まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

820 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/22(木) 03:14:42.51 0

ハウスキーパー雅ちゃん〈8〉

地球上にあるネットワークを利用して、干渉に対してエラーを起こす。それが茉麻の描いた青写真だ。
宇宙のどこかの悪戯者が、気まぐれに、モモの記憶と引き換えに植え付けていったセンサーは、ネットワーク上の使えるポイントすべてにいつでも正確にアクセスできる。いつ、その時が来てもいいように。
なんて、簡単ならいいんだけどね。モモは挫けそうになる気持ちを奮い立たせる。魔法を使うにも、努力と根気が必要だ。
「生体そのものが、ネットワークに縦横無尽に干渉できるなんて、ロマンだよねえ」と茉麻は言ったっけ。
そう言うけどさ、魔法使いなんて大層な名前を付けられたって、その時が来るまでできることといったら、毎日の心の準備だけなんだけど。繰り返し、繰り返し。
ただ、今確信できる、私が魔法使いたる所以がある。
諦めないこと。
夢ならいくらだって見せてあげる。

モモはベッドから起き上がると、両手のひらに視線を落とした。
みーやん。私の心を揺らがせる、多分初めての人。

どうして?どうしてみーやんなんだろう。驚くほどあっけなく心に入ってきたのは。
こんな異様な条件を呑んでやって来るバイトがいるということに、まず驚いたし、迂闊に信頼するわけにもいかないと思ったし、最初試してやろうと思ったのだ。
身を隠して。
それで逃げ帰るならそれでもいいと思った。茉麻に繋いでボートを呼んでやろうかと思っていた。
茉麻に腹を立てていたのもあった。この状況で知らない人と2人にするなんて。
だけど、みーやんは逃げ出したりしなかった。
驚くほど無垢で、優しかった。

初めて、こんなに強く、人を欲しいと思ったのに。

今朝、朝食を断ってから、雅はひたすら家事に勤しんでいた。
「真面目だなあ」
モモは独り言ちた。
そう。思ったより、真面目すぎる。ここに居る間だけ遊びに興じてくれるそのままに、この好意を弄んでくれたら良かった。
そうしてくれれば私だって、今こんなに寂しい気持ちにならずに済んだのに。
モモは目を閉じて、自身の手首に口付けた。押さえつけようとした感情が、むしろ胸の奥で膨れ上がったような気がした。

821 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/22(木) 03:21:10.52 0

雅は躍起になっていた。今日はヘトヘトになるまで拭き掃除をする。そう決めた。汗ばんだ首筋に髪が貼り付いている。ウエスは真っ白なままだった。当たり前だ。この手摺は1時間前に拭いたのだから。
モモに執着心を抱くのが怖い。せつなくて千切れそうになる。
依頼されている家事だけを無心にこなすことで、この気持ちを振り切れればいいと、雅は思った。
ちょっぴり、感情移入してしまっただけ。もう余計なことは言わない。
最後の日まで淡々とお仕事をすればいい。そのことだけに集中していれば、少しは楽になる。
モモは引き籠っている。それならその方がいいと雅は思った。最初の数日に戻っただけ。

ここを拭き終わったら、もう一度窓枠も全部拭いて、一旦お洗濯物を取り込んで、畳んで、アイロンかけて、それから床を拭こう。
時計を見る。針が全然進んでいない気がした。昼まで随分長かったのに、夜までまた長い。
ウエスを握りしめると雅は立ち上がった。もう階段の手摺はいいかな。

「みーやん」

びっくりして振り返ると、階段の上にモモが立っていて、雅は狼狽える。いつから居たのだろう。ドアの音にもまるで気付かなかった。
心が握りつぶされるような思いで、雅の顔は引き攣った。いつから。
……いつからこんなに、追いつめられていたのだろう。

「私のこと好きな癖に」

喉に引っかかったような掠れ声だった。雅は首を振った。
「そ……そんなことない」
「酷い事さらっと言う」
「違うの」
「何が」
「ほら、このお仕事が終わったら帰るわけだし、そしたらもう、もう会えないわけだし」
「前も言ったけど。だから何なの」
「違う、ごめんなんか、ちょっとこういうの、おかしいじゃん?女同士だし」
モモは目を細めて笑った。
「だから何なの」

微かに、ミシッと、モモが踏み出す音が響いた。そう。だから何なんだろう。雅は必死に考えた。わからない。
「……わかんないから、考えたくない」
そう言うと、モモは雅の方へ真っ直ぐ降りて来た。雅は思わず目を瞑った。

モモに抱き締められる。髪が柔らかく香った。震える小さい体が雅にしがみついてくる。
「なに?別れが来るから?そんな理由でリミットをかけるなんて許さない。人なんてみんないつか死ぬんだよ?お別れの日が来るんだよ?そんなリミッター今すぐ解除して。今の気持ちのまま今そのすべてで……私を見て」
モモはそう言うと体を離し、真っ直ぐに雅を見上げた。その顔に胸を衝かれる。
心臓を滅茶苦茶に引っ掻かれたような衝撃で、雅は息もできなかった。

「……そうすることで傷付くっていうのなら、傷口は全部、私が触ってあげる」

〈9〉に続く

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