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作者:せきつ生花
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ペルレイノの繁華街
悲しい静寂が包み込んでいたこの街は久方振りの活気に満ち溢れていた
人々は口々に言う

「レイノ…あの人が消えた!」「レイノ…あの人がいなくなった!」

未だにその名を呼べぬのは長らく続いた圧政故か
だが人々の顔は晴れやかで希望に満ちていた

そんな盛況の中を潜り抜けるようにスルスルと泳いでいく人魚姫が一人
シェイレーンである

───

「人魚姫たるもの、麗しさと美しさと可憐さを大切にせねばな」

それがあの男──レイノハートの常套句
レイノハートは私達に厳しい掟を強いていた
身嗜み、作法、趣味、水浴びの時間、朝起きる時間に夜寝る時間……ありとあらゆるものを管理し、私達に強制した
その中には当然食事も含まれていた

「ああ〜っ!枕の下はダメです〜!見逃してくださいぃ〜!」

メイルゥが枕下に隠したお菓子を没収され泣き喚く横で、私も密かに不満と苦痛を溜め込んでいた
なぜこんなナルシスト男に私達の自由が奪われるのか
私達は好きなことを嗜み、好きな時間に寝て、好きなものを口にしたい
そんな気持ちを抑圧し続けた暗く長い夜

永遠に来ないと絶望していた夜明けは突然に訪れた
不埒な覗き魔と妖精(?)によって……

───

繁華街の隅に位置する黄色い看板のラーメン屋の前
そこで私は静かな歓喜にうち震えていた

「フフフ……来てやったわ……ざまあみなさい!」

これは復讐だ
私からあの男への密かな復讐なのだ

あの男はこの店を嫌っていた
「美しくない」「優雅じゃない」「私の町にふさわしくない」「臭う」「鼻が曲がるようだ」
口を開けば出てくる数々の罵詈雑言の嵐
あの男は私達にこの店での食事をするどころか近づくことさえ禁じた
それほどこの店が気に入らなかったのだ

───

「ヘイラッシャイ!」

「あ……は、はい、いらっしゃいます……」

慣れない接客の挨拶に気圧され、珍妙な返事を返してしまった
思わずうつむく私の顔は、きっと真っ青になってるはず
だってこんなにも顔が熱くて……

「嬢ちゃん……アンタ、レイノ…あの人のとこの人魚姫か……」

「ぁ、はぃ…」

店員は少し同情するような素振りを見せた後、私を席(後から知ったがカウンター席というらしい)へと案内した
あの男によって半ば軟禁状態で過ごしてきた私達ティアラメンツは、人との交流になれていない節がある
店員はそれを汲み取ってか、私に親身に接してくれているようだった

「注文は?」

「えっと……じゃあ……」

[[[呪文を生成してシェイレーンに好きなラーメンを食べさせよう]>https://jiro-spells.web.app/]]

「ヘイお待ち!」

「こ、これが……!」

目の前に出されたラーメンを前に、私は思わず息を飲んだ
これが禁断の食事
未経験の私でもわかる不健康さ
あの男が見たら卒倒するに違いない
私はお箸と……白いスプーン(?)を手に取り、目の前のラーメンに挑んだ

「いただきます」

───

「……うぷっ」

食べても食べても減らない要塞を目の前に、私は思わず呻き声を漏らしてしまった

「おい嬢ちゃん、大丈夫かい?」

「だいじょうぶ…だいじょうぶです……」

味が濃い。そして脂っこい。美味しいけど……とにかく量が多い!
今まであの男主導による「健康と美容に良い食事」ばかりを強制され続けた私にとって、目の前のラーメンはあまりにも強烈な刺激物であるということを否応なしに突きつけられた

「無理だったら残してもいいんだぜ?嬢ちゃんの事情はよくわかってるつもりだ。俺もレイノ…あの人には辛酸を舐めさせられたからよ。辛かったろう?無理しなくてもいいんだぜ?お代はいらねぇからよ……」

「いいえ!食べます……完食します……!」

胃が重い……汗が止まらない……なんか麺がブヨブヨになってる……溢れた涙が真珠になってテーブルの上をコロコロと転がる……それでも私は懸命に箸を進める

聞けば、この店はあの男によって休業に追い込まれていたという
それを聞いた私はなんとしてもこのラーメンを完食すると心に誓った
あの男の横暴による苦しみは、他の誰よりも私達が理解している
だからこそ、私は真っ正面から受け止めなければならないんだ……!

───

「ご、ごちそうさまでした……」

震える手で空になったお椀をテーブルに置く
私はついにラーメンを完食した

「へへっ!ありがとな。美味かったかい?ウチのラーメンは」

「はい……とても美味しかったです」

少し前屈みになりながら私はそう返した
なぜ少し前屈みなのかというと、背筋をまっすぐにするとお腹が痛くなっちゃうからだ

「また来てくれるかい?」

「は…はい……また機会があれば」

店の暖簾を潜り抜け、繁華街へと出る
これは復讐であると共に大きな第一歩だ
あの男に逆らえなかった弱い自分を卒業するための第一歩
少しだけ大きくなれた気がした私は、実際に大きくなったお腹を抱えながら帰路へつくのだった


その夜、メイルゥに息が臭うと言われてしまったのはまた別の話

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