787名無し募集中。。。2018/02/14(水) 00:28:39.190
真っ赤なハートマークがあちこちにちりばめられた街。
道を行くカップルは、みんながロマンティック浮かれモード。
彼氏の腕に絡みつく彼女を見とると、「アツアツやな!」って言いたくなった。
「はぁ……重た」
悲しいことに、うちの腕には絡みついて来る彼女なんておらん。
その代わり、でっかい紙袋が一つ。
取っ手を握り直すと、中身がガサガサ音を立てた。
一個一個は小さい箱も、集まればそれなりの重さになるもんや。
腕はプルプルし始めとって、うちの頭の中には早く事務所につくことしかない。
ほんま、義理チョコなんて考えたんは誰なんやろ。
お礼の気持ちを伝えるんはええと思うんやけど、数が増えるとしんどいことも多い。
今日は、Buono!ちゃんたちとの仕事が入っとった。
つまり、可愛い子ちゃんからお菓子をもらう機会があるっちゅうわけ。
楽屋に着くと、いつもお世話になってます、とさっそく三人からお菓子を差し出された。
後輩やら先輩やら他にも配る相手はぎょうさんおるやろうに、スタッフの分までちゃんと用意しとるんやから見上げたもんや。
アイシングクッキーに、ラスクに、トリュフチョコ。
どれも女の子らしくデコーレションしてあって(ちゃんもものはわりとシンプルやったけど)可愛らしい出来やった。
ちゃんと手作りするなんてなあ、お金に物言わしたうちとは大違い。
「そういえば、五段さんって見ました?」
「あー、見てへんな」
そっかあ、と三人が顔を見合わせる。
たぶん、五段の分もちゃんと用意してあるんやろうな、この子らのことやし。
ここに五段がおらんのは、残念すぎる。
応援しとるちゃんももからお菓子をもらう五段、ちょっと見たかったんやけど。
その後も会えるか分からんからってことで、うちがみんなからのお菓子を預かった。
ほんま感謝せえよ、五段。
788名無し募集中。。。2018/02/14(水) 00:29:58.500
Buono!ちゃんたちとの仕事の後も細かい用事が入っとって、うちの体が空いたんは昼過ぎやった。
その頃には、うちが持ってきた紙袋の中身は、他のスタッフやアイドルちゃんからもらったお菓子に代わっとった。
仕事上の付き合いがある人には、一通り配り終わったってところかな。
せやけど、本番はこれから。
今日の最大の目的は、五段にチョコを渡すことや。
そう思って探し始めたんは良いけど、五段はどの部屋にもおらんかった。
五段のマグネットは出社になっとったし、この建物におるんは間違い無いんやけど。
あんたの仕事は警備やないんか!と言いたくなるほど姿が見当たらん。
「どこにおんねやーっ!」
誰もおらん廊下で、思わず心の中身が叫びになった。
「今月さん」
「ひゃっ! ……なんや、もっちゃんか」
「すみませんね、五段さんじゃなくて」
な、なんで分かったんや。うちが五段を探しとるって。
うちの疑問をよそに、帽子の陰からチラ見えするもっちゃんは渋い顔。
「な、なんなん、顔コワイで」
茶化して言ったつもりやのに、もっちゃんは知らん顔で話を進める。
「これ、私からなんですけど」
「ああ……おおきに」
もっちゃんが渡してきたのは、真紅の箱。
わりとしっかりした作りをしとって、まさに「高級!」って感じや。
こんなええもん、もらってええの?
「今月さんてば、朝からモテモテでしたね」
「モテモテって! 高校生やないんやから、仕事仲間としてな」
「まあ、もらう側はそうですよねー」
「……?」
はっきりせんもっちゃんの言い方が、ちくりちくりと引っかかる。
どうしたっていうんやろ、もっちゃん。
「私、今めっちゃイライラしてるので一つだけお教えしますね」
何か気に食わんことしたやろか。
うちがぽかんとしとると、もっちゃんはかなりオーバーな仕草でため息をついた。
「……五段さん、屋上にいますから」
「なんで、知っとるん」
「別に。朝、見かけただけです」
「あ、そ……」
言い終えると、もっちゃんはくるりと体を回転させた。
じゃあ、と離れていく足はえらい速いし、スタスタっちゅうかドスドスみたいな足音が響く。
あれはまだイライラしとるっぽい。……なんでや。
789名無し募集中。。。2018/02/14(水) 00:31:07.650
もっちゃんの言葉通り、屋上にうちの目当ての人はおった。
端っこの方で、柵にもたれてぼんやりと空を見上げとる。
ほんま、横顔綺麗やし美人やなあ、って!
