最終更新:
jari198184 2017年07月25日(火) 03:48:12履歴

日本コロムビア製品ページ
Columbia Music Shop
1 咲いてJewel
2 きみにとどけ
3 スカイクラッドの観測者
4 奏(かなで)
5 Reset
6 大きな古時計
7 Near to You
8 ボーナスドラマ
9 咲いてJewel オリジナル・カラオケ
10 Near to You オリジナル・カラオケ
2 きみにとどけ
3 スカイクラッドの観測者
4 奏(かなで)
5 Reset
6 大きな古時計
7 Near to You
8 ボーナスドラマ
塩見周子…周 橘ありす…あ 二宮飛鳥…飛 鷺沢文香…文 速水奏…奏 店員さん…店
周:しりとり! り・ん・ご!
あ:基本ですね。周子さんらしくない。じゃあ…ご…、ごま、です。飛鳥さん。
飛:ま、か…。そうだな、マルドゥークだ。文香さん。
文:マルドゥーク…古代バビロニアで信仰された神ですね。世界と人間の創造主とも言われています。
周:で、マルドゥークの、く!
文:しりとりを失念していました…。では、クセルクセスでお願いします。
奏:す、ね…。
あ:…? なんです? 奏さん。
奏:ストロベリー。
あ:あっ!
周:ストロベリ「イ」、かー。うーん。
あ:な、なんですか、周子さん。
周:…あ、イカナゴ!
あ:な、なんでストロベリーの次にイカナゴ…。ええと、じゃあ、ご…ゴリラ!
飛:ラ、ラ…ライオン、ハート。
文:ライオンハート。イングランド王、リチャードI世。獅子心王のことですね。
奏:ふふっ。文香としりとりをすると、不思議と雑学が身につくわね。
文:そう、ですか。飛鳥さんの言葉が興味深くて、つい…。
飛:ボクはただ、何の事は無い普遍的な単語を言ったつもりだけどね。
周:ハイ次。文香ちゃん、とー。
文:…はい。と、と…。
飛:なんだい、文香さん?
文:トートロジー。
奏:飛鳥のキーワード、取られちゃったわね。じゃあ、私は…い、イチゴ。
周:あー、先に言われたー。しょうがない、じゃあ、ゴゴ! 午前と午後の、午後。
あ:午後!? 周子さん、さっきから「ゴ」ばっかりじゃないですか…。
周:えー? そう? 偶然、偶然♪
あ:もう…。ご、ご…あっ、ゴマフアザラシ!
飛:し。し…シンデレラ。
文:今度は童話ですね。ラ、ラ…。
飛:いや、違う。ちょっと待ってくれないか?
文:…はい?
飛:シンデレラ、だけではどうも足りない気がする。何か、もっとこう、心を掻き立てられる尖ったワードが…。
周:いやー、タダのしりとりなんだけどなー。
奏:飛鳥なりのこだわりがあるのね。
飛:大事なことなんだよ、奏。
あ:奏さん、です。
飛:…大事なことなんだよ、奏さん。
奏:ふふっ。
あ:…あっ! そろそろ、開場しそうですよ!
文:いよいよですね。
飛:シンデレラ…灰被り?
周:入場時間までの暇つぶしとはいえ、結構面白かったね、しりとり。
奏:選ぶ言葉にも、個性が出るものね。
文:…しかし、なぜアルバムレコーディングの打ち上げが、遊園地だったのですか?
周:ノリよ、ノリ♪
奏:ノリね。
文:…はぁ。
あ:あっ! 門が開きました! ほら、あそこっ!
文:…ありすちゃん、楽しそうですね。
あ:はいっ! …あ、その、すみません。子供っぽくて…。
文:年相応ではないかと。
あ:は、はいっ。
奏:子供らしくしてもいいのよ。子供なんだから。
あ:奏さん…。私、そんなんじゃありません。
奏:ふふっ、ごめんなさい。じゃあ、みんなではしゃぎましょうか。
周:イエーイ! よっ、遊園地日和!
あ:一人ではしゃいでいると、なんだかヤケを起こしているみたいですね。
周:だから、ありすちゃんもはしゃいでよ! ほら、せーのっ♪
あ:ええっ? じゃあ…、い、イエーイ!
周:イエーイ!ふふふっ。
奏:ところで、一人、足りないのだけど。
文:…そういえば、飛鳥さんが。
周:うーん。あ、あそこ? 飛鳥ちゃん、流されてない?
奏:はぁ、もう……。飛鳥、こっちよ。
飛:ああ、奏さん。…シンデレラって、他に何か言い方があったかな?
周:まだやってたんかーい。
奏:そういうことなら、文香に聞きなさい。
文:…はあ。シンデレラ…そうですね、フランス語では「サンドリヨン」と言いますし、ドイツ語では「アッシェンプッテル」とも言います。
…前者はシャルル・ペローによる作で、後者はグリム兄弟が書いたものが有名ですね。
周:詳しいなぁ。
飛:ボク個人としてはドイツ語の響きは好きだが、コレに関してはサンドリヨンの方が好きかな。
奏:飛鳥、しりとりは終わりよ。シンデレラもいいけど、まずは目の前のこれを楽しみましょう。
飛:…そうだね。つい言葉遊びに夢中になってしまった。
周:飛鳥ちゃんは友達と遊園地とか、遊びに行ったりすんの?
飛:無いな。いや、全く無いと言えば嘘になるけど、付き合いの範疇だね。
周:へー。
飛:其処に存在したけれど、心は其処に居ない様な。昔からそうなんだ。遊園地に来ても、ボクだけは夢の世界の住人に非ず。
ヒトの創った仮初の楽園には、ボクの興味は惹かれなかった。
あ:…どういうことですか?
周:つまり…遊園地、あんま好きじゃなかったー?
飛:おっと、入場前に無粋な発言だったね。安心して欲しい、今はそんなこと思っていないから。
奏:ふーん?
飛:奏さんまで。ホントだよ、今のボクはアイドルをしているからね。謂わば夢を与える側になった。そうなると、見えてくるモノも違ってくる。
周:ほーう。夢を与える側ときたか。
飛:ああ。昨日の晩は寝付きが悪かったぐらいではあるんだ、実を言うとね。…このぐらいで勘弁してくれないか。
奏:ふふっ、了解♪
あ:私も、昨日は楽しみでなかなか眠れませんでした!
