最終更新:ID:TYh9BBGEJQ 2017年05月06日(土) 21:21:01履歴
489名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 21:18:12.61 0
相手から向けられる好意には敏感な方で。彼についても、きっとそうなんだろうと感じていた。
とはいえ、何とも思っていない人からの好意ほど困るものはない。基本的にはいつも、こちらから適度な距離を置いて対応していた。
しかし、彼に対しては違った。彼といると楽しいし、彼自身清潔感があって嫌な感じがしない。
だから、少し近付いてもいいかな−−と思っていた頃だった。
単独での仕事が終わり、移動車に揺られながら外の景色をぼんやり眺めていたら、よく知る人物が目に入った。
明るい髪色は何をしなくても目立つが、やはり知っている人というのはどれだけたくさんの人混みの中でも見つけられるもので。
あ、みやだ。と思うと同時に、隣に立つ人物が目に入り、思わず息をのんだ。
みやと楽しそうに笑っているのは、紛れもない、彼だった。
嘘でしょ……?指先がすうっと冷える感覚がした。
彼は単独での仕事で知り合った人だから、ベリーズでも私しか関わっていないはずだからだ。
胸の中をドロドロした感情が支配していく。私のことを好きだったはずなのに。どうして。
冷えた指先で携帯を手に取り、彼に送った。
『明日、会えませんか?』と。
490名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 21:18:42.79 0
−−−−
ああ、こんなものか。
実際に終えてみて、夢を見ていたのだと知った。乙女チックシミュレーションのしすぎは良くない。
隣で気持ちよさそうに眠る寝顔を一瞥し、ベッドから抜け出した。
「みやと付き合ってるんですか?」
そう尋ねたら、あっさりと認められて拍子抜けした。それがなんだか悔しくて、彼を奪ったみやにも腹が立って。
そこからは簡単だった。「私も、あなたのこと気になってたんだけどな」と目を潤ませたらすぐ。
悪びれもなく、彼が私の手を握ってきた瞬間、みやの顔が頭を過ぎった。
この手が、みやに触れているのか。この唇が、みやを感じているのか。この人は、みやと一つになったのか−−
そう考えると胸が苦しくてたまらなくて。涙が溢れたのは、痛いからだと彼は思ったかもしれないけど、そうじゃない。
この人がみやに触れているところを想像しただけで胸がざわざわして仕方がなかった。
好きな人に触れられたら幸せなはずなのに、こんなに苦しいだなんて。恋って、こんな辛いものなのか。それなら恋なんてしない方がいい。
491名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 21:20:19.42 0
−−−−
翌日、楽屋の扉を開くと、一番会いたくなかった人がそこにいた。
私が入ってきたことに気づくとこちらを見て、いつも通りの笑顔で挨拶をしてくる。
信じられなかった。人が好意を寄せている人と付き合っておきながら素知らぬふりができるなんて。
苛立ちが収まらないが、無視をするのは流石に角が立つので、挨拶は一応返しながらも、一番遠い席に座った。
書き物でもするかとペンを握った瞬間、肩に触れる感覚。
「もも、いつもと違う匂いがするね」
気付けばみやがそばに立っている。触れられた部分が熱い。
思わず立ち上がったら、こちらを見透かすような瞳と目が合う。何故だか楽しげに笑うみやから目をそらそうとすると、ぐっと引き寄せられる感覚。
「……みやの、取ろうとしてるの?」
気付けば抱きしめられていた。耳元で囁かれ、背筋がゾクゾクする。みやの匂いで頭がくらくらして何も考えられない。
「ま、別にどーでもいいんだけど。……でも、ももにだけはあげないから」
なんで、と尋ねようにも声が出ない。みやに離された体は力が入らず、ふらふらと椅子に座り込んだ。
その瞬間、楽屋の扉が開いて。さっきまでの非日常は姿を消し、いつもの光景に変わった。
みやに触れられた部分が、いつまでも熱を持ったままだった。
535名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 23:32:50.30 0
だから嫌だったんだ。楽しそうに笑う二人の姿を見た瞬間、胸の中がどす黒いものでいっぱいになるような感覚を覚えた。
吐きそうなくらいに苛立って、いてもたってもいられない。
私の方が、ずっと前からもものことを見てたのに。男ってだけで、もものものになれるの?女の私は土俵にすら立てないの?
