戦後
最終更新：
hayashidada 2023年08月16日(水) 22:31:14履歴
初投稿です。
睡蓮様のFairiesの復讐から設定を引用させていただいたものとなっております。
こうしたものを投稿するのは初めてなので読みにくいものになってしまっているかもしれませんが温かい目で見ていただければ幸いです。
追記:設定引用元を間違えておりました。謝罪とともに修正させていただきます。祭屋様、睡蓮様両名ともにご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。
かつて妖精と呼ばれ、時には祀られてきた生物、ずんだもん。
時代と共に繁殖を極め、人類に数倍するほどに増殖した結果、その有害性が認識され一部の人々からは侮蔑を以てずんだ虫と呼ばれるようになった。
更に時を経て、今では完全に人類にとって敵性生物として認められ発見次第殺処分が義務化されている。
北海道に端を発したFairiesによる一斉蜂起、人類と妖精……ずんだ虫による未曾有の戦争はあまりにも大きな犠牲を払いながら、辛くも人類の勝利に終わりを迎えた。
長く苦しい戦いの末、人類はずんだ虫を打ち破り、しかし、その憎悪は尽きることがなかった。
かつて存在したずんだ虫の愛護団体も戦後、その姿を完全に消した。その代わりと言わんばかりに時代の流れに従って生まれたのがずんだ虫駆除業者である。
「のだァァァァァァァァァっ！！？」
叩き落されたずんだ虫の悲鳴が廃屋に響き渡る。埃っぽい床に叩き付けられて緑色の体液を口から吐き出した。
「い……いちゃい……いちゃいよぅ……」
何とか逃げ出そうと短い手足を懸命に動かすが死にかけの虫と同じで満足に体が動かないようだった。
ずんだ虫を叩き落とした男はその生態をよく熟知している。どのように殴れば死ぬか、どのように潰せば死の一歩手前で生かし続けられるか。そしてどうすれば飛行器官を潰せるかも理解している。
今の一撃で飛行器官を破壊されたずんだ虫はもはや二度と空を飛ぶことはできなくなっていた。
「お、おそらさん、とべないのだ……どうしてなのだ……？」
虫が何かを囀っている。本来なら聞く耳など持たず潰せばいい。だが、今の男にはそうもいかない事情があった。
「何故空を飛べないのか教えてやる。お前たちは先の戦争で多くの人命を奪った。だから俺たち人間はお前たちを好きなように壊す権利を神から頂いたのだ」
白々しいことを、と男は思う。こんなものはただの技術だ。神などという胡乱な存在は関係ない。
死にかけのずんだ虫が顔を上げる。埃と緑の血を被った汚れた面で男を睨みつける。
「のだぁ……？ で、でもおまえらくしょにんげんもぼくたちをいっぱいころしたのだ！ それこそせんそうするまえから、たくさんたくさんひどいことしてきたのだ！」
それはまあ、その通りである。ぐうの音も出ない正論だ。だから、別に倫理観に基づいて話をする気はない。
ただ単に男はずんだ虫を駆除する仕事に就いており、ずんだ虫をいたぶり殺すことで喜ぶ人々がいて、その映像が高く売れる。それだけの話しである。
男はずんだ虫の片手を踏みつけ、もう片方の手を器用に蹴飛ばした。腕は千切れ飛び、壁にぶつかると水っぽい音を立てながら地面に落ちた。
「あ”あ“あ”あ”あ”あ”あ”あ”！？」
「神は無意味に命を作らない。人という種が食物連鎖の頂点にあるのは、そうあれと望んだからだ。翻ってお前たちはどうだ？ 異常なまでの繁殖力、カマキリにさえ殺される身体能力、全身が可食部分という、食物連鎖の底辺に位置するために生まれてきたような生物だ」
見ろ、とずんだ虫の頭を掴み持ち上げる。涙を流し充血する瞳が吹き飛んだ腕を見せつけられた。
蹴飛ばして飛んでいった腕に虫が群がる。その血液でさえご馳走と言わんばかりにあらゆる虫がずんだ虫の肉体だったものを捕食していく。
「お前の腕が食われてるぞ」
「しょんな……ぼくのおてて……かえちて……かえちて……」
頭を掴む指に力を込める。甲高く、耳障りな声がずんだ虫の口から溢れ出た。