周:しゅーこちゃんも昨日は8時間しか寝れなかったよー♪
あ:それは正常です。
周:ありすちゃん、ナイスツッコミ! 育ってるねー。
あ:ああ、頭を撫でないでください。それに橘です!
文:…私も、最近手に入れた本が中々面白くて、つい夜更かしをしてしまいました。
周:遊園地が楽しみで眠れなかったんじゃないんかーい。
あ:それも文香さんとしては、正常ですね…。
奏:あなた達、体調管理はしっかりしなさいよ。
周:そーいう奏ちゃんも、目の下のクマはちゃんとコンシーラーで隠したのかにゃー♪
奏:その手には乗らないわよ、周子ちゃん。
周:どれどれ。うーん……お、グロス変えた?
奏:あら、分かる?
周:うん。水ようかんみたいで、美味しそう♪
奏:水ようかん…あなたね…。
あ:……!
周:おっ、列が進んだ進んだ。それじゃー皆の衆、レッツゴー! ほ〜ら、飛鳥ちゃん、ゴーゴー!
飛:周子さん。慌てなくても遊園地は逃げないさ。そう何時だって逃げるのは現実から目を背ける…………。
あ:……。
文:…どうかしたんですか? ありすちゃん。
あ:いえ、なんでもないです。
文:……?
奏:その顔は、私に用かしら。気になるじゃない、教えて?
あ:その…奏さんと周子さんの顔が近くって。
奏:ふふっ。教育に悪かった?
あ:あの…、奏さん、いつもみんなに…キスしそうですし。
奏:…イヤね。誰にもは、迫らないわよ。それで?
あ:けど、周子さんとはそういうこと、あんまりしないと思ってたので。
奏:ああ…。そんなこと。
あ:ご、ごめんなさい。変なこと聞いて。
奏:別に、ホントにキスするわけじゃないの。からかってるだけ。ただ…そうね。いつも彼女に迫らないのは…。
あ:…はい。
奏:本当にしちゃったら、困るでしょ?
あ:……。
文:…未知の、領域です。
あ:そう、ですね…。
周:いやー、やっぱ遊園地といったらコレでしょー♪ 絶叫マシーン!
奏:まあ、定番ではあるけど…意外と早いわね。
文:…私、こういったものに乗るのは初めてなのですが。
あ:文香さん、ジェットコースター初めてなんですか?
文:…はい。…そもそも、遊園地自体あまり来た経験がなく。
飛:初体験と云うモノは恐ろしいこと…それが危険を伴うモノなら尚更だ。だが、ソレを隠す必要は無い。何故ならそれは人類皆、共通に持つ感情なのだからね。
周:お、飛鳥ちゃんジェットコースター苦手ー?
飛:…空を自由に羽ばたくのはヒトの夢ではあるが、アレはベルトに固定されて否応無く振り回される。別物だ。
奏:確かに、あの拘束される感じは私も好きじゃないな。
周:おや、みんな乗り気じゃないのかい?
文:いえ、やります。…世の中には実際に体験してみなければ分からない事も、あります。
飛:「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言うが、文香さん、ボクは貴女を愚者とは思わない。其れは勇気有る者の決断だ。
文:…鉄血宰相ビスマルクが言ったとされる言葉、ですね。…実際には「自身の誤りを避けるために、他者の経験から学ぶを良しとする」ということらしいですが。
周:ほいほい、難しいことは乗ってから考えよー。早く並ばないと混んじゃうよー。
あ:周子さん! 園内は走ってはダメです!
周:おっとっと。ふふ、ありすちゃんは真面目だねー。
あ:タ・チ・バ・ナです。それに、並ばなくてもちゃんと乗れます。これを見てください。
周:うーん、ありすちゃんのタブレット? えー、「ジェットコースター用ファストパス5名分。お待ちにならないでご乗車になれます」…!? マジで!
あ:マジです。
周:でかした、ありすちゃん!
あ:橘です!
周:ふふー。ありがとうございますー、橘大明神様ー♪
あ:大明…なんですかそれは。
奏:へー。ファストパスってネットで予約できるのね。
文:…ありすちゃん。なんだかよく分かりませんが、凄いです。
あ:現地の事前調査は当然です! このまま乗り場に向かいましょう。
飛:へー、流石と言うべきか。ワンダーランドの迷い子たるアリスは、どうやら迷えるボクらの導き手だった訳だ。
あ:…あ、あの、二宮さん。
飛:飛鳥。ボクは飛鳥だ、ありす。
あ:その、私その名前、ちょっと…。
飛:名前? キミのかい? ありす、素敵な響きじゃないか。ありす、不思議の国のアリス。少女の象徴。愛らしさと優しさ、好奇心の塊。
現実と空想世界の狭間に生きる者として相応しい。ファンタスティック且つロマンチックだ。嗚呼、ボクの言葉では巧く言い表せない。いや、言葉は要らない。
名は体を現すと言うが、其れもまた然りだ。君自身を見ていればそれは分かる! ありす。
あ:は、はぁ…。
奏:ふふっ。圧倒されちゃったわね。
文:…私もありすちゃんの名前は、ありすちゃんらしいと思います。
飛:文香さんの名前も然りだ。正に書の申し子。
文:…ありがとうございます。本の香りは好きですね。
周:飛鳥ちゃんの名前もいいよね。古風というか、和的な感じで。
飛:そうかい? 漢字の組み合わせは悪くない。鳥が飛ぶと書いて飛鳥。呼び方も熟字訓であるところがいい。飛鳥の語源については…。
文:…詳しく話すと長くなりますが。
飛:今度、お茶でも飲みながら文香さんに聞くとしよう。
文:…はい、楽しみにしています。
周:おっと、コースター乗り場、着いちゃった。
奏:さて、この人数だと…2、2、1。1人あぶれちゃうわね。
周:まあ、どうせみんな固まって乗るんだけどね。あっ、ちなみに今なら先頭の席になりそうだよ。
あ:先頭って…一番怖いんじゃないんですか?
周:見晴らしいいもんねー。
文:…ジェットコースターは一番後ろの席が最も加速を感じ、恐怖を覚えるそうです。
奏:文香、わざわざ調べたの?
