まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

566名無し募集中。。。2018/12/03(月) 19:00:33.480

私はイントラの表を眺める。
営業社員が主に使っている、派遣の勤務予定表だ。
ブラウザから頼みたい作業と作業場所、確保したい時間帯を入力する。
6F営業。もーさんの予定は数日先までびっしりと埋められている。
ところどころ、営業ではない他部署からの予約も入っている。総務とか、マーケの資料整理とか。
今の時間は、亀井さんから雑用を頼まれているみたい。
あれきり、もーさんの姿を見かけていない。私は、何の言い訳も思いつかない。
たまたま。ではあった。
ちょっと興味が湧いて、というのも責められるほどのことじゃないと思う。
ただし、聞いてしまった内容が悪すぎた。
あの時、もーさんの気は酷く昂っていたし
私でも、あんな内容を会社の人に聞かれたら正気でいられなかっただろうと思う。
謝って済むことだろうか。わからない。
だけど、もうこのままでいいとか、放って済ませるのは嫌だ。
「あれ?桃ちゃん眼鏡変えた?」
フロアの入り口からそんな声が聞こえてきて、私は咄嗟にブラウザを閉じ、体を硬くした。
「そうなんですよ、週末お出かけしたら壊しちゃって」
「眼鏡なんて壊れるもん?」
「電車のドアに立ってたら、急に降りようとした人が肩で頭殴ってきたんですよ!ひどくないですか?
眼鏡がはずれてひゅって落ちてったらホーム歩いてた人が靴で親の仇かってくらいメキメキと」
数人の笑い声が聞こえる。
「話盛るねー」
「盛ってない、もー、笑い事じゃないですよぉ」
「でもその赤い眼鏡も似合うじゃん」
「そうですかねぇ」
電車でもーさんの眼鏡を飛ばした人を恨む。私はひっそりとため息をついた。
そんな事情だったなら余計に
あの日はほんと、もーさんにとって最低最悪の1日だっただろう。
私は傷に塩を塗り込んだようなものだ。本当に、悪いこと、してしまった。
部長と話していたくまいちゃんが戻ってきた。
くまいちゃんは入り口を見て「あー!来てくれたー」と嬉しそうな声を上げた。
簡易受付になっているカウンターで、もーさんと何やら立ち話をしている。
私はモニタに視線を戻した。けど今は、まだ、どう謝ればいいかわからない。
きっかけも。
肩をつつかれハッとして見ると、くまいちゃんだった。
「これ、つぐながさんからなっさんにって」
小さく折りたたまれたメモ用紙。急いで開くと、そこにはボールペンの走り書きがあった。
〈この間はごめんなさい〉
私は顔を上げ、彼女の姿を探した。もうフロアにはいない。廊下に出る。
走ってエレベーターに飛び乗ると、もーさんはびっくりしたように角に体を貼り付けた。

567名無し募集中。。。2018/12/03(月) 19:03:19.630

壁ドン状態の私を、もーさんは見上げている。
ドアが閉まり、エレベーターが下降を始める。
「この、メモ」私が言いかけると、もーさんはそれを遮った。
「この間、言い過ぎたと思って。ごめん。何か聞かれても何も、話す気ないけど」
「聞かない。もちろん。あれについては何も聞く気ないから、っていうか忘れるから」
「そう、そうしてもらえると助かる。恥ずかしいし」
もーさんは頰を少し赤くした。
「あの、こっちこそごめんなさい。ほんとに、悪かったと思ってる」
私が俯き、頭を下げると同時に、エレベーターは1Fに着いた。
「いいよもう。それはもう……いいの」
そう言いながら、もーさんはエレベーターを降りる。
私は箱に乗ったままだった。
今これ以上は必要ない。
「ありがとう」それだけ言った。
もーさんの顔がふわっと輝いたように見えた。
「私、なっさんに会えて良かった。この会社に来れて」
ドアが閉まる寸前、もーさんがそう言って私は急にドキッとする。
ねえ、それどういう意味?
口を開く前に、ドアが閉まる。
上昇するエレベーターの中で、私は頰に手を当てた。
会えて良かったと言われて、すごく嬉しく思う自分がいる。私も。
もっと仲良くなりたい。そう思っちゃダメかな。
もっと、楽しいことをたくさん話したい。
そういう時間が欲しい。
急ぎすぎたら、逃げていきそうな、彼女のことを思う。
失恋の傷だって、癒してあげれるような、頼ってもらえるような
そんな人に、どうしたら、なれるんだろう。
「何かいいこと書いてあった?」
席にいる私に、くまいちゃんが聞いてきた。
「いいことって?」
「さっきの、あれ、おみくじなんでしょ?」
「彼女がそう言ったの?」
「そう。渡して欲しいって言われたから何?って聞いたらおみくじって」
「うん。大吉だった」
ふふん、と笑った私を見て、くまいちゃんは
「いいなぁ。私も今度もらおうっと」と言い、自分の席に戻って行った。

