架空国家を作ろう2.2

カイバル・パクトゥンクワはインド北西部に位置する州。人口の多くはパシュトゥーン人であるが、グジャール人やハザーラ人、コワール人、タジク人、ヒンドコ人、カラシュ人、コヒスタン人なども居住している。
カイバル・パクトゥンクワは多くを巨大な山岳地帯や丘陵地帯に覆われた起伏の激しい州であり、古くは北西辺境州と呼ばれてきた。
現在も多くが伝統的な暮らしを営んでおり、美しい山岳の風景や仏教芸術、古代の遺跡を求めて多くの観光客が訪れる。
カイバル・パクトゥンクワは古くは仏教の中心の一つであったガンダーラ王国の中心であり、地理的に歴史的なチョークポイントとなる交易路の一つであったカイバル峠に近いため、その後は幾度となく支配者が入れ替わってきた。そのため様々な様式の遺跡が混在している。

インダス文明期、カイバル・パクトゥンクワは重要な交易路だった。バクトリアやマルギアナ、ペルシアなどの諸勢力との交易がカイバル・パクトゥンクワを通過して行われていたと思われる。

ヴェーダ期になるとカイバル・パクトゥンクワにはガンダーラ王国が成立する。ガンダーラはアフガニスタンからカイバル・パクトゥンクワにかけてを領域とした国家で、ヒンドゥー教や仏教を信仰していた。
ガンダーラは仏教の中心であり、様々な仏教芸術が生まれた。
この時代、ペシャワールはプルシャプラと呼ばれていた。
ガンダーラの住民は「パクタス」と呼ばれており、彼らは現在のパシュトゥーン人の先祖であると思われる。
アレクサンドロスのマケドニア王国がメソポタミアやシリア、ペルシャ、ゲドロシア、バクトリアなどを次々と併合していく中でカイバル・パクトゥンクワは一時占領下に置かれ、ギリシャ人が流入した。その結果、カイバル・パクトゥンクワはヘレニズムの影響を強く受けた。

インド亜大陸、ヒンドゥスタン平原にマウリヤ朝が成立すると、彼らは拡大し、巨大な帝国となった。
マウリヤ帝国の支配はカイバル・パクトゥンクワにも及んだ。セレウコス朝シリアはこの地を領有していたものの、マウリヤ帝国に敗北しゲドロシアまでの支配権を失った。マウリヤ帝国はこの時にカイバル・パクトゥンクワも獲得した。マウリヤ帝国の統治下で再びヒンドゥー教国の下に帰ってきたカイバル・パクトゥンクワであったが、アショーカ王の時代には仏教が再び盛んとなり、カイバル・パクトゥンクワはまたもその中心となった。
アショーカ王の死後、マウリヤ帝国は崩壊に向かい、この地はバクトリアに成立したギリシャ人国家、グレコ・バクトリア王国の支配下となった。しかしこの時代は様々な民族の流入が同時に起きた時代であり、インド・スキタイ朝やパルティア帝国、サカ人などが次々とカイバル・パクトゥンクワをめぐって争い、征服を繰り返した。

クシャーナ朝が中央アジアに成立し、拡大すると、カイバル・パクトゥンクワはクシャーナ朝の支配下となった。
クシャーナ朝はアフガニスタンやインダス渓谷までの巨大な領域を統治したが、衰退し始めると中央アジアを失いインド側に押し込まれていった。
彼らの影響は強く、現在もチトラルの君主はクシャーナ朝時代の貴族の称号を名乗っている。

クシャーナ朝が勢力を失うとカイバル・パクトゥンクワはサーサーン朝、キダーラ朝、エフタル、そしてシャヒ朝と次々と勢力が入れ替わった。
シャヒ朝の時代になるとカイバル・パクトゥンクワは交易の中心地として発展を遂げた。商人たちはカイバル峠を越えてインドと中央アジアの間を行き来した。シャヒ朝は多くのヒンドゥー寺院をカイバル・パクトゥンクワに建設した。これらは後に多くが破壊されてしまうこととなる。

シャヒ朝末期、アフガニスタンに成立したガズニ朝はカイバル・パクトゥンクワに侵入、支配した。
その後成立したゴール朝もまた、カイバル・パクトゥンクワを支配下に置いた。この時代、カイバル・パクトゥンクワでは仏教やヒンドゥー教から、イスラム教への改宗が進んだと見られる。
その後のカイバル・パクトゥンクワにはティムール朝が侵攻し、支配下に置いた。
強力な軍でパンジャーブまで進行したティムール朝だったが、その後に力を弱めると、カイバル・パクトゥンクワを含む地域は属領とされた。
ティムール朝のウルグ・ベグ2世の時代、学問が盛んとなるなど、カイバル・パクトゥンクワは安定した。
このティムール朝は、その後のムガル大国に繋がることとなる。

ムガル帝国がバーブルによって設立されると、カイバル・パクトゥンクワはその影響下となった。
カイバル・パクトゥンクワは初期のムガル帝国の中枢の一つであった。
ロシャニアの反乱など、カイバル・パクトゥンクワを失いかねない危機はあったものの、概ね安定した治世のもとでカイバル・パクトゥンクワは統治されてきた。
アフガニスタンが度々反乱を起こすようになると、民族的に同一なカイバル・パクトゥンクワも同調することとなる。

アフガニスタンでドゥッラーニー朝が成立すると、ムガル帝国は力を失いこの地を明け渡すこととなった。
アフマド・シャーは幾度となくインドへの攻撃を繰り返したが、アウラングゼーブ帝の失策によるマラーター同盟の成立以降、厳しい抵抗から難しくなっていった。
アフマド・シャーはマラーター同盟に対して聖戦を宣言し戦ったものの苦戦した。
その後のシク教国の成立などの結果、アフガニスタンはインドを支配下に置くことはできなかった。

パンジャーブでシク教国家が成立すると、彼らはパンジャーブのみならずカシミールやカイバル・パクトゥンクワも支配下に置いた。
シク教国はカイバル峠を国境とした。カイバル・パクトゥンクワでは計画都市や砦の建設などが行われた。
シク教国が方針を転換するとこの地域は地元の有力者の力が強く認められるようになった。

カイバル・パクトゥンクワは貧しい州であり、主体となるのは農業である。
カイバル・パクトゥンクワでは小麦、トウモロコシ、タバコ、米、テンサイ、様々な果物が栽培されている。
また、森林の豊富さから林業も盛んであり、ヒマラヤスギの産地の一つとなっている。
香料や伝統医療の薬、建材、船の材料とかなり素材として優秀であるヒマラヤスギはカイバルパクトゥンクワを支えている。
州都ペシャワールは目覚ましい発展を遂げている最中であり、郊外には工場が次々と建設されている。
こうした工場の建設ラッシュは失業率の大幅な改善を生んだ。
カイバル・パクトゥンクワは大理石が産出することでも知られており、インド随一の大理石の産地である。
カイバル・パクトゥンクワの重要な産業の一つには小火器の密造がある。
北西部族地域のワジリスタンなどは未だに紛争状態であり、北部のコヒスタン部族地域やハザーラ部族地域でも小火器の需要は高い。
南方のバルーチスターンや北方のカシミール、西方のアフガニスタンでは部族地域の部族民や、辺境に暮らす遊牧民のみならず一般の行政区画に居住する地元民も小火器を保有しようとする傾向にあるため、カイバル・パクトゥンクワの密造銃工場は常に賑わい、商取引がなされている、
インド政府は取り締まりの強化を進めているものの、彼らはそれを意に介さず次々と新たな工場を建てたり移転したりするため、なんの効果もあげていない。