文:賢者は歴史に学ぶのです…。
周:なるほどねー。
飛:ここは、高いな。それに、風が騒がしい…。
周:どうだい、飛ぶ鳥の名を持つ少女よ。
飛:周子さん、そうだね、一つ分かったことがあるかな。
周:なんだい?
飛:人は、飛べない。
周:うむ。
飛:どれ程の研鑽を積もうとも、高所による恐怖感は拭えないのか。いや、これはむしろ高揚している? ボクは興奮しているのか?
周:飛鳥ちゃん♪
飛:周子さん。吊り橋効果というものを知っているかい。…え。
周:ふふー♪
飛:ちょ、ちょっ、待ってくれないか! 周子さ…、引っ張ると危な…!
周:はい、飛鳥ちゃんはここね。
飛:えっ、なんで先頭に乗るんだ。皆は後ろ…ありす、なんで目を背ける。ほら、奏さんの隣、空いてるじゃないか。ボクは後ろでも構わな、ちょっと、周子さん! 周子さ…。
(安全バーの降りる音)
飛:…あっ。
奏:飛鳥、ベルトにしっかり捕まって。
(ブザー音)
周:出発、進行〜!
飛:飛鳥の名を持つものなら征ける。ボクは飛べる、ボクは飛鳥、鳥になるんだ、鳥に…。
文:ジェットコースターとは通称で正式にはローラーコースターであって、基本的に動力は存在せず最高到達点に達した車両が傾斜を下降することによって、
位置エネルギーが運動エネルギーに転換され、山や谷やカーブを駆け巡ることにより…。
あ:だだっ、だ、大丈夫です。たっ、た、た、高いですね…高いです。大丈夫です…ううっ…。
奏:風が涼しいわね。
(コースターが停止する音)
あ:ひっ!?
周:ニヤリ♪
あ:えっ!?
(コースターが急降下する音)
周:イエーイ! 行け行けー!
あ・飛・文:〜〜〜〜〜!!!
奏:ふふふっ♪
周:う〜んっ!ふふっ♪満・足♪
奏:なかなか楽しかったわね。
周:もっかい乗りたいところだけど…。ふふっ。おーい、大丈夫ー?
あ:だ、だいじょうぶです…。
文:…はい、…その…はい。
周:ゆっくりでいいよー。飛鳥ちゃん、肩貸そかー?
飛:すまない、周子さん…。
周:…鳥になれた?
飛:一つ、分かった事がある。
周:うん。
飛:人は…鳥になれない。
周:そらそうでしょー。
文:…周子さんが。
周:ん?
文:周子さんが落ちる時、急に後ろを振り向かれたので、心臓が止まるかと思いました…。
あ:周子さん、なんで後ろ振り向いたんですか?
周:えー? だって、みんなどんな感じなのかなーって、飛鳥ちゃんは固まってたしー?
文:…凄いです。
あ:もうっ、びっくりしたんですからねっ!
周:あははっ♪ めんごめんごー。
奏:でも、目の前に見知った顔があると、ちょっと安心するわよね。
あ:それは…まあ、ちょっとだけ。
周:こんな顔で良ければ、いつでもどうぞー。
奏:周子だけどね。
あ:そうですね。
周:へこむわー。
飛:周子さん。
周:ん?
飛:ありがとう、もう大丈夫だ。
周:平気? よっ、と。さて、お昼まで時間あるし、もいっこくらいなんか行きたいねー。
奏:次は…激しくないのがよさそうね。
周:うーん…。メリーゴーランドとか、コーヒーカップとか?
飛:メルヘンだね。
あ:子供っぽいですね。
周:いやいや、コーヒーカップは戦場だよ? 甘く見てたら、死ぬよ〜?
文:そんな、命の危険を伴う乗り物なのですか…?
奏:どれだけ回す気なのよ。
周:そりゃーもう、限界まで♪
奏:周子のカップには乗りたくないわね…。
周:まーまー。呉越同舟って言うし。
文:意味が違いますね。
周:うーん、それじゃあどうしよっかなー。地図地図、パンフ…。…おおっ、いいのがあった。ここにしよう! はーい、みんなー。引率の周子先生に、ついてきー♪
あ:嫌な予感がします…。
飛:羊飼いの羊は、ボク達だったのか…。
文:…恐怖、怪奇の館。…戦慄、血みどろ、衝撃。
あ:嫌です。
周:早っ!
奏:ありすちゃん、お化け屋敷、苦手?
あ:苦手っていうか…はっきり言って、こんなもの子供騙しです。
周:怖いん?
あ:怖くありません!
周:じゃあいいじゃん。入ろうよー。
あ:…み、みなさんはどうですか? こんな人を驚かすためだけのアトラクションに行きたいんですか?
文:…これがお化け屋敷ですか。外装の塗装が禿げていたりして、雰囲気がありますね。
あ:文香さん…。
奏:割と興味あるみたいね。
文:この、ヒュードロドロといった音は…何の音なんでしょうか。
周:うーん、考えたこともなかったなあ。お化けの出てくる音?
文:…霊的な存在が物理現象として現れる際に、音が生じるのでしょうか?
奏:飛鳥は? 嫌ならやめるけど。
飛:闇に生きる者として、最も恐れるべきは幽霊やお化けじゃない。
奏:ん?
飛:真に恐ろしいのはヒトさ…。
奏:そうね。
飛:そういうことさ。
周:つまり、全会一致で入るってことでいいかな?
あ:ええっ。
飛;えっ。
周:大丈夫、大丈夫。お化け屋敷なんてのは雰囲気を味わうもんだって。もし本当にお化けが出ても、シューコちゃんが追っ払ってあげるから。
文:周子さん、そのような芸当ができるのですか?
奏:確か、前にそんな感じの仕事してなかった?
周:お稲荷さんの狐のことかな?
文:お狐様がいらっしゃるなら、心強いですね。
周:へっへー、妖狐かもしんないよ? けど、うちには橘大明神もいるしねー?
あ:…いません!
飛:…どうしても行くのか。
奏:飛鳥、無理して付いてこなくてもいいのよ。ここで待っていても…。
飛:いや、ボクだけ逃げる訳にはいかない。5人で遊園地に行ったのにボクだけ怖気付いたなどと言われたくはない。
奏:…飛鳥。
飛:それに、死なば諸共だ。
周:死ぬ前提かい。ふふっ、じゃあ行くよ。みんなはぐれないようにね。もしはぐれたら…。
あ:はぐれたら…?