ぶっ飛んだキャラを演じながらも、一番「普通」でいることを好むもものことだ。
私から好きと伝えても、断られるだけだろう。
それなら、いっそ嫌われてでも、私のことで頭をいっぱいにしてしまいたい。
たどり着いた答えは、ももの大切なものを奪うこと。これだ。
想像しただけで楽しくて、ゾクゾクした。奪われたと知ったとき、ももはどんな顔をするだろう。どんな瞳で、私のことを見てくれるのだろう−−
マネージャーにもものスケジュールを聞いた。同じグループでスケジュールを共有することはなんら不自然なことではない。
あいつとの収録の日とスタジオの場所と、その日のもものスケジュールを確認。
その日は別の仕事の後に収録らしいから、別の仕事の間にスタジオに行けばももと鉢合わせることはない。
スタジオは幸いにもレッスンでよく使うスタジオと同じビルだ。
1階のロビーでスマホを片手に待ち伏せ。しばらくするとあいつが現れた。まるで探偵のようだとにやにやしてしまう。
一呼吸置いて、気持ちを整える。役に入る気持ちで、立ち上がった。
536名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 23:33:49.61 0
あいつの後ろ姿に近づく。スマホに視線を向けたふりをして後ろからぶつかった。
「あ、すみません」
弾けるようにこちらを振り向いて、私を認めた瞬間、いえいえと笑った。
「あ。ももと一緒に番組やられてますよね。はじめまして」
そう挨拶すると、照れくさそうにそうなんですと会釈をしてきた。爽やかで、確かにももの好きそうなタイプだ。
でも、いくら爽やかでも、草食系に見えても、男は男だ。頭の中は欲望でいっぱいというもの。
「ももとの番組、いつも観てるんです」
「え、ありがとうございます」
「それで……かっこいいなって思ってたから、会えて嬉しいです」
そう笑って見せると、にやつく口元。もも、男ってこんなものなんだよ。好きな人がいても、他の女の子に言い寄られたらこんな風に笑うんだよ。
今ももの好きな人が何考えてるか分かる?私のことを抱きたい。それだけだよ。
こんなやつにももを渡すわけにはいかない。反吐が出そうなほどの怒りを堪えながら、会う約束を取り付けた。
537名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 23:36:40.39 0
二度目の食事で、告白されて付き合った。デートはいつも、ももの仕事現場の近く。
早く見つけてくれないかな。そう思いながら逢瀬を重ねていると、ある朝、ももの様子がおかしいことに気付く。
明らかによそよそしい態度。−−きた。にやにやが抑えられない。
でもまさか、ももがあんな行動に出るなんてこの時には思いもしなかった。
その日の夕方、『ごめん!仕事が終わりそうにないから今日は会えない』と連絡がきた。
珍しいなと思いながら「分かった!お仕事頑張ってね♡」と適当に返事。
ぽっかりと空いた予定。久々に自由に過ごせることが嬉しくて、迷わずキャプテンに連絡を入れた。
翌日。集合時間より1時間早めに到着した。時間を勘違いしてしまっていたのだ。
携帯を見たり雑誌を見たりと暇を潰していると、足音がして、しばらくした後楽屋のドアが開いた。
ももだった。今朝もよそよそしさは変わらない。一番遠い席に腰を下ろす姿を見ながら、すぐに感じた違和感。
−−あいつの匂いがする。
そう気付いた瞬間、全てを理解した。あいつは昨日ももと会っていたんだ。
ありえない。こんなはずではなかったのに。今まで感じたことのないほどの憤りを覚え、目眩がした。
こうなったらあいつを手放すわけにはいかない。
何が何でも、こっちを向いてほしい。
−−「もも、いつもと違う匂いがするね」
419名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:54:21.520
−−−−
みやに、彼と会ったことがバレてしまった。いつもと違う匂いがすると言われたが、彼の家でシャワーを浴びたからだろうか。
でも、どうして彼氏が浮気したというのに、あんなに余裕だったんだろう。みやの発言を思い出してみる。
『ま、別にどーでもいいんだけど。……でも、ももにだけはあげないから』
彼氏が浮気したのに「どーでもいい」?
そんな人、この世に存在するのだろうか。好きならきっとそんな風には思えないはず。
ということは、好きじゃないのに付き合っているのだろうか。
いや、それとも浮気の一つや二つ許すということ?
