〜オッサンVS幼女 その4〜

初出スレ:6代目90

属性:男(34歳)×少女(9歳)




〜オッサンVS幼女 その4〜

暑いわ。



俺の真上でうつ伏せになっているこいつが完全に寝入ったのを確認。
刺激を与えないように、ゆっくりと真横にずり下ろす。
これで拘束具が外れて自由になった。
再度刺激を生まないように注意を払いつつ体を起こし、ベッドから降りる。
…あの態勢のまま寝っ放しだったら、翌朝寝汗がやばいことになっていただろうな。

外は日が沈み切って、黒い空に月が浮かんでいる。
三日月と半月の中間ほどといった所か。
然程満ちてはいない。
まぁ、あまり細かいことには拘らないでおく。

窓際に座布団を敷いて腰を下ろす。
買っておいた酒を開け、不完全な月夜を眺めながら安いツマミで飲む。

あまり酒は飲む方じゃない。
昔、「思いの外酒に弱くてむしろ驚いた」なんて言われたことまである。
まぁその何とも失礼な台詞を吐いた奴、つまりその当時同伴で飲んだ相手が
意味不明と言っていいぐらいのウワバミだったことを差し引いても、
多分俺は大して酒に強くない。

それでも時々無性に酒を飲みたくなる。

正直、酒を特別美味い物だとは思ってない。
今手元にあるコレ自体はありふれた安酒であり、美味くもないのは当然なのかもしれないが、
馬鹿みたいな値の張る高級酒の類も、一度か二度ぐらいなら口に入れた経験はある。
それでも安物よりは美味いんじゃないか、程度の感想が湧いたぐらいで
「酒への認識を改める」ほどの感動なんて生まれやしなかった。
安酒も高級酒も、酒は酒だろう。

俺は三十過ぎまで生きてきた今でも、単純に「喉を潤す」という目的を果たすのに
最も理想的な飲み物は「冷やした茶」だと、幼少期から変わらず考え続けているぐらいである。
だから普段の飯の際、脇に置く飲み物は冷茶である。
飲食店で食事をする時も、タダで持って来てもらえる冷水だけで最後まで通すことが多い。
「酒を飲むことを主体に飯を食う」という人種がいるが、俺にはそういう連中の気が知れない。

それなのに、たまに思い出したように酒を飲む。
何故かついつい飲む。
さして美味くもない酒を、大した感動を得るわけでもなく、無意味な通過儀礼のように飲む。
本格的に酔ってくる前には飲むのを切り上げるので、
飲酒を楽しめているのかどうか俺自身にすらよくわからん。

全く、何でこんな無駄なことに時間をかけてるんだか。

まぁ頭の中で否定的な意見をいくら垂れ流しても、
しばらく時間を置くと「つい」手を伸ばしてしまう癖を根付かされているという事実こそが
「酒に酔っている」ということなのかもな。

ツマミを食べ尽くし、まだまだ中身が残ったままの酒瓶を片付ける。
食べ物をかじったので一応歯も磨く。

「休日の一人酒」はこれで終わりだ。



そして宿から少し出た所で、運動を始める。
いつもの自主トレである。
飲酒か運動かどちらの方が好きかと問われれば、俺なら迷い無く運動と答える。
アルコールよりこちらの方がよっぽど中毒だ。

以前俺の膝の上であいつがなかなか読書を終わらせてくれなくて延々離れてくれなかった時、
性欲ならぬ運動欲で全身が呻き声を上げていたような記憶がある。
うん、断じて性欲なんかじゃないですよ。
俺は何を強調している。

それにしても。
こうやって鍛錬と闘争の反復作業で長年鍛え続けたこのマッスルボディー。
高めの身長と合わさって我ながら自慢の逸品だとそれなりに自負してはいるが、
だからと言ってオッサンの筋肉と汗の結晶なんぞにベタベタすり付いて、あいつは何が楽しいんだ。

あいつも、あんな華奢な…触ると意外と肉付きが良くてぷにぷにしてるが…身体の子供なんかじゃなくて、
もっと目に見えてわかるような性的魅力を撒き散らす、豊満な肢体を誇る大人の女とかだったら
俺の方はもうちょっと楽しいのかもしれんが。

