まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

77名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 23:26:22.530

「罪な女 7」最終回

「結局、いくら話したところで噂は噂に過ぎないの。気になるなら本人に確かめなさい。
あたしはどうでもいいから、これからも桃ちゃんに聞くつもりはないけどね」
マスターにそう言われた。

聞くのは覚悟が要った。
それでも雅は『男はもういい』とまで言っていた桃子の真意を知りたかった。
女性が好き。それはいい。だけど、男を嫌いになったと言うのなら
その言葉は、悲しいと思う。

雅は休職していた。
真犯人は捕まったものの、関係者であり、発端が雅であったことが社内に知れ渡っている。
申請はすぐに許可された。少し時間が欲しかった。

桃子の休みの日に合わせて、時間を取り、地元に帰った。
地元と言っても都内で、それほど離れていない。
二人並んで、懐かしい商店街を抜けた。昔なじみの店がそのままで、訳もなくはしゃいだ。

「中学の時さ、通り魔事件があったの覚えてる?」そう桃子が切り出した。
「覚えてる!すごい騒ぎだったよね」
「それ。バスの乗客の荷物が、知らないうちに次々切られてたって事件が発端で
騒ぎになって警察も警戒強めたりしてさ
その後すぐに、バス停で刃物振り回して通行人に怪我させた男が捕まったけど」
「怖かったよねあの時……もももやられたんじゃなかったっけ、バッグ」
「そう、私のとこに警察が話聞きに来てたんだよ。
捜査員の一人が、当時所轄に配属されたばかりの石川だった」

雅はすぐには何と言えばいいのかわからなかった。

「姿勢が良くて、かっこよかったなあ。すごい大人にも見えた。
だけど、もどかしくなく、話せた。
それから、彼の持つ正義感に心が惹かれた。警察官になりたいって、その時初めて思ったんだ」
「えっと……その頃から、付き合ってたってこと?」
「まさか」と桃子は笑った。
「その時はそれきりだよ。警察学校卒業して配属が決まって
たまたま偶然、そこに石川がいた。彼は……私の事を覚えてた」
そう言った時、桃子の顔はほんの少しだけ引き攣った。
雅は内心「こいつニヤけやがった」と思った。

「そういえばみや、マスターとお店決めてくれた?」
「そうだ。予約がなかなか取れないからちょっと先になるかもって言ってたけど」
「どこ?」
「なんだっけ……荒木町って言ってたかな」
桃子は一瞬黙った。「確かに……あそこはいいお店がありそうだね」
そう言ってから、雅の顔を見た。

「どうして彼と別れたか聞きたい?」

80名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 23:29:39.150

商店街を抜け、住宅街に入っていた。
二人の目的は、最近できて評判だという、小さい飲み屋だった。
狭いが上品な個室に通された。

「結婚して1年くらい経った頃、詐欺事件を追っていた石川は
捜査資料の取り扱いで不祥事を起こしてしまった。
当時新聞にも小さく載った。
あの日、係長に言われたんだよね
『署長が行きつけの店で飲んでるから、旦那の不始末の詫び入れに酌でもしてこい』って。
なんで私がお酌しになんて行かなきゃいけないのって思ったよ。
だけど、その時、石川は酷く落ち込んでたし
それくらいで署内の当たりが柔らかくなるなら、仕方ないかと思い直してさ。

てきとーに付き合っとけばいっか、なーんて思えたのも、その場に着くまで。
当時の署長はいわゆるキャリア組っていう、立場で言ったらもう天と地。
慣れない料亭なんかで、雲の上の人と顔合わせたらそりゃあもう、緊張して緊張しまくって
手が震えたのを覚えてる。
会話も全然弾まないしさ、いつになったら『もういいよ』って言ってくれるんだろうって
同席してた課長は気付いたらいなくて、いつまでも戻って来ないし
え、これいつまでここに居なきゃなんないのって思い始めたら
向こうは相当酔いも回ってて、急によろけるみたいにして押し倒された」

雅は詰めていた息をゆっくりと吐いた。
「最悪」
「あの瞬間の自分の、スパークするみたいなタガの外れ方ってば、なかったね」
と、桃子は目を細めて笑った。

「相手がキャリアの警視正だとか署長だとか課長がいるとか石川の、自分の署内の立場とか
全部ぶっ飛んで、気付いたら皿の上にあった金串を取って自分の腕を刺してた。
でもさ、自分ってとこが偉くない?署長を刺してたら夫婦揃って詰んでたよね」

桃子は焼き魚をつつきながら、世間話のように軽く、話し続ける。

「ただ、それで向こうは一気に酔いが醒めたんじゃない。震えてた。
キャリアだからね、まだ若くて。その場で泣きながら謝罪された。
親も警察官僚のエリートで、言い方アレだけど
自分が女と刃傷沙汰なんて想像もしたことなかったんだろうし。
それまで、自身が清廉潔白に生きてきていることに、矜持もあった筈だよ。
それ以上のことなんて、もう起こりようがなかった。
一切を不問にすることを約束して、私は帰された。……不問にできなかったのは

