Author: ずんスト！ 
「のだー…のだー…」
こいつは枝豆の鞘に擬態したずんだ虫…通称「寄生型」だ。
枝豆の鞘に親ずんが卵を産み付けて子供が大きくなるまで鞘の中で安全に成長させる。大きくなるとこんな感じに鞘から顔を出す。満足そうに寝息を立てやがって…
当然こんな状態では売り物にはならず、近隣の枝豆農家の悩みのタネになっている。
オマケに繁殖力が強力なため、駆除しても駆除してもキリがない。
「ああ、またやられてるよ…すまねえな」
「ぷぎゃ！！」
俺が寄生された鞘を握り潰すと断末魔を上げて死んだ。
俺はしがない枝豆栽培者…両親が高齢で引退するっていうからこの代々受け継いで来た枝豆畑を管理することになったんだが、いきなりこんな問題に直面するとは思わなかった。
都会に憧れて上京した俺だったが、自分を育ててくれたこの枝豆畑が無くなるというのは感慨深いものであり、思わず引き継ぐことを決意してしまったのであった。
「勢いで継いだはいいけど、これじゃ先が思いやられるな…」
手についた血(緑色だけど…)を払い、他に寄生された枝豆がないか確認をする。
「のだー…のだ…」
「僕のかわいいおちびちゃん！沢山栄養をとって大きくなるのだ！」
「僕の子種を沢山蒔くのだ！ここはパラダイスなのだ！」
見回りをしている俺が見えていないかのように好き勝手しているずんだ虫達が沢山いる、心を無心にして蹂躙し、亡き者にしていく。
「ぐわぁ！？」
「何するのだ！！痛いのだ！」
「僕のヘコヘコを邪魔するななのだ！！」
頼むから人語を喋らないでくれ。
こいつらが物を言わない、オマケに外見が醜い生き物であればどれだけ良かっただろうか。とても可愛らしい外見をしており、可愛い声で人語を話す。正直言って殺すのを躊躇ってしまう自分がいる…一部では愛玩動物として飼われているくらいだ、本来人間と友好的な種族を殺すことは誰だって躊躇うだろう。
「かと言って放置できない問題だしなあ、これからどうしよう…」
作物が育たなければ農業は成り立たない。
軽く握れば簡単に殺せる生物にこんなに困らせられるとは思ってもみなかった。
管理は俺1人だけなのでとてもじゃないがこいつらの駆除に手が回り切れない。
現に俺が鞘を潰している横で卵を植え付ける個体がいるくらいだ。
「クソっ…」
俺は悔しかった。
俺を育ててくれたこの枝豆が、両親が大事にしていた畑が、こんな奴らに台無しにされる事実に打ち震えていた。
「あのー…突然すみません、こちらが◯◯農園さんでしょうか？」
「うわぁ！…失礼しました、そっ、そうですが何か…？」
悔しさに打ち震えていて周りが見えていなかったせいか、突然声を掛けられて驚いてしまった。
帽子を深く被って、白衣を着た女性…この田舎の農場には不釣り合いな格好だった。
「それで、この農場にはなんのご用ですか？生憎ですがその…ずんだ虫に作物の大半をやられて売る物は何もありません」
「えーっと、何か買いに来たのではなく、私、こういう者でして…」
差し出された名刺には【ずんずんカンパニー 生態研究所主任】と書かれていた。
ずんずんカンパニーはずんだもん関連の研究を行っている会社だ。
養殖、加工、愛玩用のエサの販売やその他ずんだもん研究を通して社会貢献を責務とする企業である。
「最近このあたりの枝豆畑がずんだ虫によって荒らされている事例はご存知でしょうか？」
「えっ、ええ…見てわかるように実際この有様ですからね…なんとかしたいのですが1人の力だけでは…このままでは代々継いで来た農園を閉鎖しなきゃいけません…」
「私たちはそんな方々のお力になるべくここへ来ました。私達に是非協力させて下さい！」
彼女は俺の手を力強く握った。
詳しい話を聞くために俺は彼女を事務所兼自宅へ案内した。
「聞いていたよりも随分若い方でしたので驚きました」
「ああ、最近両親が高齢を理由に引退したので引き継いだんですよ、まだ農業に関してペーペーの素人です」
「そうだったんですね、ならご両親のためにも早くもとの枝豆畑にならないとですね！」
彼女が説明してくれた作戦はこうだ。
まず俺の枝豆にずんだ虫を寄生させまくる…って、え！？
