まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

760名無し募集中。。。2017/12/29(金) 21:42:13.230

道の角にある、小さなお店の前まで来ると、蝙蝠は軒にぶら下がった。
「ここ?」
「ここ」
ショーウィンドウがある。ガラスは白く汚れて曇っていた。
覗き込むと、中央にひとつだけ置かれている裸のトルソーは、うっすら埃をまとっているように見えた。
すぐ横の扉には『FOR RENT』と札が下がっている。
「空き店舗?」
「立地は悪くないんだが如何せん駅から遠すぎるんだよな」
ももは駅の方へと伸びる道を見た。
商店街のアーケードが連なる通りは、まだ少し先のようだった。
なんだ、あそこまで行けないのか。ももはちょっとがっかりした。
「じゃ、俺はこのへんで」
「え?」
軒を蹴った蝙蝠はその場で舞い上がった。
「あとは一人で行けるだろ。子どもじゃねぇんだから」
ももは、黒くはためく小さな影を見上げた。
「あの……ありがとう」
「まあ、あれだ……いつでも呼べよ。お前のためなら……いや、また今度な」
蝙蝠はそう言うと一気に空高く上がり、一回転するようにビルの向こうへ消えていった。

「…………ダッサ」
ももは顔を顰めてから、店の扉に手をかけた。鍵はかかっていなかった。

墨を蒔いたような闇が落ちている。壊れかけたトルソーが手狭に固めて置かれ、家具が積み上がっていた。
すぐに正面の扉が目についた。
ももは躊躇せず進むと、ノブに手を伸ばし、回して引いた。
長い長い、廊下が伸びている。
なんだ。ここはもうゲートじゃないか。ふと気付く。
ここは。
速足で進むと、また扉に突き当たった。ドアノブに手をかけたが、今度は動かなかった。

「舐めんじゃないよ」
ももは背を向けると上半身をぐっと屈め、扉に向かって勢いよくお尻を突き出した。
ばきん!と音がして、扉が開く。丸いドアノブが床に落ち、転がった。
薄く開いた扉の隙間から、淡い光が差し込んできた。

763名無し募集中。。。2017/12/29(金) 21:46:12.120

扉を大きく開くと、最初に入った店内と対の間取り。
目の前のデスクの上に腰掛けていた黒髪の女性が
びっくりしたように目を丸くして、ももを見た。
「ははっ……びっくりした」

「なんで、こんなとこにいるの。茉麻。クリパ行かないの?」
茉麻はももの顔を認めると、ふと笑った。
「ああ、もうそんな日になってたんだ。ここでね、リサコと喋ってた」
やっぱり。ももは目を細める。
「……どこまで知ってるの」
「何を?みやっていう悪魔バスターがリサコを消したこと?それを、ももがけしかけたこと?」
ももは静かに息を吐いた。

「リサコが消えてしまったことについては、まあどっか仕方ないっていうか
あのまま虚無を食らっているより良かったかもしれないとも思うし、その
リサコが言うからさ。『みやは悪くないの』って」
茉麻は中空を見上げた。
「……そんな会話、妄想だって言われちゃったらそれまでだけど」

あの日も、みやはなかなか帰ってこなくて、ももは随分気を揉んだ。
みやからドレスの話を聞いたとき、すぐに思い出した
一度だけ会ったことがある、ニンゲンと一切関わらない孤高の堕天使。
その後すぐ、身を隠してしまったと聞いた。こんな近くにいたんだ。そう思って、みやをけしかけた。
あのキレイな子を、ちょっとみやに見せたかったのだ。
そう。茉麻が言う通り、ももが、消しに行かせたようなものだ。

ももの表情を見透かしたように、茉麻が言った。
「リサコがさ『みやに会わせてくれてありがとう』って言ってるよ」
そんな奇麗事あるかよ。
ももが薄く笑うと、茉麻は肩を竦めた。

「熊井ちゃんなら、確かにクリパに行ってるだろうね」と、茉麻は言った。
「万が一このへんフラフラしてるってことは」
「ないね。みやを連れ出したっていうなら、ももの見立て通り、魔界に連れて行ってる。人質に」
「人質」
どうして、すぐそれに思い至らなかったんだろう。

「そう……返して欲しければ、取りにこい」
茉麻はデスクから滑り降りると、ももの目の前に立ち、片手を取った。

766名無し募集中。。。2017/12/29(金) 21:50:05.190

この城は、よく知っている。熊井のゲストルームは決まっていた。
広い階段を上がると、廊下を右へ折れた。茉麻は斜め後ろにぴたりとつけている。

扉の前に立ちノックすると、少しして細く開いた隙間から、熊井が顔を覗かせた。
「もも!どうして?呼びに行こうと思ってたのに」
熊井は目を見開き、満面の笑みを浮かべた。
「熊井ちゃん」
ももの背後から茉麻が声をかけると、熊井は顔をさらに輝かせた。
「まぁさん!来れないのかと思ってた」
「いや、そんなつもりなかったんだけど、ちょっとぼーっとしてたらクリスマスになってて」
「もうーーしょうがないなぁ。入る?」

ももは息を吸い込んでから、壁をばんっと手で叩いた。
「みやはどこ」
「あ……そっか」熊井は間の抜けたような声を出した。
「ももから聞いてびっくりしたよ。まさか悪魔バスターをここに連れてくるなんて」
「どうしても、ももに来て欲しかったからさぁ」