「お前らずんだ虫は餌だ。あらゆる生き物にとっての食い物だ。それが神から与えられたお前たちの役割だ」
「ひ……ひぎ、……ふぎゅ……ぎぁ……ち……ちがうのだ……ぼくたちは……もりのけんじゃなのだ……」
半死半生で虫は鳴く。それは聞くに堪えない妄想だった。
「もりにすむ……しぜんとのちょうわをたもつ……ばらんさー……なのちゃ……ぼくたちは……おまえたちのごはんさんなんかじゃ……ないのだ……」
ふ、とかすかに笑うように息を吐く。そしてずんだ虫の目にセロテープを貼った。
「本当にFairiesは罪深い組織だったな」
「ぐぇっ！」
ずんだ虫を投げ捨てる。体から落ちるようにすることで体の機能を破壊しつつ生かし続けることが可能だ。
度重なる経験から男はそれを熟知していた。
「いいか、クソ虫。その妄言はFairiesに教えられたものだろうが、それは奴らがお前らを利用するために与えた大嘘だ」
「え……」
「お前らが真に森の賢者であるなら自然と敬われるはずだろう。自称しなければ誰もそうと思ってくれないのであれば、それは事実誤認と言って差し支えない」
「じ、じじつごにん……？」
言葉の意味が理解できないのだろう。当たり前である。この生き物は人間の言葉を喋れるが、これにとって不必要な言葉まで習得してはいない。
ものを知らないのは仕方がない。そもそも喋れる時点でなにかの間違いなのだ。
男は用意していた二つの虫かごの内、一つを持ち上げると蓋を開いた。
「勘違いだってことさ」
動けないでいるずんだ虫に虫かごの中にいた虫たちを降り注がせる。
「い、いやぁあああああぁぁぁぁ！？ や、やめちぇぇぇぇ！」
虫たちはずんだ虫の体を這い回り食べやすい所から噛みつき始めた。柔らかく、脆いずんだ虫は瞬く間にボロボロになっていく。破れた白い皮膚の下にある緑色の肉をついばむ虫が体内に侵入する。神経を食い千切られる痛みに白目を剥き、口から泡を吹く。耳は端から食べられていき、千切れかけた付け根の部分から血が吹き出している。尻尾は既に体から離れて集られていた。
全身が緑色の血に塗れて生きているのが不思議なほどだった。
「どぼち……て……ぼくが……こんなめに……ぼく……なにもわるいことちてないのだ……」
「しているよ」
「え……？」
「この廃屋は前の戦争でお前らに壊されたものだ。命からがら生き延びた家主が戻ってきてみればお前らが図々しくも住み着いていた。それを見た家主の怒りがお前に理解できるか？」
男の依頼元はこの廃屋の家主だった。前の戦争で家族をずんだ虫に殺され何もなくなった老いた男だった。
家族を惨殺され、生きる希望を失っていたが、それでも家族との思い出が残る家に帰りたいと戻ってきた男が見たのは自分の家族を殺した生き物共が我が物顔で思い出を汚している光景だった。
怒りに打ち震え、殺意を漲らせながら、しかし老人の手には力が入らなかった。全てを失った老人にはずんだ虫を殺すほどの力さえ残ってはいなかった。
老人は残された僅かな全財産をはたいて男に駆除を要請した。別にそんな端金は要らなかった。駆除の様子を映像にして売り捌けば十分な金銭は手に入るからだ。それでも男はそれを受け取るしかなかった。
老人の震える手、淀み汚れ疲れ切り、その上で憎悪に滾る瞳。握りしめられてクシャクシャになった幾ばくかの金。これを拒絶することは許されないと思った。
ずんだ虫に対する感情など男はとっくに摩耗している。どうでもいい金儲けのための道具に過ぎない。
それでもここのずんだ虫は念入りに苦しめておこうと思った。
「見ろ」
男がスマホを取り出すと、そこには一匹のメスずんと子ずんが写っていた。二匹は酷く怯えた表情をしていてこれから起きる出来事を想起させる様子だった。
「ま……ままずん……？ おちびちゃ、ん……？」
今にも死にそうだが、セロテープで覆った目だけはまだ無事だ。その目が映像の中の自分の家族を見ている。
嫌な予感がしたのだろう。ただでさえ酷かった顔が更に青くなっていく。
