理で良いのかよ、なんてことを思わないでもなかったが今は好都合。
彼が渡してくれたメモを受け取ると、礼もそこそこに雅はコンビニを後にした。

548 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/07(金) 18:38:18.56 0


示された住所はここから電車で一駅ほどの場所だった。
駅前で適当に焼き菓子の詰め合わせを見繕って、電車に滑り込む。
同じようなマンションやアパートが立ち並ぶ、いわゆる住宅街の一角。
エントランスもしっかりしていて、オートロックもついている。

「呼び出さないといけないわけね……」

勢いだけでここまで来たは良いが、今更になって少し怖気付いていた。
どうせ明日以降、コンビニに行けば会う機会はあっただろうに自宅まで押しかけるなんて。
しかも、少し気合の入った手土産つきときた。
どれだけ必死なんだよ、と自分に対して苦笑する。
けれど、どうしても気になって仕方なかったのだ。
あの、小柄で色白な、彼女のことが。
それに、店員と客という立場で再開したいわけでもなかった。

「さん、まる、ろく……と」

メモに書かれた部屋番号を押すと、少し呼吸を整えてから呼び出しボタンを押す。
出て欲しいという気持ちと、出て欲しくないという気持ち。
どちらも本音だった。
電子音が響いて、たっぷり10秒は待っただろうか。
不在だったかとほっとしかけたところで、がちゃりと受話器が持ち上げられる音が響いて雅は体を硬直させた。

「……あの、どちら様ですか?」
「あ、うち! えっと、みや……夏焼、雅!」

音質の悪いスピーカーの向こう側で、空気がざわつくのを聞いた気がした。
誰か別の人でも家にいるのだろうか、だとしたら間が悪かったかもしれない。

「ご用件は……?」
「え、と……お礼を、言いたくて……?」

再びざわつく空気を感じて、じわじわと居心地の悪さが這い上がる。
ごめんなさい、出直します、そんな言葉を口にしようとしたところで、自動ドアが開かれる音がした。

「入っても、いい……のかな?」

あまり歓迎されている感じもしないが、ここまできたら引き下がるわけにはいかない。
意を決して、雅はそのドアをくぐった。
階段で目的の階まで上がってたどり着いた306号室は、一番奥の角の部屋。
よし、と気合を入れて呼び鈴を押し込む。
ピンポン、と軽い音がドアの向こうで鳴るのが聞こえた。
次いで、どたん、ばたん、と慌ただしい音が響く。
やはり何か様子がおかしい。
一体何が出てくるというのだろうか。雅の心臓はとくとくと早くなる。
やがて、かちゃりと鍵の開く音がして、焦れったいほどゆっくりと開かれる玄関の扉。
その隙間から覗いた顔に、雅は一瞬呆気にとられた。

549 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/07(金) 18:38:51.09 0

——桃子じゃ、ない。

目の前の少女は雅と同じくらいの身長で、少し茶色がかった髪色をしている。
まさか、部屋を間違えた? いや、そんなことはないはず。
でもまてよ。さっきスピーカーから聞こえた声は、本当に桃子のものだったか……?
混乱しかけた思考は、目の前の少女の声に呼び戻される。

「ナツヤキさん、で合ってますか?」
「あ、うん……そう、です」
「えっと、用事はどなたに」
「嗣永さんの家って……ここで、合ってます?」
「……はい」

どうしよう、と戸惑うように少女の瞳が揺れ動くのを見て、雅自身も落ち着かない気持ちになった。
桃子のことは知っているらしいから、やはりここは彼女の家なのだろう。
だが、今は外出しているか何かで不在、といったところだろうか。

「今、まずかったですか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど……」

困ったように眉を下げる少女の背後で、ばたん、と音がして、雅の意識はそちらに奪われた。

「りさちゃーん、お腹すい——」

りさちゃん、と呼ばれた少女の向こう側で、別の少女がひょっこりと顔を出す。
くりくりとした瞳は雅に向けられ、漫画さながらにポカンと口が開いていく。

「……美人さん、や……」
「こ、こら! むすぶ、何言ってんの!」

彼女の名前はむすぶと言うらしい。
りさの言葉を受け、むすぶがひょこっと背筋を伸ばすのが見えた。
その様子があまりにコミカルで、笑いがこぼれるのを抑えきれなかった。

「す、すみません、いきなり」

上がってください、とようやく玄関の扉が大きく開かれる。
おずおずとあがりこむと、他人の家の匂いに包まれた。
ちょっと片付いてないんですけど、なんて言葉と共に通されたリビングは、雅の想像よりもずっと広い空間。
どうぞ、と差し出されたクッションに腰を下ろすと、なぜかむすぶも雅のそばにやってきた。

「今、お茶淹れますね」
「あ、その、おかまいなく……」

台所へとりさが引っ込んでしまった為に、雅とむすぶの二人きり。
丸い瞳がこちらにじっと向けられているのを感じ、逡巡した後に雅はゆっくりとその視線を受け止めた。

550 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/07(金) 18:39:58.91 0

「……えっと、むすぶ、ちゃん?」
「あ! はい、むすぶです」
「ここに、住んでるの?」
「はい! その、そうです!」
「えーっと……嗣永桃子さん、って」
「ああ! もも姉の、お、お友達ですかっ!」
「お友達っていうか……なんだろ、助けてもらった的な?」
「え! そうなんですか!」