いや…そのナリであそこまでどうしようもない腐れビッチだったら尚更引くかもな。
あの性格、幼女だから許せるって面も少なからずあると思うし。

まぁいい。
さっさと雑念は捨てて自己鍛練に集中だ。



そこそこの所で切り上げる。
整理体操も終わらせた。
また結構な量の汗を流すことになったが、
もう今日だけで既に二度も風呂に入っていたことを思い出すと、
三度目のシャワーというのも面倒だ。

面倒だが…汚れた体のまんま、あいつの隣で寝るのは余計失礼だろうと思い直す。
やっぱり清潔にしとかないとな、まぁ。
ついでにトイレだ。






しかしまぁ、実際入っちゃうと狭苦しさの無い一人風呂に軽く感動を覚えちゃって、
解放感のおかげで生半可な負の感情が吹き飛ぶ。
人間の感情って結構単純だ。
別に一人風呂ぐらい仕事帰りにはいつもやってるだろうに。
一日二回もあいつと一緒に入ったからだろうか。

さて、お姫様との添い寝に備えた身だしなみは済んだ。
我がままなド痴女への最低限の配慮とも言うが。
俺も律儀なもんである。

ついさっきまでヤクザ衆の報復に応対していたことを思い出す。
住居を嗅ぎ付かれたことが判明した以上、これから当分の間は警戒の色を強める必要がある。
何より、俺はともかくあいつに被害が及ばないように十分注意だ。
今度は「娘を盾にされる」なんて隙すら与えないようにならんとな。
そのためにも、さっきだって改めて自主トレを―――



えーっと。



寝室がもぬけの殻だった。



枕の下に何か挟んであった。
書き置きのようだ。



「娘さんを返してほしかったらここまで来てね☆」
以上、意訳。

…。

おめでとう!
ペット系ビッチ幼女は囚われのお姫様に進化した!!

……。



どうやらトレーニングのためにほんの一瞬だけ家を空けたのが裏目に出たようだ。
どんだけー。
そんな細かい隙まで逃さず見張られてたっつーのかよワッホイ。
連中も暇な奴らだなぁ、そう思うだろブラザー。

とまぁ、ここにいない弟に話を振ってもしょうがないので。




早速秘蔵の…あれ。



我が秘蔵の「得物」まで無かった。
そっちも連中の目に付いて、ついでに持って行かれたようである。



よし。
決まりだ。
全力で潰そう。
最近のいつも通りに素手で行かざるを得ないが、その辺は気合でカバーだ。



愛用の指抜きグローブを両手にはめて、夜の街に乗り出す…

…前に中途半端に残っていた残尿感だけ先に絞り落とすべくトイレに向かった俺は、
我ながら結構冷静なんじゃないかと思った。

オーケィ。
今度こそ乗り出すぜメトロシ…じゃなかった。
サウスタ…どこだよ。

気を取り直して。
さらわれた我が秘蔵品とお姫様を助けるため、危険な街へ―――
行くぜッ!!






意外とワクワクしてるように見えるのは気のせいってことにしといてくれ。








道すがら襲いかかって来た雑魚を潰して潰して道も尋ねながら潰して。

…お前らわざわざ俺一人潰すために集結したのか。
本気で暇なんだな。

そんなわけで、行き先の途中にあるそこそこ広い公園に出くわしたのだ。
…ふと見ると、ベンチに一人のイカした男が座っていた。

ウホッ、いい(強そうな)男…。

そう思っていると、突然その男は俺の見ている目の前で
ゆらりと立ち上がっては周りの雑魚共と一味違うオーラを発し始めたのだ。

「闘(や)らないか。」

そういえばこの公園は不良の溜まり場として利用されることで有名な所
…だったっけ。いや知らんし。

強い奴に餓えていた俺は、誘われるままホイホイと臨戦態勢に入っちゃっ



とか何とか言ってたらいい男がどっかに吹っ飛んだ。
俺の獲物がッ。

「…いきなり何だ?」

いい男との睨み合いに集中していたせいで、
真横から乱入者が割り込みを仕掛けて奴を殴り飛ばした、という事態の認識が遅れた。
マジでいきなり何しやがんだこいつは。

「フン…。」

乱入者は愛想も人相も悪く、オッサンの俺より更に年上っぽいオッサンだった。
ガタイも凄い。俺より更にデカくてマッチョだ。
何でまたこんな夜中、ヤクザ狩りなんぞに精を出す変態がいるのだろうか。俺以外にも。

色々問い詰めたくはあったが、
このオッサン情け容赦無く俺にまで拳向けやがんの。

「おっ…とォ。」

不意打ち気味の初撃を回避。
イヤン手が早いのね。
なんて冗談も通じそうにない威圧感を放ちながら、オッサンはガシガシ攻めてくる。
しかも激しいのね。
とりあえず避けたり弾いたりはできているが、攻撃の鋭さが雑魚連中とは段違いだ。
しかも重てぇ。弾き方悪いと手が痛ぇ。

「調子に――」

やられっ放しは気に食わないので、間を見つけては態勢を直して。

「乗んな!!」

ハイキック。
オッサンの頭を刈る――





――とはいかず、避けたせいでオッサンを背後から襲いかからんとしていた雑魚に命中する。
カウンター気味に繰り出されていたオッサンの拳も俺を通り過ぎて、後ろにいた奴を殴り飛ばしていた。

周りに邪魔されるのが面倒だ。

その見解だけは一致したらしく、俺達は一旦お互いを無視して周囲の掃除から始めた。
たった今出会ったばかりのオッサンと、流れで共闘する形になる。
オッサン&オッサンVSヤクザ。何だこの暑くて死にそうな構図は。



それなりの数のマフィアやらを潰してきた俺相手ですら、
反撃の隙をなかなかくれなかっただけあって、オッサンはそりゃあもう強かった。
見る見るうちに雑魚の数が減っていったぞ。

一先ず余計なもんは取っ払った。
とっとと仕切り直そうじゃないか。
オッサンに視線を向けると、向こうも俺の存在を視界の中心に収める。

敵の敵なんだからこのオッサンは味方なんじゃないか、と思わんでもないが、
向こうは闘る気満々なんだから応じるのが礼儀だ。

さっきはいきなり獲物を横取りされて憤慨しかけたが、
おかげで予想外の強敵と向き合えたので良しとする。
さて、早速――



「君達!!」

横から声が割り入る。

何かまた来た。

「君達はあの連中と戦っているのか?」

声の方に目線をよこす。
また別の中年男性が歩み寄って来ていた。
俺が30半ばに対して、今共闘したデカいオッサンは丁度40程に見えるが、
今度来たこの小太り紳士は50を過ぎたぐらいに思える。

30代のマッスルおじさんと40代の超マッスルおじさんと50代のチビデブおじさんの揃い踏みか。
何だこの中年の祭典は。
誰得。
ニッチ過ぎる。修正が必要だ。

「どうしたおっちゃん。」

一応相手をしておく。
デカいオッサンの方も新しい横槍に対して不満顔だったが
流石に対話を求めてきた相手にまで遠慮無く殴りかかる程、傍若無人ではないようだ。
俺はいきなり殴られたが。


「君達の力を見込んで、どうか頼みがある…!!」

小太り紳士は真剣な面持ちで話し始めた。
紳士マジ真剣。

「うちの娘が奴らに誘拐されてしまったのだ。
 礼は弾む…だからどうか、娘を助け出して欲しい!!」

「…マジか。」

あいつら、うちの大事な可愛いお姫様もとい腐れ幼女ビッチクイーンに飽き足らず、
こんな妙に綺麗に身だしなみを整えた中年紳士の娘までさらってんのかよ。
…それにしても。

「おっちゃん、向こうに何したんだよ。」

…この絶妙に治安の悪い街の中にあって、
紳士のその「妙に綺麗な身なり」がほんのちょっと僅かに引っかかった、というのも本音だ。
そんなお綺麗な服着て、何か恨み買うようなことでもしたのか。俺みたいに。

「まさか。私が言うのも何だが綺麗な娘で、
 前々から悪い虫がつかないかと心配していた矢先にこれなんだよ。」

まぁ、向こうはこう返してきたけどな。

「…よしわかった。」

「おお、引き受けてくれるのか!!」

とりあえずは承諾する。

「俺も丁度娘がさらわれてたんだよ。それを助けるついでで良けりゃな。」

「なんと…お互い災難だな…。」

「礼は弾むんだろ?」

「無論だ。私に聞ける範囲で良ければ、どんな要求でも呑もう。」

気前のいいこった。
その娘とやらを救出した時に、どんな無茶振りをしてやるか考えとくのも悪くないな。

「オッサンは?…俺もオッサンだが。」

さっきからダンマリ続きのデカいオッサンにも話を振っておく。

「…貴様も今、さらわれた身内のことが気がかりか?」

…ああ俺に聞いてんのかそれ。



「一応な。さっきあんたと闘り合ってた時は忘れかけてたが。」

むしろマジで忘れてたかも。
向こうの闘志に当てられて熱くなってたわ俺。

忘れてたと言えば、オッサンに不意打ちで一撃必殺されたいい男も。
いやそっちはどうでも良かったわ、もう。

「懸念を抱えたままの貴様と殴り合っても、到底満足のいく仕合にはなるまい。
 連中を先に叩き潰すぞ。」

あらまだ共闘してくれんの?
ぶっちゃけその辺が頭から消えてた俺なら、あのままでも思う存分戦ってた気もするが、
そんな親切心から俺本来の目的を手伝ってくれるなんてありがたい話じゃないの。
やっぱり本来の目的こそが一番大事の最優先事項だよな。

「おお、君も引き受けてくれるのか?」

「そちらの話に興味は無い。この男とはまともな形で決着をつけたいだけだ。」

何このオッサン。
無口無愛想と見せかけて「勘違いするな」展開まで軽くやってのけるとかどんな高純度ツンデレだよ。
巷に溢れ返った安っぽいツンデレ小娘キャラに見習わせたいわ。

「悪いな、あんた。」

「人質でおびき寄せるという手口も気に食わん。そんな連中は一刻も早く消し去るのが世の為だ。」

案外熱い奴なのか、この人。
とは言え。

「…じゃあ何でさっき俺にも殴りかかったわけ?」

この辺はちゃんと聞いとくべきだよな。

「殴る敵さえいればそれで良かったんでな。」

…こいつが一番暴力的なんじゃないのか。
熱い奴とかいう評価は取り下げるべきだろうか。
こんな人が「世の為」とか口走っちゃっていいんだろうか。

「強い奴と戦えればそれでいいとかそういうクチか?」

「そんな所だ。こうやって貴様の事情を聞くようなこともなければ、あのまま続けていただろう。」

話が通じるんだか、ただの危険人物なんだか、どっちなんだよあんた。
まぁ「強い相手がいればいい」ってあたりは俺も大差無いんだが。



「事情聞いちゃったからには、きちんとした状況で闘り合いたいと。だから手伝うと。」

「…そういうことにしておけばいい。」

出たよ素直じゃない遠回しな肯定。
こいつほんとツンデレだな。
中年の祭典のうち一名はツンデレ属性付きと申したか。
どこまでニッチの最先端突き進むんだよ、この公園の会合。

「無駄に喋り続けるのも時間が惜しい。先に行かせてもらう。」

踵を返されてしまった。
隣の中年紳士の方を見ると、「頼んだぞ!!」とでも言いたげに俺達に熱い視線を注いでいる。

暑苦しい中年三人の祭典はここまでのようだ。
ここから先はダブルマッスルおじさんのバトルカーニバルだな。

「おいオッサン。」

とりあえず俺はツンデレの背中に向かって。

「俺の目的地は逆方向だ。」

道を間違っていることを告げた。



無言のまま戻って来てそのまま俺の横を通り過ぎていったオッサンを、
ちょっと可愛いと思ったのは胸の内に秘めておく。

〜またしても続く〜





関連ページ/〜オッサンVS幼女 その3〜 / 〜オッサンVS幼女 その5〜 /


2012年03月09日(金) 16:56:42 Modified by ID:2C3t9ldb9A




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