こんなところで黄昏とる場合ちゃうぞ、五段。仕事せんか、仕事。
「ごーだんっ」
がしゃんっ!と派手な音を立てて、五段がバランスを崩す。
サングラスをかけとっても、五段が「しまった」って顔をしとるんは分かる。
なんでうちの顔見てそんな態度とるんや。
「探したで」
うちが近づくと、五段は逃げ場を探してきょろきょろする。
この人が警備のトップなのが、たまに信じられんよ、うちは。
「Buono!のみんなも探しとったで?」
せやけど、逃がしてなんかやらんから。
いや、そもそもなんで逃げようとしとるんかさっぱり分からんけど。
五段の隣に素早く滑りこむと、うちは五段の腕に自分の腕をぎゅっと絡めた。
「今日がどういう日か知っとるやろ?」
頷きが一回。
つまり、分かっとったくせにこんなところで油売っとったんかな? 五段ちゃん。
「はい、これと、これと……これかな」
とりあえず、預かっとったBuono!のみんなからのお菓子を五段にぽいぽいと手渡す。
その時、もらったお菓子の箱が一つ、ぽろりと転がり落ちた。
791名無し募集中。。。2018/02/14(水) 00:32:24.490
うちより先に動いた五段が、床に落ちた箱を拾い上げる。
その場の空気が、一瞬冷たくなった気がした。
「……くさん、もらっ……」
「ん?」
「…………たくさん、もらったんですね」
箱を見つめる——というよりは睨みつけるようにして、五段がぼそりと言う。
もしかして、五段。
もしかしてまさかもしかして。
「……妬いとる?」
否定するように五段は顔を逸らすけど、唇がツンと尖っとるんをうちは見逃さんかった。
なんや、子どもみたいな理由で仕事放棄してたんか、五段ってば。
「あのなあ」
「……だっ、て」
「本命はあんたからしかもらわんつもりやけど?」
尖った唇はそのままに、もじもじと指を遊ばせる五段。
そんなんじゃ誤魔化されんって?
ほんっま、しゃあないなあ。
「じゃあ、うちからな」
今回、うちが唯一手作りした生チョコをゆっくりと取り出す。
メイクや服のことなら器用やのに、お菓子作りはからきしな今月さんが頑張ったんやで。
「あんま形はようないけど、味は保証する」
うちがあげた袋をまじまじと眺める五段の口の端が、かすかに持ち上がる。
なんや、にやけとるんか、五段。
「で……五段は?」
差し出すうちの手を前にして、もたもたしながら五段はスーツの内ポケットに手を突っ込んだ。
真っ赤なハートマークがあちこちにちりばめられた街。
道を行くカップルは、みんながロマンティック浮かれモード。
彼氏の腕に絡みつく彼女を見とると、「アツアツやな!」って言いたくなった。
「はぁ……重た」
悲しいことに、うちの腕には絡みついて来る彼女なんておらん。
その代わり、でっかい紙袋が一つ。
取っ手を握り直すと、中身がガサガサ音を立てた。
一個一個は小さい箱も、集まればそれなりの重さになるもんや。
腕はプルプルし始めとって、うちの頭の中には早く事務所につくことしかない。
ほんま、義理チョコなんて考えたんは誰なんやろ。
お礼の気持ちを伝えるんはええと思うんやけど、数が増えるとしんどいことも多い。
今日は、Buono!ちゃんたちとの仕事が入っとった。
つまり、可愛い子ちゃんからお菓子をもらう機会があるっちゅうわけ。
楽屋に着くと、いつもお世話になってます、とさっそく三人からお菓子を差し出された。
後輩やら先輩やら他にも配る相手はぎょうさんおるやろうに、スタッフの分までちゃんと用意しとるんやから見上げたもんや。
アイシングクッキーに、ラスクに、トリュフチョコ。
どれも女の子らしくデコーレションしてあって(ちゃんもものはわりとシンプルやったけど)可愛らしい出来やった。
ちゃんと手作りするなんてなあ、お金に物言わしたうちとは大違い。
「そういえば、五段さんって見ました?」
「あー、見てへんな」
そっかあ、と三人が顔を見合わせる。
たぶん、五段の分もちゃんと用意してあるんやろうな、この子らのことやし。
ここに五段がおらんのは、残念すぎる。
応援しとるちゃんももからお菓子をもらう五段、ちょっと見たかったんやけど。
その後も会えるか分からんからってことで、うちがみんなからのお菓子を預かった。
ほんま感謝せえよ、五段。
788名無し募集中。。。2018/02/14(水) 00:29:58.500
Buono!ちゃんたちとの仕事の後も細かい用事が入っとって、うちの体が空いたんは昼過ぎやった。
その頃には、うちが持ってきた紙袋の中身は、他のスタッフやアイドルちゃんからもらったお菓子に代わっとった。
仕事上の付き合いがある人には、一通り配り終わったってところかな。
せやけど、本番はこれから。
今日の最大の目的は、五段にチョコを渡すことや。
そう思って探し始めたんは良いけど、五段はどの部屋にもおらんかった。
五段のマグネットは出社になっとったし、この建物におるんは間違い無いんやけど。
あんたの仕事は警備やないんか!と言いたくなるほど姿が見当たらん。
「どこにおんねやーっ!」
誰もおらん廊下で、思わず心の中身が叫びになった。
「今月さん」
「ひゃっ! ……なんや、もっちゃんか」
「すみませんね、五段さんじゃなくて」
な、なんで分かったんや。うちが五段を探しとるって。
うちの疑問をよそに、帽子の陰からチラ見えするもっちゃんは渋い顔。
「な、なんなん、顔コワイで」
茶化して言ったつもりやのに、もっちゃんは知らん顔で話を進める。
「これ、私からなんですけど」
「ああ……おおきに」
もっちゃんが渡してきたのは、真紅の箱。
わりとしっかりした作りをしとって、まさに「高級!」って感じや。
こんなええもん、もらってええの?
