まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

466 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/19(月) 02:44:30.74 0


その後の二人 B


久しぶりに袖を通した制服は、少しだけぎこちなく肌に触れた。
まだまだ夏休みの余韻が残る中で、どこかよそよそしい顔で交わされる挨拶。
それは雅と桃子にとっても例外ではなかった。

「おはよう」
「おは、よ」

夏が訪れる前には日常になりつつあった待ち合わせも、少し時間が空いただけで非日常へと変わる。
加えて、久しぶりの桃子の制服姿は、新鮮な輝きを持って雅の目に映った。

「なんか、変な感じ」
「変?」
「変っていうか、不思議? 制服、久しぶりに見るからかな」

桃子と目が合いそうになって、なぜだか気恥ずかしくなって目を逸らした。
自分の部屋にも呼んだのに、キスだって、したのに。
キス、と思った瞬間に、あの日の記憶がが花火のように胸の中で弾けた。
歩き出して数歩、雅の気配がないことに気がついたのか、桃子がふっと振り返る。

「……みーやん?」

さらりと流れた桃子の黒髪が、太陽の光を受けて煌めく。
そして、雅の意識は自然と桃子の唇へと向かっていた。
淡い桃色をしていて、薄いけれど張りがあって。
そこに触れたことがあるというだけで、その感触をなぞるだけで、雅の気分は簡単に高揚した。
朝っぱらから、しかも通学路で考えることでないのはよくよく理解していたけれど。

「あー……考え事、してた」

もう、はやく、と手を差し出してくれるのが、ただただ嬉しくて。
わざと指と指を絡ませると、雅の意図に気づいたらしい桃子はそのまま目を伏せた。
けれども、指が離される気配はない。
その時日に、学校にたどり着くまで雅は表情筋を必死に維持しなくてはいけなかった。

467 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/19(月) 02:46:37.38 0


気だるいだけの始業式が終わる頃には、教室にも徐々にいつもの空気が戻りつつあった。
約1ヶ月半ぶりに顔を合わせる担任はすっかり焼けていたが、それもこれも運動部の引率をしたせいらしい。
部活の顧問も大変だな、なんて雅がまるきり他人事な感想を抱いたあたりで、あっさりとホームルームは幕を閉じた。

「昼から、予定ある?」
「ううん、何も」

心なしかまだ浮かれモードな教室の中で、皆は早々に帰り支度を始めていた。
けれど、まだまだ強い日差しの中で帰宅したって街に繰り出す気にはきっとなれない。
それよりは、もう少し桃子とのんびりしていたい気分だった。
雅の言わんとしていることを察したのか、鞄を整理しようとしていた桃子の手が止まる。

「久しぶりに、あそこ行きたいな」
「ピアノの?」
「うん」

雅の提案に、桃子が賛成というように両手をぱちんと合わせた。
そうと決まれば、まずは空っぽを訴える胃袋を満たしてやる必要がある。
昼食を調達するために二人でのんびりと出向いた購買は、休み前よりも閑散としていた。
やはり、大半の生徒がさっさと帰ることを選択したのだろうか。

「ああっ、残念!」

唐突に声をあげた桃子に目をやると、情けなく眉をハの字に下げて一点を指差しているのが見えた。
その指先には、焼きそばパンの値札とSOLD OUTと書かれた赤いシール。
購買に訪れる人数が少なかったとしても、焼きそばパンの人気は健在らしい。
むしろ、普段はどうやってそれを勝ち取っているのだろうか。
昼休憩になった瞬間に走り出す桃子を想像すると、少しだけ愉快な気持ちになって。

「もう、笑い事じゃないよ」
「あはは、ごめんごめん」
「もう、これはとても大変な事態なんだよ」

膨らむほっぺがショックなのだと主張するけれど、雅にとっては可愛いという感情しか喚起させない。
このままではニヤつく変な人になってしまうと、雅はその横に残っていたコロッケパンを手に取る。
どう?と桃子に示すと、ちょっと考え込んだ後にそれは桃子の手に渡った。

