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第六十六話「羊をめぐる騒動(6)」

 静まりかえったその店の中では亜子の父、園田勝がグラスを傾けるカラカラという音だけが鳴っていた。  あまりにゆっくりと飲んでいるので、愛人の恭子は心配になって話しかけた。 「ねえ? 美味しい?」 「…当たり前…やろが…12万の…酒やぞ」  実のところ美味い訳がなかった。それでも彼がそう答えたのは愛する女の前での虚勢に過ぎなかった。  だが、それも終わりだった。彼の限界は彼自身がよくわかっていた。そのわかりきっていた限界はついに訪れた。  気力だけで保っていた手足から力が抜けていく。グラスが手から滑り落ちた…

https://seesaawiki.jp/white_album2_ss/d/%c2%e8%cf%... - 2014年11月11日更新

第六十四話「羊をめぐる騒動(4)」

は凍り付いた。 『すっげぇ怖い目…』  亜子の父が怒りに震えているのがありありと見えた。 「あの、お父さん。酔ったから送ってもらったの。その…」  亜子が説明するも、亜子の父は微塵も反応せず部屋の中に入ると、格闘技のような構えをとった。 『あ、やば…』  孝弘がそう感じた瞬間、亜子の父は奇声をあげて孝弘に蹴りかかってきた。 「タックルサリンドーッ!」 「わわっ!?」  すんでのところで身をかわした孝弘のいたソファーにカカト落としが深々とめり込んだ。 「あの、おじさん。どうか落ち着いてくださ…」  カ…

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第六十三話「羊をめぐる騒動(3)」

クレティシャス」入口 ---- 「実は亜子、今日のパーティー会場を従業員割引って言ってすごく安くしてくれたんです。お父さんが経営者というのはあるかも…」  小春の証言を得たミチコは武也たちを連れて歩き出した。 「いや、榎多が近くにいてくれて助かったよ」 「すぐそこのホテルにいたから」  ブティックホテルばかりの通りでさらりとそう言ってのけるミチコに依緒たちは驚くが、武也は呆れたようなため息を返す。 「今日の会に来ていた男とか?」 「惜しいわね。違うわ」 「…まさか、社会人になった今もまだ二股とかやって…

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第六十二話「羊をめぐる騒動(2)」

遡って、数時間前の園田宅 ----  亜子を送りに行った孝弘は度胆を抜かれた。 「こ、ここは?」  エレベーターから降りるとそこは高級ホテルのロビーのようであった。  靴を脱ぐ場所やソファー、テーブルがあるがフロントのようなものはない。  ここは何だ? この中に亜子の家があるのだろうか?  孝弘には、その9階全体がペントハウスになっており、自分はその玄関にいるのだということがわかっていなかった。 「中に入って」 「あ、ああ」  孝弘は訳も分からず靴をぬいで中に入る。  亜子はふらふらと奥の部屋に向…

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第五十五話「結婚を祝う会にて(5)」

あ、いたいた! 孝宏くん。ちょっと来て。亜子がちょっと…」 「なに?」 「亜子ったら、ちょっと飲み過ぎちゃったみたいで…」  美穂子が視線を送った先には亜子がテーブルに突っ伏していた。 「あちゃー…いつもはどうしてるの?」  言外に『いつも女友達同士で飲んだ時のようにしたら?』とのニュアンスを匂わせた孝宏に、美穂子はキツく咎めるような口調で言った。 「彼氏でしょ? 亜子に近づく男の子のヒト、追い払うだけでも大変なんだから」 「園田、いや、亜子の家ってどこ?」 「えっと…すぐそこらしいけど、亜子に聞いて」 …

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第五十二話「結婚を祝う会にて(2)」

ゃべりにぴったりなカクテル? 何にせよ、亜子も酒に弱いわけではない。一杯のカクテルで許してもらえるならおやすいご用だ。 「ええ、いいですよ。何を作られますか?」 「ないしょ。じゃ、あなたの彼氏…あ、いたいた。雪菜の弟君にも手伝ってもらうかな。おーい。孝宏くーん」  亜子はなぜミチコが孝宏と自分の仲を知っているのか不思議がった。もとから「だれとく」のファンだったとかだろうか?  呼ばれた孝宏がやってきた。 「何ですか? えーと、『榎多美智子』さん」 「ミチコでいいよ。ちょっと園田さんに対抗してカクテル作る…

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第五十一話「結婚を祝う会にて(1)」

の5人組がいた。  ドリンクを配っていた亜子は彼女たちの名札を見てみた。  彼女たちの名札には「新婦の中学からの友人」と書かれてあった。 「カクテルです。どうぞ」 「ありがとう…あら、あなた『だれとく』の子ね」 「あはは。そうなんですよ。一番ヘタっぴなんですケド」  亜子の名札には「バンド『だれとく』セカンドギター」「ミス峰城2013 11位」の紹介書きがあった。  バンド『だれとく』が、新郎新婦が出逢ったバンド『峰城大付属軽音楽同好会』の後輩バンドで、『同好会』再結成のきっかけを作ったバンドだという…