周:係の人に誘導してもらってね。
あ:……はい。
周:いや〜、満喫〜♪
あ:怖くない怖くない怖くない怖くない……。(怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない…)
文:ありすちゃん、もう大丈夫ですよ。ありすちゃん。
奏:中々楽しかったわね。
周:奏ちゃんはそればっかりやなぁ。
奏:だって本心ですもの。
飛:おかしい。驚かすだけで十分じゃないか。どうして彼らは追いかけてくるんだ。そんなことをされたら、逃げるに決まっているじゃないか。
周:飛鳥ちゃん?
飛:逃げざるを得ない状況にしているから逃げたのであって、別に恐ろしかった訳では…。いや、潜在的な恐怖を感じていたのは事実なのか?
やはりそれは(ヒトが持っている恐ろしいということに変わりはないという訳か…。)
周:もしもーし。
奏:あれは自分なりに心の整理をして落ち着けているのよ。しばらく見守ってあげましょ。
周:そうだね。あっちは?
あ:う、うぅ…う、ううぅ……。
文:…大丈夫、ですよ。
奏:あれはあれで。
周:ふふっ。そいじゃあみんな、ご飯食べよっか!
店:失礼します。食後のコーヒーと紅茶、デザートをお持ちいたしました。
周:どうもー。コーヒーの人ー? あ、そっちと、ここと…。
奏:はい。
周:あと、あたしね。紅茶は文香ちゃんたちだね。
文:…はい。
奏:飛鳥、コーヒー。
飛:あ、どうも。
文:…ありすちゃん、いちごのパフェ、どうぞ。
あ:あ、ありがとうございます。
周:葛餅はあたしー。
店:ごゆっくりどうぞ。
奏:周子、あなたまだ食べるの?
周:ええやん。こっちのはまた別もんやし。甘いもんは別腹だし。ねー、ありすちゃん。
あ:はぁ…。
周:おー? ついに私もありすちゃん呼びが解禁された?
奏:いえ、あれはパフェをどこから食べるか集中しているだけね。ふふっ、可愛いわね。
飛:奏さんは、コーヒーはいつもブラックなのかい?
奏:ん? …言われてみれば、そうね。お砂糖やミルクは入れないかな。
飛:それは、いつ頃から?
奏;んー、…特に覚えてはいないんだけど。
飛:そうか、いや、ボクもできればブラックでいきたい所なんだけどね。味覚がそれを許さないらしい。
奏:そのうち慣れるわ、身も心も。私もいつだったかは覚えてないけど、ある時思い立って何も入れずに飲んでみたの。そうしたら飲めた。なんてことはなく、ね。
飛:ヒトはいつか慣れるものだ、と?
奏:そうね。でも、時々甘いものが欲しくなる時もある、わ!
周:あー! シューコちゃんの葛餅!
奏:いただき♪ はむっ……あら、美味しい♪
周:でしょう?
奏:そうね。…ね?
飛:そんなものかな。
奏:そんなものよ。
文:…ありすちゃん。…こっちのアイスから食べると、崩れないと思います。
あ:そうですね。でも、クリームとのバランスが…。パフェは戦術なんです!
文:…戦術ですか。
あ:はいっ。
文:…「彼を知り己を知れば百戦危うからず」ですね。
あ:そうです。こんな、感じで…。
文:ふふっ。綺麗によそえましたね。
あ:…あ、えっと、その。文香さん、その…。
文:…何か?
あ:食べたいのでしたら…。
文:…いいんですか?
あ:…はいっ、どうぞ!
文:では、失礼します……。
あ:どうですか?
文:…いちごの酸味とクリームの甘味が程よく、とても美味しいです。
あ:良かったです!
飛:随分と甘い遣り取りだね。
奏:だから、ブラックで丁度いいのよ。
飛:なるほどね。
周:さて、腹ごしらえもすんだことだし。これからどうする? なんか乗りたいものある?
奏:乗り物もいいけど、ショーも見たいわね。
あ:パレードも見たいです。
文:色々有るのですね…。
周:パレードは、夕方過ぎからだね。じゃあそれは見るとして…飛鳥ちゃんは?
飛:そうだな…、ゴーカートなんかどうだい?
周:お、いいねえ。
飛:偶には都会の喧騒を忘れて、風を感じるのも良い。
あ:セリフはカッコいいんですけど、ゴーカートですよね。
奏:文香とか、ハンドルを握ったら性格が変わったりしてね。
文:…私ですか?
周:ブンブーン! オラオラどけどけー! …ふふっ。みたいな?
文:そ、そんな…。
奏:案外ありすちゃんが手加減できなかったりして。
あ:私、違いますよ!?
飛:ふふっ。どの道、1位を取るとしたらボクだ。
周:じゃ、試しに、行こー!
奏:じゃあ、1号車、奏・文香ペア。行くわね。
文:……緊張します。
奏:文香。ハンドルはそんなに強く握らなくていいの。そう、そっと優しくね。踏んだらアクセル、離したらブレーキ。いい?
文:…は、はい。
周:なんか、アレだ。
飛:女教師と生徒、といった感じだ。
あ:……。
周:それじゃあ、行ってらー。
文:離したらブレーキ…踏んだらアクセル…。…進みました。
奏:そうそう、上手。ゆっくりで…って、ちょっ、文香!? 速いわよ!
文:ど、どうしたら…。
奏:ブレーキ! ブレーキ!
文:踏んだら、ブレーキ…!
奏:…! 文香! ブレーキは離すの! 足、離して!
文:す、すみませんっ!
奏:前見て、前!
文:ああっ!
(衝突音)
あ:ああああああ……。
周:よーし、ありすちゃん。2号車も行くぞー♪
あ:周子さん、安全運転でお願いしますよ。
周:ありす、君のために、助手席を開けておいたんだ。
あ:後ろがつっかえますから、前を見て運転してください!
周:はーい。それじゃあ飛鳥ちゃん。
飛:ああ、直ぐに追いかけるよ。
周:あたしに、付いてこれるかな?
飛:ふっ、言ったね。望むところだ。
あ:ちょっと、周子さん、飛鳥さん、なに…ひ、ひゃあああぁ!
周:おっしゃー! 奏ちゃん、文香ちゃん、待ってろー!