「ずんだ虫を駆除するのに枝豆に寄生させてどうするんですか！？それじゃ増える一方じゃないですか！」
「まあまあ、話は最後まで聞いてください、増やすのはあくまで過程ですから！」
まあ、科学者の考えることは一般人である俺の理解の範疇を越えているのだろう。
続きを聞くことにした。
どうやらその増やしたずんだ虫に放射線を当てることで生殖能力を失うらしい。
その不妊になったずんだ虫を野にばら撒き、野生のずんだ虫とヘコヘコしても卵は還らないという算段だ。
底知らぬヘコヘコ欲とは裏腹に彼らの寿命は短い。短いことの裏返しが短期間での大量出産なのだろう。不妊処理を行なったずんだ虫の総数が野生の個体を上回れば…
実際に沖縄では野菜を食い荒らすハエに対してこの方法が用いられ、根絶に成功したという事例がある。
「枝豆を救うために枝豆を犠牲にするか…まあ仕方がないけど試してみましょうか」
俺は他に手立てが無いことは痛いほど理解していたので、渋々ではあるが了承した。
そしてあとで不妊処理が有効な手立てなのかの実験を見せてもらう約束をした。
「ご理解ありがとうございます、それでは早速準備に取り掛からせて頂きます」
作業は詳細を聴いた3日後に行われた。
まずは不妊の元となるずんだ虫を製造すべく、俺の畑にある仕掛けを施す。
畑ごと格子の細かい鉄の檻で囲ってしまうのだ。そして檻の入り口にあたる所に返しのついた扉を設置する。こうすることで中に入ったずんだ虫は外に出ることはできない。
「あれ？でれないのだ…まあいいや！沢山えだまめさんが生えているから困らないのだ！」
早速ずんだ虫が入って枝豆に卵を産みつける。
作戦通りではあるのだが…
「あいつら枝豆ならなんでもいいのかよ…」
俺がぼそっと呟くと彼女がこうフォローした。
「いいえ、ずんだ虫は質の高い枝豆を宿主に選ぶ傾向があります。貴方の枝豆がそれだけ素晴らしいということですよ！」
良い枝豆農家ってやつはずんだ虫に好かれちまうんだ…
なんか複雑だな…
しかしこいつら気分良く卵を植え付けてるけど、まさかこれが自分たち種族を滅ぼすことになるとは思いもしないだろうな…
「まさに枝豆の地下牢だ…」
「何か言いましたか？」
「さて、じゃあ実験してみましょうか」
俺は彼女の提案に対して全て理解できたわけではない。
実際にこの目で見てからでないと、あくまで過程とはいえ一時的にずんだ虫を増やす方法はリスクもあると思っているからだ。
「本当に申し訳ないですが、これで確証が持てなければここまできてアレですが…計画を中止してもらいたいです…」
「大丈夫ですよ、これを見ていただければきっと貴方も納得してくれます！」
テンション高く彼女が取り出したのは二匹のずんだ虫。
メスには不妊処理を施してあるとのことだ。
「さあ君たち、ヘコヘコしてごらん！」
「言われなくてもするのだ！ヘコヘコ！ヘコヘコ！！」
目の前で情事が起こる。
自分から頼んだとはいえ何を見ているんだ俺は…
「うぉお！スゴイのだ！このメス最高の名器なのだ！！！決めた！もうボクはキミとしかヘコヘコしないのだ！」
「不妊処理を施すとどういう理由か分かりませんがオスのヘコヘコの満足度を底上げしてくれるという作用があります。この性質を利用したのが【不妊ずんだ虫放飼法】なのです」
なるほど…確かにそれなら不妊ずんだ虫とだけヘコヘコするから子どもが産まれず数が減っていくのか…しかし本当に不妊処理は上手くいくのか…？
「ほらずんだ虫さん、あそこに枝豆があるよ！可愛いおちびちゃんをあの中に入れよう！」
彼女がずんだ虫に指示すると、枝豆の鞘にしがみ付いて一心不乱に腰を振るのであった。いくら実験とはいえ気分が悪い…
「立派なえだまめさんなのだ！これなら元気な赤ちゃんが生まれるのだ！！！」
ずんだ虫に実験用として採取した俺の枝豆を褒められても全然嬉しくない…
しかし、卵が孵るのは大体5日程度だが、何日経っても子どもは孵らなかった。
「これで信じて貰えましたか？」
「疑って申し訳ないです…私たちのため、いや、ここら一体の枝豆農家のために全面協力します！」