「しょうがないか。今日はコロッケで我慢してあげよう」
「そんなに焼きそばパン好きなんだっけ?」
「だって美味しいじゃん! あの組み合わせを考えた人は天才だと思うな」

どちらも主食の組み合わせ。
どちらか片方でも成立するのに、合わせてみようと思ったのは確かに面白いけれど。

「単にどっちも食べたかったから合わせちゃった、みたいなめんどくさがりだったりして」
「ええー……それはそれで夢がなくない?」

焼きそばパン一つで壮大な夢を語るなんて、むしろ桃子の方が天才かもしれない。
なんて浮かんだ言葉を、雅は胸の中にそっとしまった。

468 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/19(月) 02:49:42.45 0


各々が選んだ昼食を片手に、お気に入りのあの場所へ。
簡易的な防音扉を開けると、部屋の中は全く変わっていなかった。
大きな窓にかかるカーテンのシワも、きっと何一つ。

「ちょっと換気しなきゃかな?」
「確かに、埃っぽいかも」

桃子の喉から乾いた咳が押し出されるのを聞いて、雅は慌てて窓に手をかける。
外の空気もそれなりに熱を含んでいたが、1ヶ月以上この部屋に閉じ込められていた空気よりはマシだった。
防音扉も開放してしまうと、思いの外心地よい風が一直線に通り抜けていった。

「新鮮な空気って大事だねえ」
「ほんとだね」

古びたピアノの椅子とパイプ椅子とを並べ、さらさらと吹き抜ける風の中でお昼ごはんに手をつける。
休み明けだというのに熱心な運動部の掛け声。
音楽室から漏れ聞こえるらしい吹奏楽部の演奏。
まだ校舎のどこかに居残っているらしい誰かの笑い声。
様々な音が混ざり合って、目を閉じると学校全体がさざめいているようだった。
のどか、という言葉は、今まさにこのためにあるのだろう。
惜しむらくは、もう少し気温が低ければありがたかったけれど。

「ここって、クーラー使えるんだっけ」
「うーん、微妙。たぶんつくけど、掃除してなさそうなんだよね」

桃子に倣って見上げると、確かに空調の排気口らしきものは天井に付いていた。
それを作動させた瞬間に、きっと大変な悲劇が起こるだろうというところまで容易に想像がつく。

「……や、やめとこうか」
「それがいいと思う。今度先生に頼んでみるね」

とは言うものの、ピアノで音を出すには扉を開け放しておくわけにもいかないし、と二人で顔を見合わせること数秒。
結局、防音扉を閉じて窓は開けておこうという方向に意見はまとまった。
苦情がきたら、その時はその時でどうにかしよう。
雅が防音扉のドアノブを押し下げると、ぎゅ、と空気の途切れる音がした。
その音は、雅の肌をそわりと撫でて過ぎ去っていく。

ひと気の少ない校舎の片隅、密室で二人きり。

あ、と気づいてしまうと、じわりと手のひらが薄く汗ばんだのを感じた。
こんなことは今までもあったじゃないかと言い聞かせてみるも、ぎゅっと閉じた瞼の裏で上映されるのはやり直しのキスの記憶。
違うでしょ、と自分にツッコみを入れようとしたところで、訝しげな声で桃子に呼ばれたのが聞こえた。

469 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/19(月) 02:51:34.93 0

「……大丈夫?」
「えっ? あ、うん」

ならいいけど、と言いながら、桃子の注意は既にピアノへと向けられているようだった。
すうっと真っ直ぐに伸びた指先が、白鍵の一つをぐっと押し込む。
ぽーん、と空気が震えるのを聞きながら、桃子の横顔が少し真面目な色へと変化した。
小さく息を吸う音が、くっきりとした輪郭を伴って雅の耳に届いた。

今さら好きだと言うよりも。
愛していると言うよりも。
キスをあげる。

三人でステージに立った日、突然に桃子が雅の唇を奪ったあの曲。
それを今、桃子は目を細めながら心地よさそうに歌っている。
どうして良いか図りかねて、雅ができたことと言えば扉にもたれて耳を傾けるくらいだった。

