作者：ずんスト！ 
<前作
俺はしがない枝豆農家だ、一時は枝豆を内側から食い荒らす「ずんだ虫」による被害によってあわや両親から継いだばかりのこの農園を手放すことも考えたが、ずんずんカンパニーから来た研究員の女性？に助けられて今はずんだ虫に怯えることなく農業を生業とできている。
さあ今日も精を出して作業するぞ！
「のだー…のだー…」ｽﾋﾟｰｽﾋﾟｰ
「うお！！まだいたのかこいつ…！」
やる気を出したところでいきなり寄生型を見つけてしまった。
数は激減したとはいえ、完全に消えたワケでは無い。
研究員の彼女も言っていたが、また数が増えてくるようならまたあの「不妊ずんだ虫放飼法」を試みる必要があると。
だが、今のままであれば十分自分でも対処できる。
それに今の俺には頼りになるパートナーがいる。
「あんあん！！」ﾋｮｲ
「おお、早速ありがとうなあんこもん、助かるよ」
ずんだ虫対策として、俺はあんこもんを飼い始めたのだ。
あんこもんはずんだ虫の天敵で、見つけ次第駆除してくる。
それに見た目は厳ついがとても友好的で駆除以外の作業も手伝ってくれる。
ずんだ虫と違って喋ることはできないが、それでも十分である。
「あんこもんが来てくれてから本当に助かってるよ、ありがとな」
「あん！」
頭を撫でてやるととっても喜ぶ姿がとても可愛い。
まあ、飼い始めたって言ってもずんずんカンパニーがアフターケアのためにリースしてくれてるって形だからいつかは別れが来るんだよな…ちょっと悲しいけどしょうがないか。あんまり情を持たない方が良いことは分かっているがつい可愛がってしまう。
「よし、今日もパトロール頑張ってな！」
「あん！」
パトロールと称してずんだ虫の残党狩りを命じる。
あんこもんが来てから1ヶ月、そういえばずんだ虫ってどうやって駆除してるんだろう…やっぱりズタズタに引き裂いてるのかな？
俺はどんなに害虫であろうと生き物の命を奪うことには抵抗がある。
ましてや人の言葉を可愛い声で喋る生物なんだから余計に殺害シーンは見たく無い。
そういうこともあってあんこもんが実際どのように駆除をしてくれているのかはまじまじと見たことはないのだ。
「うーん、でもやっぱり気になるな…ちらっとだけ見てみようかな」
好奇心には勝てず、俺は後を着いてみることにした。
ガサガサ…
「あん！！！」
あんこもんが早速獲物を見つけた。
ずんだ虫にはとても逃げきれないスピードで捕まえる。
「のだぁ！？あんこもんなのだぁぁぁぁぁ！！！みんな逃げるのだ！！！」
ずんだ虫って本当にこう…意外と仲間想いなんだよな。
こういうこともあって俺はなかなかどうして非情になりきれない。
人間と共生できればいいのに…
やはりこれ以上は精神衛生上良く無いと判断し、俺は踵を返して作業に戻ろうとした時、気になる声が聞こえてきた。
「あんあん！！！」
「いやぁ！！！ボクを食べないで欲しいのだ！！！あぁ！！！」
ん？食べないで…？
あんこもんって食べて駆除してるの！？
「コラあんこもん！そんなばっちいもの食べたら病気になっちまうぞ！！」
「あっ？あん？？」
「あっ…無いのだ…ボクの両足さん…」
俺は割って入ってあんこもんを静止する。
突然の俺の登場に面食らっているようだ。
ずんだ虫は捕食の途中で地面に投げ出され、上半身のみ残っている状態だ。
もう先は長く無いだろう。
「あんこもんは今までもこいつらを食って駆除してたのか…」
研究員の彼女から渡された名刺のずんずんカンパニー研究所の連絡先に問い合わせる。
「はい、東北です…どうされましたか？」
「お久しぶりです、実はお貸しいただいてるあんこもんがずんだ虫をですね…」
俺はあんこもんについて問い合わせをした。
だが、俺の心配とは裏腹に野生のずんだ虫を食べても全然健康には影響が無いそうだ。良かった…というか野生のあんこもんはずんだ虫が主食らしい。
「説明不足ですみませんでした、基本的には人間の食べ物でもずんだ虫でもなんでも食べます、まあ好き嫌いはありますけどね」
「そうですか、分かりました、東北さんがあんこもんを貸してくれたおかげで毎日助かってますよ、それじゃあ」
…電話を切った瞬間、俺はある仮説を思い付いた。
「あんこもん、さっきは悪かったな、これからもよろしく頼むよ」
「あんあん！！」
いつもの倍撫でてあげたら機嫌も戻ったみたいだ。
またあんこもんがパトロールに戻ったところで俺は先ほど思いついた仮説が本当に正しいのかを確かめてみることにした。
「人間とほぼ同じ食事を摂るあんこもんの好物なら…俺たち人間も食えるんじゃないか？」
もしそうだとすれば、寄生されて出荷できずとも自己消費ができる。
今までは処分してそのままだったが、やはり食べられるなら食べることで供養してやりたい。
「よーし、頑張れ俺…」
「のだー…のだ〜…」