そして「ももにだけは」という言い方も引っかかる。どうして私だけはダメなんだろう。
考えても考えても、みやの意図が読めない。
「あれから会ってないんだね」
レッスン着に着替えていると、隣に立つみやが声を潜めて言った。
「え…?」
「あの人の匂いがしない」
そう言いながら首筋の方へ顔を近付けてくる。思わず距離を取ると、離れた分また距離を縮められる。
気付けば他の全員は着替えてしまい、更衣室には誰もいなかった。二人きりだと考えると、そわそわして落ち着かない。
420名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:55:29.960
「そんなの……お風呂に入っちゃったらわかんないでしょ」
会っていないのは事実だったが、強がった。あの時は勢いに任せてしまったが、冷静になってみると、自分が何を求めていたのかが分からなくなった。
触れられた瞬間、何かが違うと感じたのだ。だが、みやにもこの手が触れているかと考えた瞬間、苦しさを覚えた。
これはおそらく嫉妬だろう。この嫉妬心が、混乱の原因だ。
私はきっと、この人を好きではない。でも嫉妬はする。ということは、何らかの感情は抱いているのだろうが、それが何かが分からない。
このような状態で、会うのが怖かった。
「分かるよ」
「……なんで?」
「なんでも」
はぐらかされた。実際、お風呂に入ってしまえば分からないと思うのだが。ただのハッタリかと片付けようとした時、そっとみやの手が私の手を握る。その冷たさに驚いていると、
「いつも、あの人と繋いでる手だよ」
そう言いながら指を絡められた。ドキ、と心臓が跳ねると同時に、背中が壁にぶつかる。
ゆっくりと迫るみやの顔。その近さに耐えきれず、視線を逸らした時に、コンコンというノックの音が空気を変えた。
「みやー?ももー?なにしてんのー?」
ドア越しに聞こえるキャプの声が、私の意識を現実の世界に戻した。
すぐさまみやと体を離し、急いで着替えて部屋を飛び出す。
ごめん、と言いながらキャプの横をすり抜けようとしたら、後ろから「レッスン着がなくてカバンの中探してた」と言い訳するみやの声が聞こえた。
421名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:56:04.230
−−−−
結局あれはなんだったんだろう。
電車に揺られながら、何度も同じ場面を頭の中でリフレインする。
勘違いでなければ、キスされそうになった……気がする。でも、そんなことをする理由が分からない。
あの人と繋いでいる手だと言って、私の手を握った。キスをした後に「いつもあの人とキスをしてる唇だよ」とでも言おうとしたのだろうか。
思い当たるのは、嫌がらせ。あの人の彼女は私だと思い知らせて、やきもちを妬かせようとしたのだろうか。
だが、嫌だという感情は全くなかった。みやは同性だし同じメンバーだというのに。なんで、の先を考えるのが怖くて、目をつむり思考を強引に断ち切った。
422名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:56:38.080
−−−−
もう限界だ。ベッドに体を投げる。手のひらが熱い。ももの温もりがまだ残っているのだろうか。
嫌がらせのフリをして、触れた。強引に手を振り払われるだろうかと想像していたから、拒まれなかったことに拍子抜けしてしまった。
思わずもっと、と求めてしまったところにキャプテンからの声で目が覚めた。
もしあそこで呼ばれなかったら、どうなっていただろうか−−
想像しただけで頬が熱くなるのを感じる。拒まれなかったからといって、受け入れられたわけではない。
それなのに、もしかしたらと期待してしまった自分が恥ずかしい。
ももはまだあいつのことが好きなのだろうか。考えただけで胸が苦しくなる。
ふと携帯を見ると、あいつから連絡がきていた。
内容はろくに確認せず、「別れてください」と一言送って、連絡先を削除した。
張り詰めていた糸が切れたように、一気にどうでもよくなってしまったから。
423名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:57:28.220
−−−−
"今晩会えない?"