何か意図があるのだろうか。それともただの発声練習代わりか。
邪推したがる思考の一方で、曲の移り変わりと共にステージ上で感じたことが走馬灯のようにめぐった。
蘇る記憶に影響されてか、背筋をたらりと一筋の汗が伝う。
とくとくと心臓の脈打つ音が大きくなって、下腹のあたりにじんわりとした熱を自覚した。
整った桃子の横顔に、つんとわずかに上向いた鼻の形に、音を生み出す唇に、自ずと視線は縫い止められた。

熱いものが、せり上がる。

最後の一音が消え行くのを見送ってから、雅はぱちぱちと拍手を送った。

「……やっぱ、すきだな」
「ふふ、いい曲だよね」

違う、と思わず口から飛び出ていたのは、桃子にばっちり聞こえたらしい。
その証拠に、目をまん丸にした桃子が雅の方を向いた。
雅自身もまた、自分が言ってしまった言葉に驚かされていたけれど、吐き出してしまったものは戻せない。

「……あ、いや……その……今のは、ももが、って意味で」

目で追えるほどゆっくりとしたスピードで、桃子の瞼が閉じて開く。
先ほどよりも更に大きく見開かれた瞳が、戸惑うように揺れて。
その光景に、喉元辺りで押し止めていた熱が決壊した。

一歩、一歩、と距離を詰めるごとに、ゴムの靴底がぱたりぱたりと間抜けに音を立てる。
その間、桃子は固まったままで身動き一つしないままだった。
先ほど購買で目にした頬の膨らみがよぎって、不意にそこへと手が伸びた。
許可を得ぬままその柔肌に指を沈ませると、桃子の体がぴくりと小さく震える。

「ちょっ、なにす――」
「……キス、したい」
「へっ?」
「……って言ったら……どう、する?」

渇きが満たされるのは一瞬。
更なる渇きに従う雅の言葉に、桃子の身体が微かに硬くなったのを感じた。

809 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/22(木) 02:22:22.69 0

「え、あ……ま、まど、あいてるよ?」

とっさに、隅の方に縮こまるカーテンをぐいと引き寄せた。
しゃ、という鋭い音の後、部屋に差し込む陽光の輪郭がぼやける。
必死すぎじゃん、と笑いたくなるのを押しこめて、雅は桃子へと向き直った。

「これで、外からは、見えないよ」

これでもまだ桃子が首を横に振るなら、そこで終わりにするつもりだったのに。
薄暗くなった部屋でも分かるほどに染まった頬のままで、桃子が俯くものだから。
自分の意思とは、関係なしに名前の分からない衝動が暴れ始める。

「……もも?」
「う、えと……ちょっと、まって」

絞り出された返事に、ともすれば駆けていってしまいそうな感情を必死に引き止めた。
心なしか、耳の先っぽが赤らんでいる気がした。
震える小さな肩が、呼吸のたびに上下していた。
ふにゃりとした指先は、スカートをきゅっと掴んでいた。
それらを目にしていた雅の耳に、一段と深く長い吐息が届いた。

「え、と。その」

桃子の顔がそうっと持ち上がって、ぴたりと雅に定められる。
ぎこちなく、ぎゅっと閉じられた瞼に、誘われて。
座ったままの桃子を包み込むように、首に手を回して引き寄せる。
勢いに任せないようにと辛抱したつもりだったのに、結局唇はむにゅりとぶつかった。
しまった、と離れようとして、雅は服の裾をつかむ感触にはっとした。

——行かないで。

そう、言われた気がして。
かあ、と体の芯が熱くなった。
おそるおそる桃子の体温を抱きしめると、桃子の手が腰のあたりに触れたのが分かった。

「……どきどき、してるね」
「そりゃ、ね」

そういえば、初めての時もこんな風に桃子を抱きしめた。
夏の帰り道。
少しむっとする気温や、夕飯を準備する匂いや、通り過ぎる車のエンジン。
いろいろな要素が頭の中をめぐって、あの時もそうだ、心臓の音を聞かれたのだと思い出す。
腕の中でもぞもぞと桃子が身じろぎ、胸のあたりに耳があてられたのを感じた。

