まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

537名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/19(火) 14:59:54.200

なんか、懐かしいなあ。
目深に被った帽子の陰から、桃子がそう言うのが聞こえる。
雅も同意を込めて頷いた。

祭囃子に誘われて、ちょっと浮かれた気持ちになってしまって。
二人で目を合わせたら、行かないなんて選択肢はなくなって。
こうして二人で、縁日の並ぶ道をのんびりと歩いていた。
往来の人はそれなりに多いが、キャップを目深に被る桃子を傍目にアイドルだと気づく人は少ないだろう。
珍しくブルーハワイを選んだ桃子は、水色の氷の山をスプーンでつついていた。

「今さ、突然思い出したんだけど」
「何を?」
「かき氷。小さい頃、知らないお姉さんと食べたことがあったなあって」
「……は?」

桃子が始めた突飛な話に、雅はかき氷をすくおうとしていた手を止めた。

「今日みたいに、お祭りに行ったんだよね。ママと。でも、迷子になっちゃってさ」

折り悪く、苦手な男の子も同じタイミングでお祭りに遊びに来ていた。
ちょっかいでも出されたのかと問えば、そうそう、と桃子が頷いた。

「ほら、ももってばモテるからぁ」
「はいはい、そういうのいいから」
「本当の話なんだからね! で、まあそこで、颯爽とその人は現れたってわけ」

桃子の持っていたスプーンが、ピン、と空を指す。

「ママを探すのも手伝ってくれたんだけどさあ、」

その時、とん、と何かに肩がぶつかり、雅はそのまま弾かれた。
すみません、とどうにか口にした気がするが、足がもつれて体が支えを失う。
咄嗟についた両手に、砂利に擦れて細かい痛みが走った。

538名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/19(火) 15:00:57.180

「ちょっとぉ、大丈夫ッスかぁ?」

顔を上げた先にいた少女たち——恐らくは高校生くらいだろう——の風貌に、雅は内心ぎょっとした。
色黒なのはまだいい、目の周りが真っ白なのはどういうことか。
パンダを逆転させたような配色のメイクをして、ケラケラと空っぽの笑い声がする。
大丈夫です、と返した時には、女子高生達はすでに興味を失った様子で歩き出していた。
その後ろ姿は、だらりと下がった靴下に下着が見えそうなほど短いスカート。

「何、あれ」

混乱した頭のまま雅が立ち上がると、ざらついた音で漂ってくるのはLOVEマシーン。
オリジナルの音源だ、なんて思いながら顔を巡らせて、雅の視線は一点に吸い寄せられた。

「セーラー○ーン……?」

その隣には、これまた懐かしいキャラクターのお面が並んでいる。
確か、日曜の朝からやっていた魔女達のアニメではなかったか。

「いやいやいや……うそでしょ……?」

つぶやきながら、思わず店に駆け寄った。
プラスチックのお面は、ちゃんと触れることができた。

「姉ちゃん、買うのかい」
「あ、いえ……」

店番をしているらしい男性が、ガラガラとした声で話しかけてくる。

「あのぅ、プリ○ュアってないですよね?」
「なんだいそりゃ? あれか、あっちのアニメか何かか?」

雅のことを外国人だとでも思ったのか、ノーノーと男がくり返すのをぼんやりと雅は聞き流した。
お面を元の場所に戻し、雅は道から外れた茂みの近くにふらふらとしゃがみこむ。
次々に飛び込んでくる光景に麻痺していた脳みそが、少しずつ回転を始めていた。
女子高生達のファッション、流行歌、アニメ。
世界が丸ごと、20年ほど巻き戻ってしまったとしか思えなかった。
夢でも見ているのだろうか、と頬をつまんでみたがただただ痛いだけだった。

539名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/19(火) 15:02:07.660


途方に暮れる雅の耳に、まだ声変わりのしていない少年の声が届く。
ざわつく茂みの向こう側を伺ってみると、少年が二人。それに、俯く少女が一人。

「ももたろーのくせに、ゆかた着てるぞ!」
「かみかざりなんか似合わねーよ!」

返してよ、と少女の口から漏れる声は、か細く震えていた。
少年の手に光るかんざしを認めて、雅は無意識に飛び出していた。

「こらっ!!」

腹から出した声は、まっすぐに空気を揺らす。日頃のボイトレの賜物である。
やべ、と青ざめた少年達の首根っこを素早く掴み、動きを封じた。

「くそっ! はなせよおばさん!」
「あ?」

意識的に威圧的な視線を送ると、少年達が小さく息を飲む音がした。

「人の嫌がること、してんじゃねえよ」

腹の底でふつふつと滾る熱を抑え、できる限り低い声で凄んでみせる。
わかった?とあえて笑顔で問いかけると、ちぎれそうな勢いで少年たちが頷いた。

「ごっ、ごめんなさい」
「謝る相手はうちじゃないけど?」

あっち、と示した先で、少女はまだ肩を竦ませて震えている。

「ももこ、ごめん」
「ごめんなさい」

二度とこんなことするんじゃないよ。
釘を刺して解放すると、少年達は目にも止まらぬ速さで逃げていく。

540名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/19(火) 15:02:53.350

「……ありが、と」

男の子達にからかわれた名残だろうか、心なしか乱れている髪の毛に雅はやるせなくなった。
いじわるするとか、ダサすぎるだろ。

「髪、やってあげようか」

え、と持ち上げられた顔に、雅は危うく持っていたかんざしを取り落としそうになった。
幼い頃の桃子に瓜二つの顔立ち。いや、むしろこれは。

「お名前、聞いてもいい?」
「……つぐながももこ」

予想通りの名前に、一瞬くらりとめまいを覚える。

「……そっか、じゃあももちゃんって呼んでもいい?」

動揺を押し殺しながら、雅は努めて笑顔でそう尋ねた。
動きは小さいが、ちゃんと頷きが返ってきて雅は少しほっとする。

「ママとはぐれちゃったの?」
「……ママが、まいごになっちゃったの」

実に桃子らしい言い草に、雅は思わず吹き出した。

「じゃあ、ママ一緒に探そっか」

桃子が頷くのを確かめて、雅は小さな手のひらを握った。

541名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/19(火) 15:03:19.000


祭りが開催されている神社はさほど広くない。それに、桃子の母親なら、おそらく見れば分かるはずだ。
きっとすぐに見つかるだろう。そう思いながら手を繋いで歩いていると、不意に桃子が立ち止まったのを感じた。
おや、と雅が振り返ると、桃子の視線は一点に釘付けになっていた。
屋台には、「かきごおり」の文字。

「かき氷、好き?」

そっと雅が聞いてみると、桃子ははっと気がついた後でもじもじと俯いてしまった。
ももって小さい頃こんなだったんだ。
大きくなった桃子を改めて思いながら、雅は苦笑した。

「お姉ちゃん、かき氷食べたくなっちゃったなー。ももちゃんも食べない?」
「……いいの?」
「いいよ。どれがいい?」

いちご!と元気の良い返事に、雅はついつい頬を緩めていた。
ずるい、そう思ってしまうほどに可愛い。
あれが大きくなるとああなるんだから、不思議なものだ。
成長した桃子を重ね合わせながら、雅はそんなことを思う。
いや、大きくなった後も可愛いけれど。本人に言ったら調子に乗りすぎるから言わないだけで。

桃子はいちご味、雅はブルーハワイ。
それぞれの選んだかき氷を手に、近くのベンチに腰掛けた。
決して質が良いとは言えない氷は、つつくほどに塊になって口の中でじゃくじゃくと音を立てる。

「お姉ちゃんの、あおいね」
「そうだよー。大人の味だよ」
「おとなのあじ?」

きょとんとする桃子の口先に、一口すくい取って持っていく。
パクリとそれを口にした桃子は、何を思ったのか「おお……」と声を漏らした。
反応を見るに、まずくはなかったらしい。

542名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/19(火) 15:04:54.820

甘いものを口にして気持ちがほぐれてきたのか、桃子の表情はすっかり柔らかくなっていた。
春から小学校に通っていること、好きな給食、苦手な男の子、今読んでいる本、エトセトラ。
かき氷を食べ終えるまでに、桃子は実にたくさんのことを話してくれた。
けれど、穏やかな時間はあっさりと終わってしまった。
桃子、と遠くで声がする。きっとあれは、桃子の母親のものだ。

「ももちゃん、お姉ちゃんそろそろ行かなきゃいけないの」
「どうして?」
「お迎えが来たから、かな。ママはあっちにいると思うよ」

ママ、と聞いて桃子の表情は一瞬晴れたが、すぐにまた曇ってしまった。

「また会える?」

溢れんばかりの寂しさを湛えた声音に、雅の胸は締め付けられる。
もちろん、と力強く答えて、雅は小さな桃子の手をぎゅっと握った。


「——や、みや、大丈夫?」
「……え」

気がつくと、桃子の腕に体重を支えられていた。
背中に当たる腕のしなやかな筋肉が、どこか懐かしい。
筋肉ももち、と言いそうになってやめた。

「もも、さっきの話」
「ん? ああ、知らないお姉さんの話?」
「他に、覚えてることは?」
「んー、難しいなあ」

どんな些細なことでもいいよ、と雅が促すと、桃子はいつになく真面目な顔になって。

「かっこよかった、かな」

ぽつりと聞こえた答えに、じわじわと温かいものが体を満たす。
無言の雅に何を思ったのか、もちろん、みやの方が!とあたふたと桃子が訂正する。
その様子がおかしくて、返ってきた答えが嬉しくて、自然と雅はにやついていた。

「一口ちょーだい」
「あ、ちょっと! いいって言ってないじゃん!」

桃子の文句を受け流しながら、溶けかけた山のてっぺんをすくい取る。
口の中で歯にぶつかるブルーハワイは、じゃくりと音を立てた。

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