改めて俺と彼女が固い握手をしている横でずんだ虫は不思議そうに枝豆を見ていた。
「なんでおちびちゃん出てこないのだ…？きっと恥ずかしがりやさんなのだ！」
本当にずんだ虫って疑うことを知らないな…
ちょっと罪悪感出るからもっと悪そうにしてくれよ…
「そうだね〜恥ずかしがり屋なのかもね？じゃあキミはこっちのケースに戻ってね」
彼女がずんだ虫に指示すると素直に虫籠の中に戻っていった。
てっきり用済みになったら殺すのかと思っていたが、ずんずんカンパニーはずんだもんとの共生を理念としているので出来る限り命は奪らない方針だそうだ。
そして1ヶ月後…
「狭いのだ…苦しいのだ…」
「早くここから出して欲しいのだ…ずんぽが欲しいのだ…」
枝豆の地下牢…まあこれは俺が勝手に呼んでいるだけなのだが、ここには大量の欲求不満なメス達で溢れかえっていた。
「メスが沢山いるから入ってみたけど…なんだかやばそうなのだ、別のところいくのだ…ってあれ！？扉さんが開かないのだ！」
「オスがいたのだ！！！！」
「ずんぽ！！ずんぽ！！」
「やっ、やめて…！」
オスはメスの性欲の吐口となり、オスも最初はまんざらでもなかったものの、搾り取られて死んでいった。興味を持って外の返しトラップから入ってくるオスは異常性に気がついてもすぐにメスの餌食となる…まさの地獄のような風景だった。
「じゃあそろそろ不妊処理して野に放ちますか！」
彼女がそういってスマホでどこかへ連絡を取ると、程なくして大型トラックがやってきた。
ずんずんカンパニーの車のようで、檻ごと収納し不妊処理を行う。
「お前たち、元気にヘコヘコするんだよ〜！！！」
そこから程なくして、ずんだ虫の個体数は目に見えて激減し、俺を含む枝豆農家は救われたのであった。
「ありがとうございます、本当になんとお礼を申し上げたら良いか…」
「いえいえ、私たちは当然のことをしたまでです。これからも枝豆畑頑張って下さいね」
彼女はニコッと微笑む。今の俺には救世主…女神に見える。
「枝豆が収穫できたら是非食べに来てください！枝豆だけじゃなくて…東北名物ずんだ餅も用意しますから！」
「ずんだ餅なのだ！？…じゃなかった、ありがとうございます、その時がくるのを楽しみにしていますよ」
そう言って彼女は立ち去って行った…
最後のアレって、なんだかずんだ虫の口癖みたいだったけどなんだったんだろう…
つづく
次作＞
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「まさに枝豆の地下牢だ…」
ここ何気に好き
まさかサイト名が使われるとは…
卑しい同族の姿に嫌気がさしてこうせざるをえないと研究員は思ったのだろうか。
なんと虚しく悔しいのだろう、これもまたずん虐だ。
せめて同族の自分が…と心に決めてずんだもんによる天災に対処していくストーリーを展開していきます！
寄生型は文章の方であまり見かけなかったので新鮮な感じがしますね。
語彙力がないので中身見るとあぁ〜好きしか言えなくなってしまう。好きです。こういうの
ありがとうございます！
次回もお楽しみに！
寄生された奴は売れないのかな、茹で赤ずんとか普通に美味しそうだし。
確かに旨そうではあるけど｢枝豆｣ではなくなってるからね……
盲点でした…
枝豆寄生型ずんだもんがこんなにも凶悪な害獣(害虫)だとは……
にしても不妊にしたほうが雄(ヘコ)ずんに好まれるとは、やはりアイツらは繁殖の"行為"が目的になっていて子ずんなんてヘコヘコの邪魔でしかない｢副産物のゴミ｣としか思ってないのでは…??
あと枝豆畑に閉じ込められて雄に飢えに飢えた雌ずん達が雄ずんを搾り殺していくとは実に爽快ですなぁ〜!!(この有り様じゃ枝豆に植えつけた子ずん達も犯し(喰い)殺してそうだなwww)
雌ずんも性欲に飢えた淫獣の血が流れているようだなぁ……さしずめ、"サキュバずん"と言ったところかwww(ヘコずんを犯し殺す性質はヘコずん駆除に大いに役立ちそうだなぁ……)
そしてこれでまだ｢続く｣とな……もしや放射線治療で突然変異したずんだ虫が産まれるのか!?
サキュバズン、上手ですね！