『お……おちびちゃん！ ママずんがまもるからだいじょうぶだからね』
我が子を守るべく子ずんにおおいかぶさろうとするメスを画面外から伸びた足が蹴り飛ばす。
『邪魔だ』
『おかーちゃ、おかーちゃ！』
泣き喚く子ずんがメスに走り寄ろうとするが人間の手に捕まってしまう。
『はなちぇ！ くちょにんげん！ ちね！ ちぬのだ！ ぷくー！』
頬をいっぱいに膨らませ威嚇する子ずんの頬にピンが突き刺さった。右から左へと貫通し悲鳴にならない悲鳴を上げる。
『ぐぎゅぎょりはぷつぷぺぇぇえあぇぇぁぁ！？』
ピンを引き抜くと血が吹き出した。
『お、おちびぃぃぃー！』
メスの悲痛な叫びが木霊する。そしてそれは何の意味もなさず、今度は黒々とした瞳にピンが当てられる。
「やめ……やめぢぇ……やめろ……やめるのだ……！」
これから起きることが分かったのだろう。ずんだ虫は喉に血が詰まったかすれ声でそれを止めようとする。だがずんだ虫の制止は二時間ほど遅いものだった。
映像の中で子ずんが鳴き叫び頭を振り回して逃げようとしている。『ぱぱずーん！ ままずーん！ たしゅけてのだぁぁぁ！』そんな無意味な言葉を喚き散らしている。
戦前であれば、これを残酷だと非難し止めるものもいただろう。
だが、今は戦後なのだ。ずんだ虫の言葉は人間のそれとは違う。それっぽく聞こえるだけの羽音と何ら変わらないものだった。
ピンがゆっくりと子ずんの目に突き刺さっていく。上げられた悲鳴はもはや生物のものではなかった。
だが、ピンは何も気にすることなくなおも深く深く突き刺さっていく。やがて最奥まで達すると内部で引っ掛けるようにして目玉ごと引っこ抜かれた。
「ああああああ！ おちび、おちびぃぃぃ！」
ずんだ虫が絶叫する。セロハンの下の瞳から緑色の涙が流れていた。
『はが……がぁぁ……』
『お、おちびおちびおちびおちびぃぃぃ！ しっかりするのだ！ ちなないで、ちなないでほしいのだぁぁぁぁぁ！』
メスが絶叫する。
取り敢えずといった手付きで人の手が子ずんの体を掴んだまま片腕を掴む。
『やめちぇ！ もうやめちぇぇ！』
それを聞く必要はない。子ずんの腕は容易く引きちぎられた。
電磁波のような悲鳴を上げるが、男は気にせず四肢をもぎ取っていく。
最後には両手足を失い、いわゆる足りないとなった子ずんが地面に落とされた。
『ころ……ちて……ころち……て……』
意識を混濁させた子ずんが死を懇願する。
「うわあぁぁぁぁああああ！？ うしょ、うしょなのだぁぁぁぁぁあ！？ こんにゃの、うしょなのだぁあああ！」
発狂したずんだ虫が泣き叫ぶ。その姿は映像の中の子どもと同じ、足りないの姿に成り果てていた。
「嘘じゃない。お前が寝こけている間に起きた現実だ」
「ね……ねてる……あいだ……？」
「そうだ。昨日、お前が道端で調達したずんだ餅があっただろう。あれは俺が用意したものだ。中には強力な睡眠薬が入っていた」
ずんだ虫はこれで警戒心がそれなりに強い。逃がすわけにはいかないので罠を仕掛けておいたのだ。
ものの見事に引っかかったずんだ虫どものうち、子ずんとメスずんを先に叩き起こし処刑し映像を撮っておいた。残されたオスに見せるためだ。
「しょ……しょんな……ぼくの、せいで……？」
映像の中で子ずんが生殖器官、ずんぽを切り取られ断末魔を上げる。『ずんぽ、ずんぽだけはやめちゃ！ まだ、まだ、へこへこしてないちゃ！』およそあらゆる意味で無意味な懇願をし続けるがそれを聞く理由がまるでない。ずんぽは切断され、子ずんの口の中に突っ込まれた。
涙を流しながら何事かを叫び続けるメスずんを捕まえると尻の穴に漏斗を突っ込まれ熱した水銀が流し込まれていく。『あ、あにゃるさんがあちゅいのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！？ や、やめちぇ、なかに、なかに、ぱぱずんのおちびちゃんがあらぐらごぺ』抗議するメスの言葉は途中で意味をなさないなにかになった。もとより無意味なものが更に無意味になっていく。
「あ、ああ……ああ……ああああ」