久々に連絡が来たかと思ったら、急な誘いだった。会いたいなとか誘ってくれて嬉しいとか心躍ることは全くなかった。
そこで自分の感情を初めてしっかりと認識した。私は彼のことが好きではない。
"ごめんなさい。会えないです。何かあったんですか?"そう返すと、"雅ちゃんにフラれちゃったんだ"とすぐに返信がきた。
驚きのあまり、え……と自分の口から声が漏れていた。返信を打とうにも指が動かない。
本人に確認しようと、みやへ電話をかける。5コール目で繋がった。
『……もしもし』
「みや?今だいじょうぶ?」
『ん、なに?』
息を一つ吸って、吐いて。何故だが緊張を覚えながら、問いかけた。
「……あの人と、別れたの?」
電話の向こう側から、息を呑む音が聞こえた気がした。
424名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:58:21.020
『うん、まあ』
「なんでって、聞いてもいい?」
『……初めから好きじゃなかったから』
想像もしていなかった答えに驚く。ならなんで付き合ったの?と聞こうとした時に、私にそんなことを聞く筋合いはないと気付く。
そもそも、こんな話をするような間柄ではなかった。ただ、私がいいなと思っていた人とみやが付き合っただけで。
喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込み、「そっか」と答えた。
『用はそれだけ?』
「……うん」
『……別れたか確認して、あいつと付き合おうとしてるの?』
「ちがうよ!ただ……」
ただ−−なんだ?その後に何が続くのか自分でも分からない。
二人が別れたと聞いて、ほっとした。どうしてだろう。あの人に対してはなんとも思っていないのに。
『ただ?』
「……わかんないけど、でも、なんか……うん、なんだろ……」
『……ねえ、今ももどこにいんの?』
感情の正体が分からないのだから言葉にできるはずもなく、曖昧な返事をしていると、急な問いかけが飛んできた。
「え、家だけど……」
『ちょっと時間ある?話したい』
「う、うん……わかった」
じゃあまた後で、と切ってから慌てて身支度を整えた。
467名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 18:55:45.330
"ももの最寄りまで行く"そう言ってくれたので、お言葉に甘えた。駅のベンチに腰掛け、みやの到着を待つ。
早く来てほしいような、来てほしくないような。複雑な気持ちを抱いていると、ホームからの人の流れにみやの姿を見つけた。
右手を小さく挙げると、みやは私の姿を認めて、柔らかく笑った。
話す場所は私の部屋にした。みやなら、うちの家族もよく知ってるし突然の訪問も大歓迎だ。
うちの家族は久々に会うみやにテンションが上がっていたが、挨拶もそこそこに自室へ向かった。
二人してベッドに背中を預けて座る。訪れる沈黙。1分にも満たない時間ではあったが、お互いにきっかけを探してそわそわして過ごす時間は、ひどく長く感じた。
「……あー、その。勢いで"話したい"って誘ったけど、正直何を話そうか決めてなくて」
困ったように笑うみやの横顔を見ていると、なんだか胸が締め付けられるような感覚。なんだろ、どうしようもなく−−
触れたい。
けど、そんなことできるわけもなく。伸びそうになった右手をぐっと握った。
468名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 18:56:16.230
「じゃあ、私から一つ質問するね」
「どーぞ?」
「好きじゃないのに……なんで付き合ったの?」
先ほどは躊躇った質問も、今なら聞ける気がして。みやはまっすぐ前を見つめながら、考えている。どんな答えが返ってくるかドキドキしながら待っていると。
「……ももの気を引きたかったから」
いたずらがバレた子どものように、どこか諦めたような口調で、その言葉は落ちてきた。
−−あいつとももがいい感じの雰囲気なのを見て、いてもたってもいられなくて自分から誘って。ももからあいつを奪って、嫌われてもいいから、こっちを向いてほしかった。
そう、ぽつりぽつりと紡がれる言葉を聞いていると、じんわりと体じゅうがきゅうって切なくなる感覚がした。
この感覚を言葉にするとしたら、何になるんだろう。
「それって……勘違いだったらごめんね。もものこと……好きでいてくれてるから?」
声が震えそうになった。これで違っていたら恥ずかしいなんてものじゃない。でもここで確認せずに、みやの本当の気持ちを知らずにいるのはもっと嫌だ。
心臓の音がうるさくて、部屋中に響き渡っているような錯覚に陥る。
「……うん」