あ:しゅ、周子さん! 飛ばしすぎです〜!
飛:さて、ボクも行くとするかな。風の吹くまま、気の向くまま。人生とは、コースのないレースの様なもの、ってね。
(エンスト音)
飛:……あれ、おかしいな。ちょっと皆、待ってくれないか! おーい!
周:しりとり! り・ん・ご!
あ:基本ですね。周子さんらしくない。じゃあ…ご…、ごま、です。飛鳥さん。
飛:ま、か…。そうだな、マルドゥークだ。文香さん。
文:マルドゥーク…古代バビロニアで信仰された神ですね。世界と人間の創造主とも言われています。
周:で、マルドゥークの、く!
文:しりとりを失念していました…。では、クセルクセスでお願いします。
奏:す、ね…。
あ:…? なんです? 奏さん。
奏:ストロベリー。
あ:あっ!
周:ストロベリ「イ」、かー。うーん。
あ:な、なんですか、周子さん。
周:…あ、イカナゴ!
あ:な、なんでストロベリーの次にイカナゴ…。ええと、じゃあ、ご…ゴリラ!
飛:ラ、ラ…ライオン、ハート。
文:ライオンハート。イングランド王、リチャードI世。獅子心王のことですね。
奏:ふふっ。文香としりとりをすると、不思議と雑学が身につくわね。
文:そう、ですか。飛鳥さんの言葉が興味深くて、つい…。
飛:ボクはただ、何の事は無い普遍的な単語を言ったつもりだけどね。
周:ハイ次。文香ちゃん、とー。
文:…はい。と、と…。
飛:なんだい、文香さん?
文:トートロジー。
奏:飛鳥のキーワード、取られちゃったわね。じゃあ、私は…い、イチゴ。
周:あー、先に言われたー。しょうがない、じゃあ、ゴゴ! 午前と午後の、午後。
あ:午後!? 周子さん、さっきから「ゴ」ばっかりじゃないですか…。
周:えー? そう? 偶然、偶然♪
あ:もう…。ご、ご…あっ、ゴマフアザラシ!
飛:し。し…シンデレラ。
文:今度は童話ですね。ラ、ラ…。
飛:いや、違う。ちょっと待ってくれないか?
文:…はい?
飛:シンデレラ、だけではどうも足りない気がする。何か、もっとこう、心を掻き立てられる尖ったワードが…。
周:いやー、タダのしりとりなんだけどなー。
奏:飛鳥なりのこだわりがあるのね。
飛:大事なことなんだよ、奏。
あ:奏さん、です。
飛:…大事なことなんだよ、奏さん。
奏:ふふっ。
あ:…あっ! そろそろ、開場しそうですよ!
文:いよいよですね。
飛:シンデレラ…灰被り?
周:入場時間までの暇つぶしとはいえ、結構面白かったね、しりとり。
奏:選ぶ言葉にも、個性が出るものね。
文:…しかし、なぜアルバムレコーディングの打ち上げが、遊園地だったのですか?
周:ノリよ、ノリ♪
奏:ノリね。
文:…はぁ。
あ:あっ! 門が開きました! ほら、あそこっ!
文:…ありすちゃん、楽しそうですね。
あ:はいっ! …あ、その、すみません。子供っぽくて…。
文:年相応ではないかと。
あ:は、はいっ。
奏:子供らしくしてもいいのよ。子供なんだから。
あ:奏さん…。私、そんなんじゃありません。
奏:ふふっ、ごめんなさい。じゃあ、みんなではしゃぎましょうか。
周:イエーイ! よっ、遊園地日和!
あ:一人ではしゃいでいると、なんだかヤケを起こしているみたいですね。
周:だから、ありすちゃんもはしゃいでよ! ほら、せーのっ♪
あ:ええっ? じゃあ…、い、イエーイ!
周:イエーイ!ふふふっ。
奏:ところで、一人、足りないのだけど。
文:…そういえば、飛鳥さんが。
周:うーん。あ、あそこ? 飛鳥ちゃん、流されてない?
奏:はぁ、もう……。飛鳥、こっちよ。
飛:ああ、奏さん。…シンデレラって、他に何か言い方があったかな?
周:まだやってたんかーい。
奏:そういうことなら、文香に聞きなさい。
文:…はあ。シンデレラ…そうですね、フランス語では「サンドリヨン」と言いますし、ドイツ語では「アッシェンプッテル」とも言います。
…前者はシャルル・ペローによる作で、後者はグリム兄弟が書いたものが有名ですね。
周:詳しいなぁ。
飛:ボク個人としてはドイツ語の響きは好きだが、コレに関してはサンドリヨンの方が好きかな。
奏:飛鳥、しりとりは終わりよ。シンデレラもいいけど、まずは目の前のこれを楽しみましょう。
飛:…そうだね。つい言葉遊びに夢中になってしまった。
周:飛鳥ちゃんは友達と遊園地とか、遊びに行ったりすんの?
飛:無いな。いや、全く無いと言えば嘘になるけど、付き合いの範疇だね。
周:へー。
飛:其処に存在したけれど、心は其処に居ない様な。昔からそうなんだ。遊園地に来ても、ボクだけは夢の世界の住人に非ず。
ヒトの創った仮初の楽園には、ボクの興味は惹かれなかった。
あ:…どういうことですか?
周:つまり…遊園地、あんま好きじゃなかったー?
飛:おっと、入場前に無粋な発言だったね。安心して欲しい、今はそんなこと思っていないから。
奏:ふーん?
飛:奏さんまで。ホントだよ、今のボクはアイドルをしているからね。謂わば夢を与える側になった。そうなると、見えてくるモノも違ってくる。
周:ほーう。夢を与える側ときたか。
飛:ああ。昨日の晩は寝付きが悪かったぐらいではあるんだ、実を言うとね。…このぐらいで勘弁してくれないか。
奏:ふふっ、了解♪
あ:私も、昨日は楽しみでなかなか眠れませんでした!
周:しゅーこちゃんも昨日は8時間しか寝れなかったよー♪
あ:それは正常です。
周:ありすちゃん、ナイスツッコミ! 育ってるねー。
あ:ああ、頭を撫でないでください。それに橘です!