あんこもんに見つかる前の寄生された鞘を数十房確保した。
今からこいつらを試しに調理していく。
まずはシンプルに塩茹でで頂くことにする。
「まずは水洗いで汚れを落としてっと…まあそうなるよな」
ボウルに房を入れて水を掛けるとスヤスヤ眠っていた鞘ずんだ虫達が目を覚ました。
当然だが、まだ状況が分かっていないようだ。
「のだ〜？」
「つめたいのだ…」
「こわいのだ」
「はぁ、調理する前に締めた方がいいのかな…まあいいや、心を無にするんだ俺…こいつは枝豆なんだ…ただの枝豆…」
続いて塩を揉み込んでいく。
「ぺっぺ！しょっぱいのだ！」
「やめて！こわい！」
「ぐるぐる楽しいのだ〜！」
初めての塩分に戸惑うずんだ虫もいれば能天気にこの状況を楽しんでいるずんだ虫もいる。頼む、何も喋らないでくくれ…はは、俺はきっと屠殺場とかじゃ働けないな…
ボウルのずんだ虫の声に気がついてストック分の枝豆達も目を覚ます。
「あれ？ここはどこなのだ？おとうちゃ？」
「そろそろ外に出たいのだ…うんしょ、うんしょ」
面倒臭いことになる前に手早く処理をしよう。
俺は塩揉みが終わると無心で茹でたお湯にぶち込んでいった。
「ぎゃあああああああ！！！熱い！！あついのだ！」
「出して！！！苦しいのだ！！！」
「ガボボボボボ…」
本来ならば身を守ってくれるはずの鞘によって拘束されているせいで両手足でもがくことができないのはなんたる皮肉であろう…なまじ衝撃を吸収しているせいでこんな状況でも多少は耐えられても地獄が続くだけなのに…
「なっ、何をしているのだ…？」
「おとうちゃ助けて！！」
「やめてあげてなのだ！」
鍋の外の鞘ずんだ虫達は青ざめながら助けを懇願する。
悪いな、次は君たちの番なんだ…
数十分後、まずは鞘ずんだ虫の塩茹でが完成した。
まずは一口…
「…うお！美味い！！」
正直驚いた…！
こんなグロテスクな見た目でこの濃厚な味わいが生まれるとは思わなんだ…！
まあ、自慢じゃ無いがこれでも何代も続いてる枝豆農家の枝豆なんだ、そんな美味しいもの食べて育ったずんだ虫なら美味いに決まってる！
こりゃ手が止まらない…！って、あれ？
「こいつ、急に味が落ちたぞ…？」
半分ほど貪るように食べた後、急に味が落ちたことに気がついた。
おかしい、みんな同じように作ったはずだ、もしかして個体差があるのか…？
だが、そこから何個食べても味は落ちたままだった。
「おかしいな、最初美味しいと感じたのは俺の気のせいだったのか…？」
最初と中盤で何が違ったのかを思考を巡らせる。
俺は鍋の容量の関係で2回に分けて茹でた。
下に盛られてるのは1回目に茹で上がったやつで、美味しいと感じた上の方のやつはやつは2回目に上げたものだ…単純に考えると茹でたての方が美味しいってことだろうか？
「いや違う…2回目のヤツは1回目のグループの様子を見たり悲鳴を聞いて恐怖していた…つまりストレスや恐怖を感じると美味しくなるのか！？」
突飛な発想ではあるが、俺には少しだけ根拠があった。
それは農業を志すものなら一度は聞いたことがあるであろう、
「甘やかさない農法」だ。
人間と同じで野菜も甘い環境下にいると本来のポテンシャルを出さない。
厳しい環境に揉まれてこそ輝くのだ。
成長には適度なストレスが必要ということだ。
俺は寝ている鞘を数匹起こして、そのうちの一匹を…
「すまねえな…」ｽﾄﾝ
「ぎゃああああああああ！！！！」
「こわいのだ！こわいのだ！」
「殺さないで！！お願い！！！」
同族の前で首を切って締める様子を何匹かに見せた。
思い通り恐怖してくれたようだ。
さて、恐怖を知る前に締めた個体と恐怖した個体の味の違いは…
「うん、思ったとおりだ！！」
仮説がピッタリ嵌った。恐怖を感じるとずんだ虫は美味しくなる！
…それと同時に俺はこの農園の運営方法に改革を入れる決意をしたのであった。
つづく
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このページへのコメント
おぉ……まさか枝豆寄生型ずんだもんを調理するとは!
それにコイツらも恐怖や絶望を与えれば旨味が増すんですね(そんで調理されてるとも知らずに楽しんでる一部の子ずんの無邪気さというか呑気さよ…w)!ホント、この調理法を提唱した某グルメ貴族や某美食神は偉大ですなぁ〜。
そして最後の展開からして、枝豆畑を(一部でも)"寄生型ずんだもんの養殖場"にするんかな?楽しみすぎる!!
こういう。美味しさを追求した結果ずんだ虫を痛めつけることになる展開好みですね。痛めつける側が悪い人ではないから輝くというか…。
自分で食用チャレンジするとは農家兄さん逞しいなぁ。
あんこもんって買うと結構高いのかな？
偽装のための枝豆が捕まった時に拘束具になるのは皮肉が効いてて素晴らしい！