小さな声だったけど、みやの想いを知るには充分で。また、自分自身の想いも同時に知ることができた。
誰かに想われて、こんなに嬉しかったことなんてなかった。
「私も、みやのことが好き……みたい」
自覚したばかりの恋心は、すぐさま音になって空気を震わせた。
私の告白を聞いて、みやは泣きそうな顔で笑って。また溢れそうになった"触れたい"気持ちに今度は正直になって、みやをぎゅっと抱きしめた。
相手から向けられる好意には敏感な方で。彼についても、きっとそうなんだろうと感じていた。
とはいえ、何とも思っていない人からの好意ほど困るものはない。基本的にはいつも、こちらから適度な距離を置いて対応していた。
しかし、彼に対しては違った。彼といると楽しいし、彼自身清潔感があって嫌な感じがしない。
だから、少し近付いてもいいかな−−と思っていた頃だった。
単独での仕事が終わり、移動車に揺られながら外の景色をぼんやり眺めていたら、よく知る人物が目に入った。
明るい髪色は何をしなくても目立つが、やはり知っている人というのはどれだけたくさんの人混みの中でも見つけられるもので。
あ、みやだ。と思うと同時に、隣に立つ人物が目に入り、思わず息をのんだ。
みやと楽しそうに笑っているのは、紛れもない、彼だった。
嘘でしょ……?指先がすうっと冷える感覚がした。
彼は単独での仕事で知り合った人だから、ベリーズでも私しか関わっていないはずだからだ。
胸の中をドロドロした感情が支配していく。私のことを好きだったはずなのに。どうして。
冷えた指先で携帯を手に取り、彼に送った。
『明日、会えませんか?』と。
490名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 21:18:42.79 0
−−−−
ああ、こんなものか。
実際に終えてみて、夢を見ていたのだと知った。乙女チックシミュレーションのしすぎは良くない。
隣で気持ちよさそうに眠る寝顔を一瞥し、ベッドから抜け出した。
「みやと付き合ってるんですか?」
そう尋ねたら、あっさりと認められて拍子抜けした。それがなんだか悔しくて、彼を奪ったみやにも腹が立って。
そこからは簡単だった。「私も、あなたのこと気になってたんだけどな」と目を潤ませたらすぐ。
悪びれもなく、彼が私の手を握ってきた瞬間、みやの顔が頭を過ぎった。
この手が、みやに触れているのか。この唇が、みやを感じているのか。この人は、みやと一つになったのか−−
そう考えると胸が苦しくてたまらなくて。涙が溢れたのは、痛いからだと彼は思ったかもしれないけど、そうじゃない。
この人がみやに触れているところを想像しただけで胸がざわざわして仕方がなかった。
好きな人に触れられたら幸せなはずなのに、こんなに苦しいだなんて。恋って、こんな辛いものなのか。それなら恋なんてしない方がいい。
491名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 21:20:19.42 0
−−−−
翌日、楽屋の扉を開くと、一番会いたくなかった人がそこにいた。
私が入ってきたことに気づくとこちらを見て、いつも通りの笑顔で挨拶をしてくる。
信じられなかった。人が好意を寄せている人と付き合っておきながら素知らぬふりができるなんて。
苛立ちが収まらないが、無視をするのは流石に角が立つので、挨拶は一応返しながらも、一番遠い席に座った。
書き物でもするかとペンを握った瞬間、肩に触れる感覚。
「もも、いつもと違う匂いがするね」
気付けばみやがそばに立っている。触れられた部分が熱い。
思わず立ち上がったら、こちらを見透かすような瞳と目が合う。何故だか楽しげに笑うみやから目をそらそうとすると、ぐっと引き寄せられる感覚。
「……みやの、取ろうとしてるの?」
気付けば抱きしめられていた。耳元で囁かれ、背筋がゾクゾクする。みやの匂いで頭がくらくらして何も考えられない。
「ま、別にどーでもいいんだけど。……でも、ももにだけはあげないから」
なんで、と尋ねようにも声が出ない。みやに離された体は力が入らず、ふらふらと椅子に座り込んだ。
その瞬間、楽屋の扉が開いて。さっきまでの非日常は姿を消し、いつもの光景に変わった。
みやに触れられた部分が、いつまでも熱を持ったままだった。
535名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 23:32:50.30 0
だから嫌だったんだ。楽しそうに笑う二人の姿を見た瞬間、胸の中がどす黒いものでいっぱいになるような感覚を覚えた。
吐きそうなくらいに苛立って、いてもたってもいられない。
私の方が、ずっと前からもものことを見てたのに。男ってだけで、もものものになれるの?女の私は土俵にすら立てないの?