許せないのは、私がそこへ行くことを知っていた石川。
落ち込んでいた彼に、出世の道だってまだあると、唆した輩がいた。
一晩我慢しろ。謀(はかりごと)なしの出世なんて有り得ないなんて言い含められてさ。
弱みにつけこまれて、そんな茶番を仕組まれて、可哀想だけど
……彼が唆されて首を縦に振った事実は変わらない。
私は一切を、言わなかった」

82名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 23:32:42.280

「だけどその後、勝手な噂が火を吹いた。
そのせいで離婚したなんて言われてはいるけど
そんな噂が立つ前から、石川と私の間は何か膜が張ったようになってた。
時間の問題だったと思う。
私から、離婚を切り出した。

今だに彼は誤解し続けてる。私を差し出して出世の道がつくられたんだと。
そうじゃない。口利きなんてあるわけがない。
本当は、彼は自分の実力で本庁に引っ張られたの。
見込まれて、再婚の話だって上がったの。
上から持ち込まれた縁談を快諾して再婚したことで
彼についてはまとわりついてた噂も一旦手打ちになった。
ホッとしたのも事実。

だけど……これからも実力だったなんて教えてやらない。
一生、自分の地位を疑い、後ろめたく思って生きていけばいい」

桃子の声は小さく、低く、震えていた。

「もも、帰ろう」
雅は思わずそう言っていた。テーブルに置かれていた桃子の片手
その小さな手の上に自分の手を重ねた。
桃子は顔を上げ、怯えたような顔で雅を見た。

店を出ると、夜の住宅街はしんとしていた。
街灯だけの暗い道を歩き出す。
桃子が消えてしまいそうな気がして、雅はその手を握った。

「私が辞めないのはいろいろ理由があるけど
本庁キャリアの愛人だのいうクソな噂が裏ですっかり真実みたいに出回って
警視正はとっくに本庁に戻って下界のことなど知りもせずだよ
こっちは女使って組織にしがみついてるなんて陰口叩かれて
私が苦しい分、石川も苦しめばいい。そう思いながら
思いながら、ここに居るのは……ほんとは、ちゃんと幸せになるのを見届けたいのかもしれない。
でね……そんなこと思ってる自分が
情けなくてときどき、やってらんなくなる。

……結局、一番許せないのは、石川じゃない。
あの日、何も考えずにノコノコ荒木町に出かけて行った自分なんだ」

どうして。
どうして誰も、桃子を慰めてあげれなかったんだろう……!
雅は衝動的に繋いでいた手を引き、桃子の体を抱き締めていた。

「そんなの……ももは全然悪くないよ」
腕の中で、桃子はじっとしていた。
「うん。そうなんだよね。他人の事なら、そう言ってあげられると思う。心から。
まだ若かった。想像もつかなくて当たり前だ。言ったって断れたわけもない。
何もなかっんだ、早く忘れなよ。
そう言ってあげたい。だけど、誰が許してくれても私が
私自身が、あの日の私を許してくれない。どうしても、許せない。どうしても」

桃子は泣いてはいなかった。それでも全身がまるで慟哭しているように思えて
雅は必死に、宥めるように、桃子の背中を撫で続けていた。

85名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 23:39:17.890

「……なんで、誰にもしなかったこんな話まで、みやにしてんだろ」
雅に抱かれたまま、桃子は自嘲気味に呟いた。雅は顔だけを上げた。

「あの日、営業部長からさ、銀座の店に誘われて着いていったこと
みやも、きっと一生、自分自身で許せないから」

雅がそう言うと、桃子は首を緩く振り、雅の肩に頭を凭せかけた。
「みやのこと、初めて女性を好きになった。殺された鹿賀島がそう言ったんだってさ」
「え……」
「奥さんが、そう供述したって。その言葉が許せなかったって
さんざんとっかえひっかえ遊んできて、言うことがそれかよ。って
まあ奥さんに同情しないこともない。身勝手な男。
っても、何があろうと殺人を計画するなんて有り得ない、断罪されてしかるべきだけど」

雅は、桃子の言葉を遮った。
「なんだろ、それ聞いても、何とも思わないのって、おかしいかな」
それが正直な気持ちだった。ひと一人、亡くなっているというのに。
実際、まるで遠い、他人事のように聞こえた。
自分が思うより、自分は酷い人間なのかもしれないと雅は思った。

「いいんじゃない。あのさ、みやに何か思って欲しくて言ったわけじゃなくて
ただ、男に同意する気はないんだけど
みやは眩しかったんだろうなって、それはわかるなって、その話聞いた時にね、そう思った」
「……そんな、キレイな女じゃないし」