文:…私も、最近手に入れた本が中々面白くて、つい夜更かしをしてしまいました。
周:遊園地が楽しみで眠れなかったんじゃないんかーい。
あ:それも文香さんとしては、正常ですね…。
奏:あなた達、体調管理はしっかりしなさいよ。
周:そーいう奏ちゃんも、目の下のクマはちゃんとコンシーラーで隠したのかにゃー♪
奏:その手には乗らないわよ、周子ちゃん。
周:どれどれ。うーん……お、グロス変えた?
奏:あら、分かる?
周:うん。水ようかんみたいで、美味しそう♪
奏:水ようかん…あなたね…。
あ:……!
周:おっ、列が進んだ進んだ。それじゃー皆の衆、レッツゴー! ほ〜ら、飛鳥ちゃん、ゴーゴー!
飛:周子さん。慌てなくても遊園地は逃げないさ。そう何時だって逃げるのは現実から目を背ける…………。
あ:……。
文:…どうかしたんですか? ありすちゃん。
あ:いえ、なんでもないです。
文:……?
奏:その顔は、私に用かしら。気になるじゃない、教えて?
あ:その…奏さんと周子さんの顔が近くって。
奏:ふふっ。教育に悪かった?
あ:あの…、奏さん、いつもみんなに…キスしそうですし。
奏:…イヤね。誰にもは、迫らないわよ。それで?
あ:けど、周子さんとはそういうこと、あんまりしないと思ってたので。
奏:ああ…。そんなこと。
あ:ご、ごめんなさい。変なこと聞いて。
奏:別に、ホントにキスするわけじゃないの。からかってるだけ。ただ…そうね。いつも彼女に迫らないのは…。
あ:…はい。
奏:本当にしちゃったら、困るでしょ?
あ:……。
文:…未知の、領域です。
あ:そう、ですね…。
周:いやー、やっぱ遊園地といったらコレでしょー♪ 絶叫マシーン!
奏:まあ、定番ではあるけど…意外と早いわね。
文:…私、こういったものに乗るのは初めてなのですが。
あ:文香さん、ジェットコースター初めてなんですか?
文:…はい。…そもそも、遊園地自体あまり来た経験がなく。
飛:初体験と云うモノは恐ろしいこと…それが危険を伴うモノなら尚更だ。だが、ソレを隠す必要は無い。何故ならそれは人類皆、共通に持つ感情なのだからね。
周:お、飛鳥ちゃんジェットコースター苦手ー?
飛:…空を自由に羽ばたくのはヒトの夢ではあるが、アレはベルトに固定されて否応無く振り回される。別物だ。
奏:確かに、あの拘束される感じは私も好きじゃないな。
周:おや、みんな乗り気じゃないのかい?
文:いえ、やります。…世の中には実際に体験してみなければ分からない事も、あります。
飛:「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言うが、文香さん、ボクは貴女を愚者とは思わない。其れは勇気有る者の決断だ。
文:…鉄血宰相ビスマルクが言ったとされる言葉、ですね。…実際には「自身の誤りを避けるために、他者の経験から学ぶを良しとする」ということらしいですが。
周:ほいほい、難しいことは乗ってから考えよー。早く並ばないと混んじゃうよー。
あ:周子さん! 園内は走ってはダメです!
周:おっとっと。ふふ、ありすちゃんは真面目だねー。
あ:タ・チ・バ・ナです。それに、並ばなくてもちゃんと乗れます。これを見てください。
周:うーん、ありすちゃんのタブレット? えー、「ジェットコースター用ファストパス5名分。お待ちにならないでご乗車になれます」…!? マジで!
あ:マジです。
周:でかした、ありすちゃん!
あ:橘です!
周:ふふー。ありがとうございますー、橘大明神様ー♪
あ:大明…なんですかそれは。
奏:へー。ファストパスってネットで予約できるのね。
文:…ありすちゃん。なんだかよく分かりませんが、凄いです。
あ:現地の事前調査は当然です! このまま乗り場に向かいましょう。
飛:へー、流石と言うべきか。ワンダーランドの迷い子たるアリスは、どうやら迷えるボクらの導き手だった訳だ。
あ:…あ、あの、二宮さん。
飛:飛鳥。ボクは飛鳥だ、ありす。
あ:その、私その名前、ちょっと…。
飛:名前? キミのかい? ありす、素敵な響きじゃないか。ありす、不思議の国のアリス。少女の象徴。愛らしさと優しさ、好奇心の塊。
現実と空想世界の狭間に生きる者として相応しい。ファンタスティック且つロマンチックだ。嗚呼、ボクの言葉では巧く言い表せない。いや、言葉は要らない。
名は体を現すと言うが、其れもまた然りだ。君自身を見ていればそれは分かる! ありす。
あ:は、はぁ…。
奏:ふふっ。圧倒されちゃったわね。
文:…私もありすちゃんの名前は、ありすちゃんらしいと思います。
飛:文香さんの名前も然りだ。正に書の申し子。
文:…ありがとうございます。本の香りは好きですね。
周:飛鳥ちゃんの名前もいいよね。古風というか、和的な感じで。
飛:そうかい? 漢字の組み合わせは悪くない。鳥が飛ぶと書いて飛鳥。呼び方も熟字訓であるところがいい。飛鳥の語源については…。
文:…詳しく話すと長くなりますが。
飛:今度、お茶でも飲みながら文香さんに聞くとしよう。
文:…はい、楽しみにしています。
周:おっと、コースター乗り場、着いちゃった。
奏:さて、この人数だと…2、2、1。1人あぶれちゃうわね。
周:まあ、どうせみんな固まって乗るんだけどね。あっ、ちなみに今なら先頭の席になりそうだよ。
あ:先頭って…一番怖いんじゃないんですか?
周:見晴らしいいもんねー。
文:…ジェットコースターは一番後ろの席が最も加速を感じ、恐怖を覚えるそうです。
奏:文香、わざわざ調べたの?
文:賢者は歴史に学ぶのです…。
周:なるほどねー。
飛:ここは、高いな。それに、風が騒がしい…。
周:どうだい、飛ぶ鳥の名を持つ少女よ。
飛:周子さん、そうだね、一つ分かったことがあるかな。
周:なんだい?
飛:人は、飛べない。
周:うむ。
飛:どれ程の研鑽を積もうとも、高所による恐怖感は拭えないのか。いや、これはむしろ高揚している? ボクは興奮しているのか?
