実験・第三研究室
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hayashidada 2023年11月22日(水) 17:19:16履歴
……暗い。
ここは暗いのだ。
僕は一体どうしてしまったのだ？
よくわからないのだ……。
よくわからないから、へこへこするのだ。
前の方に真っ白いおしりがあるのだ。
オスだかメスだか分からないけど、そんなことはどうでもいいのだ。
へこへこするのだ。
前のやつ、泣いてるのだ。なんか喚いてるのだ。
どうでもいいのだ。へこへこするのだ。
へこへこすれば、何もかも解決するのだ……。
そんな気がするのだ。
捕まえたのだ。まだ泣いてるけど関係ねーのだ……。
さあ、へこるのだ。
上空で腹に響く音がする。
パラパラと何かが降ってきてベチャベチャと地面に叩きつけられた。
そこは芝生の植えられたドーム状の施設だった。
第三研究室の所有する実験場の一つである。
「うーす。やってる？」
気安い様子でカメラを片手に入ってくる男が一人、声をかけられた白衣の人物は振り返ると嬉しそうに笑っていた。
「よっす！ 元気してたー？」
「まあ、ぼちぼちやってんわ。そっちはどないよ？」
「こっち？ こっちはウッキウキよぉー。毎日実験三昧なんでね！」
手に持ったラジコンの操縦機みたいなものを見せる。
「実験ねぇ。俺もこないだ先輩と実地で行ってきたけど楽しいのは最初だけだな」
「そういや、第四に任せたんだっけか例の情報伝達実験。報告書には目を通したが……」
「全っ然効果なかったぞ。一月通い続けたけど虫共めひっきりなしに湧いてきて山の手線みてーに循環してんじゃねーのかと思ったわ」
ずんだ虫には頭部の枝豆から脳波のようなものを発信し、これを枝豆袋で受信することで幼児期から言語を喋れるようになるなどの機能がある。
これを利用して半永久的に拷問にかけることで人間の恐ろしさを発信してずんだ虫を遠ざけようという実験が行われていた。
しかし、その結果は芳しくはなかった。
悲鳴を上げ続ける仲間の様子に恐怖を感じ、引き返すものもあったが、それでも他の田畑に入り込むばかりで、それどころか気にせず作物に齧り付く虫もいた。
「まあ、軒並みとっ捕まえてぶっ殺したけど。楽は出来ねえもんだな」
「ははは。お疲れさん。でも大変役だったよ、あのデータ。おかげで面白いことになってきた」
「そこらへんはまあ、いいや。んで、今は何やってんの？」
「おお。そうだ、上見てみなよ」
と、指差す先には空を飛ぶずんだ虫とドローンらしきものがあった。
虫はドローンから逃げているようで「なんだおまえこっちくるななのだ！」とか喚いている。
一方、ずんだ虫を鬼追いするドローンは奇妙な形をしていた。
ゲームセンターなどのUFOキャッチャーによく見られる四つの爪が有るアームのような形をしており、枝豆のないずんだ虫の頭部がその中心に据えられている。
最大の特徴としてそのドローンらしきものにはプロペラがなかった。
ずんだ虫のように浮遊しているのである。
「あれ、どうやって浮いてんだ？」
「あれねー。ずんだ虫の浮遊器官を利用してるんだよ」
「空豆ってやつか」
「そうそう。んで、ずんだ虫の肉体を利用してボディを作成してるわけ」
鼻息荒く説明するが反応は淡白なものだった。
「ふぅん。しっかし空豆ってやつはどうやって虫を空に飛ばしてるんだろうな？」
「……これ結構凄い話なんだけどなぁ」
友人の無理解に、がっかりしたように肩を落とす。
かつてからずんだ虫の浮遊器官は研究がなされてきた。そのメカニズムには関心が寄せられ、上手くすれば全く新しい飛行機を生み出すことが出来ると考えられてきたのである。