「今月さんてば、朝からモテモテでしたね」
「モテモテって! 高校生やないんやから、仕事仲間としてな」
「まあ、もらう側はそうですよねー」
「……?」
はっきりせんもっちゃんの言い方が、ちくりちくりと引っかかる。
どうしたっていうんやろ、もっちゃん。
「私、今めっちゃイライラしてるので一つだけお教えしますね」
何か気に食わんことしたやろか。
うちがぽかんとしとると、もっちゃんはかなりオーバーな仕草でため息をついた。
「……五段さん、屋上にいますから」
「なんで、知っとるん」
「別に。朝、見かけただけです」
「あ、そ……」
言い終えると、もっちゃんはくるりと体を回転させた。
じゃあ、と離れていく足はえらい速いし、スタスタっちゅうかドスドスみたいな足音が響く。
あれはまだイライラしとるっぽい。……なんでや。
789名無し募集中。。。2018/02/14(水) 00:31:07.650
もっちゃんの言葉通り、屋上にうちの目当ての人はおった。
端っこの方で、柵にもたれてぼんやりと空を見上げとる。
ほんま、横顔綺麗やし美人やなあ、って!
こんなところで黄昏とる場合ちゃうぞ、五段。仕事せんか、仕事。
「ごーだんっ」
がしゃんっ!と派手な音を立てて、五段がバランスを崩す。
サングラスをかけとっても、五段が「しまった」って顔をしとるんは分かる。
なんでうちの顔見てそんな態度とるんや。
「探したで」
うちが近づくと、五段は逃げ場を探してきょろきょろする。
この人が警備のトップなのが、たまに信じられんよ、うちは。
「Buono!のみんなも探しとったで?」
せやけど、逃がしてなんかやらんから。
いや、そもそもなんで逃げようとしとるんかさっぱり分からんけど。
五段の隣に素早く滑りこむと、うちは五段の腕に自分の腕をぎゅっと絡めた。
「今日がどういう日か知っとるやろ?」
頷きが一回。
つまり、分かっとったくせにこんなところで油売っとったんかな? 五段ちゃん。
「はい、これと、これと……これかな」
とりあえず、預かっとったBuono!のみんなからのお菓子を五段にぽいぽいと手渡す。
その時、もらったお菓子の箱が一つ、ぽろりと転がり落ちた。
791名無し募集中。。。2018/02/14(水) 00:32:24.490
うちより先に動いた五段が、床に落ちた箱を拾い上げる。
その場の空気が、一瞬冷たくなった気がした。
「……くさん、もらっ……」
「ん?」
「…………たくさん、もらったんですね」
箱を見つめる——というよりは睨みつけるようにして、五段がぼそりと言う。
もしかして、五段。
もしかしてまさかもしかして。
「……妬いとる?」
否定するように五段は顔を逸らすけど、唇がツンと尖っとるんをうちは見逃さんかった。
なんや、子どもみたいな理由で仕事放棄してたんか、五段ってば。
「あのなあ」
「……だっ、て」
「本命はあんたからしかもらわんつもりやけど?」
尖った唇はそのままに、もじもじと指を遊ばせる五段。
そんなんじゃ誤魔化されんって?
ほんっま、しゃあないなあ。
「じゃあ、うちからな」
今回、うちが唯一手作りした生チョコをゆっくりと取り出す。
メイクや服のことなら器用やのに、お菓子作りはからきしな今月さんが頑張ったんやで。
「あんま形はようないけど、味は保証する」
うちがあげた袋をまじまじと眺める五段の口の端が、かすかに持ち上がる。
なんや、にやけとるんか、五段。
「で……五段は?」
差し出すうちの手を前にして、もたもたしながら五段はスーツの内ポケットに手を突っ込んだ。
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