もう既に全てが終わった後の取り返しが付かない惨事に涙を流す。ふやけたセロハンがはがれてあらわになった目に虫が集る。
次第に食われていき視界が失われてもその眼窩から涙が絶えることはなかった。
全てのずんだ虫を駆除し、撮影しておいた映像を確認する。どれも問題なく撮れていた。
今やずんだ虫の駆除はゴキブリ駆除以上に問題視されなくなっている。それでもこうした拷問まがいの駆除はいい目で見られることはない。
それでもこの映像は高く売れる。人々の倫理観は深く静かに密やかに変わり果てていた。それだけあの戦争が残した爪痕は大きかったのだ。
もはやずんだ虫の死に様に男の心を動かすものはない。それほど男はずんだ虫を殺してきた。
映像を残したスマホは二つある。一つは売りさばくための元データであり、もう一つは依頼者の老人に渡すためだ。
二つのスマホを眺めて少し考えてから元データの方の映像を消去した。
老人には映像のデータと一緒に映像を売りさばくための連絡先を渡すことにした。
何故そんなことをするのか、男にはよく分からない。
ただ、ポケットの中にあるクシャクシャの紙幣があまりにも重たいだけだった。
睡蓮様のFairiesの復讐から設定を引用させていただいたものとなっております。
こうしたものを投稿するのは初めてなので読みにくいものになってしまっているかもしれませんが温かい目で見ていただければ幸いです。
追記:設定引用元を間違えておりました。謝罪とともに修正させていただきます。祭屋様、睡蓮様両名ともにご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。
かつて妖精と呼ばれ、時には祀られてきた生物、ずんだもん。
時代と共に繁殖を極め、人類に数倍するほどに増殖した結果、その有害性が認識され一部の人々からは侮蔑を以てずんだ虫と呼ばれるようになった。
更に時を経て、今では完全に人類にとって敵性生物として認められ発見次第殺処分が義務化されている。
北海道に端を発したFairiesによる一斉蜂起、人類と妖精……ずんだ虫による未曾有の戦争はあまりにも大きな犠牲を払いながら、辛くも人類の勝利に終わりを迎えた。
長く苦しい戦いの末、人類はずんだ虫を打ち破り、しかし、その憎悪は尽きることがなかった。
かつて存在したずんだ虫の愛護団体も戦後、その姿を完全に消した。その代わりと言わんばかりに時代の流れに従って生まれたのがずんだ虫駆除業者である。
「のだァァァァァァァァァっ！！？」
叩き落されたずんだ虫の悲鳴が廃屋に響き渡る。埃っぽい床に叩き付けられて緑色の体液を口から吐き出した。
「い……いちゃい……いちゃいよぅ……」
何とか逃げ出そうと短い手足を懸命に動かすが死にかけの虫と同じで満足に体が動かないようだった。
ずんだ虫を叩き落とした男はその生態をよく熟知している。どのように殴れば死ぬか、どのように潰せば死の一歩手前で生かし続けられるか。そしてどうすれば飛行器官を潰せるかも理解している。
今の一撃で飛行器官を破壊されたずんだ虫はもはや二度と空を飛ぶことはできなくなっていた。
「お、おそらさん、とべないのだ……どうしてなのだ……？」
虫が何かを囀っている。本来なら聞く耳など持たず潰せばいい。だが、今の男にはそうもいかない事情があった。
「何故空を飛べないのか教えてやる。お前たちは先の戦争で多くの人命を奪った。だから俺たち人間はお前たちを好きなように壊す権利を神から頂いたのだ」
白々しいことを、と男は思う。こんなものはただの技術だ。神などという胡乱な存在は関係ない。
死にかけのずんだ虫が顔を上げる。埃と緑の血を被った汚れた面で男を睨みつける。
「のだぁ……？ で、でもおまえらくしょにんげんもぼくたちをいっぱいころしたのだ！ それこそせんそうするまえから、たくさんたくさんひどいことしてきたのだ！」
それはまあ、その通りである。ぐうの音も出ない正論だ。だから、別に倫理観に基づいて話をする気はない。