そして、第三研究所はとうとうその謎を究明したわけだった。
「えーとだね、実はずんだ虫の体には空洞の部分が多くあって、全身がスカスカなの」
「マジか。道理で脆いわけだ」
「うん。で、空豆ってのは別に反重力装置とか揚力発生装置とかじゃなくて、ある気体を生み出してるっぽいのよ」
「ある気体？」
「そう。既存のものではないんだけど、恐らくヘリウムガスに近い性質を持ってるね」
「ヘリウム？ あいつら腹ん中にヘリウムためこんでんの？」
ヘリウムガスは空気よりも軽いことで知られるガスである。また、様々な用途で用いられ近年、その需要の高まりにつれ価値も上がり非常に高価である。
「じゃあ、アイツらをヘリウム生産工場に出来るのか？」
「将来的には出来るかも。ただ、今は難しいね。なんでか分からないけど時間経過と共に質量が無くなるとかいうふざけた性質持ってるから保存できないんだよ」
「物理法則を舐めてんのか？」
「あと、可燃性なんだよね」
「じゃ、使えねーじゃねえか！」
「使い道はあるよ低温時の特性は一致してるからね。ま、それはいいとして」
操縦機のようなものを弄くると上空でドローンが加速した。
四つのアームには噴射口のようなものが取り付けられておりそこから謎気体を噴出することで軌道を変えたり加速する仕様のようだった。
そしてドローンがずんだ虫を四つの爪でホールドする。
「や、やめちゃ！ なんかよくわかんないけど、こわいんちゃ！」
喚く虫の臀部を掴む爪の先から針が飛び出し突き刺さる。「いたっ！」と叫ぶ虫の体奥深くまで突き刺さると体内で紫電のようなものが走り、
「なんちゃ！ からだがあついっちゃ！ も、もえ、あ、あああああ」
ずんだ虫の全身が膨れ上がる。限度を迎えた肉体が悲鳴を上げる。断末魔を口から漏らすより早く、小さな打ち上げ花火が炸裂するかのように上空でずんだ虫が爆発した。
パラパラとずんだ虫とドローンの死骸が降り注ぐ。
大きめの肉片が水っぽい音を立てて芝生の上に散らばった。
「お、おお……なんだ今の……」
「あのドローンにはずんだ虫の脳と枝豆袋が使われていてね。信号を送ると一定の操作ができるんだ。今のは性欲を刺激して同胞に襲いかからせたわけだね」
「なっほど生き地獄……あ、そっか。例の実験で得たデータを使ったやつなんか、これ」
「そうそう。受信機能を利用した対ずんだ虫駆逐用ドローンってわけ。交尾するために捕まえた虫の体内に針を差し込み放電することでガスに引火、爆発させる仕組みだね！」
「スゲーなおもしれーな！ でもお高いんでしょ？」
痛いところをつかれて言葉に詰まる。うーん、と首をひねりながら肯定せざるを得なかった。
「そうなんだよねー。おまけに一台一殺だからコスパが悪いんだよ。まだまだ研究を進める必要があるね」
上を見上げればまだ幾つかのドローンと虫が飛んでいる。
ずんだドローンはずんだ虫の尻を追い、ずんだ虫は今しがたの惨状を見て泣き叫びながら逃げている。
どぉんどぉんと響いては燃え尽きる。
やがて疲れた個体から捕まっていき、たった一度きりの汚い花火が咲き続けるのであった。
ここは暗いのだ。
僕は一体どうしてしまったのだ？
よくわからないのだ……。
よくわからないから、へこへこするのだ。
前の方に真っ白いおしりがあるのだ。
オスだかメスだか分からないけど、そんなことはどうでもいいのだ。
へこへこするのだ。
前のやつ、泣いてるのだ。なんか喚いてるのだ。
どうでもいいのだ。へこへこするのだ。
へこへこすれば、何もかも解決するのだ……。
そんな気がするのだ。
捕まえたのだ。まだ泣いてるけど関係ねーのだ……。
さあ、へこるのだ。
上空で腹に響く音がする。