「まあ、お互い、罪な女だよね」
桃子はそう言って、笑った。
不遜に、偽悪的に言い放つことで桃子もまた、雅を慰めてくれているのかもしれなかった。

桃子がゆっくりと体を離す。
「行こう」
そう言った。

「石川さんのこと、許してあげなよ」
「ん?」
「ももの気持ち全部わかんないし、みやが言えることじゃないかもしれないけど
でも、許してあげて欲しい」
「どうして、みやがそう思うの」
「ももに、幸せになって欲しいから」
「今、充分幸せだよ?」
強がり。
「弱さを許せないのは、愛じゃないから」
雅の言葉を聞いて、桃子は目を伏せた。
「したね、そんな話。まあ……そっか。そうかもね。奇麗事言ったって
……あの日からもう、愛していなかったんだろうね」

心が乱される。苦しい。それでも今言ってあげたいことがあった。
「今のももには、茉麻がいるじゃん」
桃子は歩みを止めた。

86名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 23:44:11.720

「だったら、良かったんだけど」

桃子は公園を見つけて、中のベンチに駆け寄ると座り込んだ。
「今日私、喋りすぎじゃない?疲れてきた」
「洗いざらい吐いちまいなー」
「ただで口割ると思ってんのかよ刑事さん。取引しようぜ」
「何が欲しいの」
「ジュース。100%がいいなぁ」
雅は近くの自販機を探し、オレンジジュースとミルクティーを買って戻った。
いないんじゃないか、一瞬そんな想像が過ぎったが、桃子はベンチに座ったまま、雅を待っていた。

「単純に言えば、警視正としでかした私にとっとと辞めて欲しい。
そう考える一部の勢力があった。
噂の広がり方がなんか半端なかったんだよね。事実なんてどうでもいいんだよ結局。
そんな中、私もしがみつくからさぁ、何するかわからないと思われたのかもしれない。
茉麻は言ったら、そんな私の監視役として現れた。

石川と離婚して、私はまた一人官舎に戻ることにしたんだけど、まあ針のむしろってやつでさ。
まずそこで遅かれ早かれ辞めるだろうって見方されてたのかもしれないけど、私は辞めなかった。
茉麻と一緒に住むのはどうかって話が秘密裏に課長経由で持ち込まれたのはそれから。
ウラがあるのはわかってたけど、官舎を出られるのは渡りに船だった。

私は再会のその時まで、茉麻の父親が警察官だったってこともすっかり忘れてた。
警察官どころか、警察官僚だったんだよね。さっき言った警視正は、茉麻の従兄弟だった。
直接この件について茉麻と話したことはないんだけど、多分、多分ね
茉麻には目的が課せられてた。
研修名目だから期限は半年、所轄にいる半年の間に、昔馴染みの私を穏便に退職させる。
それが茉麻の仕事だったんじゃないかな。
茉麻はとっても同情的で、優しくて、だけどそこはきちんと上に報告だけは上げてたんじゃないかと思う。
決して私に与するようなことはなかったよ。
そういうとこが、好き……好きだった」

茉麻の中には激しい葛藤もあっただろうと雅は思った。
それでもきっと、茉麻は桃子を護っていたのだろう。
そこに彼女の思いがなかったとは思わない。

89名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 23:48:07.630

「私と茉麻の関係は、言ったら警視正との関係よりもずっとアンタッチャブルで
署長と話を持ち込んだ課長以外、署では誰も知らなかった。
まあ実際署内で茉麻と顔を合わせることなんてほとんどなかったけど
すれ違っても知らんぷり。そういう関係。
ただ、茉麻が同居してくれてる間
私の署内での立場が薄皮一枚で保たれてるって確信もあった。そこにすっかり甘え倒しちゃったな」

桃子はジュースを一気に飲み干すと立ち上がり、ふいっと公園を出て行く。雅は慌てて追いかけた。
「あの子言わないんだけど、恋人できたっぽいんだよね」
さっき雅がジュースを買った自販機の前まで来ると、桃子は空き缶を捨て
雅に背を向けたまま目の前のゴミ箱をつま先で蹴った。

「大体さぁ、監視なんて付く前から、私はずっといい子に勤め上げてたし
どうして誰も放っておいてくれなかったかな。
今や警視長目前なんて言われてるあの人はもちろん
石川も、茉麻も、みーんな私を放って知らないとこまで、とっとと雲の上まで昇進していけばいい」
そこまで言うと、桃子は言葉を詰まらせ、夜空を仰いだ。

雅は桃子の姿を道路から隠すように背中合わせで立ったまま
しばらくの間、圧し殺すような泣き声を聞いていた。
「まだ若いんだし、遊べば」
と雅は言ってみた。返事はなかった。

もし、一人だったら、事件解決まで自分の神経が持ったかわからない。
今こうして立っていられるのは、桃子がいてくれたからだ。そう雅は思った。

ももだって、今そうやって思い切って泣けるのは、みやがここにいるからでしょ。

『運命よね』
そう言って、不器用に笑ったマスターの顔を、雅は思い出していた。

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