568名無し募集中。。。2018/12/03(月) 19:06:20.060

事件。が起きたのは、その2日後だった。
その内線電話は、亀井さんから。
「ちょーっとだけ、いいかな」と言われて、もーさんのことかなと思う。
単に、彼とは他に接点がないからだけど。
今そっち行ってもいい?と言われて了承すると、少しして亀井さんは私の席までやって来た。
「ごめんねー」と言われて、フロアの外に誘われる。時計を見るともうすぐ17時だった。
亀井さんは廊下の端まで私を手招きすると、声を潜めた。
「今日ってさ、定時に上がれる?」
「あー、一応、その予定です」
「車運転できるよね?」
「え?」
亀井さんはそこで一回、廊下に誰もいないことを確認してから再び声を潜めた。
「桃ちゃんが倒れて」
「えっ!?」と声を上げた私に、亀井さんは「しーー」と人差し指を出す。
「それで、本当なら俺が家まで送って行きたいんだけど、今日どうしても駄目で。
うちのチーム今、俺と高橋さんしかいなくて他みんな出払ってて」
「あの、倒れたって、なんで」
「あ、あぁ、本人はね、めまいって言ってる。たまにあるからって
ちょっと休んでたら治るって。今寝かしてんだけど」
「そうですか」緊急というほどではないようで、私は胸を撫で下ろした。
「とりあえずめまいっていうのは本人がそう言ってるからそれ信じるとして
でも大丈夫だからって言われてラッシュの電車で帰れってのは、ないじゃんか」
私は考えながら、口を開いた。
「運転、できないことはないですけど、私そんな慣れてるわけでも」
「うん。あのね、無理なお願いしてるなーっていうのはわかってる」
何かおかしい。ヘンな流れだ。めまいで倒れたから車で送っていくっていうのはわかる。
けど、それがいきなり、A館飛び出してB館にいる私に持ち込まれるっていうのは。
私の表情を見て、亀井さんは壁に背をつけると困ったように頭を掻き、口を開いた。
「大ごとにしたくない」
出たよ。と、私は思った。
「このことはうちのチームだけで収めたい。幸い、今日はもう彼女の仕事は終わってる。
だから気が緩んだんだなんて、言ってたけど」
私が睨んでいるように見えたのか、亀井さんは逃げるように横を向く。
「ここんとこずっと、残業が立て込んでた。それについては俺らが悪い。
けど、残業時間超過が続いてる今、倒れられたってのが知られるのは、ひっじょーにまずい」
「どこに知られるのがまずいんですか」
「とーりあえず、ガキさんかな」
「部長をガキさん呼ばわり」
「まーまーまー、呼び方なんていいんですって。大事なのはそこじゃなくて。
で、なっさんの事を思い出したわけ。仲良くしてくれてるって、聞いたことあったから」
亀井さんはちらっと私を見た。「頼めないかな」
「いいですよ。私も、彼女のことは心配だし」と言うと
亀井さんは胸を押さえ「おぉー、良ーかったぁー」と息を吐いた。
「自分ちどこ?」と聞かれて答えると「近くに駐車場ある?コインパークとか」と言われる。
「確か、あったと思います」
「送って、会社戻ってきてもいいし、面倒だったらそのまま帰ってそこ停めてもらって
明日車で会社来て。コインパーク代は、俺に請求して」
亀井さんは矢継ぎ早にそう言った。

570名無し募集中。。。2018/12/03(月) 19:09:22.950

窓のない、細長い倉庫だった。背の高い棚が並んでいる。
奥へ進むと、突き当りの壁沿い、長椅子が2つ並んでいる。営業が仮眠に使っているのだろう。
もーさんは薄いブランケットを体に掛け、その1つに仰向けになっていた。
蛍光灯が眩しいのか、片腕を目の上に置いている。
「どう?」と亀井さんが声をかけると「本当にすみません」と返事が返ってきた。
声はしっかりしている。
「俺どうしても今日は送っていけないから」言いかけた亀井さんをもーさんが遮る。
「いいって言ってるじゃないですか。ちょっと休んだら、ほんと電車で帰れます。本当に」
「なっさんが送ってくれるって」
その言葉に、もーさんは弾かれたように起き上がろうとし
「あっ」と言ってまたすぐに目を閉じ頭を下ろした。「無理すんなって」と亀井さんが声をかける。
「私が車でおうちまで送るから」そう言うと、居ることに初めて気付いたのか
もーさんは「やだぁもー」と言って両腕で顔を覆った。
「なんでそんなことするんですか」
「ほら、仲いいって聞いてたから」
「それとこれとは」
「とにかくさ。意地張んないで、今日は大人しくして?
帰りの電車でまた倒れたなんつったら、俺もう自責の念で会社来れないよ」
「……平気で会社来る方に全額賭けます」
「どうします〜?この元気な子」と亀井さんは私の顔を見た。
「頼んでおいてアレだけど、ウザかったら途中で捨ててってください」
そう言いながら、車のキーを私に手渡す。「お願いします」と小声で付け加えた。
亀井さんはもーさんの荷物を持ってきて、仕事に戻って行った。
私はタイムカードを押して、寝ているもーさんの向かいに腰掛けている。
蛍光灯のせいだけじゃなくて、顔色が悪い。
「申し訳なさすぎて、死にそうだよ」ぽつりともーさんは言った。
「いいの。こういうのは、お互い様だから」
そのめまいが疲労のせいならば、残業が続いただけじゃない
あの休日の精神的な疲れだって、絶対に尾を引いている。
私は、自分の責任を感じないわけに行かなかった。
「起き上がれるようになるまで、時間かかっても大丈夫だから」
そう言うと、もーさんは諦めたようにため息をついた。
その営業車は亀井さんがほぼ専用で使っているもののようだった。
ドアを開けるとふわりと何か香る。
シフトレバーの横にはマスコットがぶら下がっていたりして、まるで個室だ。
「起き上がれるようになったんだからさ、電車乗れるってことだと思うんだよね」
などと言っているもーさんを助手席に押し込み、エンジンをかける。
慣れない車で、慣れない都内の道だ。私はカーナビを操作すると
横でシートを倒しているもーさんに「住所、教えて」と言った。

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