「……楽しい?」
「というか、安心するのかな」

引っ付いたままでそんなことを言う桃子に、穏やかな熱が雅の体を満たしていく。
しばらくの間、雅は桃子の好きなようにさせておいた。

810 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/22(木) 02:24:36.01 0


時折迷い込んできた風が、カーテンに絡まってさらさらと音を立てる。
世界が、一斉に息を潜めてしまったようだった。
目を閉じると、伝わってくるのは桃子のささやかな呼吸。
その緩やかなリズムを感じながら、雅はそっと桃子の背中を撫で下ろした。
通り過ぎる指先を追うように、背骨がじわりと反っていく。
心地良いのだろうか、小さく震える体が愛おしい。
何度か往復させていると、不意に桃子が息を漏らしたような気がした。
それがやけに熱っぽくて、雅の心臓は素直に跳ねる。

「なんか、はやくなった?」
「だ、て……ももが」

ぐ、と言葉がもつれる。ももが何だ、と言えばいいのだろう。
その理由を追いかけようとすると、自然に頬が熱くなる。
本当は、理由なんて考えなくても分かっていた。

「気持ちよかった、の?」

形になった言葉の響きに、何かいけないことを口にしているような心地がした。
それに桃子がこくりと頷いたのが分かって、どくん、と体を巡る血液が増す。

雅はゆっくりとパイプ椅子に腰を下ろすと、膝の上に桃子の体重を引き受けた。
桃子に見下ろされる格好になって、顔を覗き込むと桃子の視線は脇の方へと逃げていく。
それを追って視線を絡め取ると、瞼を閉じて合図をした。
雅の方からすれすれまで近寄って静止すると、戸惑うように漂う桃子の息が鼻先に触れる。
薄眼を開けた先で、桃子は眉間に皺が寄るほどにきつく瞼を閉じていた。
ひしひしと伝わってくる緊張に、仕方ないと心の中でつぶやいて。
最後の数センチを雅から詰める。
触れ合う柔らかさにはまだ慣れそうもなくて、少し湿った感覚に体温は上がっていくばかり。
わずかにずれて、桃子の唇をそっとくわえると驚いたように息が詰まったのが聞こえた。
そんな反応の一つ一つが、以前よりもずっと鮮明だった。
薄く唇を開いてみせると、桃子もおずおずと同じように動く。
予告するように舌先で唇をつつくと、桃子が体をぴくりとさせた。

「は……ぁ、ふ」

堪えきれない、といった様子で、吐息がこぼれるのが無性にうれしくて。
その先に進もうとすると、招き入れるように桃子の唇が緩んだのを感じた。
受け入れられているという実感だけで、先へと先へと求める感情はさらに大きくなった。

811 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/22(木) 02:27:04.45 0


今度は、明確な意図を持って桃子に触れた。
背骨のラインをなぞり、腰の辺りを手のひらで撫でつける。
それらにかえってくる素直な反応が、雅の熱をさらに増幅させた。
ふと、ブラウスの裾に指が引っかかる。

「ひゃんっ」

指先が素肌をかすめたのは偶然だったが、思わぬ甘い声に雅はついつい桃子を窺った。
声を漏らした本人でさえ、驚いたように目を丸くしている。
雅と目が合い、ややあってから状況を理解したらしい。
その瞬間、見て分かるほどに桃子の頬が染まっていく。

「い、今のは……ちが、くて」

違う? 何が、違うのだろう。
むしろ、雅にとっては煽っているようにしか聞こえない。
まだ腰の付近に留まっていた手のひらを、誘うように動かしてみた。
微妙な刺激に備えるためか、雅の肩口に桃子の顔を埋められた。

「や……っ、みーやん……」

すべすべとした手触りに、感動にも似た気持ちが浮かんできて。
溢れ出した欲求はとどまることを知らず、そのままゆるりとお腹のあたりを探る。
緊張している筋肉をほぐすように触れると、桃子の体が困惑したように突っ張っては緩んだ。

