民法

○適切な医療機関への転送が行なわれなかったことによる後遺症について不法行為の因果関係

法廷意見は、最判平成12年9月22日民集第54巻7号2574頁及び最判平成15年11月11日第57巻10号1466頁をもとに、「患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性」の存在が不法行為の成立に必要であるとする。
これに対して、横尾・泉反対意見は、「患者が適時に適切な医療機関へ転送され,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受ける利益」が不法行為上保護されるべき利益であることを理由に、上記“相当程度の可能性”がなくとも、不法行為は成立するとする。
反対意見を踏まえて、詳細な補足意見(再反論)が付されており、参考になる事例判例。
最判平成17年12月8日判タ1202号249頁 上告受理/棄却
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●代位弁済した保証人が不動産競売を承継した場合の求償債権の時効の中断

「債権者が物上保証人に対して申し立てた不動産競売について,執行裁判所が競売開始決定をし,同決定正本が主債務者に送達された後に,主債務者から保証の委託を受けていた保証人が,代位弁済をした上で,債権者から物上保証人に対する担保権の移転の付記登記を受け,差押債権者の承継を執行裁判所に申し出た場合には,上記承継の申出について主債務者に対して民法155条所定の通知がされなくても,次のとおり,上記代位弁済によって保証人が主債務者に対して取得する求償権の消滅時効は,上記承継の申出の時から上記不動産競売の手続の終了に至るまで中断すると解するのが相当である。」
最判平成18年11月14日(平成17(受)1594) 上告受理/破棄自判
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○譲渡担保目的不動産の差押債権者と受戻権者の関係

受戻権者による第三者異議の許否

●国立マンション訴訟〜景観の利益について

「良好な景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者は,良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり,これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。)は,法律上保護に値するものと解するのが相当である。
 もっとも,この景観利益の内容は,……現時点においては,私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず,景観利益を超えて「景観権」という権利性を有するものを認めることはできない。」
「景観利益は,これが侵害された場合に被侵害者の生活妨害や健康被害を生じさせるという性質のものではないこと,景観利益の保護……とこれに伴う財産権等の規制は,第一次的に,……行政法規や当該地域の条例等によってなされることが予定されているものということができることなどからすれば,ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには,少なくとも,その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり,公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど,侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解するのが相当である。」
最判平成18年03月30日(平成17(受)364) 上告棄却
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●医師の説明義務の範囲

「医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があり,また,医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には,患者がそのいずれを選択するかにつき熟慮の上判断することができるような仕方で,それぞれの療法(術式)の違いや利害得失を分かりやすく説明することが求められると解される(最判平成13年11月27日民集55巻6号1154頁)。
 そして,医師が患者に予防的な療法(術式)を実施するに当たって,医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には,その中のある療法(術式)を受けるという選択肢と共に,いずれの療法(術式)も受けずに保存的に経過を見るという選択肢も存在し,そのいずれを選択するかは,患者自身の生き方や生活の質にもかかわるものでもあるし,また,上記選択をするための時間的な余裕もあることから,患者がいずれの選択肢を選択するかにつき熟慮の上判断することができるように,医師は各療法(術式)の違いや経過観察も含めた各選択肢の利害得失について分かりやすく説明することが求められるものというべきである。」
医師の説明義務の範囲について、引用の最判に加えてやや進めたものでしょうか。
最判平成18年10月27日(平成17(受)1612) 上告受理/破棄差戻し
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●所在地番及び床面積が実際と異なる建物が 借地借家法10条の「登記されている建物」に含まれる場合

「借地借家法(平成3年法律第90号)10条1項は……借地権者を保護しようとする規定である。この趣旨に照らせば,借地上の建物について,当初は所在地番が正しく登記されていたにもかかわらず,登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤った結果,所在地番の表示が実際の地番と相違することとなった場合には,そのことゆえに借地人を不利益に取り扱うことは相当ではないというべきである。また(この場合は),上記変更の前後における建物の同一性は登記簿上明らかであって,上記の誤りは更正登記によって容易に是正し得るものと考えられる。そうすると,このような建物登記については,建物の構造,床面積等他の記載とあいまって建物の同一性を認めることが困難であるような事情がない限り,更正がされる前であっても借地借家法10条1項の対抗力を否定すべき理由はないと考えられる。」
最判平成18年01月19日(平成17(オ)48) 破棄差戻し
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◇前提となる判例
地上権ないし賃借権の設定された土地の上の建物についてなされた登記が、錯誤または遺漏により、建物所在地番の表示において実際と多少相違していても、建物の種類、構造、床面積等の記載とあいまち、その登記の表示全体において、当該建物の同一性を認識できる程度の軽微な相違であるような場合には、「建物保護ニ関スル法律」第一条第一項にいう「登記シタル建物ヲ有スル」場合にあたるものと解すべきである。
最判昭和40年03月17日民集第19巻2号453頁
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●懲戒事由とされた職場での暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分が権利の濫用として無効とされた事例

「使用者の懲戒権の行使は,企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが,就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても,当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当なものとして是認することができないときには,権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」
懲戒処分の前提となる事件について、被害届・告訴状を提出し、捜査の結果を待って処分を検討するとしたことにつき,「職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり……目撃者が存在したのであるから,上記の捜査の結果を待たずとも……処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ……長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。」
「捜査の結果が不起訴処分となったときには,使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ,……実質的には懲戒解雇処分に等しい……重い懲戒処分を行うことは,その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。」
「本件諭旨退職処分は本件各事件以外の事実も処分理由とされているが,……その事実があったとされる日から本件諭旨退職処分がされるまでに長期間が経過して」おり,「少なくとも本件諭旨退職処分がされた時点においては,企業秩序維持の観点から上告人らに対し懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる。」
最判平成18年10月06日(平成16(受)918) 上告受理/破棄自判
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●不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した者が背信的悪意者に当たる場合

「甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時点において,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たるというべきである。取得時効の成否については,その要件の充足の有無が容易に認識・判断することができないものであることにかんがみると,乙において,甲が取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても,背信的悪意者と認められる場合があるというべきであるが,その場合であっても,少なくとも,乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があると解すべきであるからである。」
甲の時効取得についての明確な認識までは不要
最判平成18年01月17日民集60巻1号27頁 上告受理/一部破棄差戻し
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●賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の特約が成立していないとされた事例

「賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」
通常の使用に伴い生ずる損耗分については,賃料に含まれているものと考える
最判平成17年12月16日判時1921号61頁 上告受理/破棄差戻し
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2007年01月02日(火) 08:38:29 Modified by streitgegenstand




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