周:飛鳥ちゃん♪
飛:周子さん。吊り橋効果というものを知っているかい。…え。
周:ふふー♪
飛:ちょ、ちょっ、待ってくれないか! 周子さ…、引っ張ると危な…!
周:はい、飛鳥ちゃんはここね。
飛:えっ、なんで先頭に乗るんだ。皆は後ろ…ありす、なんで目を背ける。ほら、奏さんの隣、空いてるじゃないか。ボクは後ろでも構わな、ちょっと、周子さん! 周子さ…。
(安全バーの降りる音)
飛:…あっ。
奏:飛鳥、ベルトにしっかり捕まって。
(ブザー音)
周:出発、進行〜!
飛:飛鳥の名を持つものなら征ける。ボクは飛べる、ボクは飛鳥、鳥になるんだ、鳥に…。
文:ジェットコースターとは通称で正式にはローラーコースターであって、基本的に動力は存在せず最高到達点に達した車両が傾斜を下降することによって、
位置エネルギーが運動エネルギーに転換され、山や谷やカーブを駆け巡ることにより…。
あ:だだっ、だ、大丈夫です。たっ、た、た、高いですね…高いです。大丈夫です…ううっ…。
奏:風が涼しいわね。
(コースターが停止する音)
あ:ひっ!?
周:ニヤリ♪
あ:えっ!?
(コースターが急降下する音)
周:イエーイ! 行け行けー!
あ・飛・文:〜〜〜〜〜!!!
奏:ふふふっ♪
周:う〜んっ!ふふっ♪満・足♪
奏:なかなか楽しかったわね。
周:もっかい乗りたいところだけど…。ふふっ。おーい、大丈夫ー?
あ:だ、だいじょうぶです…。
文:…はい、…その…はい。
周:ゆっくりでいいよー。飛鳥ちゃん、肩貸そかー?
飛:すまない、周子さん…。
周:…鳥になれた?
飛:一つ、分かった事がある。
周:うん。
飛:人は…鳥になれない。
周:そらそうでしょー。
文:…周子さんが。
周:ん?
文:周子さんが落ちる時、急に後ろを振り向かれたので、心臓が止まるかと思いました…。
あ:周子さん、なんで後ろ振り向いたんですか?
周:えー? だって、みんなどんな感じなのかなーって、飛鳥ちゃんは固まってたしー?
文:…凄いです。
あ:もうっ、びっくりしたんですからねっ!
周:あははっ♪ めんごめんごー。
奏:でも、目の前に見知った顔があると、ちょっと安心するわよね。
あ:それは…まあ、ちょっとだけ。
周:こんな顔で良ければ、いつでもどうぞー。
奏:周子だけどね。
あ:そうですね。
周:へこむわー。
飛:周子さん。
周:ん?
飛:ありがとう、もう大丈夫だ。
周:平気? よっ、と。さて、お昼まで時間あるし、もいっこくらいなんか行きたいねー。
奏:次は…激しくないのがよさそうね。
周:うーん…。メリーゴーランドとか、コーヒーカップとか?
飛:メルヘンだね。
あ:子供っぽいですね。
周:いやいや、コーヒーカップは戦場だよ? 甘く見てたら、死ぬよ〜?
文:そんな、命の危険を伴う乗り物なのですか…?
奏:どれだけ回す気なのよ。
周:そりゃーもう、限界まで♪
奏:周子のカップには乗りたくないわね…。
周:まーまー。呉越同舟って言うし。
文:意味が違いますね。
周:うーん、それじゃあどうしよっかなー。地図地図、パンフ…。…おおっ、いいのがあった。ここにしよう! はーい、みんなー。引率の周子先生に、ついてきー♪
あ:嫌な予感がします…。
飛:羊飼いの羊は、ボク達だったのか…。
文:…恐怖、怪奇の館。…戦慄、血みどろ、衝撃。
あ:嫌です。
周:早っ!
奏:ありすちゃん、お化け屋敷、苦手?
あ:苦手っていうか…はっきり言って、こんなもの子供騙しです。
周:怖いん?
あ:怖くありません!
周:じゃあいいじゃん。入ろうよー。
あ:…み、みなさんはどうですか? こんな人を驚かすためだけのアトラクションに行きたいんですか?
文:…これがお化け屋敷ですか。外装の塗装が禿げていたりして、雰囲気がありますね。
あ:文香さん…。
奏:割と興味あるみたいね。
文:この、ヒュードロドロといった音は…何の音なんでしょうか。
周:うーん、考えたこともなかったなあ。お化けの出てくる音?
文:…霊的な存在が物理現象として現れる際に、音が生じるのでしょうか?
奏:飛鳥は? 嫌ならやめるけど。
飛:闇に生きる者として、最も恐れるべきは幽霊やお化けじゃない。
奏:ん?
飛:真に恐ろしいのはヒトさ…。
奏:そうね。
飛:そういうことさ。
周:つまり、全会一致で入るってことでいいかな?
あ:ええっ。
飛;えっ。
周:大丈夫、大丈夫。お化け屋敷なんてのは雰囲気を味わうもんだって。もし本当にお化けが出ても、シューコちゃんが追っ払ってあげるから。
文:周子さん、そのような芸当ができるのですか?
奏:確か、前にそんな感じの仕事してなかった?
周:お稲荷さんの狐のことかな?
文:お狐様がいらっしゃるなら、心強いですね。
周:へっへー、妖狐かもしんないよ? けど、うちには橘大明神もいるしねー?
あ:…いません!
飛:…どうしても行くのか。
奏:飛鳥、無理して付いてこなくてもいいのよ。ここで待っていても…。
飛:いや、ボクだけ逃げる訳にはいかない。5人で遊園地に行ったのにボクだけ怖気付いたなどと言われたくはない。
奏:…飛鳥。
飛:それに、死なば諸共だ。
周:死ぬ前提かい。ふふっ、じゃあ行くよ。みんなはぐれないようにね。もしはぐれたら…。
あ:はぐれたら…?
周:係の人に誘導してもらってね。
あ:……はい。
周:いや〜、満喫〜♪
あ:怖くない怖くない怖くない怖くない……。(怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない…)
文:ありすちゃん、もう大丈夫ですよ。ありすちゃん。
奏:中々楽しかったわね。
周:奏ちゃんはそればっかりやなぁ。
奏:だって本心ですもの。
飛:おかしい。驚かすだけで十分じゃないか。どうして彼らは追いかけてくるんだ。そんなことをされたら、逃げるに決まっているじゃないか。
周:飛鳥ちゃん?
