まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

124 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/24(土) 12:01:58.91 0

ハウスキーパー雅ちゃん〈11〉

その日目覚めたとき、雅は外の明るさに一瞬挙動不審になった。「洗濯、お洗濯しないと……」
ベッドから半身を起こし、外を見て時計を見て外を見た。お天気いいし、まだ、きっと、まだ間に合う。
横で寝ていたモモが手を伸ばした。肘を引かれて雅は振り返る。
「いいんだよ」とモモは言った。
「昼まで寝てて何の問題がある?洗濯しなくたって、言ったら掃除しなくたって、致命的にマズイことなんて何も起こらないよ」
そこまで言うと、モモは両手で顔を覆って小さく欠伸した。

その適当さは承服しかねた。雅はベッドの周りに散らかった衣服をかき集めると「洗濯してくる」と言った。
「着ないの?」
「これ全部洗濯機に入れてからシャワー浴びて着替える」
「裸で降りる気」
「別に、このまま下に降りたって致命的にマズイこと起こらないよね」
「いやまあ、それはそうだけど」モモは笑い、ベッドから降りるとドアの前に立っている雅の方へ真っ直ぐ歩いてきた。雅が抱えていた衣服を無理矢理奪い取って横に放り投げ、間近に見上げてくる。
「ねえ、みーやん、起きて第一声が洗濯?」雅は固まった。

「……こっち見て『おはよう』くらい言ってよ」
口ごもるように言う、拗ねたようなモモの顔を見て、体の奥に残っている熾火のような疼きに気付く。モモの手が雅の頬に置かれ、顔が近づいてきた。
鼻先が触れると、雅の躊躇うような吐息にモモの動きが止まった。それから、ゆっくり、唇が押し付けられる。モモが圧してきてドアに背を押し付けられた。根負けして雅は唇を開く。
舌先が絡み合うと、雅は声を漏らした。

やっと唇が離れてから、雅は言った。
「……ごめん。おはよう」
「おはよう」
モモは衣服を拾い上げ、自分の下着だけ抜いて雅に返した。「これはそれぞれでしょ」
「お洗濯、してくる」
「うん」
「お腹もすいたよね、何かつくる」
「ありがとう」
モモは何かさっぱりしたような顔をして「そうかこれが裸族かぁー」と言いながら、ドアを開けて先に出ていった。

125 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/24(土) 12:05:10.73 0

屋上で洗濯物を掛けながら、雅は何度もしゃがみこみたい衝動に駆られた。
ほら、だから、嫌だったんだ。

ずっと一緒に居たくなるじゃん。

須藤が帰ってこなければいい。と雅は思った。この契約が終わらなければいい。報酬なんてもういい。家事ならいくらだってやるし
そこまで考えて、雅はその荒唐無稽な妄想にため息をつく。
須藤がいなければ、モモは暮らしていけないだろう。あの二人だけの秘密がある。そこに雅は入っていけない。
湧いてきた怒りに、雅は目を細めた。そうか。怒ってもいいんだ。
機密なんて知らない。知らされていないものに、縛られる必要などない。それは天啓のように雅の心を刺した。

「逃げるって、どういうこと」
自室のドアを開けて雅を見上げるモモが、少し怯んだように見えた。
「一緒に、ここを出るの」
「……それはできないよ」
「どうして」
モモは目を見開いた。それを聞くのかと表情が牽制してくる。雅は引かなかった。「どうして、できないの」
「それ、は……」
「須藤さんがいないとももは死んじゃうの?この島から出たらももは死んじゃうの?」
「そんなことは、ない」

良かった。と雅は思った。モモの命が関わっているわけではないんだ。
「だったら、出てもいいんだよ」
「違うの」
「違わない」
「だめ……関わっている多くの人を、裏切ることになる。ここまで、かかってる時間も……お金も全部無駄になる……から」
モモは狼狽えていた。雅はここにきて初めて知る背後の広がりに息を呑んだ。
どうして。雅はモモの手首を掴んだ。モモがビクッと体を引く。
「どうして、もも一人でそんな重いものを背負わなきゃいけないの」
雅の声は圧し殺したものになった。