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第四十八話「式の前日?」

ドやってるんじゃないの?」 「そうだよ。亜子ちゃんってギターの子と、ほか3人の女の子と一緒にやってるよ。…学祭でも多分やってるよね」 「孝宏のドラム、結婚式でも演奏するし、結構な腕なのか?」 「まあまあ上手だよ。バンドでもわりと評判いいし、バンドの方も去年は『ウケた』みたいだけど」 「あら? 見に行ってあげた方が良かったかしら?」  雪菜はちょっと困り顔になった。去年ウケたのは孝宏の女装だ。今年は何かやるとは聞いてないが… 「どうなんだろ? でも…」  そこで父が口を挟む。 「孝宏も黙っていたところを見る…

https://seesaawiki.jp/white_album2_ss/d/%c2%e8%bb%... - 2013年11月26日更新

第三十五話「夏と海とバンドと(8)」

一回」  誰もいなくなった宴会場で千晶が亜子の弾く『届かない恋』を見ている。  その歌を聞きつけてかずさがやってきた。 「懐かしい曲だ…誰が弾いているのかと思いきや、セカンドギターの子か」  そう言って、亜子の手元の楽譜を手にする。 「この譜は?」 「ひっひ〜。春希の部屋にあった楽譜、勝手にコピらせてもらいました〜」 「おまえか…ったく」  千晶に毒づくかずさに亜子が頭を下げる。 「あ、あの。すいません勝手に曲使わせていただいて」 「ああ、気にするな。使用料は春希と一緒に千晶からもらうさ」 「ええ〜!?…

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第三十四話「夏と海とバンドと(7)」

百合ちゃん。  がんばるセカンドギターの亜子ちゃん。  頼れるドラムの孝宏くん。  そして、私、ギター兼ヴォーカルの小春の5人で〜す」  小春のメンバー紹介に虚を突かれた孝宏が呟く。 『メンバー紹介で名前呼びされるなんて初めてだな』  小春はそのまま曲の紹介に入る。 「これからやる『やけぐいポテトチップ』は昨年の峰城祭で大好評だった曲で、まあ、楽しいというか笑える歌です。とりあえず見て聞いてください。  世界的ピアニストのかずささんにはお耳汚し大変申し訳ございませんが、わたしたち楽しんでやってますんで…

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第三十二話「夏と海とバンドと(5)」

。ふう」  と、孝宏が一息ついたところで亜子がウーロン茶を、美穂子がカルビの乗った皿を孝宏に出す。 「ほら。シェフも食べて食べて」 「さんきゅ〜。…はふ。あ〜、うめ〜」 「皆さんも飲み物いいですか〜?」 「こっちこっち〜。次はカクテル〜。何がある?」  千晶に聞かれた亜子がクーラーボックスを覗く。 「スクリュードライバーに、ジントニックに、モスコミュール、マンハッタン、カシスソーダにモヒート、サイドカー、あとは…」 「モヒート! 海の男はラムを呑まなきゃね〜」  千晶の注文に亜子は嬉々としてカクテル缶を…

https://seesaawiki.jp/white_album2_ss/d/%c2%e8%bb%... - 2013年09月04日更新

第二十七話「遠雷の予感(5)」

に平らげる。  間奏間の演奏を小百合と亜子に任せて両手を使える小春と美穂子に比べ、片手で演奏しつつ食べなければならない孝宏の負担は相当のものだった。  しかも、本番では小春と美穂子が予定していた量を取り損ねてしまった。そのため孝宏が半分以上のポテチを口に詰め込まざるを得ず、のどを詰まらせ顔面蒼白で曲の続きを必死に演奏する孝宏の姿が観客の笑いを誘った。  ついでに、学内サーバーに永久保存された上、峰城祭おすすめ名場面のひとつとなった。孝宏は今や、付属で雪菜が成し遂げた「ミス付属3連覇」に負けず劣らずの伝…

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第二十六話「遠雷の予感(4)」

「あ、小木曽君、この後時間ある?」  亜子が引き留めにかかったが、孝宏はこれ以上厄介ごとに関わるのはごめんとばかりに冷たくあしらう。 「すごくひさびさに誘ってくれて嬉しいけど、悪い。明日昼までにレポートがあるんだ」 「そうなの? …ごめん、レポート頑張ってね」  亜子の声に寂しそうな響きが混じっていることに、孝宏はまだ気付きすらしていなかった。 ---- レッスンスタジオ近くの居酒屋 ---- 「ではでは新曲の仕上がりを祝って、乾杯! 小木曽も呼べたら良かったけど、とりあえず祝おう〜」  早百合が…

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第二十四話「遠雷の予感(2)」

らってグッディーズに来た。  念のため、亜子と孝宏の件の事件の目撃証言を得るためである。  休憩室で中川から事の一部始終を聞かされ、小春は胸をなで下ろした。 「じゃあ、小木曽は全然気にしてないって感じですか。良かった…」  亜子は『小木曽を怒鳴りつけてしまった』と言っていたが、傍目からは『やや控えめな声で抗議じみたコトを言って不機嫌な様子で帰っていった』くらいにしか見えないものだったらしい。  その後、中川は「さっきの彼女バンドの子? 付き合ってるの?」などとからかってみたらしいが、孝宏から『面白い』反…

https://seesaawiki.jp/white_album2_ss/d/%c2%e8%c6%... - 2013年05月19日更新

第二十二話「だれとくな合宿計画」

「ねえ、今度の合宿なんだけどさぁ…」  亜子が恐る恐る口にした。 「小木曽君も呼んだほうがいい、と思うの」  その場にいたバンド「だれとく」のメンバーは顔を見合わせた。  バンド「だれとく」は2年半前、小春、早百合、亜子、美穂子の4人が組んで結成したバンドだった。  雪菜のバレンタインライブを見て感動した4人が「私達も大学入ったらやろう!」と思いついたのがきっかけだった。  小春がメインギター兼ボーカル、早百合がベース兼ボーカル、亜子がセカンドギター、美穂子が作曲とキーボードを担当した。  楽器の…

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