「この一番奥のお部屋に閉じ込めたんだ」
廊下を案内しながら、熊井は言った。
「ももは来てくれたしさ、すぐに帰すよ。ニンゲンを連れ込んだのが周りにバレても困る」
「無事なんでしょうね」
「吸血鬼にしようかと思ったんだけど」
「ああ、なるほどそういう手があるか」すぐに茉麻が相槌を打ち、ももは引きつった。
「し、してないよね」
ももの方を振り返り、熊井は目を見開いた。
「してないよ!みやが、そんなことしたらももが怒るって言ったからさ」

どうやら、みやは無事のようだ。
熊井は言う通りにするだろう。この後みやをおうちに帰すことができる。
問題は。

再び歩き出した熊井の背中を見ながら、そっとため息をつく。
問題は、ももが帰れるかどうかってことだ。

768名無し募集中。。。2017/12/29(金) 21:53:31.130

熊井は大きな南京錠に、鍵を差し込んだ。
鍵がはずれた瞬間、熊井を押しのけて扉を開く。
驚いたように体を引いた熊井が「もも」と小さく呟いた。

部屋はもぬけの殻だった。
「あれ?そこのソファに寝かせてたんだけどな」
「……本当に、ここなの?」
「ここしかないよ。うちの持ってた鍵で開いたのが、証拠でしょ」

「逃げたか。誰かの手引があったかな」
茉麻の声に、ももは振り返った。
逃げたって、どういうこと?

「え、誰だろ。もしかして、ももの子どもたちかな」
「来てるの?」ももが見上げると、熊井は頷いた。
「来てるよ、何人か、見かけた」
「へぇ」茉麻は指先で唇を擦りながら、何か考えているようだった。

「ま、こっちとしては、ももが来てくれれば良かったわけだから結果オーライか。
ももにとっても良かったんじゃない?みやが家に帰ったってことは」
ももは顔が歪むのがわかった。
「適当なこと言わないで。無事におうちに帰れてるかどうかわかんないじゃん」

「そんな保証をしてやる義理はないね」
入り口の壁に寄りかかっていた茉麻が、腕組みをしたままももを見据えた。
「あの悪魔バスターがどうなったって知るところじゃない」
ももが気色ばむと、茉麻は両手を軽く上げた。
「こっちにだって立場がある。ももならわかると思うけど」
「いいじゃん、もも。きっと帰れてるよ」
ももが睨むと、熊井は泣きそうな顔をして唇を噛んだ。

「ここにいて。うちらと遊んだりしようよ。前みたいに」
「そんなこと、言うんだ」
「たまには言うよ」熊井は頬を赤くして横を向いた。
「熊井ちゃんさ、遊ぶ前に、城主のところに挨拶に連れてかないと」よりかかっていた茉麻が体を起こす。
ももは両手を握りしめていた。

みやは、本当に、ここにいたんだろうか。
「ちょっとだけ、待って」
部屋の中を一周する。暖炉や、キャビネットや、床に、痕跡を探した。
ソファの上にみやの髪の毛を見つけたとき、ももは安堵とも不安ともつかない感情に襲われた。
そっと拾い上げると、目を閉じた。

769名無し募集中。。。2017/12/29(金) 21:58:11.610

真っ黒なジャグジーバスは、ピンク色の細かい泡を吐き出し続けていた。
ももはバスタブの端に両腕をかけ、顎を乗せる。
前髪から落ちた水滴が、タイルの上で跳ねた。

なんだろう、この匂い。
思考能力が、奪われていくような気がする。
ももは髪の毛の先から落ち続ける水滴を、ひたすら目で追っていた。
ゆるい水音が立つ。後ろから腕が回ってきて、その手がももの頬に触れた。
「桃子」
梨華の声が耳の奥深くに入ってきた。泡の匂いが強く鼻をくすぐる。
「桃子、帰ってきてくれて嬉しい」
両腕で軽く締め上げられ、ももの首は仰け反った。もぉ……せっかく前髪から落ちる水滴を眺めてたのに。
片手を持ち上げ、背後を探ると、指先が梨華の唇に触れた。

「……もものこと、そんなにスキなんですかぁ?」
「すきよ。だぁいすき」
指先を、梨華の唇が擦った。
「わかってるくせに」そう言って梨華はももの指に歯を立てた。
ももは可笑しくなって指先をその口の中に突っ込む。
梨華が軽くえづくと、ももの喉から音のない笑いが零れ落ちた。
「もうっ桃子ってば、いたずら好きなんだから」
梨華は腕を解くと体を放し、ももの背中に触れる。
「かわいそ。痛かったでしょ」

視線をゆるゆる動かすと、泡にまみれ、バスタブの端になにかくっついている。
もう片方の手を伸ばし、それを摘み取った。
驚かすように、不意に梨華の目の前にそれをかざすと、小さい悲鳴が上がった。
「やめてよ!脅かさないで」
ももは指先に摘んだカエルの脚を揺らした。
真っ黒に縮まった細い脚は一吹きしたら飛んでいきそうだった。
「こんなもの、使わなくていいのに」
梨華は鼻で笑った。
「そんなニンゲン騙し、効くなんて思ってないけどね。桃子には、もっといいもの用意したの」

なんか知らんけど、取り返しのつかないことになりそう。
ももは下から梨華を睨み上げると「ほんとですか?楽しみですぅ」と唇の端だけで笑った。

「では、お洋服は全てこちらに置いていきますね」
梨華の小性はその言葉を残し、パウダールームのドアを閉めていった。
ももは顔を上げ、目の前の鏡を見る。
頬に涙が一筋流れているのが見えた。
どうして、泣いてるんだろう。
指先で拭うと、部屋の方から梨華の呼ぶ声が聞こえた。

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