「ふわふわ、してる」
「ちょっ、と……っ!」

雅の動きを抑えようと迫る桃子を交わし、さらに上へと這い上がる。
かちりと爪の先が固い感触にぶつかった。
桃子の胸を覆う下着をつなぎとめている場所。
構造自体は頭に入っているけれど、片手でなんて外したことがない。
どうしよう、と躊躇うようにそこを指で弾くと、髪の束が軽く引っ張られた。

「……ばか、ぁ……っ」

まさか、桃子からそんな言葉をはっきり聞く日が来るなんて。
本来ならば、きっとショックを受けるところなのだろう。
しかし今は、初めて目の当たりにした桃子の一面に嬉しささえ覚えていた。
脊髄を甘い痺れが上ってきて、最後に残っていたストッパーが弾け飛ぶ。
改めてそこに雅が手を伸ばそうとしたのと。
桃子がわずかに焦ったような色を見せたのと。
二人の間に割り込むチャイムが鳴り響いたのとは、ほとんど同時のことだった。
張り詰めていた部屋の空気が、一瞬にして緩む。
その隙に、桃子はするりと雅の腕から抜け出していた。

「も、もう、帰らなきゃ、だからっ」

取ってつけたようなセリフを置いて、桃子はくるりと踵を返す。
防音扉は呆気なく開かれて、桃子のバタバタという足音がやけに速く遠ざかっていった。
ざあっとカーテンを巻き上げる風が派手な音を立てて、雅はようやく目が覚めた気分だった。
体の芯が一気に冷えていき、それと共にじわじわと自分の行為が再生されて。

――まずい、突っ走りすぎた。

そう自覚して頭を抱えたところで、こぼれた水は元に戻らない。

812 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/22(木) 02:27:49.70 0


よろよろと音楽練習室を後にすると、雅はどうにかして昇降口までたどり着いた。
淡すぎる期待を持って見てみたが、桃子の靴はすでにない。
当たり前だと笑う自分がいる一方で、その事実に落ち込む自分もいる。
はあ、と深いため息をつくと、雅は自身の靴を手に取った。

ゆっくりしたいという気持ちは嘘ではないし、むしろ本当なのだけれど。
桃子を前にして、声や匂いや温度を感じてしまったら歯止めが効かなくなる。

不意に、かつてごっこ遊びのような恋愛をしたことが頭をよぎった。
彼の部屋に呼ばれて、二人きりになって。
性急すぎてついていけず、NOを突きつけた行為の記憶。
具体的に思い描こうとすると、ぞわぞわと寒気が体中に広がった。
今となっては知りようがないが、彼の行動の裏に潜んでいた感情はきっとあったのだ。
ふと、そのことがちゃんと実感を伴って理解できた気がした。

「あれぇ? みや、今日は遅いね」

帰りかけた雅の背後に、聞き慣れた明るい声が投げかけられる。
雅がゆっくりと振り返ると、部活帰りらしい千奈美がそこに立っていた。
声の調子からして上機嫌らしい千奈美だったが、雅と目があった瞬間にそれはさっと険しくなった。

「な、何? なんかあった?」
「ん……あったような、ないような」

雅のぼやけた返事に、何を察したのか分からないが千奈美はなるほどとつぶやいて。

「なんか、地獄でも見てきましたって顔してるね」
「あながち、まちがってないかもね」
「あーはいはい。とりあえず行こっか、いつものとこ」

雅の返事を待たず、千奈美の腕が雅の腕をぐいとすくい上げた。

「えっ、ちょっと?!」
「お代は明日でいいよ、みや」
「や、だから! 何の話?」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ雅を受け流し、千奈美は驚くほどの力で雅を引っ張って歩き出す。
迷いのない歩みに、千奈美はどうも解放してくれる気はないらしいと察しがついて。
仕方ない、と雅はそれに大人しく従うことにした。


C?に続く

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます