家出少年の夏2

初出スレ:2代目89〜

属性:中学生男子と女子大生



―――上も下もない暗い世界。気付いたらそこにいた。
(ねぇ、お父さん。その人、誰?)
あれは…、小学生のころの僕?
(この人はお前の新しいお母さんになる人だ。仲良くするんだぞ)
(よろしくね、優くん)
そうだ、これはあの日の…
(お父さん、新しいお母さんって?)
なんでこの日をもう一度見なくちゃならないんだ…。
(お父さんは、この人と結婚しようと思うんだ。)
ヤメロ
(え?結婚って一人としかできないんじゃないの?)
ヤメロ
(………)
(お父さん?ねぇ、お父さん!?どういうこと!?ねぇ…)
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメ―




「ーッ!!」
僕は布団から飛び起きた。荒い呼吸を整えるために、大きな深呼吸をする。
ここは、どこだ?
まず、目に飛び込んできたのは一枚の絵画。そして、その絵画とベッド以外何もない部屋。
ここは自分の部屋じゃない。そうだ、昨日…。

「家出、したんだっけ」
混乱していた頭が徐々に落ち着きを取り戻す。
そうだ、ここは遥さんの家だ。昨日、僕が頼んで無理やり住まわしてもらったんだ。
ただ、さっきの夢は…。

コンコン

「おい、どうした?さっきの叫び声はなんだ?」
扉の向こうから遥さんの声がする。どうやら起きる時に声を上げていたようだ。
「なんでもありません、寝惚けていただけです」
「…、そうか、凄い寝惚け方だな。朝食ができたから早く下に降りてきなさい。」
「はい、わかりました」
遥さんが階段をおりて行く音が聞こえる。
まいったな、あんな夢を見るなんて。
家出をした場所に泊まったからか?
まぁ、いいや。よくないけど。とりあえず朝食を食べよう。
下におりると、良い匂いがした。
トーストにサラダ、一杯のコーヒーと、なんとも喫茶店らしいメニュー。
「毎朝こんな感じのメニューですか?」
「いやかい?」
「いえ、嫌ではないですけど…。僕の家では朝は和食と決まっていたもので」
「ご飯が食べたいのなら自分で早起きして炊け。私の作る朝食はこれしかない」
「わかりました」
朝からトーストなど食べたことがないので、少々違和感がある。
とりあえず明日から早起きをすることにしよう。

「さて、君に今日から働いてもらう訳だが」
寝間着から制服に着替え、机を拭いている僕に遥さんが話かけてくる。
「君は、家事はできるのかい?」
「一応料理に洗濯、掃除から一通りできますが」
両親親が殆んど家にいなかったため、自然と身に付いた。
「そうか、それは良かった。じゃあ、料理の腕を見たいから終わったら厨房へ来てくれ」
「わかりました」
そう言って遥さんは厨房へ戻っていった。




「それじゃあ、とりあえず得意料理でも作ってくれ」
「わかりました」
とは言ったものの…。
目の前の食材の山を見ると、何を作ればいいのか迷ってしまう。
とりあえず、焼きそばでも作ろう。
まずは、豚肉ともやし、キャベツとニンジンと麺を用意してと…。
うぅ、遥さん、じっと見てるよ。
さっきはああ言ったけど、料理はそんなにできる訳じゃない。
一応親は朝、昼と作ってくれていたし、夜はお金が無いとき以外は外食だった。
まぁ、料理ができるのは嘘ではないが。
とりあえず、キャベツを切って…。

「痛ッ!」

あ、指から血が…。

指を切ってしまった。とりあえず止血をして消毒を…。
そんなことを考えていると、おもむろに遥さんが僕の手をとった。
消毒でもしてくれるのかな?

ペロッ

あれ?なんだか指が温かく滑ったものに包まれた感触が…。
自分の指を見てみると、遥さんが僕の指を舐めていた。
「え、えぇー!?は、遥さん、何やってるんですか!!」
「止血と消毒」
遥さんは、さも当然のように平然と答える。
「も、もういいです、止めて下さい!」
これ以上舐められると、変な気分になってしまいそうだ。
「そんなに怒鳴ることは無いだろうに」
遥さんは、やれやれ、と良いながら舐めるのを止めた。
あぁ、危なかった。
「遥さんは指を切ったらいつもこんな風にするんですか?」
「ああ、つい癖でな」
癖って、あんた…。
「その癖は直したほうがいいですよ」
「努力するよ」
本当にはやく直してほしいものだ。
「ほれ、はやく続きをしろ」
「あ、はい」
そうだ、まだキャベツを切っている途中だったんだ。





二人の夏は、まだまだ始まったばかりである。






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2008年01月02日(水) 17:19:32 Modified by toshinosa_moe




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