パラパラと何かが降ってきてベチャベチャと地面に叩きつけられた。
そこは芝生の植えられたドーム状の施設だった。
第三研究室の所有する実験場の一つである。
「うーす。やってる？」
気安い様子でカメラを片手に入ってくる男が一人、声をかけられた白衣の人物は振り返ると嬉しそうに笑っていた。
「よっす！ 元気してたー？」
「まあ、ぼちぼちやってんわ。そっちはどないよ？」
「こっち？ こっちはウッキウキよぉー。毎日実験三昧なんでね！」
手に持ったラジコンの操縦機みたいなものを見せる。
「実験ねぇ。俺もこないだ先輩と実地で行ってきたけど楽しいのは最初だけだな」
「そういや、第四に任せたんだっけか例の情報伝達実験。報告書には目を通したが……」
「全っ然効果なかったぞ。一月通い続けたけど虫共めひっきりなしに湧いてきて山の手線みてーに循環してんじゃねーのかと思ったわ」
ずんだ虫には頭部の枝豆から脳波のようなものを発信し、これを枝豆袋で受信することで幼児期から言語を喋れるようになるなどの機能がある。
これを利用して半永久的に拷問にかけることで人間の恐ろしさを発信してずんだ虫を遠ざけようという実験が行われていた。
しかし、その結果は芳しくはなかった。
悲鳴を上げ続ける仲間の様子に恐怖を感じ、引き返すものもあったが、それでも他の田畑に入り込むばかりで、それどころか気にせず作物に齧り付く虫もいた。
「まあ、軒並みとっ捕まえてぶっ殺したけど。楽は出来ねえもんだな」
「ははは。お疲れさん。でも大変役だったよ、あのデータ。おかげで面白いことになってきた」
「そこらへんはまあ、いいや。んで、今は何やってんの？」
「おお。そうだ、上見てみなよ」
と、指差す先には空を飛ぶずんだ虫とドローンらしきものがあった。
虫はドローンから逃げているようで「なんだおまえこっちくるななのだ！」とか喚いている。
一方、ずんだ虫を鬼追いするドローンは奇妙な形をしていた。
ゲームセンターなどのUFOキャッチャーによく見られる四つの爪が有るアームのような形をしており、枝豆のないずんだ虫の頭部がその中心に据えられている。
最大の特徴としてそのドローンらしきものにはプロペラがなかった。
ずんだ虫のように浮遊しているのである。
「あれ、どうやって浮いてんだ？」
「あれねー。ずんだ虫の浮遊器官を利用してるんだよ」
「空豆ってやつか」
「そうそう。んで、ずんだ虫の肉体を利用してボディを作成してるわけ」
鼻息荒く説明するが反応は淡白なものだった。
「ふぅん。しっかし空豆ってやつはどうやって虫を空に飛ばしてるんだろうな？」
「……これ結構凄い話なんだけどなぁ」
友人の無理解に、がっかりしたように肩を落とす。
かつてからずんだ虫の浮遊器官は研究がなされてきた。そのメカニズムには関心が寄せられ、上手くすれば全く新しい飛行機を生み出すことが出来ると考えられてきたのである。
そして、第三研究所はとうとうその謎を究明したわけだった。
「えーとだね、実はずんだ虫の体には空洞の部分が多くあって、全身がスカスカなの」
「マジか。道理で脆いわけだ」
「うん。で、空豆ってのは別に反重力装置とか揚力発生装置とかじゃなくて、ある気体を生み出してるっぽいのよ」
「ある気体？」
「そう。既存のものではないんだけど、恐らくヘリウムガスに近い性質を持ってるね」
「ヘリウム？ あいつら腹ん中にヘリウムためこんでんの？」
ヘリウムガスは空気よりも軽いことで知られるガスである。また、様々な用途で用いられ近年、その需要の高まりにつれ価値も上がり非常に高価である。
「じゃあ、アイツらをヘリウム生産工場に出来るのか？」