ただ単に男はずんだ虫を駆除する仕事に就いており、ずんだ虫をいたぶり殺すことで喜ぶ人々がいて、その映像が高く売れる。それだけの話しである。
男はずんだ虫の片手を踏みつけ、もう片方の手を器用に蹴飛ばした。腕は千切れ飛び、壁にぶつかると水っぽい音を立てながら地面に落ちた。
「あ”あ“あ”あ”あ”あ”あ”あ”！？」
「神は無意味に命を作らない。人という種が食物連鎖の頂点にあるのは、そうあれと望んだからだ。翻ってお前たちはどうだ？ 異常なまでの繁殖力、カマキリにさえ殺される身体能力、全身が可食部分という、食物連鎖の底辺に位置するために生まれてきたような生物だ」
見ろ、とずんだ虫の頭を掴み持ち上げる。涙を流し充血する瞳が吹き飛んだ腕を見せつけられた。
蹴飛ばして飛んでいった腕に虫が群がる。その血液でさえご馳走と言わんばかりにあらゆる虫がずんだ虫の肉体だったものを捕食していく。
「お前の腕が食われてるぞ」
「しょんな……ぼくのおてて……かえちて……かえちて……」
頭を掴む指に力を込める。甲高く、耳障りな声がずんだ虫の口から溢れ出た。
「お前らずんだ虫は餌だ。あらゆる生き物にとっての食い物だ。それが神から与えられたお前たちの役割だ」
「ひ……ひぎ、……ふぎゅ……ぎぁ……ち……ちがうのだ……ぼくたちは……もりのけんじゃなのだ……」
半死半生で虫は鳴く。それは聞くに堪えない妄想だった。
「もりにすむ……しぜんとのちょうわをたもつ……ばらんさー……なのちゃ……ぼくたちは……おまえたちのごはんさんなんかじゃ……ないのだ……」
ふ、とかすかに笑うように息を吐く。そしてずんだ虫の目にセロテープを貼った。
「本当にFairiesは罪深い組織だったな」
「ぐぇっ！」
ずんだ虫を投げ捨てる。体から落ちるようにすることで体の機能を破壊しつつ生かし続けることが可能だ。
度重なる経験から男はそれを熟知していた。
「いいか、クソ虫。その妄言はFairiesに教えられたものだろうが、それは奴らがお前らを利用するために与えた大嘘だ」
「え……」
「お前らが真に森の賢者であるなら自然と敬われるはずだろう。自称しなければ誰もそうと思ってくれないのであれば、それは事実誤認と言って差し支えない」
「じ、じじつごにん……？」
言葉の意味が理解できないのだろう。当たり前である。この生き物は人間の言葉を喋れるが、これにとって不必要な言葉まで習得してはいない。
ものを知らないのは仕方がない。そもそも喋れる時点でなにかの間違いなのだ。
男は用意していた二つの虫かごの内、一つを持ち上げると蓋を開いた。
「勘違いだってことさ」
動けないでいるずんだ虫に虫かごの中にいた虫たちを降り注がせる。
「い、いやぁあああああぁぁぁぁ！？ や、やめちぇぇぇぇ！」
虫たちはずんだ虫の体を這い回り食べやすい所から噛みつき始めた。柔らかく、脆いずんだ虫は瞬く間にボロボロになっていく。破れた白い皮膚の下にある緑色の肉をついばむ虫が体内に侵入する。神経を食い千切られる痛みに白目を剥き、口から泡を吹く。耳は端から食べられていき、千切れかけた付け根の部分から血が吹き出している。尻尾は既に体から離れて集られていた。
全身が緑色の血に塗れて生きているのが不思議なほどだった。
「どぼち……て……ぼくが……こんなめに……ぼく……なにもわるいことちてないのだ……」
「しているよ」
「え……？」
「この廃屋は前の戦争でお前らに壊されたものだ。命からがら生き延びた家主が戻ってきてみればお前らが図々しくも住み着いていた。それを見た家主の怒りがお前に理解できるか？」
男の依頼元はこの廃屋の家主だった。前の戦争で家族をずんだ虫に殺され何もなくなった老いた男だった。
家族を惨殺され、生きる希望を失っていたが、それでも家族との思い出が残る家に帰りたいと戻ってきた男が見たのは自分の家族を殺した生き物共が我が物顔で思い出を汚している光景だった。
怒りに打ち震え、殺意を漲らせながら、しかし老人の手には力が入らなかった。全てを失った老人にはずんだ虫を殺すほどの力さえ残ってはいなかった。