ぶっ飛んだキャラを演じながらも、一番「普通」でいることを好むもものことだ。
私から好きと伝えても、断られるだけだろう。
それなら、いっそ嫌われてでも、私のことで頭をいっぱいにしてしまいたい。
たどり着いた答えは、ももの大切なものを奪うこと。これだ。
想像しただけで楽しくて、ゾクゾクした。奪われたと知ったとき、ももはどんな顔をするだろう。どんな瞳で、私のことを見てくれるのだろう−−
マネージャーにもものスケジュールを聞いた。同じグループでスケジュールを共有することはなんら不自然なことではない。
あいつとの収録の日とスタジオの場所と、その日のもものスケジュールを確認。
その日は別の仕事の後に収録らしいから、別の仕事の間にスタジオに行けばももと鉢合わせることはない。
スタジオは幸いにもレッスンでよく使うスタジオと同じビルだ。
1階のロビーでスマホを片手に待ち伏せ。しばらくするとあいつが現れた。まるで探偵のようだとにやにやしてしまう。
一呼吸置いて、気持ちを整える。役に入る気持ちで、立ち上がった。
536名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 23:33:49.61 0
あいつの後ろ姿に近づく。スマホに視線を向けたふりをして後ろからぶつかった。
「あ、すみません」
弾けるようにこちらを振り向いて、私を認めた瞬間、いえいえと笑った。
「あ。ももと一緒に番組やられてますよね。はじめまして」
そう挨拶すると、照れくさそうにそうなんですと会釈をしてきた。爽やかで、確かにももの好きそうなタイプだ。
でも、いくら爽やかでも、草食系に見えても、男は男だ。頭の中は欲望でいっぱいというもの。
「ももとの番組、いつも観てるんです」
「え、ありがとうございます」
「それで……かっこいいなって思ってたから、会えて嬉しいです」
そう笑って見せると、にやつく口元。もも、男ってこんなものなんだよ。好きな人がいても、他の女の子に言い寄られたらこんな風に笑うんだよ。
今ももの好きな人が何考えてるか分かる?私のことを抱きたい。それだけだよ。
こんなやつにももを渡すわけにはいかない。反吐が出そうなほどの怒りを堪えながら、会う約束を取り付けた。
537名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/23(日) 23:36:40.39 0
二度目の食事で、告白されて付き合った。デートはいつも、ももの仕事現場の近く。
早く見つけてくれないかな。そう思いながら逢瀬を重ねていると、ある朝、ももの様子がおかしいことに気付く。
明らかによそよそしい態度。−−きた。にやにやが抑えられない。
でもまさか、ももがあんな行動に出るなんてこの時には思いもしなかった。
その日の夕方、『ごめん!仕事が終わりそうにないから今日は会えない』と連絡がきた。
珍しいなと思いながら「分かった!お仕事頑張ってね♡」と適当に返事。
ぽっかりと空いた予定。久々に自由に過ごせることが嬉しくて、迷わずキャプテンに連絡を入れた。
翌日。集合時間より1時間早めに到着した。時間を勘違いしてしまっていたのだ。
携帯を見たり雑誌を見たりと暇を潰していると、足音がして、しばらくした後楽屋のドアが開いた。
ももだった。今朝もよそよそしさは変わらない。一番遠い席に腰を下ろす姿を見ながら、すぐに感じた違和感。
−−あいつの匂いがする。
そう気付いた瞬間、全てを理解した。あいつは昨日ももと会っていたんだ。
ありえない。こんなはずではなかったのに。今まで感じたことのないほどの憤りを覚え、目眩がした。
こうなったらあいつを手放すわけにはいかない。
何が何でも、こっちを向いてほしい。
−−「もも、いつもと違う匂いがするね」
419名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:54:21.520
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みやに、彼と会ったことがバレてしまった。いつもと違う匂いがすると言われたが、彼の家でシャワーを浴びたからだろうか。
でも、どうして彼氏が浮気したというのに、あんなに余裕だったんだろう。みやの発言を思い出してみる。
『ま、別にどーでもいいんだけど。……でも、ももにだけはあげないから』
彼氏が浮気したのに「どーでもいい」?
そんな人、この世に存在するのだろうか。好きならきっとそんな風には思えないはず。
ということは、好きじゃないのに付き合っているのだろうか。
いや、それとも浮気の一つや二つ許すということ?