「将来的には出来るかも。ただ、今は難しいね。なんでか分からないけど時間経過と共に質量が無くなるとかいうふざけた性質持ってるから保存できないんだよ」
「物理法則を舐めてんのか？」
「あと、可燃性なんだよね」
「じゃ、使えねーじゃねえか！」
「使い道はあるよ低温時の特性は一致してるからね。ま、それはいいとして」
操縦機のようなものを弄くると上空でドローンが加速した。
四つのアームには噴射口のようなものが取り付けられておりそこから謎気体を噴出することで軌道を変えたり加速する仕様のようだった。
そしてドローンがずんだ虫を四つの爪でホールドする。
「や、やめちゃ！ なんかよくわかんないけど、こわいんちゃ！」
喚く虫の臀部を掴む爪の先から針が飛び出し突き刺さる。「いたっ！」と叫ぶ虫の体奥深くまで突き刺さると体内で紫電のようなものが走り、
「なんちゃ！ からだがあついっちゃ！ も、もえ、あ、あああああ」
ずんだ虫の全身が膨れ上がる。限度を迎えた肉体が悲鳴を上げる。断末魔を口から漏らすより早く、小さな打ち上げ花火が炸裂するかのように上空でずんだ虫が爆発した。
パラパラとずんだ虫とドローンの死骸が降り注ぐ。
大きめの肉片が水っぽい音を立てて芝生の上に散らばった。
「お、おお……なんだ今の……」
「あのドローンにはずんだ虫の脳と枝豆袋が使われていてね。信号を送ると一定の操作ができるんだ。今のは性欲を刺激して同胞に襲いかからせたわけだね」
「なっほど生き地獄……あ、そっか。例の実験で得たデータを使ったやつなんか、これ」
「そうそう。受信機能を利用した対ずんだ虫駆逐用ドローンってわけ。交尾するために捕まえた虫の体内に針を差し込み放電することでガスに引火、爆発させる仕組みだね！」
「スゲーなおもしれーな！ でもお高いんでしょ？」
痛いところをつかれて言葉に詰まる。うーん、と首をひねりながら肯定せざるを得なかった。
「そうなんだよねー。おまけに一台一殺だからコスパが悪いんだよ。まだまだ研究を進める必要があるね」
上を見上げればまだ幾つかのドローンと虫が飛んでいる。
ずんだドローンはずんだ虫の尻を追い、ずんだ虫は今しがたの惨状を見て泣き叫びながら逃げている。
どぉんどぉんと響いては燃え尽きる。
やがて疲れた個体から捕まっていき、たった一度きりの汚い花火が咲き続けるのであった。
このページへのコメント
『よくわからないから、へこへこ』 『へこへこすれば、何もかも解決する』……サイボーグ？状態になっても性欲は健在なんですね……
妖精の有効利用、あるいは平和利用のためにも、これらの研究所には頑張ってほしいです……！！
｢ずんだ案山子｣がうまくいかなかったとは……自己中過ぎて奴らに他個体を使った脅しは不可能か、あるいは情報伝達は成ずんには微塵も効果がないか…。
もうこうなったらずんだ虫にのみ致死率100%の殺ずん剤を開発して日本全国に散布し、(食用やペット用などの商業用個体を除いた)野外の個体を根絶やしにしたほうがいいんじゃないかな??そうすれば環境問題も農業被害も解決し、隔離した個体でゆっくりじっくり実験や研究ができそうだし……(ここから｢再野生化しない(人類の支配なしでは生きられない)｣ように品種改良する必要もあるが汗)。
前途多難っすなあ
でも必要は発明の母、この研究もいずれ花咲き実を結ぶと思いたい
人間怖い←人間いないからチャンスになるんだもんなぁ
虫以下の短絡思考をどうにかしないと八方塞がりな予感
作物自体を品種改良した方が早そう
最初のがドローン視点だったとは・・・
枝耳と枝豆袋はこのような関係なんですね
そういえば情報伝達実験って、もしかして「ずんだ案山子」の奴ですか？
結果は芳しくなかったようで残念です