126 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/24(土) 12:09:16.26 0

「おかしいでしょ。ももが背負うことなの。それはももが決めたことなの」
「そう。自分で、決めたこと」
「違うでしょ。誰かに決められたんでしょ」モモは顔を上げた。口許が震えていた。それは怒りのようにも見えた。

「ももがここにいなきゃいけない理由なんて知らない。もし、知っても
ハッキリ言えるから。そんなもの、ももがここを出ちゃいけない理由になんてならないって。じゃあ、聞くけど
ももは、一生ずっとここにいるつもりなの」

そこまで言って雅は息を呑む。モモの頬に涙が一筋伝うのを見た。
「ほら……ほらおかしいじゃん。……一生ここになんていたくないんじゃん」
雅は掴んでいたモモの手首をぐいと引いて、抱き寄せた。背中を掻き抱く。体の温かさが伝わってきた。
「……ちがう」モモの震える声を聞いた。

「いつまで、抵抗するつもり」
「違うの。私が、いることで、多くの人を助けられるかもしれない」
雅は苛ついた。
「言ってることが通じてない。みやが言ってるのは、そういうことじゃない。
なんで、もも一人でそんなことをしなきゃならないのかって言ってんの。
ももは凄いよ。凄いんだと思う、そんな言うだけ大きい仕事任せられて、わかんないけど、成功を期待されて
だけどそんなの、自分自身を奪われる理由にはなんないって言いたいの」
モモは息を殺していた。
「責任なんてももにはないから。決めた人に全部、投げちゃえばいいと思う」
雅はモモの背中を撫で続けた。
「そんなして泣くくらいなら、逃げたっていいんだよ」

128 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/24(土) 12:12:33.36 0

玄関を出る前に、モモは地下への階段の方を見やった。
「……記憶は取り返せなくても、ももはこれから自由に未来をつくれるから」雅は言い、モモの手を引いた。
本当なら、取り返してあげたかった。

千奈美が言っていた、建物の裏手から降りる道は、鬱蒼とした木々に囲まれて、果てしなく下に伸びていた。
喋らないモモの肩を抱いて、一歩ずつ進む。足下は悪くて何度もよろけた。
千奈美は動かせるボートのある場所を教えてくれていた。「茉麻が使ってるボートがあるんだよ」と言っていた。
歩いてだってマンションに辿り着ければいい。合鍵は隠してある。部屋に戻れば現金もある。数日考える時間はつくれそうだと雅は思った。須藤なら、きっと、話せばわかってくれる。ううん、絶対に説得する。

「この道、おりるの初めて」モモがぽつりと言った。
「桟橋に降りれるって、千奈美が言ってた」
「まあさのボートがなかったらどうする?」
「絶対ある」
「謎の自信だなぁ」小さくモモが笑った。
「方法とか、きっと、いくらでもあるし」
「そうだね」
そう、沢山の背後の人たち、ももがいなくなっても、他の方法はきっとあるから、頑張って探して。

日が暮れる前に降りなきゃ。焦って大きく踏み出した一歩がずるりと滑った。モモが慌てたように雅の腰を掴む。
「大丈夫?」
「ん……ちょっと、足捻ったかも」
「無理しなくていいよ。途中で夜明かししたっていいよ」
「でも」
雅がそう言った時、上からガサッと大きな音がした。雅の心臓が跳ね上がった。

信じられない思いで振り返る。モモと同時に、来た道を見上げると、上の方から「おーい」と女性の声が聞こえた。
はっとしたように、モモが掴んでいた雅の服を握りしめた。

「なんでこんなとこにいるの。めっちゃ探した〜」
降りて来たのは長身の女性だった。雅の顔を見ると「だれ?」と言った。
「……まあさの代わりに来てくれてるひと」
「そうなんだ」
モモは雅を見て言った。「主治医の、熊井」
「熊井ですー。もう今日検診の日だってわかってたでしょ?いないからびっくりした」
「ごめんごめん、遊んでたら時間忘れてたよ」

モモが目を細めて笑った。雅は何も言えず、その場に立ち尽くしていた。

〈12〉に続く

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