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npcの小説



 お屋敷のキッチンで、甘い香りに釣られたご主人様にティルルはお菓子を作っていた。
「そう言えばティルルって何でメイドになったの?」
 その質問にティルルは記憶を遡る、それはまだご主人様が生まれるよりも前だった。



 地面のいたるところがひび割れ溶岩の暴れ出る火山、地獄のような光景を似つかわしくない瀟洒なメイドが歩いていた。ロングスカートのクラシックなメイド服に、眼鏡をかけたメイドは町を歩けば100人中120人が振り返るような美人であったが、そのメイドについて特筆すべき点はそこではない。常人であれは呼吸をするだけで肺が焼け爛れる環境で、そのメイドが着るクラシックなメイド服には汚れ一つなかった。
『何だ貴様、無断で我の領域に踏み入るとはそれなりの覚悟あってのことだろうな』
 地鳴りのような声でメイドを迎えたのは、赤黒の鱗に翡翠色の角を持つドラゴンだった。『焔(フランメ)』の化身とも言える姿は、常人であれば傍に寄るだけで焼け死ぬような熱気を放っていた。
 ドラゴンは幻想種の中でも頂点に立つ種族であり、また『焔(フランメ)』はその中でも間違いなく上位に位置する存在だ。
『名乗れ女、冥途へ逝く者への手向けだ。か弱い人の身には余るこの火山へ乗り込んだ蛮勇を認め、名前を残すことを許そう』
 ドラゴンの威圧で、炎のマナが吹き荒れ周囲一帯の空間が歪む。
 対してメイドはあくまで優雅に、スカートを摘まんでお辞儀をする。
「私はハスキー、やがて現れるご主人様の為に同胞を勧誘しています。貴女も主に使えませんか?」
『世迷言を、我が人間如きに仕えるなど有り得ぬ。不愉快だ、その妄言は貴様の命で贖って貰うぞ』
「その殺気、膨れ上がるマナ……、まさに『焔(フランメ)』そのもの。合格です、貴女はメイドになって頂きましょう。拒否されるようでしたら、力ずくでも」
 ハスキーが隠していた自身のマナを解き放つ。それは『焔(フランメ)』に勝るとも劣らないマナ、『焔(フランメ)』の表情が初めて動く。
『まさかとは思ったが……、貴様もドラゴンだと言うのか。良かろう、ドラゴンの姿に戻るまで待ってやる』
「いえ、貴女を叩きのめす程度であればこの姿で充分でしょう」
『…………そうか。ならば己の力に驕ったまま消し炭になるがいい!!』
 『焔(フランメ)』が高熱のブレスを吐く――前にハスキーが『焔(フランメ)』に肉薄する。
「悠長ですね?」
 中段の崩拳、ハスキーの拳が突き刺さり、衝撃が伝って『焔(フランメ)』の背中の肉が弾け飛ぶ。
『グッ、貴様ァ!』
 距離を取るために『焔(フランメ)』が繰り出した尾による薙ぎ払いは大地を抉るが、ハスキーにあっさり受け流される。化勁、コロの原理で力を受け流す技だ。絶好の位置からハスキーが二撃目の発勁、咄嗟に『焔(フランメ)』が挟み込んだ右腕が自慢の爪ごとグシャグシャに破壊される。
『グラァアアアアアア!!』
 ドラゴンの翼による風起こし、それだけでハスキーが吹き飛ぶことはないが、先の薙ぎ払いで抉れた地面から砂埃が嵐の様に舞い上がりハスキーの視界を遮る。その一瞬の隙で『焔(フランメ)』は上空まで飛び上がり、砂煙で消えた地面を全て焼き尽くす渾身の灼熱を吹き出そうと――
「――翼があるんですもの、距離を取るなら上空ですよね」
 ハスキーの声が『焔(フランメ)』の頭上から響いた。虚を突いて決めに来る瞬間、それを待っていたのは『焔(フランメ)』だった。
『かかったな!』
 『焔(フランメ)』の狙いはハスキーを捕まえること、無事な左手でハスキーをその両腕ごと握り締め動きを封じる。超至近距離による単純な膂力勝負、そこに持ち込むことが『焔(フランメ)』の狙いだった。
 火山の縄張り争い、炎に耐性を持つ火竜同士の戦いにおいて灼熱のブレスは決め手にはならない。ドラゴンの中で比較しても抜きんでた筋力と強靭な肉体が、火山の主として他の火竜を捻じ伏せた『焔(フランメ)』が持つ真の武器だった。
『このまま握り潰してくれる、これなら受け流すことも出来まい!』
 ここまでで見せた『衝撃を打ち込む技』も『攻撃を受け流す技』も使えまい、『焔(フランメ)』はハスキーを潰そうとギリギリと左手の力を強める。
 ぐしゃり、骨が圧し折れ肉が潰れる音がする。
 勝敗を分けたのは――『武術への理解』の差だった。
「寸勁、という技です。メイド業の合間に教えてあげましょう」
 ハスキーを拘束していた『焔(フランメ)』の左手が滅茶苦茶に壊れる。自由になったハスキーの発勁が、『焔(フランメ)』の逆鱗を貫いた。
 地面に叩きつけられて意識を失う『焔(フランメ)』が最後に聞いたのは、「そうですね、ス『ティルル』ームメイドがまだいないのです。お菓子作りとか得意でしょうか……?」というハスキーの呟きだった。



「そうですね、私がメイドになったのはハスキーにそれはそれは乱暴にぶちのめ……」
 何時しかすっかり慣れたお菓子作りを続けながら、ティルルはご主人様にメイドになった経緯を説明しようとする。そこでティルルの目に入ったのは、いつの間にやらにっこりとした笑顔でご主人様の後ろに控えるハスキーの姿だった。
「……えっと、いや、ハスキーに説得されたから。ですね、はい」
 へー、と口を開けるご主人様をハスキーが後ろから抱きかかえる。
「ティルルの邪魔をしてはいけませんよ、ご主人様」
 そう言ってハスキーはご主人様とキッチンを出て行った。危ない危ないとティルルは胸をなで下ろす。ハスキーに睨まれることもだが、それ以上に過去の戦いぶりを話してご主人様に嫌われることが怖かった。自分の作ったお菓子を笑顔で頬張るご主人様を思い出す。今の自分は火山の主『焔(フランメ)』ではなく、ご主人様を愛するメイドのティルルなのだ。

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