老人は残された僅かな全財産をはたいて男に駆除を要請した。別にそんな端金は要らなかった。駆除の様子を映像にして売り捌けば十分な金銭は手に入るからだ。それでも男はそれを受け取るしかなかった。
老人の震える手、淀み汚れ疲れ切り、その上で憎悪に滾る瞳。握りしめられてクシャクシャになった幾ばくかの金。これを拒絶することは許されないと思った。
ずんだ虫に対する感情など男はとっくに摩耗している。どうでもいい金儲けのための道具に過ぎない。
それでもここのずんだ虫は念入りに苦しめておこうと思った。
「見ろ」
男がスマホを取り出すと、そこには一匹のメスずんと子ずんが写っていた。二匹は酷く怯えた表情をしていてこれから起きる出来事を想起させる様子だった。
「ま……ままずん……？ おちびちゃ、ん……？」
今にも死にそうだが、セロテープで覆った目だけはまだ無事だ。その目が映像の中の自分の家族を見ている。
嫌な予感がしたのだろう。ただでさえ酷かった顔が更に青くなっていく。
『お……おちびちゃん！ ママずんがまもるからだいじょうぶだからね』
我が子を守るべく子ずんにおおいかぶさろうとするメスを画面外から伸びた足が蹴り飛ばす。
『邪魔だ』
『おかーちゃ、おかーちゃ！』
泣き喚く子ずんがメスに走り寄ろうとするが人間の手に捕まってしまう。
『はなちぇ！ くちょにんげん！ ちね！ ちぬのだ！ ぷくー！』
頬をいっぱいに膨らませ威嚇する子ずんの頬にピンが突き刺さった。右から左へと貫通し悲鳴にならない悲鳴を上げる。
『ぐぎゅぎょりはぷつぷぺぇぇえあぇぇぁぁ！？』
ピンを引き抜くと血が吹き出した。
『お、おちびぃぃぃー！』
メスの悲痛な叫びが木霊する。そしてそれは何の意味もなさず、今度は黒々とした瞳にピンが当てられる。
「やめ……やめぢぇ……やめろ……やめるのだ……！」
これから起きることが分かったのだろう。ずんだ虫は喉に血が詰まったかすれ声でそれを止めようとする。だがずんだ虫の制止は二時間ほど遅いものだった。
映像の中で子ずんが鳴き叫び頭を振り回して逃げようとしている。『ぱぱずーん！ ままずーん！ たしゅけてのだぁぁぁ！』そんな無意味な言葉を喚き散らしている。
戦前であれば、これを残酷だと非難し止めるものもいただろう。
だが、今は戦後なのだ。ずんだ虫の言葉は人間のそれとは違う。それっぽく聞こえるだけの羽音と何ら変わらないものだった。
ピンがゆっくりと子ずんの目に突き刺さっていく。上げられた悲鳴はもはや生物のものではなかった。
だが、ピンは何も気にすることなくなおも深く深く突き刺さっていく。やがて最奥まで達すると内部で引っ掛けるようにして目玉ごと引っこ抜かれた。
「ああああああ！ おちび、おちびぃぃぃ！」
ずんだ虫が絶叫する。セロハンの下の瞳から緑色の涙が流れていた。
『はが……がぁぁ……』
『お、おちびおちびおちびおちびぃぃぃ！ しっかりするのだ！ ちなないで、ちなないでほしいのだぁぁぁぁぁ！』
メスが絶叫する。
取り敢えずといった手付きで人の手が子ずんの体を掴んだまま片腕を掴む。
『やめちぇ！ もうやめちぇぇ！』
それを聞く必要はない。子ずんの腕は容易く引きちぎられた。
電磁波のような悲鳴を上げるが、男は気にせず四肢をもぎ取っていく。
最後には両手足を失い、いわゆる足りないとなった子ずんが地面に落とされた。
『ころ……ちて……ころち……て……』
意識を混濁させた子ずんが死を懇願する。
「うわあぁぁぁぁああああ！？ うしょ、うしょなのだぁぁぁぁぁあ！？ こんにゃの、うしょなのだぁあああ！」
発狂したずんだ虫が泣き叫ぶ。その姿は映像の中の子どもと同じ、足りないの姿に成り果てていた。
「嘘じゃない。お前が寝こけている間に起きた現実だ」
「ね……ねてる……あいだ……？」
「そうだ。昨日、お前が道端で調達したずんだ餅があっただろう。あれは俺が用意したものだ。中には強力な睡眠薬が入っていた」
ずんだ虫はこれで警戒心がそれなりに強い。逃がすわけにはいかないので罠を仕掛けておいたのだ。