そして「ももにだけは」という言い方も引っかかる。どうして私だけはダメなんだろう。
考えても考えても、みやの意図が読めない。
「あれから会ってないんだね」
レッスン着に着替えていると、隣に立つみやが声を潜めて言った。
「え…?」
「あの人の匂いがしない」
そう言いながら首筋の方へ顔を近付けてくる。思わず距離を取ると、離れた分また距離を縮められる。
気付けば他の全員は着替えてしまい、更衣室には誰もいなかった。二人きりだと考えると、そわそわして落ち着かない。
420名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:55:29.960
「そんなの……お風呂に入っちゃったらわかんないでしょ」
会っていないのは事実だったが、強がった。あの時は勢いに任せてしまったが、冷静になってみると、自分が何を求めていたのかが分からなくなった。
触れられた瞬間、何かが違うと感じたのだ。だが、みやにもこの手が触れているかと考えた瞬間、苦しさを覚えた。
これはおそらく嫉妬だろう。この嫉妬心が、混乱の原因だ。
私はきっと、この人を好きではない。でも嫉妬はする。ということは、何らかの感情は抱いているのだろうが、それが何かが分からない。
このような状態で、会うのが怖かった。
「分かるよ」
「……なんで?」
「なんでも」
はぐらかされた。実際、お風呂に入ってしまえば分からないと思うのだが。ただのハッタリかと片付けようとした時、そっとみやの手が私の手を握る。その冷たさに驚いていると、
「いつも、あの人と繋いでる手だよ」
そう言いながら指を絡められた。ドキ、と心臓が跳ねると同時に、背中が壁にぶつかる。
ゆっくりと迫るみやの顔。その近さに耐えきれず、視線を逸らした時に、コンコンというノックの音が空気を変えた。
「みやー?ももー?なにしてんのー?」
ドア越しに聞こえるキャプの声が、私の意識を現実の世界に戻した。
すぐさまみやと体を離し、急いで着替えて部屋を飛び出す。
ごめん、と言いながらキャプの横をすり抜けようとしたら、後ろから「レッスン着がなくてカバンの中探してた」と言い訳するみやの声が聞こえた。
421名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:56:04.230
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結局あれはなんだったんだろう。
電車に揺られながら、何度も同じ場面を頭の中でリフレインする。
勘違いでなければ、キスされそうになった……気がする。でも、そんなことをする理由が分からない。
あの人と繋いでいる手だと言って、私の手を握った。キスをした後に「いつもあの人とキスをしてる唇だよ」とでも言おうとしたのだろうか。
思い当たるのは、嫌がらせ。あの人の彼女は私だと思い知らせて、やきもちを妬かせようとしたのだろうか。
だが、嫌だという感情は全くなかった。みやは同性だし同じメンバーだというのに。なんで、の先を考えるのが怖くて、目をつむり思考を強引に断ち切った。
422名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:56:38.080
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もう限界だ。ベッドに体を投げる。手のひらが熱い。ももの温もりがまだ残っているのだろうか。
嫌がらせのフリをして、触れた。強引に手を振り払われるだろうかと想像していたから、拒まれなかったことに拍子抜けしてしまった。
思わずもっと、と求めてしまったところにキャプテンからの声で目が覚めた。
もしあそこで呼ばれなかったら、どうなっていただろうか−−
想像しただけで頬が熱くなるのを感じる。拒まれなかったからといって、受け入れられたわけではない。
それなのに、もしかしたらと期待してしまった自分が恥ずかしい。
ももはまだあいつのことが好きなのだろうか。考えただけで胸が苦しくなる。
ふと携帯を見ると、あいつから連絡がきていた。
内容はろくに確認せず、「別れてください」と一言送って、連絡先を削除した。
張り詰めていた糸が切れたように、一気にどうでもよくなってしまったから。
423名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:57:28.220
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"今晩会えない?"