飛:逃げざるを得ない状況にしているから逃げたのであって、別に恐ろしかった訳では…。いや、潜在的な恐怖を感じていたのは事実なのか?
やはりそれは(ヒトが持っている恐ろしいということに変わりはないという訳か…。)
周:もしもーし。
奏:あれは自分なりに心の整理をして落ち着けているのよ。しばらく見守ってあげましょ。
周:そうだね。あっちは?
あ:う、うぅ…う、ううぅ……。
文:…大丈夫、ですよ。
奏:あれはあれで。
周:ふふっ。そいじゃあみんな、ご飯食べよっか!
店:失礼します。食後のコーヒーと紅茶、デザートをお持ちいたしました。
周:どうもー。コーヒーの人ー? あ、そっちと、ここと…。
奏:はい。
周:あと、あたしね。紅茶は文香ちゃんたちだね。
文:…はい。
奏:飛鳥、コーヒー。
飛:あ、どうも。
文:…ありすちゃん、いちごのパフェ、どうぞ。
あ:あ、ありがとうございます。
周:葛餅はあたしー。
店:ごゆっくりどうぞ。
奏:周子、あなたまだ食べるの?
周:ええやん。こっちのはまた別もんやし。甘いもんは別腹だし。ねー、ありすちゃん。
あ:はぁ…。
周:おー? ついに私もありすちゃん呼びが解禁された?
奏:いえ、あれはパフェをどこから食べるか集中しているだけね。ふふっ、可愛いわね。
飛:奏さんは、コーヒーはいつもブラックなのかい?
奏:ん? …言われてみれば、そうね。お砂糖やミルクは入れないかな。
飛:それは、いつ頃から?
奏;んー、…特に覚えてはいないんだけど。
飛:そうか、いや、ボクもできればブラックでいきたい所なんだけどね。味覚がそれを許さないらしい。
奏:そのうち慣れるわ、身も心も。私もいつだったかは覚えてないけど、ある時思い立って何も入れずに飲んでみたの。そうしたら飲めた。なんてことはなく、ね。
飛:ヒトはいつか慣れるものだ、と?
奏:そうね。でも、時々甘いものが欲しくなる時もある、わ!
周:あー! シューコちゃんの葛餅!
奏:いただき♪ はむっ……あら、美味しい♪
周:でしょう?
奏:そうね。…ね?
飛:そんなものかな。
奏:そんなものよ。
文:…ありすちゃん。…こっちのアイスから食べると、崩れないと思います。
あ:そうですね。でも、クリームとのバランスが…。パフェは戦術なんです!
文:…戦術ですか。
あ:はいっ。
文:…「彼を知り己を知れば百戦危うからず」ですね。
あ:そうです。こんな、感じで…。
文:ふふっ。綺麗によそえましたね。
あ:…あ、えっと、その。文香さん、その…。
文:…何か?
あ:食べたいのでしたら…。
文:…いいんですか?
あ:…はいっ、どうぞ!
文:では、失礼します……。
あ:どうですか?
文:…いちごの酸味とクリームの甘味が程よく、とても美味しいです。
あ:良かったです!
飛:随分と甘い遣り取りだね。
奏:だから、ブラックで丁度いいのよ。
飛:なるほどね。
周:さて、腹ごしらえもすんだことだし。これからどうする? なんか乗りたいものある?
奏:乗り物もいいけど、ショーも見たいわね。
あ:パレードも見たいです。
文:色々有るのですね…。
周:パレードは、夕方過ぎからだね。じゃあそれは見るとして…飛鳥ちゃんは?
飛:そうだな…、ゴーカートなんかどうだい?
周:お、いいねえ。
飛:偶には都会の喧騒を忘れて、風を感じるのも良い。
あ:セリフはカッコいいんですけど、ゴーカートですよね。
奏:文香とか、ハンドルを握ったら性格が変わったりしてね。
文:…私ですか?
周:ブンブーン! オラオラどけどけー! …ふふっ。みたいな?
文:そ、そんな…。
奏:案外ありすちゃんが手加減できなかったりして。
あ:私、違いますよ!?
飛:ふふっ。どの道、1位を取るとしたらボクだ。
周:じゃ、試しに、行こー!
奏:じゃあ、1号車、奏・文香ペア。行くわね。
文:……緊張します。
奏:文香。ハンドルはそんなに強く握らなくていいの。そう、そっと優しくね。踏んだらアクセル、離したらブレーキ。いい?
文:…は、はい。
周:なんか、アレだ。
飛:女教師と生徒、といった感じだ。
あ:……。
周:それじゃあ、行ってらー。
文:離したらブレーキ…踏んだらアクセル…。…進みました。
奏:そうそう、上手。ゆっくりで…って、ちょっ、文香!? 速いわよ!
文:ど、どうしたら…。
奏:ブレーキ! ブレーキ!
文:踏んだら、ブレーキ…!
奏:…! 文香! ブレーキは離すの! 足、離して!
文:す、すみませんっ!
奏:前見て、前!
文:ああっ!
(衝突音)
あ:ああああああ……。
周:よーし、ありすちゃん。2号車も行くぞー♪
あ:周子さん、安全運転でお願いしますよ。
周:ありす、君のために、助手席を開けておいたんだ。
あ:後ろがつっかえますから、前を見て運転してください!
周:はーい。それじゃあ飛鳥ちゃん。
飛:ああ、直ぐに追いかけるよ。
周:あたしに、付いてこれるかな?
飛:ふっ、言ったね。望むところだ。
あ:ちょっと、周子さん、飛鳥さん、なに…ひ、ひゃあああぁ!
周:おっしゃー! 奏ちゃん、文香ちゃん、待ってろー!
あ:しゅ、周子さん! 飛ばしすぎです〜!
飛:さて、ボクも行くとするかな。風の吹くまま、気の向くまま。人生とは、コースのないレースの様なもの、ってね。
(エンスト音)
飛:……あれ、おかしいな。ちょっと皆、待ってくれないか! おーい!
10 Near to You オリジナル・カラオケ
コメントをかく