ものの見事に引っかかったずんだ虫どものうち、子ずんとメスずんを先に叩き起こし処刑し映像を撮っておいた。残されたオスに見せるためだ。
「しょ……しょんな……ぼくの、せいで……？」
映像の中で子ずんが生殖器官、ずんぽを切り取られ断末魔を上げる。『ずんぽ、ずんぽだけはやめちゃ！ まだ、まだ、へこへこしてないちゃ！』およそあらゆる意味で無意味な懇願をし続けるがそれを聞く理由がまるでない。ずんぽは切断され、子ずんの口の中に突っ込まれた。
涙を流しながら何事かを叫び続けるメスずんを捕まえると尻の穴に漏斗を突っ込まれ熱した水銀が流し込まれていく。『あ、あにゃるさんがあちゅいのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！？ や、やめちぇ、なかに、なかに、ぱぱずんのおちびちゃんがあらぐらごぺ』抗議するメスの言葉は途中で意味をなさないなにかになった。もとより無意味なものが更に無意味になっていく。
「あ、ああ……ああ……ああああ」
もう既に全てが終わった後の取り返しが付かない惨事に涙を流す。ふやけたセロハンがはがれてあらわになった目に虫が集る。
次第に食われていき視界が失われてもその眼窩から涙が絶えることはなかった。
全てのずんだ虫を駆除し、撮影しておいた映像を確認する。どれも問題なく撮れていた。
今やずんだ虫の駆除はゴキブリ駆除以上に問題視されなくなっている。それでもこうした拷問まがいの駆除はいい目で見られることはない。
それでもこの映像は高く売れる。人々の倫理観は深く静かに密やかに変わり果てていた。それだけあの戦争が残した爪痕は大きかったのだ。
もはやずんだ虫の死に様に男の心を動かすものはない。それほど男はずんだ虫を殺してきた。
映像を残したスマホは二つある。一つは売りさばくための元データであり、もう一つは依頼者の老人に渡すためだ。
二つのスマホを眺めて少し考えてから元データの方の映像を消去した。
老人には映像のデータと一緒に映像を売りさばくための連絡先を渡すことにした。
何故そんなことをするのか、男にはよく分からない。
ただ、ポケットの中にあるクシャクシャの紙幣があまりにも重たいだけだった。
このページへのコメント
戦争は何も生まないけど、いざ戦争が起こってしまったら負の感情だけが増幅されていくんですね…
ひたすらに戦後の陰鬱な無常感が溢れ出ていて最高でした！！
ずん虐界隈における琴葉茜ドクズサイコパス扱いなの草生える
『もりのけんじゃ』ねぇ･･･
『己の欲のままに暮らし、自然を汚染し、
自身以外の生物を下等生物と見下す割に対して強くもない、
生物として破綻している繁殖力による
【下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる】戦略
(殆ど失敗に終わる)で愚子愚孫を残そうとし、この世の全てを未だに穢し続ける』
奴の何処が賢者だぁ〜っ？
寝言はFAIRIESの糞共が死滅する時に言っとけよな。
･･･にしてもとんでもねぇ置き土産を残しやがったな。
FAIRIESの糞共が地球をずんだ虫で汚染しやがったから、
残った人達がきちんと浄化しなきゃな･･･
一つだけずんだ虫は正しいことを言っていた。
森のバランサーであることは間違いない。無尽蔵に増える最下層の食料は森の動植物にはありかたい。
あの妖精愛誤のクソ女とクソ害虫共が引き起こした｢ずん逆｣によって負(マイナス)に叩き落とされた人類……実に胸糞悪い。戦争が終わってもなお、この怨みつらみが消えないだなんて……。
なーにが"もりのけんじゃ"だ、"しぜんのばらんさー"だ……テメーらがやってきたのはその真逆、人も自然も欲望のままに食い潰してきた"黙示録のイナゴ"、"生ける｢悪意｣"そのものだろーがｯｯｯ!!!(怒)
嗚呼……なぜここでは｢ナマモノの逆襲｣が起きてしまうのだろうか……他の虐系ナマモノと違って飛べるからか?無駄に悪知恵が働くからか??奴らよりも遥かに欲深すぎるからか???