◯◯年◯月、◯◯博士が亜空間推進に関する論文を発表。亜空間で推進できる機関、とやらについて詳しく明記されているものの、実在するのかすら怪しい亜空間である。ここを航行できる機関を造れると言われても、信じられぬものである。
だが、興味を示す者も少なからずいた。
中でも沖之鷲帝国は深い感心を示し、多額の資金と専用の研究室を用意し、◯◯博士を国内に招くことにした。
この時交わされた機密保持に関する契約は後々破られ、技術が世界中に漏洩することとなったが、これにより亜空間技術先進国になれたのだから良しとしよう。
論文発表から約一ヶ月後、早くも◯◯博士が入国。陛下の直令により研究者が集められ、翌日から試作機の開発が開始される。
一号機は僅か一ヶ月で完成したものの、失敗。出力不足とされる。また、時空の揺らぎは観測され、博士の論文が正確であったことが実証される。この結果に博士は大喜びしたようで、様々な『伝説』を生み出したが、翌日からは普段の調子に戻ったようである。
その後は出力の向上が課題とされるようになる。
研究開始から十ヶ月後、遂に試作機が亜空間に潜航する。
浮上に失敗したため、この試作機が帰ってくることはなかったものの、これをもとに幾つかの改良を加えた8号機は潜航後、浮上に成功する。
これにより亜空間の存在、及び亜空間推進機関。この二つの証明が可能になったが、沖之鷲帝国は機密保持と称して発表を許さなかった。
これに不満を抱いた博士が、8号機とそれによって得られた亜空間のデータを流出させたと考えられているが、詳細は不明である。
8号機により実用化の目途が立った。そこで、兵器にするための実験へと、研究は第二段階に移ったのである。
もちろん、8号機により無人小型機での自動浮沈が可能であることは既にわかっている。兵器化の第一段階として、亜空間魚雷が考案された。
初期の計画では、発射後亜空間に自動で潜航、目標手前で浮上し、奇襲を仕掛けるというものであったが、亜空間推進機関では通常空間を移動できない為に機関が混在することなり、燃料か炸薬量を犠牲にする必要があった。
燃料を犠牲にした場合、肉薄雷撃を行う必要が生じ、奇襲ができないため通常の航宙魚雷のほうが費用が安い上に安全とされた。
炸薬を犠牲にすれば奇襲を行える程度に遠距離から攻撃を行えるが、従来の対艦航宙魚雷サイズだと、対艦に使える程には炸薬量が確保できないのである。
そこで考え出されたのが、『潜水艦』である。
亜空間潜水艦に亜空間魚雷を搭載し、その隠蔽性を生かして肉薄雷撃による奇襲を仕掛け、敵主力艦を撃沈ないし撃破する、そのようにしてこの課題を克服しようと考えたのである。
人を亜空間に運ぶ、有人亜空間潜水艦の開発が行われることが決定したのである。
早速、有人の亜空間潜航艦が作成された。とはいえ、亜空間機関を搭載しているだけで、艦そのものの外観は他の宇宙艦艇と変わりなく、その為にあえて艦の存在そのものは隠さずにいた。もちろん、亜空間航行が可能であることは最重要機密であったが。
乗員は専門家十数名と、召集した罪人数十名。
不備がないことを確認した後、1号艦は出航。約一時間の通常航行の後に潜航する。
潜航試験は数十分とされていた。しかし、予定の時刻が過ぎても1号艦は浮上しなかった。
急遽、探索の為に小型の無人探査機が派遣され、数時間後に亜空間で静止した状態の1号艦が発見される。
その後、無人潜航艇数隻により通常空間に引き揚げられたものの、生存者なし。
艦内温度は氷点下30℃、食料も水も防寒具もない状況であった。
1号艦の事故原因そのものは、容易に特定することができた。
亜空間内で機関が故障したために、浮上できなくなってしまった。それだけである。
だが、大変なのはここからであった。
故障したなら故障しないような設計にすればよい。
言葉では簡単であるが、この修正作業には数ヶ月を有することとなり、修正した機関を搭載する2号艦が完成したのは、1号艦の事故から二年後のこととなった。
2号艦の乗組員も1号艦と同じように、専門家と罪人で構成された。
スケジュールも1号艦の時と同じであった。
2号艦が亜空間への潜航を開始する…。
潜航から約20分後、突如地面に穴が空いた。
そして、艦首が、2号艦の艦首が、その穴から現れたのだ!
成功である。
![](https://image02.seesaawiki.jp/m/f/mcf/iYOw5I5bHh-s.jpg)
┗2号艦潜航時の様子
・事故について
1号艦が事故を起こし、乗組員全員が犠牲となったのは事実。
しかし艦は『魔法瓶方式』を採用していたため、引き上げられた時点での艦内温度8℃、用意されていた防寒着で十分耐え凌げる温度であった。
食料も水も気温も十分にあったのに、何故全乗組員が死亡したのか。
これに関しては不明な点が多いが(研究所しかこれに関する情報を持たない。私は報告を受けただけである。)、亜空間機関のトラブルに関連するものであるのは確かなようだ。
安全性に問題があるとされ、計画が中止となってしまうことを恐れて情報が操作されたようである。
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