久々に連絡が来たかと思ったら、急な誘いだった。会いたいなとか誘ってくれて嬉しいとか心躍ることは全くなかった。
そこで自分の感情を初めてしっかりと認識した。私は彼のことが好きではない。
"ごめんなさい。会えないです。何かあったんですか?"そう返すと、"雅ちゃんにフラれちゃったんだ"とすぐに返信がきた。
驚きのあまり、え……と自分の口から声が漏れていた。返信を打とうにも指が動かない。
本人に確認しようと、みやへ電話をかける。5コール目で繋がった。
『……もしもし』
「みや?今だいじょうぶ?」
『ん、なに?』
息を一つ吸って、吐いて。何故だが緊張を覚えながら、問いかけた。
「……あの人と、別れたの?」
電話の向こう側から、息を呑む音が聞こえた気がした。
424名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 09:58:21.020
『うん、まあ』
「なんでって、聞いてもいい?」
『……初めから好きじゃなかったから』
想像もしていなかった答えに驚く。ならなんで付き合ったの?と聞こうとした時に、私にそんなことを聞く筋合いはないと気付く。
そもそも、こんな話をするような間柄ではなかった。ただ、私がいいなと思っていた人とみやが付き合っただけで。
喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込み、「そっか」と答えた。
『用はそれだけ?』
「……うん」
『……別れたか確認して、あいつと付き合おうとしてるの?』
「ちがうよ!ただ……」
ただ−−なんだ?その後に何が続くのか自分でも分からない。
二人が別れたと聞いて、ほっとした。どうしてだろう。あの人に対してはなんとも思っていないのに。
『ただ?』
「……わかんないけど、でも、なんか……うん、なんだろ……」
『……ねえ、今ももどこにいんの?』
感情の正体が分からないのだから言葉にできるはずもなく、曖昧な返事をしていると、急な問いかけが飛んできた。
「え、家だけど……」
『ちょっと時間ある?話したい』
「う、うん……わかった」
じゃあまた後で、と切ってから慌てて身支度を整えた。
467名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 18:55:45.330
"ももの最寄りまで行く"そう言ってくれたので、お言葉に甘えた。駅のベンチに腰掛け、みやの到着を待つ。
早く来てほしいような、来てほしくないような。複雑な気持ちを抱いていると、ホームからの人の流れにみやの姿を見つけた。
右手を小さく挙げると、みやは私の姿を認めて、柔らかく笑った。
話す場所は私の部屋にした。みやなら、うちの家族もよく知ってるし突然の訪問も大歓迎だ。
うちの家族は久々に会うみやにテンションが上がっていたが、挨拶もそこそこに自室へ向かった。
二人してベッドに背中を預けて座る。訪れる沈黙。1分にも満たない時間ではあったが、お互いにきっかけを探してそわそわして過ごす時間は、ひどく長く感じた。
「……あー、その。勢いで"話したい"って誘ったけど、正直何を話そうか決めてなくて」
困ったように笑うみやの横顔を見ていると、なんだか胸が締め付けられるような感覚。なんだろ、どうしようもなく−−
触れたい。
けど、そんなことできるわけもなく。伸びそうになった右手をぐっと握った。
468名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/01(月) 18:56:16.230
「じゃあ、私から一つ質問するね」
「どーぞ?」
「好きじゃないのに……なんで付き合ったの?」
先ほどは躊躇った質問も、今なら聞ける気がして。みやはまっすぐ前を見つめながら、考えている。どんな答えが返ってくるかドキドキしながら待っていると。
「……ももの気を引きたかったから」
いたずらがバレた子どものように、どこか諦めたような口調で、その言葉は落ちてきた。
−−あいつとももがいい感じの雰囲気なのを見て、いてもたってもいられなくて自分から誘って。ももからあいつを奪って、嫌われてもいいから、こっちを向いてほしかった。
そう、ぽつりぽつりと紡がれる言葉を聞いていると、じんわりと体じゅうがきゅうって切なくなる感覚がした。
この感覚を言葉にするとしたら、何になるんだろう。
「それって……勘違いだったらごめんね。もものこと……好きでいてくれてるから?」
声が震えそうになった。これで違っていたら恥ずかしいなんてものじゃない。でもここで確認せずに、みやの本当の気持ちを知らずにいるのはもっと嫌だ。
心臓の音がうるさくて、部屋中に響き渡っているような錯覚に陥る。
「……うん」
小さな声だったけど、みやの想いを知るには充分で。また、自分自身の想いも同時に知ることができた。
誰かに想われて、こんなに嬉しかったことなんてなかった。
「私も、みやのことが好き……みたい」
自覚したばかりの恋心は、すぐさま音になって空気を震わせた。
私の告白を聞いて、みやは泣きそうな顔で笑って。また溢れそうになった"触れたい"気持ちに今度は正直になって、みやをぎゅっと抱きしめた。
このページへのコメント
計算高い雅ちゃんに翻弄されるももちは最高です。ドキドキしました。