雅の質問ごとに、ひょこひょこと上下するむすぶの頭。
それがおかしくて雅が笑いを漏らすと、さらに混乱したようにむすぶが手をわたわたさせる。

「すみません、本当、むすぶがさわがしくって」
「せやかて!」
「ほらほら、お手伝いして?」
「はぁい」

りさに呼ばれ、むすぶも台所へと引っ込んでしまった。
一気に静かになった室内をぐるりと見渡してみる。
何人で住んでいるのかは分からないが、大きめのテレビと整理された棚が見えた。
部屋の中央には丸テーブルが置かれていて、テーブルクロスは淡い桃色。
女の子の家なんだなあ、なんて当たり前の感想が不意に浮かんだ。

「はい、どうぞ」
「どうも」

戻ってきたりさが、テーブルの上にカップを差し出す。
透き通った飴色の液体がゆらりと揺れ、芳しい香りが鼻をくすぐった。
そういえば、と渡すタイミングを逃し続けていた焼き菓子を手に取る。
いえいえそんな、と言いかけたりさを遮り、お茶受けを運んできたむすぶが歓喜の声をあげる。
こんなに人数がいると知っていれば、一回り大きいものでもよかったかもしれない。
雅がそんなことを考えかけた時だった。

「もー、何の騒、ぎ……え?」
「あ、おじゃま、してます」

雅の背後にあったドアがおもむろに開き、不機嫌そうな声と共に覗く顔。
現れた少女の表情が、しかめ面から徐々に驚きへと変わっていく。
それと共に耳が真っ赤に染まっていくのを見ながら、雅は軽く頭を下げた。
後ろ髪の一部がぴょこんと立ち上がっているところからして、先ほどまで寝ていたのだろうか。

「ちょ、え、何事?」
「なんか、もも姉の知り合い? みたいで」
「い、言ってよぉ!」
「ごめんごめん」

もう、という声を残して、少女は再びドアの向こう側へ消えてしまった。
かと思えば、ドアの向こうから何やら慌しい物音がして。

「……先ほどは、失礼しました」

数分後に現れた彼女の髪はきちんと整えられていた。
どうやら、服も着替えたらしい。
空いていたスペースにちょこんと彼女が収まって、雅は三人の少女に囲まれることになった。
ただお礼を言いに来ただけのはずが、この状況は想定外。
どうしたものかと雅が考えあぐねていると、じゃあ、とりさが口を開いた。

551 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/07(金) 18:40:23.07 0

「自己紹介、ちゃんとしますね」
「そういえば」
「私は、山木梨沙っていいます。で、こっちが結と、知沙希です」
「よろしくお願いします!」
「よろしく、お願いします」

それぞれにぺこりと会釈をした後、それであなたは?という3人分の視線が雅に注がれる。

「夏焼、雅です……えーっと、ちょっと前に、嗣永さんとたまたま、会って」

彼女らに、何を語れば良いのやら。
悩みながらも何とか言葉をひねり出したあたりで、雅の頭にふと疑問がよぎった。
先ほどの自己紹介、梨沙が名乗った名字は"嗣永"ではなかったような。

「もも姉は、私たちの従姉妹なので」
「はあ……いとこ」

さらに突っ込んで質問を重ね、ようやく何となく状況が見えてきた。
梨沙たちの両親が海外に赴任する関係で、代わりに世話を焼いているのが桃子なんだとか。
進学のために関東で住居を探していた桃子に対し、梨沙たちの両親が交換条件として子供たちと同居することを持ちかけた。
簡単に話しているけれど、そんなに世の中うまくいくもの?
そんな気もしたが、実際にそういう形を選んだ家族を目の前にしては納得するほかない。

「だから、もも姉は私たちにとってはお姉ちゃんって感じなんですよね」
「なんか、二人目のお母さん! みたいな?」
「それにしては、ちょっと頼りなくない?」

彼女らが口々に語る桃子像は、あの夜に出会った桃子とも、コンビニで出会った桃子ともまた違っていた。
それら全てが同じ人間に対する印象だなんて、不思議だ。

「そろそろもも姉も帰ってくると思うんですけど」

梨沙が視線を玄関の方へと持ち上げた時だった。
がちゃ、と重たい音がして、鍵の開く音が響いた。
ただいまー、と複数の声がした中に、確かに桃子の声も混じっている。
そう思った途端、雅は体の中心が強張るのを感じた。

「あー疲れたっ! あれ、お客さん?」
「ただいま帰りました……あ、こんにちは!」

リビングのドアを勢い良く開け、入って来たのはショートヘアの少女と、長い黒髪の少女。
まだ同居人がいるのか、ということに気を取られていた雅は、続く人影にはっと我に返る。

「こら、2人とも、手洗いとうがい——え?」

パンパンに膨らんだスーパーのビニール袋を両手に下げたまま、桃子の口がぽかんと開かれるのが見えた。


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